57:月が綺麗ですね
「さて、と」
人が減って、広くなった地下99階。
使わない部屋もあるので、この機にリニューアルしようと思う。
ヴィルベルとレムスのリクエストで、シアタールームを作る予定。
映画館ほど広くなくてもいいけど、それなりに広々とした空間でのんびり映画を見るってのは、最高の娯楽だよね。
「スズカ、ダンジョンクリエイトするのか?」
「うん」
間取りをどうするか考えていると、ヴィルベルがやって来た。
「どうせなら、もっとデカいベッドが置けるようにしたい」
「大きなベッドかぁ」
ヴィルベルは背も高いし、体格も良いもんね。
普通のシングルベッドじゃ狭いってんで、今でもビジネスホテルにあるような少し大きめのベッドを使っているんだけど、それでもまだ狭いのかもしれない。
あれより大きなベッドっていうと、それこそラブホにあるようなベッドくらいしか思い浮かばない。
ネットに上がった写真で見かけた知識くらいしか無いんだけど、まぁそれっぽいのをクリエイトしてみればいいか。
という訳で、クリエイト完了!
新しくなったヴィルベルの部屋は、漫画本がぎっしり詰まった本棚はそのままに、さらに収納スペースを増やしてみました。
「ここも本が増えたね~」
並んだ本は、全て私がクリエイトしたもの。
その中から、ヴィルベルがお気に入りの本がここに集まっている。
ヴィルベルの好みが分かるなぁ。
やっぱり少年漫画と青年漫画がメインだ。
意外にも、日本のスポーツ物が多いんだよね。
スポーツのルールにも興味を示しているみたいで、実際にプレイする機会があれば楽しめそうなんだけどなぁ。
そればかりは、なかなか難しい。
「まだ他にも読みたいんだが」
「うーん、他にどんな本があったかなぁ」
当たり前だけれど、私がクリエイトする以上は、私が知っている本しか出来ない訳で……パッと思い浮かぶ本は、だいたいクリエイトしたんじゃないかと思う。
まさか異世界の片隅で、読者が増えているなんて思わないよね。
作者の皆さん、出版に関わる皆さん、売り上げに貢献出来なくてごめんなさい。
日本に居た時は全部自分でコミックスを買っていたので、許してください。
「あ、これ懐かしい」
本棚で、見覚えのある本を見かけて、思わず取り出す。
見覚えのある本も何も、全部がそうなんだけれど、そこはそれ。
やっぱり「これ、懐かしい!」って感じる本ってあるよね。
私が学生時代に集めた、全80巻くらいの戦記物だ。
1巻から5巻まで手にとって、ベッド脇に腰を下ろす。
ベッドにもたれかかるようにして、コミックスをパラパラとめくる。
こういうのも、たまにはいいなぁ。
日本の漫画喫茶を思い出す。
様子を見に来たレムスが「改築お疲れ様です」と飲み物を差し入れてくれたから、なおさらだ。
一度読み始めたら、もう止まらない。
途中で暇になったガルムが私の隣にやってきて、ごろんと寝そべっていた。
もふもふを撫でながらの漫画ライフは、自然と眠気を誘う。
面白いから読みたいのと、毛並みで温かくてうとうとするのの狭間で揺れてしまう。
「おいスズカ、寝るならベッドで寝ろ」
「ん~……」
最後に、そんなやりとりをしたような、していないような……。
目が覚めた時は、ぬくぬくベッドの上でした。
「……」
いや、ちょっと待って。
私、自分の部屋に戻った記憶が無いんだけど。
横になったままで重い瞼を開けると、目の前にヴィルベルの顔があった。
「うひゃぁっ!?」
咄嗟に、変な声が出た。
ここは、昨日新しくしたばかりのヴィルベルのベッドだ。
二人でちゃんと布団に入って、並んですやすや眠っていた……らしい。
ガルムの姿は見えないから、一人?だけ部屋に戻ってしまったんだろうか。
記憶を遡る。
大丈夫、変なことはしていない。
ただ、漫画本を読んでいて、ヴィルベルの部屋で寝落ちただけ。
「うん……スズカ、起きたのか」
私の声に気付いてか、ヴィルベルがうっそりと目を開ける。
え。いや。あの。
朝チュンというには色気のないシチュエーションだけど、私だって一応は妙齢のおなごなんです。
心臓がバクバクして、鳴り止まない。
目覚めて真っ先に目に飛び込んでくるのが、こんなイケメンの顔なんて、寿命が縮むって。
「あ、あの、ヴィルベル、私昨日……」
「そのまま床で寝そうだったから、ベッドに運んだぞ」
あ、はい。
やっぱり、何もなかったよね。それはそう。
私とヴィルベルがどうかなるなんて想像付かないし、そもそもヴィルベルに至っては、恋愛感情とか性欲とかそんなのが有るかどうかすら分からない。
彼は人間ですらない、ドラゴンなのだから。
今も、ドギマギしたのは私一人だけみたい。
ヴィルベルはと言えば、今もベッドに寝そべったまま、大きく欠伸をしている。
なんか腹立つなぁ、もう。
「一応は、こちらも女な訳でして……そんな風に、まったく意識されていないような素振りを見せられると、傷付くんですけど」
つい、拗ねたような声が出た。
出てしまった。
「……意識?」
当の本人は、きょとんと目を瞬かせている。
あー、はい。
君に振った私が馬鹿でした。
「恋愛とか、男女の機微とか……まぁ、ヴィルベルに分かる訳もないか」
ため息交じりに呟くと、なぜかヴィルベルが得意げな顔をした。
「分かるぞ」
「はい?」
ノンデリドラゴンの君に、一体何が分かると言うのかね。
それとも……ドラゴンとして長く生きてきた中で、ヴィルベルにも大事な相手が居たりするのだろうか。
やっぱり、相手もドラゴンなのかな……なんて、少しもやもやした思いを抱えていると。
「月が綺麗ですね」
いきなり、日本の常套句が聞こえてきた。
有名な文豪が、I love youを訳したと言われている言葉だけれど……。
「……だろ?」
どこか得意げな態度が、なんとも腹立たしい。
「それ、日本人にしか通用しないやつだね」
まさかの、日本の本から仕入れた知識でしたか。
ま、それもヴィルベルらしいや。
漫画や小説の中には、恋愛を扱った物も少なくないもんね。
改めて、ドラゴン相手に何を吹き込んでしまったんだ、私は。
「どうせこのダンジョンの中に居たら、月なんて見られないもの」
本物の月もなければ、出会いもない。
そうぼやいた私の顔を、ヴィルベルが覗き込んできた。
「見せてやろうか?」
「……え?」
すぐ間近にヴィルベルの顔が迫っていて、またもドクンと心臓が跳ねた。









