54:我に策あり
「むっ」
いつものダイニング。
湯気の立つカレーを前に、ヴィルベルの表情が変わった。
無愛想なのは相変わらずだが、目が輝いている。
恐ろしい死黒竜だのなんだのと言うけれど、こうして見ていると、子供みたいなんだよね。
美味しい物が好き。
お肉大好き。
ヴィルベルとガルムは、とても分かりやすい。
「スズカ、今日のカレーはハンバーグが入ってる」
「そう、ハンバーグカレーにしてみたの」
ヴィルベルの視線が、カレーの皿に釘付けだ。
ヴィルベルだけじゃない、ガルムまでカレーを前にして尻尾をぶんぶん振っている。
君達、カレーもハンバーグも大好きだもんね。
両方一緒になったら、もう最強でしょ。
「チーズは?」
「まぁまぁ、焦らないで一口食べてみてよ」
ヴィルベルは、いつもカレーにはチーズを掛けて食べる派だ。
ちゃんとチーズも用意しているけれど、それより先に食べてほしいんだよね。
「それならば……うん?」
ハンバーグにスプーンを入れた瞬間、中から白いものがとろりと溢れ出す。
そう、今回はヴィルベルの好きなハンバーグをカレーに添えただけでなく、なんとチーズ入りのハンバーグにしてみました!!
全力でご機嫌を取りにいきましたとも、ええ。
「ハンバーグの中から、チーズが……!」
「さらに追いチーズする? しちゃう?」
私が袋入りのピザ用チーズを差し出すと、ヴィルベルは一も二もなく受け取った。
そんな様子を、ジェレミーさんとダグラスさんが、半ば呆然と見つめている。
「スズカ殿は、凄いな……」
「え? 何がでしょう」
二人の反応に、思わず首を傾げてしまった。
料理の出来映えなら、凄いのは私じゃなくカレールウを開発した日本の企業だと思う。
「いや、あの死黒竜をこんな風に手懐けるとは……」
「一番恐れるべきは、スズカ殿なのかもしれない」
ちょっと、二人して何をしみじみと言っているの。
別に手懐けているつもりはないし、怖くもないって。
失礼しちゃうなぁ。
「二人とも、はやく食べないとヴィルベルとガルムに全部食べられちゃいますよ?」
私が注意すると、それは大変とばかりに、二人がスプーンを動かす。
「うっ」
「こ、これは……っ」
ハンバーグカレーを一口頬張った瞬間、スプーンの動く速さが増した。
ふふん、どうだ美味しいだろう。
ハンバーグを焼いた後、カレーの中で少しだけ煮込んであるんだ。
煮込みハンバーグ風カレーってこと。
「スズカ、おかわり」
「はーい」
空になった皿を、ヴィルベルが差し出してくる。
相変わらずの食べっぷり。
おっと、その前に本題に入った方が良さそうかな。
「ねぇ、ヴィルベル。一つ頼まれてくれない?」
大盛りライスを皿に盛りながら、なるべくさりげな~く声を掛けてみる。
「何をだ?」
「ロドニー王国の上空を、私を乗せて飛び回ってほしいの」
「は?」
「え?」
私の言葉に、質問した当人のヴィルベルではなく、ダグラスさんとジェレミーさんが目を瞬かせた。
「あ、でも矢が飛んできたりしたら危ないかなぁ」
「そんな物は当たろうが当たるまいが特に問題はないが」
ふふ、ヴィルベルならそう言ってくれると思ってました。
当然危険は付き纏うだろうけど、この方法が一番確実に思うんだよね。
「一体、何をするつもりだ?」
「もう、全員一気に目を覚まさせちゃおうかなーって」
一人や二人正気に戻したところで、きりがない。
「上からなら、声を広く届けられると思うんだ」
「声を?」
「うん。ちょっと、使いたい道具があって」
竜に乗って空を飛ぶのはちょっと怖いけど、相手はあのヴィルベルだ。
悪いようにはしないだろう。
もし私が落ちそうになっても、どうにかしてくれると信じている。
「上手く行くかどうかは分からないけれど、やってみる価値はあると思うよ」
「ふむ」
山盛りハンバーグカレーを受け取ったヴィルベルは、特に気にした風もなく、チーズをパラパラとかけている。
……断られなかったってことは、協力してくれると考えて良さそうかな。
口ではあれこれ言うけれど、ヴィルベルはなんだかんだ優しいのだ。
「スズカ殿、本当に大丈夫なのか……?」
「勿論、任せておいてくださいっ」
不安げなダグラスさんに微笑みかけて、私もハンバーグカレーをいただくことにした。
成功する保証はない。
でも、やる前から諦めるのは性に合わない。
腹が減っては戦は出来ぬってね。
大丈夫、我に策ありだ。









