55:王都に響く声
修学旅行で飛行機には乗ったことがあるし、ジェットコースターや観覧車も好きだし、何も問題ないと思っていました。
ええ、実際に乗ってみるまでは。
いざ竜──ヴィルベルの背に乗って、大地を見下ろすと、意識が遠のきそうな気がした。
──高い高い高い!!
その上、風が強い! 冷たい!
身体を固定する安全ベルトも無い!!
ヴィルベル曰く、精霊に命じて落下しないよう保護は掛けてあるんだとか。
雲と同じ高さを猛スピードで進んでいるこの状況、精霊の助けがなければしがみ付いていられるはずもないってのは、分かってはいる。
それでも、やっぱり怖いのよ!!
かなり軽減されているとはいえ、頬に当たる風は冷たく、バランスを崩して転がったなら、竜の背から真っ逆さまに落ちてしまいそう。
ああ、こんなことなら緊急用パラシュートでも準備しておくんだった。
周囲には、ヴィルベル以外の竜達も一緒に飛んでいる。
前に会った赤竜と青竜の二匹組も居る。
ヴィルベル単体で飛んで集中狙いされたらたまったものじゃないし、他にお願いしたいこともあるからと、私からお願いしてきたんだ。
「王が人間の放つ矢や魔法にやられる訳がないだろう」と呆れてはいたものの、一緒にロドニー王国に向かうことを快諾してくれた。
今度またお肉でも差し入れなくっちゃ。
景色は目まぐるしく流れて、あっという間に魔の森を抜けて、ロドニー王国のいくつかの町の上空を通り過ぎていった。
ひょっとして、地上は大騒ぎになっていたりするんだろうか。
まぁ、知ーらないっと。
今の王国中枢をそのまま放置しておく方が、ろくなことにならないはずだもんね。
鞄から仮面を取り出し、装着する。
いつぞや冒険者達の前に顔を出す時にクリエイトした、白い仮面。
遙か上空、竜に乗る存在を視認出来るとは思わないけれど、万が一にも顔を見られたら面倒だからね。
厄介事は、対策しておくに限る。
広大な自然の中、人工物の占める割合が増えてきた。
王国中央部に近付いてきたってことなのかな。
一応今回は王城を真っ直ぐに目指しているけれども、他の地域はどの程度聖女とやらの影響を受けているのか。
まったく、魅了というのも面倒なスキルだ。
王太子に役に立たないと断言された私の“以心伝心”が魅了を解けるだなんて、皮肉な話だよね。
眼下に、大きな都市が見えてきた。
中央には、巨大なお城が聳え立っている。
あれがロドニー王城かな。
目的地を察知してか、ヴィルベルが飛行速度を緩める。
高度も、少し落としてくれたみたい。
それまで遠くて見えなかった街の様子が、朧気に見えてきた。
「うわぁ……」
王城から、ゾロゾロと出てくる兵士達の群れ。
わぁい、地上が蟻ん子みたいだー……なんて言っている場合ではない。
城下町は逃げ惑う人々で半ばパニック状態に陥っているみたいだ。
ごめんね、普通に暮らしている人達の生活を脅かすつもりはこれっぽっちもないの。
なんて言ったところで、とても聞いてくれそうな雰囲気ではない。
そりゃ、大型の竜が群れで飛んで来たとなれば、そうなるのも当然かぁ。
ヴィルベル単騎で来た方が良かったかしら。
まぁ、一番でっかくて一番怖そうなのが、そのヴィルベルなんだけど。
事前に指示した通りに、竜達は王城と城下町を囲うようにして散らばった。
高度を下げ、低空飛行を続ける竜達に向けて、地上からまばらに矢が打ち上がる。
どれも竜の鱗を貫くには、あまりに貧弱だ。
竜達の心配をする必要はなさそうかな。
ヴィルベルは街の中央、巨大な影で王城を飲み込むかのように、大きく翼を広げた。
「さて、と」
準備は万端。
こちらも用意した物を手に、王城の真上で大きく息を吸い込む。
使うのは、中学校の体育祭以来。
こう見えても放送部で、選手紹介や中継を担当していたのだ。
「みなさーーーーーーん!!」
手にしたラッパ状の機械──拡声器に向かって声を張り上げた瞬間、大気が振動した。
背にスピーカーを括り付けた竜達が、あまりの大音量に驚いて、バランスを崩しそうになっている。
ごめん。
多分、想像以上に大きな音だったんだろう。
王都中に聞こえるくらいにしたかったんだもの、スピーカーのボリュームは全部最大に設定してある。
「どうか、正気に戻ってくださーい!!」
竜達が背負うスピーカーを通じて、この声は広範囲に広がっているはず。
機械を通じた音声で、スキルが有効かどうかは、正直分からない。
でも、ダメで元々。
試してみる価値はある。
もし魅了に掛かった人達が元に戻らなくても、ヴィルベルに乗ってすたこらさっさーと逃げ帰ればいいのだ。
やって損は無し!
「王国首脳部の方々は、皆聖女の“魅了”に掛かっています! どうか元に戻って、正しい判断をしてくれることを願いまーす!!」
最大限声を張り上げたので、喉が痛い。
まぁ、これで国一つが元に戻るなら、我儘言ってられないよね。
そっと、地上の様子を見下ろす。
王城の窓から、中庭から、正門から、何人、何十人、何百人もの人達がこちらを見上げている。
皆呆然としたようにも、ざわめいているようにも見える。
「はい、じゃー撤収!」
最後に拡声器で号令を出すと、竜達が揃って大空を羽ばたいていく。
私に出来るのは、ここまでだ。
今回のやり方が通用しなかったなら、また別の方法を考えるまで。
後のことは、彼等に任せるとしましょうか……!









