48:迫る軍勢
ノームからもたらされた“ドワーフの里が人間達に侵攻されている”という情報。
十中八九、ロドニー王国の軍勢で間違いないだろう。
私達はドワーフを助けに行くことにした。
向かうのは私とガルム、ヴィルベル、そしてジェレミーさんとダグラスさん。
ロドニー王国の二人を連れていくのは反対したのだけれど、彼等の意思は固く、結局根負けしてしまった。
彼等にとっては、顔を知られるリスクを伴う。
それでも付いてくると言い張っているのは、母国が何をしているか、その目で確認したいのだろう。
一緒に来ると聞いた時の、ヴィルベルの不機嫌そうな様子ったらなかったわ。
彼にとっては、ジェレミーさんもダグラスさんも、まだ信用ならない相手。
信頼のおけない人間を側に置くこと自体、気に入らないのだろう。
対して、ジェレミーさんとダグラスさんも、私達だけで向かうことに不安があったのだろう。
特に私の能力を知るジェレミーさんはともかく、ダグラスさんにとって、私達の戦闘力は未知数だ。
ヴィルベルは見るからに常人ならざる気配を発してはいるけれど、それでも一個人だものね。
そんな風に心配されるのも、ヴィルベルにとっては、また腹立たしいのかもしれない。
「いいか、スズカの側を離れるなよ」
「ワンッ」
道中、ヴィルベルは何度もガルムに言い聞かせていた。
ガルムはガルムで、その都度『言われる迄もない』と頼もしい返事をしている。
……これって、ガルムのことは無条件で信頼してくれているってことなのよね。
それに、私のことも。
嬉しいような、くすぐったいような、なんだか不思議な気分。
ドワーフの里まで、移動距離は結構かかる。
ヴィルベル一人ならひとっ飛びなんだろうけど、流石にヴィルベル一人で向かわせるのは不安過ぎる。
ドワーフ達を助けてくれるかも分からないし、下手したら里ごと灰にしてしまいそう。
モンスタークリエイトでペガサスかユニコーンでも呼び出そうかと思ったんだけれど、ペガサスは目立ち過ぎるし、ユニコーンに至っては私しか乗れない上に、乗ったら乗ったで生娘であるとカミングアウトしているようなものだと言われて、即却下した。
そもそもダンジョン産のモンスターは皆私に忠誠を誓ってくれているってのに、勝手に誤解されても困るよね!!
そりゃまぁ、そんな経験はないけれど……だからって、それとこれとは話は別。
失礼しちゃうわ。
仕方なく、徒歩での旅。
私は荷物を抱えて、ガルムの背に跨がっている。
頑健なヴィルベルが一人さっさと先を行ってしまうから、ジェレミーさんもダグラスさんも、付いてくるのが大変みたい。
二人だって、相当体力がある方だと思うんだけどな……ヴィルベルが体力オバケ過ぎるのかもしれない。
そうしてやってきた、鉱山地帯。
岸壁に開いた洞穴がドワーフの里の入り口。
その前に、ロドニー王国の軍勢がズラリと待ち構えていた。
岩山の手前、少し開けた場所に、数え切れないほどの兵士達がテントを張り、陣を敷いている。
見付からないように距離を取り、彼等の様子を窺う。
「少し、偵察してきます」
名乗り出たのは、ジェレミーさんだ。
顔を知られているとはいえ、私やヴィルベルよりは冒険者のジェレミーさんの方が、隠密行動はずっと手慣れている。
「それならば、俺が──」
「お前は、騎士達には確実に顔を知られているだろう」
言いかけたダグラスさんを、ジェレミーさんが制する。
騎士団長をしていたダグラスさんの顔を知らぬ者は、おそらく居ない。
彼よりは、まだ王弟であったジェレミーさんの方が、一般の兵士や騎士には知られていないだろう。
ジェレミーさんがフードを目深に被って、顔を隠す。
「どうか、お気を付けて」
「はい」
戻って来なかったらどうしようかと不安に駆られていたが、私の不安も、僅かな間だけのこと。
少ししたら、ジェレミーさんが戻ってきた。
ただ、彼の眉間には深い皺が刻まれていた。
「ドワーフ達は里の入り口にバリケードを築いて、ロドニー王国軍の侵入を防いでいました」
バリケード付近では、しばしば小競り合いが繰り広げられているらしい。
狭い入り口で阻まれて、ロドニー王国軍は数を頼りに一挙に押し寄せることが出来ずに居た。
「毒を流すとか、火を焚いて炙り出すなど、様々な案が出ているようです」
ジェレミーさんの報告に、皆の顔にも苦い表情が浮かぶ。
「とはいえ、彼等の目的はドワーフ達を捉えて隷属させること。殺してしまっては元も子もないと、現段階では躊躇しているようです」
「現段階では、か……」
ダグラスさんが、低く呟く。
このまま硬直状態が続くならば、そういう手段も選びかねないということなのかもしれない。
「軍勢の指揮は、誰が?」
「おそらくは──ラーキンズ伯爵かと」
「そうですか、エディが……」
ジェレミーさんの言葉に、ダグラスさんが唇を噛みしめる。
「知っている人……なんですか?」
「ああ、俺の部下──だった」
私の問いに答えるダグラスさんの声は、低く掠れていた。
「王国に居た時から、もう皆おかしくなっていたんだ。誰も正気ではない、あんな見境のない連中ではなかったはずなのに……皆が皆聖女を盲信して、自分達が如何に狂信的な振る舞いをしているか、気付きもしていない」
ロドニー王国に現れた新たな召喚者、サヤ。
彼女が持つ能力によって、すっかり王国中枢部は乗っ取られてしまったという。
ま、私に言わせれば、乗っ取られるまでもなく、最初からあの国は腐りきっていたけどね!
「えぇと……魅了された人達って、通常の判断は出来るんですか? たとえば、怪我をしたら痛いとか、相手が強そうだったらヤバいな~とか」
「おそらくは」
ダグラスさんは、曖昧に頷いた。
「他愛もない会話や、日常的なことでしたら、普通に行えます。ただ、価値観や信じる物、信仰の対象が変わってしまったと言うべきでしょうか」
「うーん、それなら……」
チラリと、ヴィルベルに視線を向ける。
「敵いようのない相手に出くわしたら、逃げてくれるかなぁ?」
こんな時でも、全員殺してしまうのは、やっぱり後味が悪い。
これは無理と悟って、逃げ帰ってくれれば御の字なのですが、如何でしょうか。









