47:珍妙な客
求められるままに、やってきました地下90階。
転移したのは、私とガルムの二人だけ。
とはいえ、ここでの様子は管理室のモニターでバッチリ見られていると思うけれど。
「──スズカ殿!」
「こんにちは~」
私が姿を現すと、すぐに里長と、その息子のアンドルーが駆けてきた。
ああ、長はおじいちゃんなんだから、そんな急いで走らなくてもいいのに。
それを言ったら、若く見えるアンドルーも相当な年上なんだろうけれど。
エルフに年齢を聞いてはいけない。
「いったい、どうしたんですか?」
手土産の箱入りレモンケーキを渡しながら、二人に聞いてみる。
彼等の動きが、ぎこちなく停止した。
「……これは?」
「お土産です。お口に合うと良いのですけど」
日本では多分定番の商品、レモンケーキ。
楕円形の生地に、レモン風味の爽やかなアイシングを施した品だ。
シンプルかつ素朴な味わいで、好きなんだよね~。
「やや、これはどうも」
里長に箱を手渡し。
急遽呼び出されたにしては、ほのぼのとした空気が流れる。
『なんじゃ、美味そうな匂いがするのぅ』
「でしょ~、美味しいんだよ」
咄嗟に聞こえた声に、素で答えてしまった。
……うん?
なんだ、今の声。
『儂にも一つもらえんかのぅ』
目線を下に移せば、ちっちゃいおじさん……いや、ちっちゃいお爺ちゃんが居た。
「えーと……誰?」
ちっちゃいお爺ちゃんと思ったけれど、どうも様子がおかしい。
なんか輪郭がぼんやりしているし、少し光っている気もするし……。
──そこでようやく気が付いた。
精霊だ、この人!!
「地の精霊、ノームです。どうやら外からやって来たらしいのですが……」
アンドルーが説明してくれる。
なるほど、地の精霊かぁ。
他の精霊達みたいにぷかぷか飛び回っていないと思ったら、なるほど大地に根を下ろしているってことなのね。
『さよう、我等は大地を守護する精霊じゃ』
白髭を蓄えたちっちゃいお爺ちゃんが、えっへんと胸を張っている。
『ほれ、その甘い匂いがするやつ! それを一つ寄越さぬか!!』
「これ? まぁ、私が持ってきた物だからいいけど……」
お土産ですって手渡しておいて、すぐに“一つください”ってのも格好が付かないけれど、まぁいいか。
「この人──ノームが欲しがっているんですが、一つ貰っても良いですか?」
「あ、あぁ」
箱を手にした里長が、戸惑いがちに頷く。
そういえば、エルフ達には精霊の声は聞こえないんだっけ。
「はい、どうぞ」
『おお、なんという甘い芳香じゃ!!』
「外側の紙は剥がして食べてね~」
ノームは現れたレモン型のケーキに、目を奪われている。
『いいな~、ノームばっかりずるーい!』
『ボクも食べた~い』
甘い香りに誘われるようにして、他の精霊達まで寄ってきてしまった。
まいったなぁ、これじゃお土産の数が全然足りなさそう。
「すみません、後で追加で持ってきますから……」
「ああ、いえ、お気遣いなく」
精霊達のせいで、エルフ達との間に微妙な空気が流れてしまった。
何か緊急事態が発生したのかと思って飛んできたのだけれど、どうやらそうでもないみたい……?
「で、貴方はどこから来たの?」
里長の家で、おやつタイムを終えて満足したらしいノームを囲む。
どうやらこのノーム、エルフ達に何か伝えようと里を訪れたらしい。
エルフ達には精霊の言葉が分からないので、私が呼ばれたというわけだ。
『儂はドワーフの里に暮らしておる』
ノームの口から出てきたのは、ファンタジー作品ではエルフに次いで定番の種族だった。
そうだよね、エルフが居るならドワーフも居るに違いない。
「ドワーフっていうと、やっぱり洞窟とか鉱山地帯に住んでいるの?」
「魔の森の山脈地帯に、ドワーフの里があると言われております」
地理に詳しくない私に、エルフの里長が教えてくれた。
山脈地帯ってことは、死の大地との中間地点にあたる部分か。
『じゃが、現在ドワーフの里が猛攻を受けておってのう』
「……猛攻?」
『さよう。人間共の軍勢が押し寄せて来ておる』
腕を組んで唸るノームの頬には、レモンケーキの食べカスが付いている。
『エルフ達がこのダンジョンに居を構えたと聞いて、ドワーフ達もここに避難させられぬかと、やって来たのじゃ』
ノームさんや。
そんなのんびりとレモンケーキを食べている場合じゃないのでは……?









