混沌の愛《カオス・ラブ》
ユリヤによって国外に連れていかれたり、記憶だったりを連れ回されて今日は本当に疲れた。
もう何も考えずに休んでいようと思ったものの、意識するほどかえって目が覚めてしまう。
とはいえ、作戦を今考えるわけにはいかない。
俺の思考がいつユリヤに覗かれているか分からないのだ。
今この時も、
『何も見ていませんよ』
と平然と脳内に語りかけてきそうな気さえする。
だから、ユリヤに言われてみたことを考えてみることにした。
このままユキ達と共に進むと、姉さんかユキ…そして俺自身の誰かしらが死ぬという。
俺が俺ではなくなり、周りが不幸になる。
そして最後、
『気配の無い者を追ってはいけません。それはユウ君にとって、不幸の始まりです。』
本当に意味が全く分からない。
そもそも気配の無い者をどうやって追えと言うのだろうか?
ソイツを追ったら不幸になる?
黒猫か何かなんだろうか?
それに関してはおそらく考えても無駄だろう。
だからそれはもう置いておくことにする。
姉さんかユキかのどちらかが死ぬ。
あるいは俺も。
ユリヤは、このままでは姉さんと俺たちが戦うことになると言った。
どっち付かずの俺は、2人を助けることができないと。
しかし力量差を考えた時、姉さんとユキではおそらく勝負にならないはずだ。
ユキは俺の願いを知っているし、姉さんを殺すつもりなんてないと考えて良い、はず。
何故姉さんが死ぬことになるのだろうか?
仮にユキが姉さんを本気で殺そうとした場合、おそらく俺は身を挺して姉さんを守るだろう。
だから死ぬとしたら俺だけ。
それとも、その後にアカネやユリヤによってユキが殺されてしまう。
それが、俺とユキの死ぬ未来なのか?
…分からない。
未来の話なんて、考えたところでキリがない。
決まっている予定に対して準備をするのと、
分からない未来の可能性を考えるのでは訳が違う。
俺が俺でなくなるというのはどういうことだろうか?
人が変わる
ユリヤはそう言っていた。
俺は俺のままだ。
人から何か言われたり、されたりしたところでそれが揺らぐことはない。
それとも、ユキ達と共に進むことで何か大きなトリガーが引かれる可能性があるということか?
…いや、ユリヤは俺から鬼憑きや狩人の記憶まで消そうというようなことを言っていた。
ユキ達というより、神通力に関すること。
つまりはこの環境自体が俺を俺じゃなくする要因となり得るということなのか…?
…ダメだ、知恵熱が出そうだ。
ここまで深く物事を考えたことはないし、
ここまで考えて答えが出せないこともなかった。
コンコンコン。
控えめなノック。
姉さんか杏だろう。
今日はもう寝ると言った俺の部屋を訪ねてくるということは結構重要な話かもしれない。
…しかし、気が重い。
姉さんならともかく、杏なら面倒だ。
一旦、どちらか分かるまで様子見しよう。
杏なら狸寝入りでいいか。
「ユ、ユウトぉ~?起きてるかぁ~?」
意外も意外。
その声はアカネだった。
確かに少し前に家のドアが開いた音はこの部屋からも聞こえていた。
だからアカネが帰ってきていたこと自体は分かっていた。
しかし、アカネが『ドアをノックする』というのが異常といえるレベル。
それもあんな控えめな。
仮にノックするとしても、すると同時に
『はいるぞー』
と言って部屋の主に確認することなくズカズカ入ってくるようなデリカシーの欠片もないやつだ。
「アカネか。どうしたんだ?入って良いぞ。」
いつもと全く違う雰囲気に、普通に気になってしまったので応答する。
入っても良いと言ったものの、部屋のドアが開かれる様子はない。
本当にどうしたんだ?アカネのやつ。
もはや気になってしょうがないので、俺からドアの方に歩いてドアノブを捻り、開ける…
…?開かない?
捻った後、いつものように内側にドアを引いて開こうとするが、ドアが動かない。
外側から引いている?なんで?
用があって来ているはずだ。
なのに許可があっても入ろうとしないどころか、扉を開けようとするのを阻止する?
明らかに様子がおかしい。
!?まさかこれは…
ユリヤの 罠 か…?
ユリヤがアカネに何か余計なことを吹き込んだ?
それを確かめに来た?
俺が、敵かどうかを探りに?
それなら様子が変なのも納得だ。
しかし、それはユリヤとの契約で…
いや、その気になったらユリヤは平気で破れるか。
そもそもユリヤの能力を考慮すれば、
このアカネの声すらも幻聴。
あるいは、アカネに化けたユリヤ本人という可能性だって否定はできないのだ。
改めて考えても、非常に規格外の女だ。
ヤツと対峙すれば、どれだけパターンの想定を積み重ねても足りない。
別れ際のユリヤの言動を考えると、どんな強引な手段を取ってくるとも限らない。
杏から貰った対鬼憑き用の短刀を手に取る。
もし扉の向こうにいるのがアカネ本人で、
かつ俺を疑いに来ているというのなら最悪の中の最悪の展開だ。
敵と認定されてもすぐに戦いになるようなことはないだろう。
ただし、俺の正体は必ずと言って良いほど姉さんにも共有されるはずだ。
そうすれば俺の理想は崩れたも同然。
最愛の姉さんを敵にすることになり、
それこそユリヤの言う不幸な未来へと突き進むことになる。
場所も時間も関係ない。
もし万が一、その最悪の場合だとすれば…
もうアカネをここで殺るしかない。
後でどれだけ怪しまれようとも、黒でないのなら取り返しがつく。
闇女に操られた~とでも言って、
無理矢理でも誤魔化すしかない。
覚悟を決めろ。
「…アカネ、入らないのか?」
動きがないのでこちらから声をかける。
それでも動きはないが、変わりに声が聞こえてきた。
「……ちょっと!ユウト君が呼んでるでしょ!」
「じゃあ杏が開けろよ!なんでアタシが先頭なんだ!?」
「ま、待って!まだ心の準備が……」
なんと言うことだ。
アカネだけじゃない。
杏も、姉さんもいる。
一体どうすれば…、せめて読む力さえ使えれば…
そこまで考えてようやく気付く。
…あれ?契約は今日1日の間、神通力の無力化を使わないってことだったよな?勝手に『能力を使わない』と勘違いしてたけど、読む力は関係ないか?
冷静に考える隙がなかったから勘違いしていたが、契約の中に読む力に関しての文言は無かったはずだ。
無駄に自分を縛ってしまっていた。
即座に意識して読む力を発動させる。
扉の向こうから流れてくる感情。
俺を、敵かどうか判断しようとする緊張感…
いや、違うか?
…緊張感はあっている。
しかしこれは……羞恥?
それも3人とも?何故?
少なくても俺を疑っているような展開ではなさそうだが、何故3人が羞恥心たっぷりで扉の向こうにいるのかが分からない。
とりあえず最悪の展開にはならなそうなので一安心。
短刀をしまってから再び声をかける。
「姉さんも杏さんもいるんですね?入ってきて大丈夫ですよ。」
しかし、やはり扉は開かなかった。
もう一度ドアノブを捻って引こうとするが、やはり動くことはない。
結構本気で引いてもビクともしないので、おそらく向こうで抑えているのはアカネだ。
本気を出したところでドアが壊れてしまうだけだろう。
「アカネ。なんで開けないんだ?入って良いと言っているだろ。」
3人が焦っているのは伝わってくるが、理由が全く分からない。
一体何をしに来たのだろうか?
「よく分からないけど、用がないならベッドに戻るよ。」
嘘である。
実際にわざと大きな足音を立ててベッドの横まで行く。
更に念のためでトレーニング用で置いてあった近くの可変式ダンベル、20kgセットの2つを同時にベッドの上へ軽く投げる。
聞き耳を立てていないと分からない程度だが、古いベッドが軋む音。
こんなもんでいいか。
その後俺はドアの前まで抜き足で近づき、タイミングを計る。
「ほら!早くしないとユウト君、今度こそ寝ちゃうわよ!」
「だからなんでアタシが行くんだ!文句あるなら杏が行けよ!」
「あなた、よくユウ君の前で下着姿になるんでしょう!?あんまり変わらないじゃない!!」
「それは心の準備があるからで…」
話している内容も意味不明だ。
下着がどうこう言っているが、何のことだ?
しかし、俺が寝てしまうという偽装はうまくいっている。
アカネの気が一番緩んだ瞬間で思い切り引けば開けられるはずだ。
「大体この作戦、よく考えたらバカすぎないか!?」
「今さら何を言うの!最終的にアカネも賛同したじゃない!」
「きょ、今日はもう諦めるのはどうかしら…」
3人は何か揉めているのか、何事か言い合っている。
……………………ココだ!!
アカネの気が最も緩んだと思われるタイミングで思い切りドアを引く。
開いた。
開いてしまった。
目の前に広がるのは、3人の露な姿。
布面積が非常に少なく、肌の露出が極端に多い。
一瞬水着かと思ったが、先ほどの会話。
そして見た感じの材質的に…
「3人とも…なんでそんな格好を…?」
「「「……………」」」
返事はない。
3人は下着姿だった。
アカネのはたまに見ているが…杏は勿論、姉さんのだって子供の頃以来は見たことがない。
アカネも普段からよく見せびらかしている赤い下着とは違い、黒く大人っぽい下着を身に付けていてモジモジと体を隠すようにくねらせている。
一言で言うと、非常にエロい。
普段は見せつけるどころか触らせてこようとしてくるようなヤツが、恥ずかしがってこちらを上目遣いでチラチラと覗いてくる。
これは…マズいぞ。
非常にマズい。
そして、ある意味一番危険なのが杏だ。
年齢が2人と同じということを考えると、貧相な体つきに若干の同情のような物が芽生えるが、なんというかものすごく背徳的な気分になってくる。
というか、犯罪の匂いがする。
こいつ本当に小学生じゃないんだよな?
これがもし、スポーツブラみたいなもので出てきたら解釈一致で逆に冷静になれたかもしれないが、なんでワザワザそんな布面積が少ないものを!?
そして最後に姉さん。
お互いに年齢が1桁の時に、姉さんの下着姿を見たことはある。
その時はまだ性的な知識や興味すら無かった頃だし、何とも思っていなかった。
姉さん自身も恥ずかしそうにもしていなかった。
しかし、今はどうだろう。
恥ずかしそうに頬を染めて、
紫色に統一しているブラとショーツをそれぞれの腕で隠しているが、僅かに隠しきれていないのが逆にエロさを増している。
心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
羞恥が大半を占めるが、何故か覚悟のような物も伝わってくる。
…というか腕で下着を隠してしまっているため、逆に裸に見えなくもない。
というか、見える。
見たい。
姉さんの、裸。
「……………………」
「…ちょっと!なんで神楽ばっかり見ているのよ!?」
「…なんか不愉快だな。これじゃアタシ達は神楽のオマケじゃないか。」
「ユ、ユウ君…そんなに見ないでぇ…」
何なんだ、この状況は…。
はっ!?
姉さん、まさか俺を誘っているのか!?
そんなはしたない格好をして、
いつから姉さんがこんなふしだらに!?
そうか!これもアカネのせいだな!?
杏や姉さんが下着姿なのも、全部アカネのせいだ!
そうに違いない!
俺は確信した。
悪いのは全てアカネなのだ。
そうに決まっている。
「おのれぇ!姉さん達に何をしたぁ!?アカネェ!!」
「心外だ!?心の底から心外だぞ!!ユウト!!」
「お前が原因に決まってるだろ!じゃないと杏さんと姉さんがこんな破廉恥で頭がおかしい格好をしているはずがない!アカネが無理矢理やらせてるんだろ!!そうだよね!?姉さん!!」
「えっ!?…え~っとぉ…」
「そうでしょう!?杏さん!?」
「あ、あ~…………うん。」
「杏!?」
「やっぱりアカネじゃないか!!」
「そんなバカなっ!?アタシはむしろ巻き込まれた被害者だぞっ!!」
「うるさいうるさい!!全部お前のせいだ!!」
「い、いくらなんでもひどすぎる…」
アカネは意気消沈と言った様子で俯く。
下を向くんじゃない。
乳房の主張が激しすぎる。
くそっ…見慣れた赤い下着と違って、普段より大人っぽく、エロく見えてしまう。
ただでさえコイツのスタイルはイカれているからな。
「と、とりあえず3人とも、早く服を着てくれ…。話は後でちゃんと聞くから…」
杏はジャンルが少し違う気もするが、それぞれ群を抜いた美少女だ。
仮にこの3人が姉さんやその友人の関係がない存在なら『据え膳食わぬは精神』でとっくに手を出しているかもしれん。
その場はなんとか思い止まり、部屋から全員追い出した。
姉さんの艶やかで綺麗な肩を掴んだとき、よく自制ができたものだと自分を後で褒めたいほどだった。
しかし、何故3人はこんなことを?
後で落ち着いたら話を聞こう。
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「で?一体どんな悪企みだったんだ?アカネ。俺に色仕掛けをしかけ、弱みを握って操り人形にしようと?」
3人が服を来て再び俺の部屋を訪れた。
それぞれパジャマに着替えてはいるが、正直さっきのイメージが脳裏に焼き付きすぎて直視しづらい。
「だからそれはひどい誤解なんだ、ユウト。アタシは被害者。巻き込まれただけなんだって。」
「言い訳をするな。言い訳を。」
それが仮に本当だとして、
姉さんや杏が言い出したと言うのか?
下着姿で押し入って、
俺を誘惑しよう…とでも??
馬鹿馬鹿しい。
2人はアカネと違ってまともだ。
そんなことを言うわけがないだろう。
「あ、あのね。ユウト君…」
「どうしました?杏さん。なんでも言ってください。アカネに脅されてるなら俺が杏さんを守りますから。」
「終いには泣くぞ、アタシでも。」
「ユウ君、アカネは本当に悪くないの。私と杏が言い出したことなの。」
今度は姉さんだ。
しかし、とても信じられないことを言う。
「姉さん…。アカネに一体どんな弱みを握られてるの?俺は姉さんのことならなんでも受け入れられるよ。だから本当のことを話してほしい。」
「う、うわぁーん!!」
アカネが逃走した。
追いかけようとも思ったが、むしろ主犯がいれば2人も言いづらいことがあるだろう。
あえて無視して2人と話を続けよう。
「あ、あのね…ユウト君。本当に、アカネはあまり関係ないの…。」
「…どういうことなんですか?」
「今日はユウト君、ユリヤ様に連れていかれたでしょ?帰ってきてもなんか心ここにあらずというか、神楽に対してでもいつもより素っ気なかったし、その、ひょっとしたらユリヤ様に…。ほら?ユリヤ様もユウト君のこと、異性としてもすごく気に入っていたみたいだし、だから…」
「…だから?」
「ユリヤ様に、その…襲われた…みたいな?」
「…俺が?ユリヤに、ですか?」
それは飛躍しすぎですよ
そう笑い飛ばそうとしたが、
俺はユリヤの言動を思い出した。
『このままめちゃくちゃに…なんてことも正直考えました』
そう言うユリヤの妖しい笑み。
存外、的外れな心配という訳ではなかった。
…とはいえだ。
「流石にそれは心配の方向がぶっ飛んでると言いますか…、第一それでなんで下着で俺の部屋に押し掛けることになるんです?」
「だから、その…もし、そういうことをしちゃったりしている場合、耐性ができてるというかなんというか…。」
「…つまり、俺のことを確かめようとした…みたいなことですかね?」
「ええと、その……はい…。」
「それはとても馬鹿なことをしましたね。」
杏や姉さんにあまり強い言葉を使うようなことをしたくなかったが、今回はしょうがない。
2人のためにも、ハッキリ言うべきなのだ。
「ご、ごめんなさい。ユウト君。」
「良いですか?俺相手だったから良かったですが、男子高校生の部屋に女性が下着姿で押し掛けるなんて言語道断ですよ。俺は自分でも平静を保つのは得意な方だと自負はしていますが、もし俺が暴走して3人を襲っていたりしたらどうしたんですか?取り返しがつきませんよ?」
「…それでも………」
「えっ?」
姉さんが小さい声で何か言ったが、よく聞き取れなかった。
多分聞き間違いだろう。
「ごめん姉さん。なんて?」
「それでも良いって!!………思ったの。」
「………………………………」
それでもいい?
それでも=襲われる(性的)、だ。
俺に襲われても良い?
誰が?
…姉さんが?
???
えっ?
「ごめんなさい、ユウト君。でも本当にユリヤ様に先を越されたと思うと、私たち…」
「ちょい待った!!」
「きゃっ!?ビックリした…」
ビックリしているのはこっちだ。
「えっと?つまり、アレですか…?」
この2人、というか3人は俺と…?
確認とはいうが、実際のところは本気な誘惑だったってことか?
一応アカネは前から誘惑してくるし、
杏にしても俺に好意を抱いているのは分かっていたことだ。
ここまで覚悟を持って行動してくるとは流石に予想外だったが。
しかし、姉さんは…
「俺と…最後までシテ良いと、思って来たということですか?………姉さんを含めて?」
「…そうよ!」
「いや、そんな自信満々に言われましても…。それに、俺と姉さんは…」
「それに関しては神楽から言うわ。」
遮られる。
杏が姉さんを押し出して俺の前に立たせる。
姉さんは俺に何を言うつもりなのか。
…怖い。
聞かない方が良いのではないだろうか?
姉さんに話をさせてしまうと、俺と姉さんの関係が大きく変化してしまう可能性がある。
「あの…」
「ユウ君!!」
「はっ、はいっ!!」
それとなく誤魔化そうとしたが、姉さんにも遮られてしまった。
ものすごい気迫だ。
とても、止められない。
「私もね、こんなこと間違ってるって思ってたの。…今日までずっと。」
「…はい。」
今日までずっと。
…今は?
「ユリヤ様が鬼憑き達との戦闘で助けに来てくれた日、ユリヤ様の言葉を聞いていて思ったの。ユウ君と男女のお付き合いをしたいとか、ユウ君を好きだとか、私を愛してほしいだとか、ユウ君は優しいんだとか…。」
「……。」
「私っ、悔しかったの!!」
「……悔しい?」
「私の方が絶対にユウ君のことが大好きなの!ユリヤ様より私の方がユウ君に愛されてるはずだし、ユウ君の優しさだって私の方が絶対に分かってる!かっこよさも、頭のよさも、スポーツができることも、いっぱいいっぱい知ってる!なのに!…なのに、」
「…。」
「姉だから、ユウ君に『好き』って言えないことが…悔しくて仕方がなかったの…。私が世界で一番ユウ君を好きなのに、それを伝えられないのが辛くて、悔しくて、苦しくて…。」
その『好き』は、
いつも姉さんに言ってもらっている『好き』とは大きく違った意味を持つんだろう。
「別にユウ君がユリヤ様に靡くなんて心配はしていなかった。でも、ユリヤ様が能力で『ユウ君の好意を寄せている子』の姿に変わった時、本当に驚いたの。私でないのはしょうがない。でも見たこともないから学校の子でもないし、ものすごく可愛いし、アイドルか芸能人かと思って調べても出てこないし…。私の知らないところで、私が知らない子を好きになってるのが…凄く嫌だったの。」
「姉さん…」
「それでも私は『お姉ちゃん』だからって。自分には見守ることしかできないって、自分に言い聞かせて、ユウ君への気持ちを圧し殺そうとした。…頑張ったの!でも、もう無理なの!もう嫌なの!!」
姉さんは想いを叫ぶ。
感情がぐちゃぐちゃで、
奥底まで推し量ることができない。
「今日だって、急に『ユリヤに興味がわいた』とか、『2人きりにして』とか…。本当は嫌だったけど、ユウ君が真剣そうに言うから止められなかっただけなの。帰ってきてもすごく素っ気ないし、杏も…ユリヤ様とユウ君が……エッチなことをしたんじゃないかって。そんなはずないって思ってるけど、でも想像しちゃって…。そしたらもう、自分でも自分のことが分からなくなっちゃって…」
「……。」
「…私っ!負けたくないの!私の1番がユウ君で、ユウ君の1番が私じゃないと嫌なの!!」
「姉さん…。」
「ごめんね。こんなお姉ちゃんで幻滅したよね。気持ち悪い…よね。」
「姉さん、そんなとこは…」
「ごめんなさいっ!!」
姉さんは悲鳴のように声をあげ、
目から涙を溢しながら部屋から飛び出していった。
俺は立ち尽くす。
追いかけることができない。
泣いて苦しんでいる姉さんを、
追いかけて慰めることができない。
なんと声をかければいいのか、分からない。
杏も立ち尽くしている。
表情や感情を見るに、杏としてもここまでのことになるとは完全に予想外だったようだ。
どうしてくれるんだ。
どうすればいいんだ。
どうしたいんだ、俺は?
すみません!長すぎるので区切ります。
次回も同じ日が続きます。
長い日ですね(迷)
次はとうとう100話になります。
いやー長かったですねぇ…
※一部訂正
エピソード65にて、
杏に用意してもらった『小刀』ですが、
表現を『短刀』へ変更いたしました。
本エピソードでも『短刀』という表現で統一させていただくことにしました。
理由は…
その方がカッコいいからです(個人の感想です)




