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退屈は僕を殺したい  作者: おどろん
第六章 七騎士編

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ユリヤ・ロマノワの決意

あの話し合いの後、私は菊様からの提案で神社本殿の使っていないお部屋をお借りすることにしました。


「天地優人君。不思議な子ですね。」


初めてお会いした時、

人混みを無理やり掻き分けながら私の前に立った彼は、なにやら怒っているようでした。

私が彼に何かしてしまったのでしょうか?

しかし、見覚えもないので失礼ながら頭の中を見させて頂きました。


どうやら彼は、私に怒っていたわけではなかったようです。

…人混みが嫌いなのでしょうか?

少し彼の中でもあやふやな感じですが、どうやら人自体を嫌っているような?

しかし、何故私の前に?


「どこに行きたいんだ?」


そこでやっと彼の行動の意味を理解しました。

障害を持ち車椅子を利用している私が、この人混みで困っていたことを怒っていたのです。

私の、周囲の方たちへの怒り。


不器用な人だと思いました。

優しさを表面に出すことが苦手なのでしょうか?

逆に、敵意を振り撒くのは得意としているようです。

このままここに留まっていては、トラブルに発展してしまうかもしれません。

ここは、彼の分かりにくい優しさに甘えるとしましょう。


「ひとまず、駅の方へ…。」


そう言うと彼はすぐに私の車椅子を押し初めて人混みをゆっくりと進み始めました。

彼の荒々しい心情からすれば少し意外にも感じましたが、どうやらそれは私のことを気遣ってのことだったようです。

周囲の方たちからすれば、私はさぞ邪魔だったと思います。

しかし、皆さんが怒りを向けているのは私ではなく、彼だけでした。

それも、彼は分かってやっているのでしょう。


どこまでも、不器用な人ですね。

なんだか彼のこと、とても気になってしまいます。


彼に車椅子を押されて無事に駅の中まで到着しました。

彼は面倒だと思いつつ、私のことが哀れだからだと、心の中でまで()()()のように…


ひょっとして、『優しさではない』と思い込もうとしている?

それはもう不器用ですらありません。

非常に気になります。

彼が、どういう人間なのか。


「ありがとうございます。」


ひとまずはお礼を。

彼から帰ってくる言葉はあまりにも予想通りでした。


「いや、礼はいらない。ただの気まぐれだから気にしないでくれ。」


ただ、どうやら私は今の今まで年下だと思われていたようです。

不愉快です。

明らかに学生の子に年下だと思われていた…

まぁ、自分の貧相で痩せ細った身体ならしょうがないですね。

それよりも今は、帰りたがってる彼を引き留めて会話を続けたい。

そう強く思いました。

とりあえず、すぐ近くで流れている()()()歌について聞いてみましょう。


「良い曲ですね。」


いけません。

あまり年の近い(あくまで私が上ですが)男の人と話すことは少ないので、唐突すぎたかもしれません。

彼も私を訝しんでいるようです。


「俺はあまり最近の曲の良し悪しは分からない。俺に同意を求められても困る。」


変だと思いつつ、優しい彼は返事をしてくれました。

嬉しいです。


「では、どのような曲が好きなのですか?」


なんとか会話を続けたいものですが、

彼はどうやら予定もあるようです。

無視して行こうとも考えているよう。

悲しいですが、ここまで付き合ってくれただけで十分です。

構いませんよ。


「まぁ最近の…とは言ったが基本、音楽には全般興味がないんだ。すまんな。」


彼は私と会話を続けることを選んでくれたようです。


「そうですか。少し残念です。」


予定があるのに、私を放っておけない。

本当に優しい人。

なんだか申し訳なくなってしまいました。

ですが、せっかく時間をくれるというなら甘えましょう。


「彼女の曲を聞いて、何か思うことはありますか?」


まるで人を誘導するような、

洗脳のごとき彼女の歌を。


「いや、特にこれと言ったものはないが…」


ないが…?


「いや…、やっぱり何もないな。強いて言うなら今この人混みを見て、そんなに集客ができるほど良い曲か?という疑問は残る。まぁこれは俺の感性の問題だと思うけどな。」


やはり、彼も()()なのでしょう。

運命めいたものを感じてしまいます。


「そうですか。」


自分の鼓動が速くなっていくのを感じます。

なんだか少し恥ずかしくて、そっけない返事をしてしまいました。


「あなたとはまた、どこかで会う気がします。」


これが本当に運命なら、必ず。


「新手のナンパか?悪いが俺には障がい者を支えるほどの器量はない。すまんが他を当たってくれ。」


どうやら言葉足らず過ぎて、少し警戒させてしまったようです。

いきなり会えなくなる気がしてきて不安になってきました。


「あなたの名前を教えてください。」


「俺は、山田太郎だ。」


「山田太郎さん。覚えました。」


…えっ?嘘なんですか?

どうやら本当の名前は教えてはくれないみたいです。

自分の会話の下手さ加減が嫌になります。

やっぱり警戒されてしまっているよう。


「お前は何て名前なんだ?」


これはどう受け取れば良いのでしょうか?

頭を覗いてみるも、特になにかを考えているわけではない。

ただの気まぐれでしょうか?


「私は…」


なんだか悔しいです。

彼の本当の名前を、

私はまだ聞いていませんから。


「いえ、いずれ再会したときのお楽しみとしておきましょう。」


「じゃあ俺はもう行く。どこに行くかは知らないが、気を付けてな。」


「はい。ありがとうございました。太郎さん。」


あなたは私に会いたくはないかもしれませんが、

私はあなたに会いたいと思っていますよ。

もし、あなたと偶然また会うことがあれば

私は…



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



私は1人で日本を満喫していました。

今回、菊様に呼ばれたから日本に来たわけですが、正直アカネさんがいればどうにでもなると思うのです。

しかし、クロードさん含め私まで呼び寄せるとなると余程のことだとは思います。


念のためクロードさんに生命の危機が及んだ場合、正確にはクロードさんが『自分の死を覚悟した時』にすぐ近くに避難させて、私もそこへ跳ぶように保険をかけることにしました。

クロードさんを倒すにはあの壁をなんとかしないといけませんが、アカネさんでも苦労するほどのものです。

特に問題なく今回の件は片付くでしょう。


しかし、残念ながらその保険は役目を果たしてしまいました。


「本当に、余程のことなのですね。」


私は保険の効果により空間を跳躍、

隣にいたクロードさんに声をかけました。


「どうやら、なんとか間に合ったようですね。」


クロードさんはとても驚いた顔をしていました。

それも仕方ないですよね。

周囲に敵と思われるのは…


黒い人と…白い人が、複数?

それに、もう1人…

見えないですが、誰かいますね。


あれ?あの方は…?


黒い人が立つ奥に、

見間違えようもないあの人が。


やはり、会えましたね。


「ユリヤ様!?助かりました!ありがとうございます!!」


「いえ、遅くなってごめんなさい。そしてお久しぶりです。()()()()さん。また会えると思っていました。」


会いたいと、思っていました。


『3人とも、作戦は中止だ。すぐに撤退してくれ。その車椅子の女が協会1位のユリヤってヤツだ。』

『えっ?その弱そうなやつが?』



耳を疑いました。

私は神通力を介する全ての事象を読み取ることができます。

今の力はおそらく【念話】…テレパシーのようなものでしょうが、間違いなく彼の声でした。


「来てくれたか、ユリヤよ。タイミングとしてはおそらくこれ以上なく良かったぞ。」

「菊様も、お久しぶりです。」


念話は彼の能力なのでしょうか?


念のため、私に影響を与えようとする神通力()()を遮断する結界を張りました。

念話だけは聞こえるようにしておきました。


「おお!ユリヤ!遅いぞ、お前!」


「アカネさん、お久しぶりです。」


アカネさんはやっぱり元気そうです。

…元気そうですが、服も髪もボロボロです。

よほど強い衝撃でも受けたのでしょうか?

やはり、かなりの強敵のようですね。

しかし、彼の言動は一体どういうことなのでしょう?


「…少し面倒になってきたわね。今回はこのくらいで退散するとしましょうか。」


彼が話していた通りに、撤退を口に出した敵と思われる女性。


「なんだ?尻尾巻いて逃げるのか?」

「なんだとっ!?」

「クロ!落ち着きなさい。帰るのよ。」


挑発を受けても、あくまでも撤退を選択。

彼が、そう言ったから…?


「私も来たばかりなので、すぐに帰ってしまわれるのは寂しいですね。」


黒い方の女性を捕まえます。

彼とは一体どういう関係なのですか?

洗いざらい吐いてもらわないと。


彼女は私の手を振りほどこうとしますが、

それは不可能でしょう。

今の私は『現在のアカネ』さんと同等の力を有しています。

超えることはできませんが。


『なんなの!この馬鹿力!?私が振りほどけないなんて!』


バカとは失礼な。

しかし、彼がこの女性に向ける反応…


心配…なのですか?


私のではなく、敵の女性を?


「離しなさい!!」


その手刀に恐怖を感じました。

こんな感覚は初めてです。

一旦距離を置きましょう。


「あら、乱暴ですね。私は少し遊びたいだけなのですが。」


あまり余裕はありませんでしたが、

こういうのはハッタリが大切です。


「…クロ!」


彼女の呼び掛けに4人の白い女性は頷いています。


「今度会うときはこんなお遊びでは済まないわ。その時までに、彼をこちらに渡す覚悟をしておきなさい。」


「逃がしませんよ。」


彼との関係を確かめなくては。


『コイツ、何をしでかすか分からない!ユキ!すぐに回避するんだ!この場からの離脱を!!』


ユキ…?

初めて聞く名前です。

姿が見えない、もう1人の鬼憑きなのですか?


「お前が本体だなっ!!」


アカネさんが、クロという鬼憑きの本体?の背後に迫ります。

しかし、突然アカネさんの拳の前に『良くない力』を感じました。

念のため、身体をアカネさんと同等の硬度へ引き上げます。

その直後でした。

バカみたいに痛かったです。


どうやら先ほどの力、

空間と空間を繋げる力だったみたいです。

それも、私の結界を越えて…。


とりあえず、痛かったのでアカネさんを後でつねることにします。

そして追撃も忘れずに。

先ほどのクロ、と呼ばれる鬼憑きを目標(ターゲット)に。

捕捉と同時に、上から押し潰す感じにしましょうか。

念のため周囲に神通力を持たない人間がいない時に限るようにしておきましょう。


早速反応がありました。

もう彼女はこの世にはいないでしょう。

彼がどういう立ち位置なのかは分かりませんが、敵は敵です。

心からの心配をしていたようですし、

彼には少し申し訳ないですが…


そこで僅かな違和感。

能力が中断する感覚。

仕留めきれなかった?

あるいは、捕捉直後にまた姿を消した?


なんにせよ、相手が無事なのは確かです。

すごいですね。

アカネさん以外でここまでしぶとい存在がいるなんて思いもしませんでした。

簡単に捕捉ができないなら能力の無駄遣い。

私はアカネさんと違って『無限』ではないので、追撃はここまでにしておきましょう。


その後、改めてここにいる方たちに挨拶をさせて頂きました。

しかし、私は彼のことが気になって仕方ありません。

失礼を承知で、また彼の頭を覗かせてもらいます。


ユリヤの邪魔さえ入らなければ確実にクロードは殺れていた。

これ以上なく、完璧なタイミングで乱入されてしまった。


……………。

つまり、彼は…

鬼憑きの、スパイ?


「ユリヤ様!私のこと、覚えていらっしゃいますか…?」


私のことを知っている子のようです。

覚えていてほしい、そう顔に書いてあります。

慌てて過去の記憶を『参照』し、涼宮杏という少女のことを思い出しました。


その後、彼女が望む言葉を聞かせてあげると歓喜で泣きついてきてしまいました。


今は、こちらにも余裕がないのですが…


驚きの連続で、普段の感じを装えているかが少し不安です。

しかし、またしても私に驚くべき情報が。


「初めまして、ユリヤ様。私は天地神楽と申します。お会いできて光栄です。」


「アナタが、彼女の妹の…」


彼女…天地神楽耶。

彼女が私に言ってくれたこと、

今でもハッキリと覚えています。

そして彼女が言っていた、

世界で最も大切な妹…

それが、この子なのですね。


「姉さん、妹っていうのは一体…?」


もういい加減にしてください。

姉さん?

彼女は2人姉妹だった筈です。

驚くのも疲れてしまいました。


「姉さん…?あなたは山田太郎さんですよね?」


当て付けで、少しだけ意地悪しちゃいます。


その後、話の流れで彼自身も知らなかった『お姉さん』の話を神楽さんはしてくれることになりました。

ただ、私はそれより彼自身のことが知りたくて知りたくてしょうがありませんでした。


記憶領域を展開し、彼女の言うことを一言一句記録するようにしました。

その間、私は申し訳ないと思いつつも彼の『全て』を見せてもらうことにしたのです。


頭を覗く。

記憶を参照する。

全てを知りたい。


何故、そんなに不器用なのか。

その優しさはどこで育んだのか。

なぜ鬼憑きと繋がっているのか。



鬼憑きの首魁、【闇女】とも知り合いだったのですね。

いや、知り合いというよりこれでは…


運命の、恋人のよう。


愛するお姉さんにも秘密にして、

頑張ってきたのですね。


ただ、それが狩人に敵対する行為なのは頂けません。


途中、記憶が参照できなくなりました。

こんなことは初めてです。

彼に関わると、初めてを多く経験できますね。


()()()まで行くと、

ソレはありました。


…何かの、核?


それは温かく、

見ているだけで気持ちが良い。

これは、触れても良いものなのでしょうか?



…肝心なところで神楽さんのお話は終わってしまったようです。


意識をあちらに戻します。


「改めて、あなたのお名前を教えていただけますか?」


本人の口からお聞きしたいです。

今度は意地悪しないでくださいね。


「天地ユウトだ……です。」


名前を教えてくれたのは良いですが、

かしこまってしまうのは良くありません。

ええ、非常に良くありません。

もっと、近い関係のように接してほしいです。

そう伝えるも、彼は簡単には首を縦に振りません。


「しかし、ここにいる皆も敬語ですよ?まぁアカネは違いますけど。」


「構いません。私がそうしてほしいのです。特に、あなたには。」


そう。

アカネさんは長い付き合いが故の呼び捨て。

ですが私は会ったばかり。

そんな私のことを、呼び捨てにしてほしい。

一番特別に見てほしい。

彼女たちよりも、私を。


「ユウ君、と呼んでもよろしいですか?」


そう言った時に、女性陣3人の慌てよう。

とても面白くて、笑ってしまいそうになりました。

いけませんよね、笑ってしまっては。

分かっているのに、ついついイタズラしたくなってしまいます。


「私、不器用だけど優しいアナタを気に入ってしまいました。是非、私と男女のお付き合いを…」


イタズラですが、本心ですよ。


「ユウトが好きなのか?男として?」


と思っていたら、やり返されてしまいました。

咄嗟にうまく返せず、認めざるを得なくなってしまいました。


「……少し、お恥ずかしいですね。」


こそばゆくて、ウズウズして、

とてもあったかい気持ちになります。


その後、女性陣3人からの攻撃?を難なくいなして彼に直接攻め込みます。


「私を神楽さんと同じくらい愛してください。それで全て解決です。」


彼女への愛情の強さはもう覗き見るまでもありません。


羨ましい。

それが、欲しい。

私にも、その愛情を。


姉弟としての愛とは()()ようにも感じますが、愛の強さは本物。

ただ、それは【闇女】も同等。

それを超える愛を、私に。

私だけに。


「ではアナタの好みを教えてください。私がそれになります。」


私が【闇女】の姿を模したら彼は怒るでしょうか?

驚くでしょうね。

でも、悔しいからやってしまいます。

私のことを、もっと気にして欲しいから。


好みを聞くと同時に、【闇女】…

ユキという少女の姿が具体的に浮かんできます。

なんと可愛らしいのでしょうか。

私とは大違いです。


またも意地悪のつもりで、彼女の姿を完全に真似しました。

ふふっ。焦っています、とても。

可愛いです。


まさか、俺の考えていることを…!?


『そうですよ。』


そう頭の中で返事をしてあげようと思いました。

ですが、そこで異常な事態が起きました。

彼に声を届けることも、彼の頭を覗くことも、彼に対する一切の干渉ができなくなりました。


この感じ、前にもどこかで…


そうです!

つい先ほど、神楽さんの話に出ていた人物。

神楽耶さんの神通力の無力化(ニュートラライズ)の力なのでは!?


彼に対して()()と試してみますが、そのどれも一切の効力を果たしませんでした。


間違いありません。

これは、


「神楽耶さんの力…神通力の無力化(ニュートラライズ)を扱えるのですか?」


なんということでしょう。


どこまでも数奇な運命。

運命に選び抜かれた人物。

その運命の輪に、私もいれて欲しい。


私が彼を鬼憑きから引き剥がし、


不器用な彼を私が支え、


彼が私の不自由な身体を支え…


私は彼を一生愛し、



そして彼に、

世界で一番、私を愛してもらうのです。



先ほど見た、彼の一番奥底に眠る核の正体も確信を得ました。


彼の中で、彼と彼女(いもうと)を見守り、

【闇女】を遠ざけ、彼を助ける。


そこにいたのですね。

神楽耶さん。

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