ユリヤ ー 【全能】 ー
「…なるほど。では、闇女率いる鬼憑きたちはユウト君の神通力の無力化が目当てで行動している。そういうことなんですね?」
「ああ。分かってると思うが…」
「内密に、ということですね。大丈夫です。私は口の固さにも定評がありますのでね。」
「そういうことだ。ユリヤも。くれぐれも口外はしないでくれよ。」
「勿論です。想い人が困るようなことはしたくありません。」
今までの経緯をクロードとユリヤに説明した。
2人は口外しないと約束してくれたが、正直あまり信用はしていない。
俺は俺で、ユリヤに心を1度読まれた時以来、常に神通力の無力化を使っていた。
コイツが近くにいる時は絶対に油断できない。
誰に怪しまれても、
たとえ、姉さんに不信感を与えたとしてもだ。
「俺はむしろユリヤに聞きたいんだけど…」
「なんでしょう?なんでも聞いてください。」
都合の良いことに俺のことを気に入ってるとのことだ。
こうなってしまってはとことん利用させてもらうまで。
「杏さんから聞いてはいたが、アンタは…ユリヤは『なんでもできる』と聞いている。具体的には何ができるんだ?」
「何でも、とはいきませんね。」
そりゃそうだよな。
「アカネさんを倒すのは不可能です。」
「…………他には?」
「特には…。強いて言えばですが、私の力には『限界』があります。大規模な影響を与えることを連続で行使すると限界が早まります。後、力を発生させる場所が遠いほど、その『影響力』も弱まります。私は想像力が乏しいのであまりこの力には向いていないのですが、基本的にできないことはないと思いますよ。」
コイツ、本気で言っているのか?
それが本当ならアカネより厄介なんじゃ…?
今確認できているコイツが起こしたことは、
・人の心を読む
・自分の見た目を望むままに変える
それ以外にも、戦いの中で見せた瞬間移動なんかもある。
「そもそもクロードさんのピンチに来てくれたが、タイミングが良すぎると思っていた。ひょっとしてそれも何か力を使ったのか?」
「そうですね。アカネさんに関しては心配していませんでしたが、念のためクロードさんが危うい状況になれば、即座にその場に移動できるようにしよう、と考えておりました。」
めちゃくちゃだ。
そんな受動的で限定的な能力まで発動できるのか?
「戦いの中でも瞬間移動みたいなことをしていたけど、あれは?」
「そのままです。瞬間的に移動しただけですね。知らない場所、どんなに遠くでも行けますが、先の戦闘の時のように近ければ近いほど無制限に。知らない場所で遠いところではあまり乱用はできません。」
知らない場所にすら瞬間的な移動を可能とする。
「そんなに色々できるのに、体を健康に戻すことはできないのか?」
これは、コイツをユリヤと認識していた時からの疑問だ。
少なくても見た目を変えるなんてことが可能なら間違いなくできる気がする。
「もちろん可能です。しかしこれは私が生まれ持ったものですので、一生を終えるまで、この体と付き合っていくつもりですよ。そもそも私の力があれば、歩けようが歩けまいがあまり関係はありませんから。」
殊勝なことを言っているが、さっき思い切り見た目を変えていただろお前。
…しかしその後すぐに戻したことを考えると、あくまでも俺の好みを確認しておきたかっただけということなのか?
「日本語が随分上手なようだが?」
「他国にいるときにコミュニケーションがとれないと不便なので。話せるようにしておきました。」
「…………」
おそらく、頑張って勉強をしましたってことではないんだろうな。
「そんなに何でもできるんだったら…今どこかにいるさっきの鬼憑きたちをこの場所から攻撃したりすることはできないのか?」
「できます。…というより実際にやりました。」
「えっ!?そっ、それで、どうなったんだ…?」
「ぺちゃんこにしてあげるつもりだったのですが、あの一瞬でものすごい離れた位置に移動したのか、あるいは本人の固さなのか…その両方か。私の力は弾かれてしまいました。瞬間移動で追撃しに行こうと思いましたが、突如として気配がこの世界から消えてしまいました。間違いなく存命のはずなのですが、この世界にいない。本当に面白いです。フフッ…」
確信した。
コイツはアカネ以上の怪物だ。
アカネとは違う意味で、もう人間じゃない。
アカネを倒せないだけの、
アカネ以上の怪物。
「今までの話を聞いてひとつ疑問が生まれた。」
「なんでしょう?」
「ユリヤがアカネを倒せないのはつまり、ユリヤ自身の『限界』…つまりは、神通力の出力とか容量とかそう言ったものの制限があるからっていう解釈で良いのか?」
「その通りです。私のことを【無限のユリヤ】と呼ぶ方もいらっしゃいますが、そんなことはありません。有限だからこそ、アカネさんを越えることはできないでしょう。アカネさんは本当の意味で【無限】なのですから。」
「だよな。だったらユリヤの力で『自らの制限を外す』ということはできないのか?」
有限から無限へ、己を作り替える。
アカネを倒せない不完全な【全能】から、
アカネを倒せる【神】へと。
しかし、それはおそらく不可能なのだろう。
俺はそう考えていた。
「できますよ、多分。」
ユリヤは笑いながら言った。
「流石はユウトというか、過去のアタシと全く同じ質問をしたな。」
アカネも笑いながらそう言った。
笑い事ではない。
何故そうしていないかは分からないが、
それをされたらもう誰もユリヤに勝てなくなる。
アカネも、【家族】も。
…俺なら、ユリヤを無力化できるのだろうか?
「ですが、私はそれをすることはありません。」
「…それは、何故なんだ?」
「それは私が人間であることを捨ててしまったということです。神でも鬼憑きでもない、ナニか。私は人でありたいと考えています。それに、全てが思い通りになる世界なんて退屈でしょう?」
俺は想像した。
全てを思い通りにできる世界。
不要な人物を消して、俺にとって好意的な人間だけがいる世界。
俺を大好きな姉さんと、俺を大好きなユキ。
すぐ側には【家族】の皆、オマケで杏に、大人しくなったアカネ。
友人でハヤテとハルカ。
素晴らしい。
望むとその通りになる素晴らしい世界。
だが、それはもう人生ではない。
ただの都合の良い夢と変わらない。
自分が見ているもの全てが自分の想像でしかなく、何もかもが偽物で、自分の行動が全て無意味に思えるだろう。
退屈だ。
圧倒的退屈。
素晴らしく、恐ろしい世界。
ユリヤがそうなった時、
世界は終わってしまう。
ただの素晴らしい夢を、
自分の存在が終わるまで、
永遠と見続けることになる。
地獄だ。
退屈の地獄。
ユリヤの『人でありたい』という意見に激しく賛同した。
退屈は人を殺すのだ。




