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退屈は僕を殺したい  作者: おどろん
第六章 七騎士編

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厄介なユリヤ

「…なつかしいね。」


姉さんからここまで自分について話してもらったのは初めてだ。


「私が今まで話せなかったのは、私がまだ姉の『幻影』を追いかけてたから。まだユウ君の姉として完璧になってないから。それと…姉に依存することしかできなかった情けない過去を、ユウ君に知られたくなかったから。…だから、全部私の我が儘なの。」


姉さんは自分を責めてしまう。

姉さんは何も悪くない。

姉さんは『お姉ちゃん』が大好きだった。

それだけの話なのだから。


「…ふっ。」


「…?ユウ君?」


「ああ、ごめん。姉さん、無理に『姉』って言わなくても良いんじゃない?さっきの話の中でも最初は姉だったのに、途中からずっと『お姉ちゃん』って言っていたよ。」


「えっ…あっ……」


姉さんは急激に頬を朱く染め上げていく。


「これは1本取られたな、神楽。」

「…アカネから軽くしか聞いていなかったけれど、そういうことだったのね。」


神楽は笑って姉さんの肩に手を置き、

杏は静かに目に涙を浮かべていた。


「そんな事情がお有りだったのですね…。無粋に踏み込んでしまったようで、申し訳ありませんでした。ただ…」


ユリヤが謝罪しつつ、言葉を続けた。


「とても美しい愛だと思いました。是非、私とも仲良くしていただきたいものです。」


そう感想を述べた。

コイツは多分、空気を読むといった行動が苦手なんだろうが、今回姉さんの話を聞けたのはコイツの功績でもある。


「改めて、あなたのお名前を教えていただけますか?」


痩せ細ってはいるが、改めてしっかりと見るとかなりの美形だ。

真っ直ぐに俺の目を見てくるから少しだけこそばゆい。


「天地ユウトだ……です。」


初対面でタメ口だったが、年上だし立場としても敬語の方がいいだろう。


「丁寧な言葉はやめてください。砕けた話し方で接してもらえた方が嬉しいです。」


「しかし、ここにいる皆も敬語ですよ?まぁアカネは違いますけど。」


【最強】であるアカネに関しては立場的な物もあるだろう。

じゃあ俺はと言うと、狩人に成り立てという設定の最年少。

協会の1位という存在に対してタメ口というのはあまり印象としては良くないイメージだが。


「構いません。私がそうしてほしいのです。特に、あなたには。」


そう言われてもな…


周囲を見渡す。

アカネは苦笑いで両手を軽く上げている。

諦めろ、ということか?

姉さんや杏を見ても特に何か言ってくることもない。

俺の判断に任せるということか。


「じゃあ…分かった。普通に話すよ。」


「嬉しいです。とても。」


ニッコリと笑うユリヤ。

何がそんなに嬉しいというのだろうか。


「ユウ君、と呼んでもよろしいですか?」


「えっ?」

「えっ?」

「なにっ!?」


姉さんや杏、アカネに反応が。

何やら面倒事になりそうな気配がする。


「私、不器用だけど優しいアナタを気に入ってしまいました。是非、私と男女のお付き合いを…」


「待てーー!!」


アカネが慌てて待ったをかける。


「なんでしょう?」


「いや、なんでしょうってユリヤ、お前…」


アカネは俺や姉さんたちを見てから再びユリヤに向き直る。


「ユウトが好きなのか?男として?」


ハッキリ聞いた。

まぁ俺から聞くわけにはいかないから、アカネが言ってくれたのは助かるが…。


「……少し、お恥ずかしいですね。」


肌が白いから顔が赤くなっていくのが見ててすぐに分かる。

読む力(リーディング)を使うまでもない。


「ユウト君。君は大変女性に気に入られやすいようだね!私もたまに女性に声をかけられるが、君には負けるよ!HAHAHAHA !」


クロードは笑って言うが、全く笑い事ではない。


「ユ、ユウトはダメだ!!」


アカネが叫ぶ。

別にアカネが決めることではないのだが、

面倒なのでできればこのまま任せたい。

姉さんと杏も後ろのほうでウンウンと頷いていた。

おそらく2人は立場的に強くは言いづらいのだろう。


「ダメとは?何故なのですか?」


純粋だ。

至極当然の質問。

ただ、それを言葉にするのには『普通なら』勇気がいることだ。

空気が読めないからこその、疑問。

あるいは…わざとなのかもしれない。


「そ、それはアレだ。ユウトは私のなんだよ!」


それだけは違う。


「それは…アカネさんが、ユウ君と男女交際をしている、ということですか?」


悲しそうに質問するユリヤ。

お気に入りの玩具を取られた小さい子のようなその瞳に、アカネはタジタジだった。


「い、いや…そういうのはまだなんだけど…」


「まだ?今後、交際することが決まっているということですか?」


「あっ、いや…」


「どうなんですか?」


「………」


「では、大丈夫ですね。」


アカネ、お前はとことん重要なところで役に立たない。


「あ、あの~…ユリヤ、様?」


「杏さん?どうされましたか?」


「そもそもなんですけど、ユリヤ様は以前にユウト君と会ったことがあるんですか?さっき、山田…太郎?がどうとか…」


「ええ。以前に、1度だけ。」


「1度だけ、ですか?」


「ええ。…何か問題でも?」


「ああ、いえ、何でも…」


「では、大丈夫ということですね。」


杏もダメだ。

相手が尊敬する、それも恩人ともなるといつもの堂々とした態度は取れないようだ。

残りは姉さんだけだが…


「ユウ君と1度お会いしているということですが、それでユウ君を、その…好きに?」


「ええ。とは言ってもその時は少し気になる、という程度でしたが。ここで再会できたのがあまりに運命的でしたので、胸が高まってしまいました。」


「で、でも…その…」


「私が彼の恋人としてはふさわしくないでしょうか?」


「あ、いえ…そういうわけでは…」


「では大丈夫ですね。」


「………」


最後の防波堤も無惨に決壊する。

俺が自分で対応するしかないな。


「悪いが、今俺は恋人を作るつもりなんてないぞ。俺は闇女やさっきの鬼憑き達に狙われている。そいつらを倒して、身の回りが落ち着いてからでないと。」


「そう!それそれ!」

「流石ユウト君!」

「立派だわ!ユウ君!」


面白いくらい全乗っかりしてくるが、今はそれでいい。

この厄介な女を諦めさせることが重要だ。


「なら大丈夫です。私が倒しますので。」


「やだ、かっこいい…」


…じゃなくて、


「アカネでも逃げられてるんだぞ?」


「私なら倒せます。」


何?この自信?


「それはそれは。だがすまない。俺は年下にしか興味ないんだ。」


「「「ええっ!?」」」


もう見る気も起きないが、後ろで3名ほど驚愕しているのが分かる。

テキトーな嘘だというのに何故信じるんだ…。


「年上も良いものかもしれませんよ。私が教えてさし上げます。」


なんだ?コイツの我の強さは…

どうすれば折れる?

…そうだ。確か以前に、


「だが、前にも言ったが体に障害を持つ相手と一緒にいる自信がない。俺はあまり人に気を使えるタイプではないからな。俺のことを優しい…みたいに言っていたけど、それは間違いだ。」


「それは嘘ですね。アナタは優しい人です。初めて会った時も助けてくれたではありませんか。」


「あれはただの気まぐれだって言ったろ?第一、会ったばかりで俺の何が分かるんだ?」


「分かりますよ。」


根拠を聞いているのに、分かりますと断定されてはそれで話が終わってしまう。


「それに、障害を持っているかどうかですが…それもアナタには否定する理由にはならない筈です。」


「何故そう言いきれる?」


「神楽さんが一生車椅子生活になっても、アナタはそれを死ぬまで支えるでしょう?」


「それは勿論。だがそれは姉さんだからで…」


「私を神楽さんと同じくらい愛してください。それで全て解決です。」


やだなにこの子。

惚れてしまいそう…。


「い、いやぁ…愛してるだなんて、そんな…」


姉さんはモジモジしていた。


「分かった。流石にどうかと思って控えてたが、ハッキリ言うわ。タイプじゃないんだ。」


色々と論理立てても無駄のようだし、根本から折っていく。


「ではアナタの好みを教えてください。私がそれになります。」


「えっ?…え~っと、」


思わずユキを思い浮かべた。

…いや、っていうか答える必要なくね?


「それを言ったところで意味はないんじゃないか?言うは簡単だが、なろうと思ってなれるものでもないだろう。」



「なれますよ。」



一瞬、視界が歪んだような気がした。

しかし、本当に一瞬。

不思議な感覚ではあったが、気のせいと疑わないほどの短い時間。

気にせず、ユリヤの方に視線を向ける。


ユリヤはいない。

車椅子はある。

ここにいないはずの人物が、

それに座っている。


黒髪で柔らかそうなハリのある肌。

病弱そうな気配はどこにもない。

深い瞳で微笑む顔はまるで、


「えっ!?ユ、………ユリヤ、なのか?」


コイツ…!!


危うく『ユキ』と…そう呼ぶところだった。


「どうでしょう?その『ユキ』さんに似せてみたのですが、お気に召しましたか?」


!?まさか、俺の考えていることを…!?


問答無用で読む力(リーディング)を全力で使用する。


「…あら?あらあら?おかしいですね。」


コイツは厄介なんてもんじゃない。

杏の『なんでもできる』と言っていた表現を舐めていた。


「とっても可愛い娘…」

「あれが優人君の好み…」

「本当に年下が好きなのか…」


まずいまずい…

3人にもはっきりユキを、ユキと瓜二つの姿を見られてしまう。

しかも名前まで!!


「一体どういうインチキだ?」


ユリヤを睨む。

しかし、女は全く怯むことはない。


「あら?怖い顔をなさらないでください。気に入りませんでしたか?」


また一瞬の違和感を挟むと、元の病弱そうな姿に戻っていた。


「あなたが好意を寄せている女性に似せてみたつもりなのですが…。」


「ユウ君が、好意を寄せている…?」

「ユウト君、好きな人がいたの…?」

「めちゃくちゃかわいかったな…」


3人が後ろでヒソヒソ話しているが、今は放っておくしかない。


「俺の頭の中を見たのか?」


「ええ。好みを聞いたところで、聞くだけでは完全な再現は厳しいので。少しだけ覗かせてもらいました。ごめんなさい。…ただ、」


何でもないことのようにふざけたことを言うユリヤ。

一体()()()()

見られてしまったのか?


「今は何も見えません。あなた、まさか…」


ユキの見た目だけの話なのか?

それとも【家族(ファミリー)】のことまでバレてしまったのか?


「神楽耶さんの力…神通力の無力化(ニュートラライズ)を扱えるのですか?」


この女、

早くなんとかしないと…


「ユウ君!」

「ユウト君!」


姉さんと杏の呼び掛けに、我に返る。

とりあえずユキ達のことはバレていないように思うが、コイツの前では今後…絶対に神通力の無力化(ニュートラライズ)を解くわけにいかない。


「やはり、そうなのですね?あなたのこと、何も見えなくなりました。こんなこと、神楽耶さん以来です。」


「ユウト、お前…。」


何をやってるんだ。

目は口ほどに物を言うとは良く言ったもので、アカネの目には明らかな呆れが感じられた。


「ユウト君が神通力の無力化(ニュートラライズ)を?それは一体どういうことです?」


クロードにもバレるが、関係ない。

優先度が桁違いだ。

神通力の無力化(ニュートラライズ)がバレることも勿論大問題だが、ユキ達のことが漏れてしまえば…


それはもう、天地優人の破滅なのだから


「場所を変えよう。ついてきなさい。」


ババアが切り出し、俺たちはババアの執務室に移動することになった。

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