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退屈は僕を殺したい  作者: おどろん
第六章 七騎士編

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姉として

お疲れ様です。

前回の過去回想の続き回となります。

龍堂神社。

お姉ちゃんと大晦日になると毎年来ていた。

お姉ちゃんがよくお世話になっているというおばあちゃんと会ったことがあるが、

それがあの電話の主だったことは、あの時は気づかなかった。


お姉ちゃんが死んだ。

そう聞かされた私は、アカネに起こされるまでしばらく気を失っていたようだった。

アカネは、まだ何がなんだか分かっていない私を無理やり連れだしてココに連れて来た。


そこで少し詳しい話を聞かされた。


史上類を見ない大事件が起きた。

都市を一つを丸ごと飲み込んだ未曾有の大災害。

一万人以上が行方不明となり、現在も捜索が続けられているらしいが、誰一人として見つかっていない。

お姉ちゃんはそこにいたらしい。

異常な現場だったと言う。

鴉やハトなどの鳥、虫、ネズミなどのあらゆる小動物が死に絶えていて、そこにいたはずの人たちが全員姿を消してしまっている。

状況を考えるに、生きているはずがない。

死んだと判断せざるを得ない、ということだった。


「お姉ちゃんが死ぬはずない!お姉ちゃんは完璧なんだから!」


私はそう吐き捨てて現場へ向かおうとしたが、アカネに腕を引かれる。

危険だからダメだ。

アカネはそう言って、私がお姉ちゃんを探しに行こうとするのを邪魔した。


「離して!」


お姉ちゃんのいない時にアカネと喧嘩をしたことがある。

その時は私が勝った。

私の方が力が強い。

だというのに、腕を振り払おうとしてもまるでびくともしない。


アカネを引きはがせずに焦っていると、何やら境内が騒がしい。

そしてハッキリと聞こえてきた。


「生存者だ!!」


ほら見たことか!

やっぱりお姉ちゃんが死ぬわけないんだ!


アカネが気を逸らした隙になんとか逃れる。

お姉ちゃんに会いたい。

会ってお互いの無事を確認したい!


神社の人?が本殿の方に担架で誰かを担ぎ入れようとしているのが見えた。

慌てて駆け寄っていった。

長い黒髪が見える。


お姉ちゃんだ!


確信する。

目の前まで行くと、神社の人が聞いてくる。


「おや、君は…?」


天地神楽耶の妹です!


そう言う前に気付いた。

運ばれていたのはお姉ちゃんではなかった。

お姉ちゃんと同じ黒髪で若い女性だったが、それだけだった。

多分日本人ですらない、褐色の肌の人。


気が付いたらすぐ後ろにアカネがいた。

どうやらついてきていたようだった。

アカネも、お姉ちゃんだと思ったのかもしれない。

何故なら、アカネは泣いていたからだ。

初めてアカネが泣いているのを見た。

それを見たせいか。

視界が急激に滲んでいく。

呼吸が乱れて苦しくなってくる。

理解が追いついてくる。

理解に、追いつかれる。


天地神楽耶(おねぇちゃん)はもう、この世にいないのだと。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


三日。

私の誕生日の翌日、姉さんの死を知り、初めての生存者が見つかってから三日が経った。

私は死んだように神社で過ごしていた。

いや、お姉ちゃんを失った私はもう死んだも同然だった。

生きている意味を見出せなかった。


「また生存者だ!!」


境内から聞こえたその言葉に、心が急激に弾んだ。

走り出す。

声の方に全力で。

しかし、再び叩き落される。


今度の生存者は子供だ


そう聞こえてきてすぐにお姉ちゃんでないことが分かった。

その場にへたり込む。

久しぶりに激しく動いた気がして、身体が思うように動かない。

何となしに振り返る。

やっぱりアカネはいた。

この三日間、ずっとアカネは傍にいた。

思わず抱きしめる。

アカネも抱き返してくる。

暖かい。

なのに心はこんなにも冷たいのは何故?


もう涙も出なくなっちゃった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


その翌日。

2人目の生存者である子供が目を覚ましたという。

おばあちゃん…菊さんに、『会ってみたらどうだ?』と言われた。

正直興味なんかないけど、暇だから会ってみようと思った。

今の私には、生きている意味なんてないんだから。

言われたことぐらいはやろう。

何もできない私に、居場所をくれているんだから。

お姉ちゃんはお金を結構遺しておいてくれたみたい。

菊さんに『もしものことがあれば』と預けていたらしい。

アパートも既に引き払っていて、もしここを追い出されたら私は生きていけないのだ。

それでもいいんだけど。


もう、どうでもいい。


子供がいるという部屋にやってきた。

コンコンと軽くノックをする。

中からすすり泣くような声が聞こえてくる。

返事は無いが菊さんの手前、何もせずに帰るのも悪いかな?と思ってゆっくりと扉を開けた。



それがユウ君との、初めての出会い。



その男の子は多分、歳は私と同じくらい。


「あなたのお名前は?」


「……………」


無視される。

困った。

ただでさえ話し相手なんてアカネぐらいしかいなかったのに。

同世代の、それも塞ぎ込んでいる男の子に、なんて話しかければいいかなんて分かるはずがなかった。

困っていると、やはりついてきていたアカネも男の子に声をかけた。


「おい!神楽が話しかけてるだろ!無視するな!」


他に言い方はないの!?


この子だって、きっとすごく怖い思いをしたはずだ。

今の私にだってそれぐらいは理解できる。

アカネの言葉が気に入らなかったのか、男の子は無言でアカネを鋭く睨め付けていた。


「文句があるなら何か言ってみろ!」


このお馬鹿(アカネ)は今度から連れて来るのはやめよう。

そう呆れていると、アカネを睨む男の子の目が非常に印象的だった。


なんて冷たくて、寂しい目をしているんだろう。


まるで、自分以外には敵しかいないとでも思い込んでいるよう。


「ごめんね。急に来てびっくりしたよね。」


相変わらず返事はない。

一度だけ私を見ると、すぐに顔を伏せてしまった。


「また来るね。」


不満そうなアカネの腕を引き、部屋を後にする。


「………お姉ちゃん…。」


えっ?お姉ちゃんって、私のこと?


初めて聞いた男の子の声。

不安を押し殺せず、縋るような、助けを乞うようなか細い声。

お姉ちゃん、と確かに呟いた。

私のことを言っているのかとも思ったが、違ったみたい。

どうやら、言った本人が一番驚いていた。


「お姉ちゃん?あなた、お姉ちゃんがいるの?」


私にもお姉ちゃんがいるの。


そう言おうとして思い留まった。


私には、もうお姉ちゃんはいないのだから。


「知らない。分からない。」


初めて返事をしてくれた。


「…覚えていないの?」


テレビで見たことがある。

たしか記憶喪失、というものかもしれない。


「…あっちいけ。」


「お前なぁ…」


「アカネ。」


再びアカネの手を引いて今度こそ部屋を出る。

返事はしてくれた。


進展はあった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おはよう。昨日は眠れた?」


やることが無いし、私はしばらく男の子の部屋に通い続けた。

反応が返ってくることはほとんどないが、別に構わなかった。

アカネも最初のうちはしつこく付いてきていたが、反応がないことに飽きたのか。

今はほとんどついてくることは無くなった。

男の子は私の方を一度だけ見ると、すぐに視線を宙へと戻す。

視線の先には壁があるだけ。

この子は何も見ていない。


「そろそろ君の名前を知りたいなー、なんてね。」


少しおちゃらけてみるが、やはり反応はない。

ちょっと挫けそうになる。

ただ一つ、気づいたことがあった。

よく考えたらまだ自己紹介をしていなかった。

自分の紹介もせずに相手のことを聞こうだなんて、間違っている。


「私は天地神楽って言うの。あなたのお名前は?」


改めて聞いてみた。

やはり返事はない。


…返事はないが、男の子は私の方を見ていた。


それだけでも、反応があったことがなんだか嬉しかった。

ひょっとしたら、ほんの欠片でも私に興味を持ってくれたのかもしれない。

ただ、その目が気になったけど。


まるで汚いゴミでも見ているような、

冷たい視線。


それでも私を見てくれているという事実は変わらない。

ここから少しずつ仲良くなれば…



「寂しいとか、悲しいとか、そういうのを誤魔化すために僕を使うのはやめろ。」



バチンッ!!



今まで生きてきて一番本気で、全力で人を叩いた。

アカネと喧嘩した時だって、ここまで力を込めていなかったはずだ。

許せなかった。

許せるはずがなかった。


まともに喋ることもできないくせに!

返事もろくにしないくせに!

私のことを分かったように!


激しい怒りに呑まれる。

ほとんど会話もしていないのに、


自分でも隠していた感情を暴かれたから。


見透かされていた。

この男の子を世話したつもりになって、

『良い子』をしているつもりになって、

自分の苦しみを誤魔化すために利用しようとしていたことを見透かされてしまった。


男の子は一瞬、痛みで目を見開いたけど、

すぐに宙へと視線を戻す。


もうダメかもしれない。


また泣きそうになる。

悔しかった。

部屋で閉じこもっているだけの子に、

自分の弱さと醜さを突きつけられて。

この子は何も悪くないのに、

私は思い切り暴力をぶつけてしまった。


「ここかー?神楽―?」


アカネがノックもせずに入ってくる。

表情を作ることができない。

誤魔化せない。

様子がおかしいことに気付いたのか、アカネは怒り、矛先を男の子へと向けてしまう。


「お前!神楽に何をした!?」


アカネは男の子の胸倉を掴んで怒鳴りつける。

慌てて止める。


「やめてアカネ!私が悪いの!!この子は何も悪くないの!!」


惨めで、悲しくて、もう全部終わりにしたい。

もう生きていたくない。


「……お姉ちゃん…」


アカネから解放された男の子は、また呟いていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ったく、お前まで引きこもってどーすんだよ、神楽。」


翌日、私は部屋から出れずにいた。

あの子の部屋に行っても迷惑をかけるだけ。

もう、あんな思いはしたくない。

良い子でいないといけないのに、何もする気が起きない。

…というか、良い子である必要もないのか。


お姉ちゃんも、もういないんだし。


「私、もう死にたい。」


人生で2回目の本気の喧嘩。

初めての時と相手は同じ。

アカネが叩いてきたから叩き返す。

何度も叩かれた。

何度も叩いた。

もう嫌だ。

全部嫌だ。

何もかも嫌だ。


死にたい死にたい死にたい。


「お前ら揃って『おねーちゃんおねーちゃん』って!このシスコン馬鹿どもが!神楽!お前、神楽耶さんがいないと何にもできないのか!?」


「そうよ!私ができるのはお姉ちゃんの妹だけ!お姉ちゃんがいないなら私は何にもできない!」


即答して顔にパンチを入れてやった。


「ちぇ、ちぇめ~…!」


また叩き合う。

グーでのパンチもいっぱいやった。

しばらくの間お互いにやりあって、しまいには疲れ果てて動けなくなってしまった。


「そんなにおねーちゃんおねーちゃんってんなら…」


アカネは言った。



それは私の道標で、目標で、希望で、未来となった。



「お前がアイツのお姉ちゃんにでもなればいいだろ!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



晴天の霹靂だった。


「私が、お姉ちゃん…?」


意味がよく分からずに頭の中で考える。

…やはりよく分からない。


「お前がどれだけ悲しんでも、神楽耶さんはもう帰ってこないんだ!だからもう待つのはやめろ!お前が尊敬してる神楽耶さんに近づけるように、お前自身が頑張って生きていくんだ!それしかないんだ!」


そういうアカネは目が少し滲んでいた。


「アイツもほとんど喋らねーけど、お姉ちゃんお姉ちゃんって、ずっと言ってる。神楽、お前が神楽耶さんみたいに『立派なお姉ちゃん』になってやるんだ。神楽耶さんが生きていたら、アイツなんかも絶対に見捨てないし、どうにかして立ち直らせるはずだ!それを!お前が代わりにやれ!!」


メチャクチャだ!

そんなことできるはずがない!

私ができることでお姉ちゃんにできないことなんて無いけど、その逆はありえない!


「そんなの、できるわけない…」


「できなくてもやれ!アタシも手伝うから!ずっと一緒にいるから!!」


アカネの声は震えていた。

泣いていた。

私が泣かせてしまった。

私なんか、全然良い子なんかじゃない。

悪い子の私に、

姉さんの真似事なんてできるはずがない…。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「昨日はごめんね。」


アカネと喧嘩して、しばらく時間が経って少し落ち着いた。

落ち着いて、アカネと2人で男の子の部屋に来ていた。

何をどうすれば良いかなんてまるで分からないけど、ひとまず昨日のことを謝らないといけない。

何も悪くないこの子の頬を、思い切りビンタしてしまったのだから。


「………」


返事もないし、見てもくれない。

当然のことだ。

本当のことを言っただけなのに、思い切り叩かれたら嫌いにもなるだろう。


「あの、あのね…変なことを言うけど、聞いてくれる?返事はしなくていいから…」


全くの反応無し。

でも、それは分かっていたことだ。


さて、どう言えば良いのだろうか?


「私が、あなたの…」


言い淀む。

考えても分からない。

もうそのまま言うしかない!


「私が!あなたの……お、お姉ちゃんですっ!!」


そう宣言した時の男の子のポカンとした顔を、

私は一生忘れないだろう。


「…お姉ちゃん?」


「そう!お姉ちゃん!」


反応が返ってきた!

何とかこのまま会話を続けないと!


「お前が、お姉ちゃん?」


「そう!私が、あなたのお姉ちゃん!」


「…いらない。」


…負けるな神楽!

挫けるな!神楽!!


自分に必死に言い聞かせる。


「こっちを見なさい!」


男の子の顔を両手でつかんでこちらを無理やり向かせる。


「良い!?人と話すときは、その人の顔を見るの!!」


男の子はとても驚いていた。

当たり前だ。

どう思われているんだろう。

怖い。怖い。怖い。

頭がおかしい女だと思われてないだろうか?


「あなたの名前を言いなさい!!お姉ちゃんに秘密はダメなんだから!!」


精一杯だ。

今が人生で一番頑張っていると、

絶対の自信を持って言うことができる。


「な、名前は…」


「名前は!?」


「わ、分からない…。」


「……じゃ、じゃあ!お姉ちゃんって言うのは!?あなた、よく言ってたでしょ!」


「それも、分からない。勝手に言ってた。」


「…………」


「…………」


せっかく返事をしてくれているのに!

このままだと会話が終わっちゃう!!

アカネを見る。

困った様子を見せるも、アカネは提案してくれた。


「え~っとぉ…じゃあ、神楽が名前を付けてやれば良いんじゃないか?お姉ちゃんなんだろ?」


「えっ?…私が!?」


ペットすら飼ったことがないのに、同い年くらいの男の子に名前を付けろだって!?

そんな無茶な!

…いや!やるんだ!

無茶でもなんでもやるしかないんだっ!


「……優人!あなたは優しい人になってほしいから、ユウトよ!ユウト君!ユウ君!!」


「ユウトか…。良いんじゃないか?普通で。」


「ユウト…ユウ君…」


男の子は…ユウ君は、呼ばれた名前を確認するように繰り返す。


気に入ってくれるだろうか?


ユウ君は私をまっすぐに見た。


「神楽。」


私の名前だ!

初めて呼んでくれた!

でも、そうじゃない!!


「呼ぶときは『お姉ちゃん』!!」


「お、お姉ちゃん…」



その日、私に可愛い弟ができた。



私は自分と、死んだお姉ちゃんに誓った。

私はユウ君が本当の家族を見つけるまで全力で、全てをかけて大切にする。

どんなものからも守り切ってみせると。


それだけじゃない。


かつての私がお姉ちゃんに与えてもらっていた安心感。

それをユウ君にも分けてあげるんだ!

ユウ君から尊敬され、誇りにされ、

心から愛されるような。

誰にでも自慢できるような、

立派なお姉ちゃんになるんだ!

もういなくなったお姉ちゃんに頼るようなことはしてはいけない。

私がユウ君に頼ってもらえるように頑張るんだ!


簡単ではないと思う。

というより、とても難しいことだと思う。


でも、アカネも手伝ってくれる!

いや、無理矢理でも手伝わせる!

私が立派なお姉ちゃんになるためなら、何でも利用してみせる!



私はもう、ユウ君のお姉ちゃんなんだから!

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