お姉ちゃん
私には、大好きな姉がいた。
綺麗で、優しくて、聡明で、とても頼りがいのある、
最も尊敬し、信頼していた…大切な人。
大切だった。
私は常に姉の後ろにいた。
どこへ行くにも、何をするにしても。
姉の言うことを聞いていれば全ての事がうまくいったし、失敗など何も起こらない。
町を歩けば皆が姉に目を取られ、綺麗だと、美しいと周囲の人は褒め称えた。
一緒にいる私を見て、そんな美しい彼女の妹なんだと認識されることがもう言葉に尽くすことができないほどの幸福で、誇りでさえあった。
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「良い子は早く寝るのよ。」
姉は、夜になると私に良く言い聞かせていた。
私が寝たのを確認した後、夜な夜などこかへ出かけることが多かった姉だが、私ごときが姉を心配するなどおこがましいし、姉に問題など起こり得るわけがない。
姉なら何があっても大丈夫。
姉がいない夜は少し寂しいけど、両親もいないから一人ぼっちだったけれど。
良い子にしていればお姉ちゃんが笑って褒めてくれるから、私は大丈夫だった。
良い子に一人でお留守番。
お姉ちゃんに心配をかけて、迷惑をかけたくない。
完璧なお姉ちゃんに弱点があるとすれば、それは私。
寂しくて泣いちゃうことも多かったけど、朝起きたらいつもお姉ちゃんは帰ってきていた。
だから、大丈夫。
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「神楽。あなた、お友達はいないの?」
お友達?
そんなものはいらない。
そんなもの、必要がない。
お姉ちゃんがいたら、全部大丈夫なんだから。
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「お前が神楽か。神楽耶さんとはあんまり似てないな。」
ある日、お姉ちゃんが私と同年代くらいの女の子を連れてきた。
その子は大雑把で、ガサツで、初対面の印象としては大っ嫌いだった。
人が気にしていることをズケズケと言ってくるし、お姉ちゃんがその子に優しくしているのも見ていてすごく嫌だった。
お姉ちゃんは、私だけのお姉ちゃんなんだから。
その子…アカネという少女が二人だけのアパートから帰った後、姉さんは私に聞いた。
「あの子とは仲良くなれそう?」
無理!
私はすぐに否定した。
アカネの悪口をいっぱい言った。
お姉ちゃんが、アカネを嫌ってくれるように。
普段はお姉ちゃんの言うことを聞くばかりだったが、今日ばかりはすごく喋った。
しかし、すぐに後悔した。
お姉ちゃんにわがままを言っちゃった!
良い子でいないといけないのに!
お姉ちゃんが連れてきた子を、いっぱい悪く言っちゃった!
お姉ちゃんに、『悪い子』だと思われたかもしれない!
だけど、何故だか分からなかったけど、
お姉ちゃんは、今までに見たことがないくらい優しい顔で微笑んでいた。
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「神楽―、遊ぼうぜー。」
古いインターホンから聞こえてくる、聞き慣れてきた声。
アカネはお姉ちゃんが連れて来るまでもなく、よくアパートを訪ねてくるようになった。
私は良い子で、お留守番をしないといけないからダメ。
そう言って断るが、彼女は遺憾ながらお姉ちゃんから合鍵を貰っていて、結局はズカズカと勝手に家にあがってくる。
「留守番は2人でもいいだろ。」
お姉ちゃんは最近昼も出かけることが増えたから、寂しさは薄まった。
少しだけ。
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「今度、2人に紹介したい子がいるの。」
お姉ちゃんが急にそんなことを言い出した。
アカネみたいなのは嫌だ。
そう言うと、お姉ちゃんは笑い、アカネは怒っていた。
「ちょっと人見知りだけど、すごく優しい子よ。少し、神楽に似ているかもね。」
ちょっとだけ、楽しみだった。
ちょっとだけね。
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「今日は少し遅くなるかもしれない。アカネ、神楽をよろしくね。」
私の誕生日。
お姉ちゃんはそんなことを言い出した。
アカネは今日は家に泊まるみたい。
でも、アカネなんかよりお姉ちゃんとたくさん一緒にいたかった。
うん、わかった。
笑顔で言えたと思う。
えー!今日は神楽の誕生日だよ!?
アカネが余計なことを言う。
やめて!
せっかく泣かないでうまく笑えたのに!
でも、お姉ちゃんには最初から分かってたみたい。
「ごめんね。でも遅くなっても必ず帰るから。3人で食べてもお腹いっぱいになるくらい、大きいケーキも予約しているの。帰ったら誕生日パーティーよ!今日は夜更かしもOK!」
ケーキ!やったー!
単純なアカネは大はしゃぎ。
でも、私も嬉しかった。
お姉ちゃんは、私の誕生日を忘れていたわけじゃなかった。
誕生日でお姉ちゃんが家にいないのは初めてだったけど、アカネで我慢してあげよう。
夜まで我慢すれば、お姉ちゃんは大きいケーキを持って帰ってきてくれる。
そしたらお姉ちゃんと、ついでにアカネも入れて、3人で楽しいパーティーだ!
「それじゃあ二人とも、仲良くお留守番しててね。いってきます。」
はーい。
行ってらっしゃい。お姉ちゃん。
もう2度と会うことが叶わないお姉ちゃんと、
交わした最後の言葉だった。
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「神楽耶さん、帰ってこないなー。」
アカネの言葉に頷きそうになるが、慌てて耐えた。
お姉ちゃんは嘘をつかない、ついたことがない。
遅くなるけど、帰ってくると言ってくれた。
時刻は21時。
少し眠たくなってきたが、お姉ちゃんが帰るまでは頑張って起きていないと!
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「おなかへったなー。」
アカネがうるさい。
ケーキを食べるんだ!と意気込んで、お姉ちゃんの用意してくれていた軽食を食べないと決めたのは自分だろう。
でも、アカネがうるさいから寂しさも少しだけ和らいだ…気がする。
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23時。
アカネは隣で完全に寝てしまっていた。
私も眠い。
とっても眠い。
でも、お姉ちゃんもこんな遅くまで出かけていて、とても疲れているに違いない。
私が笑顔で迎えてあげなくちゃ!
後1時間もしないうちに帰ってくるんだ。
ひょっとしたら今スグにでも鍵を回す音が聞こえてくるかもしれない!
眠気を覚まそうと思い、部屋にある古いテレビをつける。
アカネが好きなお笑い?の番組を見ようと探すが、どこも臨時ニュースというのをやっていて全然面白くなさそう。
逆に眠くなってしまうと思い、テレビを消した。
早く帰ってこないかなぁ。
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ジリリリ、ジリリリ…
家の電話が鳴っている。
いつの間にか眠ってしまっていた。
お姉ちゃんは帰ってきたのだろうか?
寝てしまったから分からないけど、今はいないみたい。
とりあえず電話の受話器を取る。
「アカネか!?」
いきなり大きい声で怒鳴りかけられる。
怖い。
知らない声だった。
壮年の、女の人の声。
「ア、 アカネじゃないです…。」
そう声を絞り出すのが精いっぱいだった。
「アカネじゃない…、おぬし、神楽か?」
自分の名前を当てられる。
怖い。
お姉ちゃんが言っていた、『詐欺』ってやつなのかな?
私を騙して悪いことをしようと?
「わ、私は神楽じゃありません…」
「良いか?神楽。落ち着いて聞くのじゃ。」
悪いおばさんは言葉を続ける。
「おぬしの姉は…天地神楽耶は、死んだ。」
「お姉ちゃんが、死んだ?」
「…ちょ…菊さ…!相手は子供で…そん…いきなり…」
お姉ちゃんが、死んだ?
お姉ちゃんが死んだ。
お姉ちゃん死んだ。
おねえちゃんしんだ?
おねえちゃんしんだ。
しんだ。
しんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだ
死んだ。
お疲れ様です。
次回も回想編を続けます。
ユウトと神楽の根幹に関わるお話なので、
頑張って書きました。
まだ明かされない事実もありますが、
それはまたふさわしい時期に。




