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退屈は僕を殺したい  作者: おどろん


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拒絶

突如として、ユキが激しく吹き飛ばされた。

突然過ぎて訳も分からない状況だが、俺が原因だったことだけはなぜか理解できた。


「…っ⁉油断したわね。まさか狩人が逆ハニートラップなんか仕掛けてくるなんて…流石に思いもしなかったわ。全て演技だったのね?本当に悲しいわ。…絶対に許さない!」


驚いた顔から悲しむような表情へ、そして殺意に満ちた冷酷な表情へと変わっていく。

先ほどまでの照れた少女はどこにもいない。

その気配は、大の大人が泣き叫びそうな程の殺気を放っていた。


「狩人…?『敵対者』ってやつか。俺はそんなんじゃない…って言っても信じてはくれないよな、きっと。」

「それだけの力を私に気づかせないなんて、アナタ、かなりの実力者ね。それがこんな卑怯なことをしてくるなんて、流石に想定外よ。」


もはやこちらの話も聞いていないようだ。

いや、耳を貸す価値が無いと切り捨てられたか。

なによりタネは分からずとも、ユキを吹き飛ばしたのは間違いなく、俺の中の『何か』だ。

説明はできないが、何故だかはっきりと確信が持てる。

なので『やったのは俺じゃない』というのはそもそもお門違いなのだ。

ユキもそれが分かっているからこそ、俺の『戯言』に付き合うつもりは無いようだ。


「人間なんて平気で嘘を吐く、醜い生き物。力も弱く、取るに足らない存在なのに、まさかこの私がその人間相手にこんな醜態を晒してしまうなんてね。」

「俺も本当に残念だ。その人間に対する感想も心の底から同意できるんだけどな。あのままキスできてたらさぞ良い関係を築けただろう。」

「どうだかね。少し重いのを貰ってしまったけれど、私は特別スペシャルなの。この程度では消滅なんてしないし、そもそも私を滅せられるような存在はこの世にはいないわ。」


相当自信があるのだろう。

まぁ自信が有ろうが無かろうが、俺は殺される。

本当に、心の底から残念だ。

姉さん以外の生きがいを、ようやく得られたかもしれないのにな。


「もういいわ。気の済むようにやってくれ。一思いに苦しまないようにしてくれればありがたいな。」


バケモノとは違い、知性もあってワープ能力もあり、人間を殺すことにもおそらくは躊躇しない相手にどうにかできる可能性など無いだろう。

俺はその場で両腕を横に広げ、目を閉じた。

抵抗はしない、というアピールだ。

足掻こうとしてもそれに不興を買い、死ぬまで苦しめられるなんてのはごめんだしな。

…それも、惚れたかもしれない相手に。


「…ここにきてまだ三文芝居を続ける気かしら。もう油断も手加減もしてあげないわよ。」

「なんでもいいさ。人生の最期にユキと話せてよかった。人生の終わりでこんなに面白い体験ができたのは僥倖だったよ。」

「………サヨウナラ。」


そう別れの言葉を告げたユキの周りに、黒い『闇』が纏わりついていく。

アレがどういうものかは分からずとも、俺自身の結果が『死』であることは明確だろう。

気のせいか、少し間があったように思う。

ひょっとしたらほんの少しでも躊躇をしてくれたのだろうか?実際どうかは分からない。

そうであったら良いなと、ガラにもなくそう思った。

今回の件は例外中の例外だろうが、俺も普段から相手を見下さずに、きちんと真剣に向き合っていればこれまでの会話一つとってもマシなものになっていたのかもしれないな。

数学の鈴木が言っていたことを思い出す。

死の直前で初めて気づくってことは、他人を馬鹿にしていた俺自身も結局はバカの一人だったという事だな。


「…これから死ぬっていうのに、随分楽しそうな表情をしてるのね?反撃の算段でもついたのかしら?」

「いや、最期の最後に大事なことに気づけたんだ。…それもユキのおかげだ。ありがとう。」


そう笑いかけるが、ユキは気に入らない様子だ。


「…本当に演技が上手なのね。全く嘘が無いように思えるわ。」

「そりゃ本心だからな。」


即答すると、ユキは少し考える様子を見せた後、ユキが纏っていた闇が少しずつ消失していった。

しかしその表情は全く変わらない。


「勘違いをしてはダメよ。あなたはここで死ぬけれど、抵抗する気は無いようだし、洗いざらい情報だけ吐いてもらうわ。素直に答えてくれれば、最期は苦しまないように葬ってあげるわ。」

「それはありがたいな。なんでも聞いてくれ、ユキ。」

「まどろっこしいのは一切無しよ、ユウト。あなたは『一人』なの?」

まどろっこしいのは無し、と言いつつもよく分からないことを言い出すユキ。

「?よく分からないが…、別に隠れて奇襲を狙ってる味方なんていないぞ。」

「言い方を変えるわね。いつ、何と混ざったの?」


…ダメだ。全く分からない。

ふざけている、という様子でもなさそうだし、かなりもどかしい。


「すまないユキ。隠し事なんてする気は欠片もないし、なんでも答えてやりたいんだが、何を聞きたいのか、どう答えればいいのかが全くわからない。『混ざる』というのは何かの比喩か?何も思い至らないんだが…」

「ここで嘘をつくメリットなんてあるのかしら?私は既にあなたのことを狩人だと確信しているのよ。欲しいのは答えの肉付け。チャンスはもう無いのよ。」


どうやらユキには、先ほど俺の身体から発せられた謎の力について心当たりがあるようだ。

皮肉なものだ、先ほど会ったばかりなのに、俺より『俺』に詳しいらしい。


「いや、本当に何が何だか分からないんだ。どうすればそれを証明できるのかも分からないが。その『混ざり』だか何だかを外から確かめることはできないのか?」

「…ふつうはできないわ。けど、私ならできる。特別スペシャルだから。ただし、それはわたしに生殺与奪の権を与えるのと同じことよ?わかるでしょ。」

「いや全然わからん。…全然わからないが、なんでもやってくれていい。抵抗もしない。俺はユキに嘘をつくつもりはない。生殺与奪うんぬんも、今の状況と大して変わらないしな。」


そう、殺すと宣言している相手に確認することではないのだ。

なんなら俺もその力の正体に興味があるから死ぬ前に調べて教えてほしいくらいだ。


「油断させて近づいてきたところに…っていう作戦なのかしら?だとしても無駄よ。」

「違う違う。信じてくれとは言わないが、近付いて攻撃って作戦ならさっきユキの顔に触れた時が一番チャンスだったろ。」

「………いいわ。あなたが良いというなら、好きなようにさせてもらう。少しでもおかしな動きをしたらその瞬間、首がねじ切れると思いなさい。」


いつでも殺せるぞ


そういう感じで話しながら、少しづつこちらに近づいてくる。

俺を信用して…というわけではなさそうで、こちら警戒している様子は見てとれた。ただ目の前まで来てまっすぐこちらの眼を見つめる瞳にはもうほとんど『殺意は感じなかった』が、それは指摘せずに無言でユキを見つめ返していた。


「さっきも思ったけれど、キレイで…とても深い瞳ね。」

「詩的だな。だが褒めても何も出ないぞ。」

「…始めるわ。」


俺の胸、心臓の前辺りに例の黒い球がスゥっと現れた。

さて、痛くなければいいんだが。

ユキは右ひじを軽く引き、黒い球へとまっすぐ右手を突き出した。

球を通じ、ユキの手は勢いそのままで俺の胸を貫いた、…ように見える。


「心臓を貫かれた…というわけではないのか。痛みもない。むしろ不思議な温かみすら感じる。」


実に不思議な感覚だ。

端から見れば、歳下の女の子に胸を貫かれるという実にシュールな絵面であろうが、気分は何故だか心地よい。

満たされている感覚とでも言うべきか。

ジグソーパズルでどこかに無くしたピースが見つかった時のような充足感。

ずっとこの感覚を味わっていたいとすら思える。


「喋らないで。私は今集中しているの。少しでもミスすればあなたがパーになって死ぬわ。」


それはもはや殺す気が無いと言っているようなものだが、本当に集中しているのだろう。

自分でもその矛盾する発言に気づかないようだ。


「見つけたわ。まさかこんなに深くに…。よほど繋がりが強いのね。でも自覚がない…。」


俺の中にある『何か』を見つけたようだが、その表情はむしろ曇りがかったように思える。

よほど予想外なものなのだろうか。


「そもそも相反する反応があればここまで探すのに苦労はしなかったはず。つまりは神通力ではない…。しかしさっきの力は間違いなく…。…まさか…、いえ、でも…。」


一瞬、驚愕といった表情を見せたが、再び考え直すかのような仕草であった。

そしてしばらく黙り込んだ後、再び俺の眼をまっすぐ見つめて問いかけてきた。


「わたしのこと、好き?」

「またどストレートに聞いてきたな。」

「真面目に答えなさい。」


普通に怒られてしまった。

この暗い雰囲気を盛り上げようとしたのだが、どうやら空気が読めていなかったようだ。


「好き…かどうかはまだ分からない。少なくても姉さんを除く、これまで交流してきた誰よりもユキとはもっと一緒に居たいと思った。その気持ちに嘘は無い。」

「…信じるわよ。」


そう言うと、ユキは再び意識を俺の中の方へと向けたようだった。


「コレね…。鬼が出るか、蛇が出るか、それとも…。」


そうユキが呟いた瞬間、先ほどよりさらに激しい力の奔流がユキを拒絶した。


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