疑惑の果てに
5/2テコ入れしました
「…覚悟はしていたけど、まさかここまでとはね…」
俺自身も、ユキが『何か』に触れようとした時に電流が流れたかのような衝撃が走ったことを自覚した。
ユキは、今度は吹き飛ばされるようなことは無かったが、ダメージはむしろ先ほどより大分多かったようだ。
明らかに疲労困憊といった様子でフラついていて、今にも気を失ってしまいそうだ。
倒れる寸前に慌てて抱きかかえる。
「おいユキ!しっかりしろ!」
「あなた…、本当に、すごいのねぇ…。」
もはやうわごとのように呟いてるユキだが、なぜか口元には笑みが浮かんでいた。
「大丈夫なのか!?しっかり返事をしろ!ユキ!」
「ふふ…、逃げる大チャンスよ…。もう、あなたを追いかけることは、できない…。維持も…」
維持?維持って…
なんのことか分からず、辺りを見渡すとすぐに気づいた。
風景が、というより『世界』が歪んでいた。
ホームの方を見てみたが、一瞬人だかりが見えた。
なんてことは無い。
それは電車待ちをしている乗客だろう。
揺らぎを挟み、すぐに見えなくなったが。
今いる世界と、現実の世界の境目が揺らいでいる…ということだろうか。
維持ができないというのはつまり、この世界を形成・維持してたのがユキ自身であり、それがもう限界ということなのだろう。
とんでもない力だ。
ワープはおろか、世界を創造する力などまるで理解の及ぶ範囲ではない。
自身のことを『特別だ』と称していたが、おそらくその力が『鬼憑き』という人外の枠組みで考えても異常ということなのだろう。
他を知らないが、確かにユキを超えるような存在は想像するのも難しい…いや、それどころじゃないな。
この世界を維持できない、ということは現実世界に戻るということ。
それはつまり全身血まみれの男と、意識不明の少女が突如として線路上に出現するということに他ならない。
ユキは『敵対者』、狩人とやらの存在を口にしていた。
俺が思うに、ユキはおそらくその狩人から見てとんでもない大物である可能性が高い。
下手したらラスボス的な存在であることも考えられる。
指揮してる、みたいなことも言ってたしな。
目立つことをすれば、付近にいるかもしれない狩人たちが挙ってユキを殺しにくる可能性もある。
これだけの力を持っているんだから普段のユキならなにも問題が無いかもしれない。
しかし、会話すらもままならない状態の今はすごくマズい。
人外の存在と敵対するような連中なのだから、当然そいつらも戦うための特別な力をもっているはずだ。
そんなやつらが複数いてユキを守りながら逃げ切れるわけがない。
というより俺自身も敵側として殺されるだろう。
何とか人里離れたところへ…。
「ユキ。おれはしばらく帰れなくてもいい。だから、俺とユキを思いっきり遠くの安全なところへワープさせられるか?」
辛うじて薄目を開けているユキだが、少し間を開けて答えてくれた。
「…できるできないで言えば、できるわ。ただ、私が保護しないと常人なら空間の移送に耐えられないで、バラバラになるか、押しつぶされて…死ぬわ。」
今にも途切れそうな声で言葉を紡ぐ。
「…だから、わたしはひとりでアジトに飛ぶわ。ユウトには悪いけど、色々頑張って誤魔化してちょうだいね…。」
自分の意識が朦朧としているというのに、先ほどまで殺すと脅していた相手を心配している。
「ダメだ。俺も連れていけ。心配だ。」
「…聞いてなかったの?危険すぎるわ。」
ハッキリとした拒否。
しかし、これを受け入れるわけにはいかない。
「ユキをそこまで追い込んだのは俺の中の『何か』なんだろ?だから回復するまでおれが面倒を見るのがスジだ。それにそんな力が俺にもあるんなら、きっと大丈夫なんじゃないか?」
「命が賭かっているのに、随分と楽観的ねぇ…いいわ。一緒に行きましょう。」
自信があったわけでもない俺のテキトーな推論が功を奏したか、シンプルに余裕が無かったからか。
ユキはついに納得してくれた。
「飛んだ後は、任せるわね…。寝ている間にエッチなことをしてはダメよ…。」
「減らず口が言えるなら大丈夫そうだな。」
「ふふ…。」
ユキは力無く笑うと、右手を持ち上げ手のひらに闇が集まっていき、黒い球を形成していく。
ハンドボール程のサイズで落ち着いたかと思うと、突如として視覚が闇に吞み込まれた。
一瞬の内に視界が暗転し、気がつけば真っ暗闇の空間を漂っていた。
バラバラだとか、押しつぶされるなんて物騒なことを言っていたが、なんてことは無い。
温水プールにでも入っているかのような感覚で、暑くも寒くもなく、痛みや衝撃といったものも一切感じなかった。
周りが真っ暗なのが気になるものの、寝るのには良さそうだと思うくらいだ。
体感で三十秒ほど経過すると、腕で抱いているユキの『ん…』という声が聞こえたと同時に、一気に視界が開けた。




