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退屈は僕を殺したい  作者: おどろん
第一章 退屈からの脱却

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暗殺者は小粒でもぴりりと怖い

5/2テコ入れしました

周囲は薄暗く、草木や土の匂いがいっぱいに広がっている。

パッと見で都市部ではなく、かなりの田舎、それも人里離れた場所であることが分かる。

正面にポツンと一軒だけ古い民家があるが、その民家の周りも雑草だらけ。

周囲にも人の気配はまるで無く、木々の揺れる音や小動物たちの鳴き声が時折聞こえる程度だ。


「この古民家が、ユキの言っていたアジトなのか…?」


そう言葉に出すものの、返事は返ってこない。

ユキは完全に気を失っているようだった。

ぐったりとしてはいるものの、規則正しい寝息が聞こえてくる。

少なくても命に別条は無さそうだ。

力を使い切り、気を失ったのだろう。

ユキに聞くことはできなそうなので、周囲を観察して情報を得るしかない。


「かなり古いな。これがアジト?人が住んでるようには思えないな。」


シンプルに古いのもあるが、かなりの面積を蔦に覆われているところを見ると、手入れがほとんどされていないのが分かる。

少なくても電気ガス水道などのインフラは期待できないな。


「とはいえ、入るしかないか。この暗さで現在地も分からないままフラフラしてもしょうがない。」


ユキの作ったと思われる異空間では時間が進んでいない様子だった。

転移前にいた場所と大分離れているとはいえ、時間自体は然程違いは無いはずだ。

向こうは夕日に照らされていて周りもまだ明るかったが、ここは電灯等が全くないのもあるが、夕日自体がほぼ沈みかけている。

元の場所から数キロなんて次元の距離ではなさそうだな。

県どころか地方を跨いでいる可能性も考えられる。

土地勘も全くないから朝まではこの古民家でおとなしくしていよう。

あまり揺らさないよう、ユキを抱きかかえながら古民家の引き戸の前までゆっくりと歩き、


そしてドアは開けずに静かにユキを地面に降ろす。

ゆっくりと言った。


「まず、俺は敵ではない。ユキの味方だ。事情があって二人でここに転移してきた。だから落ち着いて話を聞いてくれないか?」


その存在がユキの味方かどうかは分からない。

そこは現段階では賭けになるが、ひとまずは会話でもなんでもして時間を稼がなくてはならない。

これまで感じたことのないレベルの殺気を込めた視線を背後から強烈に感じる。


すげえな。『アイツ』のせいで殺気には慣れたつもりでいたが、ここまでのヤツがいるとはな…。


さっきのユキよりも強い殺気だ。

ここに着いた時には特に何も感じなかったが、俺が古民家に向かい始めた瞬間、いや抱きかかえられた存在に気づいた瞬間かもしれないがそいつは今、俺を殺そうとしている。

いや、殺すのを必死に我慢しているというべきか。

相手がユキの敵であった場合、状況としては摘んでいる。

ユキのような存在と戦う力を持っているということは、即ち俺にはどうにもすることもできない。

ましてやユキを守り抜くなど到底不可能だ。

武器になりそうなものも無し、万が一に…ってこともなく殺されるだろう。


では、ユキの味方という線は?


敵よりは間違いなくマシだが、それでも状況はあまりよろしくない。

ユキが鬼憑きの中でどの程度なのかは分からないが、かなり上位の存在というのは間違いないだろう。

そんなユキが意識不明の状態で見知らぬ敵か味方も分からぬ人間に抱き抱えられている。

襲いかかられたらまず抵抗できないと判断してこちらから声をかけたものの、そのせいで警戒もされているようだ。

強烈な殺意を抑え込みつつ、いかに隙をついて俺を殺そうとしているのかという感情がこれでもかというほど伝わってくる。


今日ほどこの力を恨んだことはない。


こんな吐き気を催すほどの殺意に睨まれることになるなら、いっそのこと何も気づかないまま首をハネてほしいくらいだ。


ただ、この膠着状態を鑑みるに『賭け』には勝ったことはわかった。


コイツはユキの敵ではない。


ユキが攻撃対象というのなら、少なくても俺にバレた時点で隠れている意味はない。

逃げられる前にすぐさま攻撃に移るべきだ。

今仕掛けて来ないのはユキの身を案じているからこそと推測できる。


この殺意の主から見た俺は、ユキを戦闘不能にできる上、完全な死角から攻撃をしかけようとする前に何故か気づいて声をかけてくるという不気味過ぎる存在だ。


故に、不用意には攻撃をしかけられない。


ユキが死んでいるとでも確信できるならともかく、生死不明なら救おうとするだろう。


味方であるならば。


俺とユキが近すぎるせいで下手に攻撃できないのだ。

つまりここで俺がすべきことは、『攻撃される前に味方であることを証明すること』だ。

どうすれば俺を敵ではないと認識して貰えるだろうか。

向こう側の目的としてはユキの救出、及び敵と考えられる俺の排除、と見て問題ないだろう。

ユキに危害を加えないことをアピールするにはユキから離れるしかない。

ユキから離れてそのまま向こうがユキを介抱して終わり、ならば何も問題はない。


だが、俺を危険因子と認識している可能性が高い今、ユキの安全が確保された瞬間俺を排除しようと動く可能性も十分考えられるだろう。

もう少し警戒心を解けたなら一考の余地がある選択だが、殺気が全く薄まる様子のない現在では自殺行為に等しいだろう。


では逆に煽ってみる、というのはどうか。

その上で俺に対して敵対行為をすることが危険であると誤認させ、この場から去らせる。


…とんでもなく難易度が高いが、可能性が0とまでは言わない。


現に今俺が襲撃を受けていないのは単純に俺の実力を測りかねているからだ。

おそらくこちらが気づいたことを宣言していなければ、後ろからいとも簡単に殺されていた可能性もある。

時間稼ぎがメインの綱渡りだったが、想定以上に効果があったようだ。


…やってみるか。


どうせ何を選択したところで死と隣り合わせなのは変わらないだろう。


「そんな殺気を剥き出しにして隠れているつもりか?バレてるからさっさとそこから出てきな。敵じゃないって言っただろ?」


そう言って向けられる殺意の出所に体を向ける。

十メートル程先にある太い木を見つめる。

十秒ほど目を逸らさずにいると、その木の裏からユキと同じくらいの少女がゆっくりと出てきた。

暗くてハッキリとは視認できないが、小柄なユキよりさらに背が低く、無表情だが綺麗な顔立ちだ。

一見クールな印象を受けるが、表情とは違ってその本心が激情に駆られているのを俺は確信している。

むしろここまで感情が表情に出てないことを感心するくらいだ。

その女は出てきたものの、話しかけてくるわけでもなく、動きを見せる様子もない。

こちらの出方を伺っている、といったところだろう。

願ったり叶ったりだ。


「どうやらユキとは違って話を聞いてくれそうだな。ユキにも敵ではないと何度も弁明したんだが、それでも襲ってくるもんで仕方なく眠ってもらったよ。かなり強かったから苦労したけど、怪我はさせていないから安心してくれ。」


言葉とは裏腹に、若干余裕を含ませた様子を装い、なんでも無いことのように話す。

ほんの少しも違和感を与えてはならない。


「彼女の相手をさせられて流石にちょっと疲れたからね。送るついでに少し休ませてもらおうと思って立ち寄っただけなんだ。驚かせて悪かった。」


彼女の表情は何も変わらない。

残念なことに、その内情も。


「それほどの殺気を顔に全く出さないのは優秀だな。だが、相手を間違えてはいけない。キミもかなりの実力者と見えるが、ユキほど強いのかは甚だ疑問だな。少なくても俺と戦いが成立するレベルとは思えない。お互い無駄に疲れるよりは話し合いで解決するべきだと思うんだが、どうだろう?」


ここでまた1つ大きな賭け。

この女がユキより上位の存在だった場合、力量も測れない存在と判定され、これまでの演技の嘘が露呈される。

しかし、ここはユキの『私は特別(スペシャル)』という言葉を信じることにした。


「…余裕そうに話しているけど、あなたは血塗れじゃない。ユキに大分やられたんじゃないの?」


初めて聞く声は、見た目よりさらに若く感じる。

ユキと同い年くらいなのかもしれないな。

少し違和感を感じるが、それはおそらく無表情に内包された異常な殺気のせいだろう。


「余裕なんてとんでもない。疲れたと言ったろ?とはいえ、怪我をさせられるほどではない。精々肩を痛めた程度かな。この血も俺のではない。そんなこと、分かっているだろう?」


そんなことが実際分かるかどうかは知らんが、そんなことも分からないのか?という態度で言っておく。


「…あなたが敵ではないという確証が持てない。」


表情は変わらず、だが殺意に少し疑念が混ざったようだ。


「それは困った。敵対どころか仲良くしたいと考えてるのに。どうすれば信じてくれる?」

「…あなたの力を見せて。ユキが負けるなんて油断してもあり得ない…と思っていた。今でも信じられない。ただ少なくてもあなたがユキと同等以上の力を見せるというなら、あなたの言うことを信じてもいい。少なくてもあたしじゃ勝てないということだから。戦いを仕掛ける意味も無くなる。」


これだけの殺気を放ちながら、非常に論理的だ。

普段なら好印象だが、これは本当に困った。

力を見せろ、か。


…無茶振りが来ちまったな


「…先程も言ったが、ユキの相手をして疲れていてな。他の案を検討してもらえないか?例えば…」


「それ以外の選択はない。」


食い気味に否定されてしまった。


「俺は力を使うと、周りに否応なしにダメージが行く。敵対しないと言っているのにキミを傷つけたくはないんだが。」


「ユキには怪我が無いと言ってたような気がするけど?」


「痛い目に合わせたくないという意味だ。現にユキは気を失っているだろう?」


「ユキのほうが強くても、頑丈さは間違いなくあたしが上だから遠慮はいらない。そして、どれだけのダメージを負ってもあなたを恨むようなことは無い。」


これは…手詰まりか…?


ユキをこの状態に追い込んだ俺の謎パワーを都合良く出せるわけでもない。

アレは明らかにユキの影響により発生した現象だ。

二回とも俺が意識的に出せたわけではない。


「どうしたの?別に全力を出してほしいと言っているわけでもない。力の一端でも見せてくれればそれでいいのだけれど。」


どんどん疑惑の念が増しているように思う。


今からでもユキを人質として…、いや距離が詰まりすぎて成立しないか。


一か八かで謎パワーに賭けてみるか…?


実際は1ミリも期待できない賭けだが、それは徒労に終わる。


「メグ。この人は敵じゃないわ。」


後方からの天の救い。

頭の中で最果てに追いやっていた可能性に救われるとはな。

足元に寝かしていたユキが起きてくれたようだ。


「ユキ⁉…無事なの?」


「もちろん無事よ。そしてこの人は私にとって大切な人だから殺しちゃダメよ。わかったわね?」


「大切?戦って負けたんじゃないの?」


「…?」


よく分からないといった様子で首を傾げるユキ。

もうネタばらししても大丈夫だろう。


「…あー。すまん、メグさんとやら。悪いが敵じゃないってとこ以外はほとんど口からでまかせだ。殺されないように口八丁で誤魔化そうとしただけだ。俺は普通の人間だ。狩人でも鬼憑きでもない。」


「…すごい度胸だね。最後のほうは何かおかしいと思っていたけど、最初はそこまで疑うこともなかった。ユキを助けるために、私も命を賭す覚悟だった。」


口調も表情も全く変わらないのに、その気配から殺気が全く感じられなくなっていた。

やはりユキ本人からの言葉が効いたようだ。


「これでひとまずは解決か、流石に疲れた…。」


「ふふっ。まさかメグが帰ってきてるとは思ってなかったわ。よく無事でいてくれたわね。彼女は暗殺のスペシャリストだから、隙を見せたらあっという間に殺されていたと思うけれど、流石ユウトね。」


笑って言いやがる。

こっちは何度もヒヤヒヤさせられたもんだがな。


「ま、なんにせよ。ユキの目が覚めて良かった。体調に問題はないか?」


「ええ。まだかなりダルさは残るけれど大分回復したわ。ナイト様が守ってくれていたのだもの。気分はむしろ幸せだわ。」


「…ナイト様??」


メグは理解できないという様子だが、もう俺にも丁寧に説明してやる気力は残っていない。

ハルカと下校していた時からとんでもない目に合い続けている。

常に頭も体もを酷使させ、休めるような時間もほとんど無かった。

よくここまで耐えたと自分を褒め讃えたいほどだ。


「とりあえずユキさん。後は頼むぜ。」


「?…ええ。お疲れ様、ユウト。」


それを聞き届けると俺は直ぐ様、膝から崩れ落ちた。

その段階でほとんど意識は無かった。

ユキに抱きかかえられたことは分かったが、礼を言う前に意識は暗転してしまった。


「きっと、この出会いは運命。また逢いましょう。ユウト…」


その囁きと唇の柔らかさは、意識のない俺に届くことは無かった。

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