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退屈は僕を殺したい  作者: おどろん
第一章 退屈からの脱却

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8/81

逃走の果てに、運命は現れる

5/2テコ入れしました


…ってかこのエピソード長すぎやろ!

10000文字越えそうやん…。

すんません、マジで。

できれば最後までお付き合いください…

少しくらいは振り向いておくべきだったかもしれない。

もう100メートル程は後ろにあったはずの禍々しい黒い球が目の前に浮いている。


なんでこっちにもあるんだよ!何個もあるのか?いや、歩き始める前に見た時にはあんなもんは無かったはずだ!


下手に動けず、慌てて上半身だけ振り向きホームのほうを振り返ってみる。

そこには球はおろかブヨデカの姿すら無かった。


どういうことだ!?わけが分からない!ヤツはどこへ…!?


ぴちゃぴちゃ…


つい5分ほど前までよく聞いていた水音が()()()()()()聞こえてきた。


はぁ、見るまでもなく嫌な予感…。 


振り向いていた上半身を前方に戻すと、二度と会いたくないヤツがそこにいた。


「ワープなんて反則だろうが⁉いい加減にしろ!このカス‼」


「アー?」


相変わらず臭い汁を撒き散らしながら『アーアー』言ってるこの野郎はどうやらワープ機能を有したハイスペックモンスターだったようだ。

そもそもいつ気づかれたのかすら分からん。

バレた様子は無かったはずだが、実は鈍いだけで視力自体は悪くなく、視界の端で俺を捉えたのだろうか?

だとしても…いや、考えても無駄か。

ただでさえ、体積分の自在の攻撃範囲にワープ能力。

スナック感覚で人間をポリポリ食うでかい口にふざけたパワー。

そんなヤツがゼロ距離。


…無理だな、終わった。



完。



…生きたまま食われるのだけは勘弁だから、どうやって隙を見て自殺するかとも考えようとしたが、なんかどうでもよくなってきた。


ってかめんどくさくなってきた。


どうせ死ぬなら最後くらいちょっと遊んでみるか。


「おい、おまえ。会話はできるのか?言葉は分かるか?」


このおもしろ生物と会話が可能か検証してみる。

一応『アーアー』言ってるから、発生器官のようなものはありそうだし、万が一会話が可能としたらワンチャン活路も生まれる……かもしれない。


「こんにちは。初めまして。お元気ですか?」


ぴちゃぴちゃ…


反応は無い。


「ハロー? ワッツ ユア ネーム?」


「アー」


「アー、じゃねぇんだよバカ野郎。」


希望、潰える。

会話も無理、逃げるも無理、最後っ屁で一発お見舞いしてやるくらいしかできないか。


せめて、こいつが動き始める前に一矢報いてやる。

食われる前に、その無駄にでかい眼ん玉にキツイのを一発ぶち込んでやるぜ。

瞳に風穴ぶち開けて、水晶体をぐちゃぐちゃにかき混ぜてやる。

そう意気込んで線路上の砕石を拾い上げて握りこむ。


「小細工の次は、その子相手に肉弾戦?本当に面白いねぇ、キミ。」


背後から突如として聞こえてくる若い女の声。


「このワープ能力はお前の力だったのか。いちいち振り返るのも面倒だから背後じゃなくて正面に出てきてくれよ。」


そう言って石をテキトーに放り投げて、謎の女に向き合う。


「驚かないんだ?それに、その子に背中を向けちゃっていいの?」


クスクスと小ばかにしたように笑うその女は、俺とそうは歳が離れていないように見える。

何なら歳下ではないだろうか?

全体的に黒い衣服に身を包み、黒いオーラのようなものが見える気もするが、急に背後にワープしてきたり、宙に浮いていたりしなければ割かし普通の…いや、かなりの美少女といった感じだ。


「お前が指示しなきゃ大丈夫じゃないのか?」


「…どうしてそう思うのかしら?」


不思議そうに尋ねる少女。

鎌かけだったが、どうやら当たりのようだ。


「最初にこいつと対面したとき、こちらに気づくと同時にすぐに攻撃してきたが、こいつがワープしてきてから今まで全くこちらを攻撃する様子を見せない。こいつ自身が鈍いってのがあるとしても、明らかに視界に入ってる今でも行動を起こさないのは何等かの原因があるのは明らかだ。」


「…ふふっ」


俺の言葉を聞いておかしそうに笑う少女。


「つまりは私が指示して攻撃をやめさせていると?仮にそうだとして、私がそのまま攻撃を止めておく保証なんて無いんじゃないかしら?次の瞬間には…頭と体がサヨナラしちゃってるかも!ふふっ♪」


地獄のような状況に似合わず、クスクスと笑う少女はとても可愛らしかった。


「少なくても、今すぐにそうなる可能性は少ない。最初にこいつの攻撃を避けて自販機に隠れた辺りから常に感じていた視線。それが、お前がここに現れるまでずっと続いていたことで視線の主がお前である可能性が極めて高い。お前は、俺が逃げる算段をしている辺りで俺を補足し、観察を続けた。そして逃げおおせたと安堵する俺の前に再びこいつをワープさせて絶望させ、さらに観察を続けようとした。今出てきて会話をしていることを考慮すると、観察だけでは興味が抑えられなかった。実際に話して、俺という人間を知りたくなった。俺を殺させるつもり、もしくは興味が無いとしたらそもそもここに出てきた理由が無い。『おまえがここに来たこと』。それが俺が死なない根拠だ。」


当たらずとも遠からずと言ったところだろう。

最後まで黙って聞いていた少女は大変ご満悦な様子だった。


「すごい!面白いよ、キミ!キミはホントに普通の人間なの?いや、普通じゃないよね?絶対おかしいよ!すごい変だよ!」

「おかしいとは失礼な奴だ。俺は何もおかしくはないし、変でもない。」


即座に否定するが少女はその異議を認めない。


「いや、絶対変だよ。『視線』なんてあって無いようなあやふやなものに確信を持てること自体、あり得ないよ。特に()()()にってところがね。」


「まぁ確かに、その視線に関しての俺の体質は一般人とは少し違うかもしれないな。」


「いやいや、それだけじゃないでしょ。普通はそんな怪物見たら一目散に逃げるとか、発狂して泣き叫ぶとかでしょ。キミはまず逃亡するための情報を探ったり、目の前に現れてもう逃げられないってときに、慌てるどころか会話を試みたり、ましてや反撃することを考えるなんて。おかしいという言葉じゃ足りないくらいだよ。英語で質問始めた時は流石に声を出して笑ってしまったわ!」


俺のどこがおかしいかを、嬉々として語る少女。


「そういう人間も探せばいるだろ、知らんけど。俺は天才なんだよ。」

「ねぇ、キミの名前を教えてよ。」


天才はスルーされてしまった。

さて、本名を素直に教えるというのはどうなのだろうか?


「人の名前を尋ねる前に、まず自分から名乗ったらどうだ?」


「…本当に度胸が据わってるわね?私の気が変わったらすぐにでも殺されちゃうかもしれないんだよ?素直に言うことをハイハイ聞いていた方が良いんじゃないかなぁ?」


「そんな『普通の対応』をしてお前に飽きられちゃったらそれこそ終わりだからな。今でも内心は漏らしちまいそうなくらいビビってるよ。」


それは真実だ。

粗相をするつもりはないが、今が生と死の瀬戸際であるという自覚は強く持っている。


「今の状況を正しく認識できてるってことだね。すごい頭が良い…っていうより、この状況で正しく思考できるその冷静さがすごいのかな?多分、どっちもなんでしょうね。」


勝手に感心しているその少女はひとしきり笑った後、まっすぐこちらを見つめてきた。

きれいな瞳だ。

美人というよりはかわいい。

普通の学生だったのなら、さぞかしモテていることだろうな。


「私は、ユキ。家族からつけてもらった、大切な名前。ただの人間相手に会話はおろか名乗るなんて本来なら絶対にないことなんだけど、あなたは特別。これからは『おまえ』じゃなく、ユキって呼んでね。」


「これからは…ということは命の保証をしてくれる、という解釈でいいのか?」


「それはキミ次第かな。さぁ、キミの名前を教えてくれる?」


偽名でいくか、本名でいくか。

ここは悩みどころだ。

学校のうざい同級生の名前でも名乗っておくか…?いや、ここで逃げられたとしても何かの拍子でバレたとき、怒りを買って今度は姉さんにまで被害が及ぶかもしれん。

そうなるくらいならここで死んだ方がマシだろう。


「…ユウトだ。ユウト君でも、ユウト殿でも、ユウトお兄ちゃんでも、好きに呼んでくれ。」


「ユウト、ね。覚えたわ。…最後のお兄ちゃんって、ユウトの趣味?そう呼んでほしいの?」


「いや、ふざけただけというか、なんとなく歳下に見えたから言ってみただけだ。決してそんな変態チックな趣味は無い。俺にいるのは姉だけだ。」


「あら、奇遇ね。私にもお姉ちゃんがいたのよ。今は話すこともできないけれど…ね。家族は大切にしなきゃね。」


「無論だ。俺がこの世で最も大切だと思っているのが姉だ。俺は生涯をかけて姉を幸せにすると子供のときに誓った。」


思わぬところで意見が一致する俺たち。

いい流れだ、このまま気に入ってもらい自らの命、加えて姉の身の安全を確保しなければならない。

とんだ災難だと思ったが、これはチャンスでもある。

こんな人外かつ脅威的な存在と交渉できるチャンスなど二度とないだろう。


「ユキも俺に興味があるようだが、俺もユキや、コイツのことを知っておきたい。いくつか質問してもいいか?」


変化球はいらない、搦め手はおそらく逆効果だ。


「答えられることなら、何でも答えてあげるわ。そのかわり、私の質問にも答えてちょうだいね。」


ユキの方も即答でこちらの提案を了承する。


「もちろんだ。早速だが、ユキや、こいつが一体どういう存在なのかっていうのを教えてほしい。先ほどは『人間相手に』という言葉を使っていたが、それは自分は『普通の人間』とは違う存在ということなのか?こいつは明らかに人間という感じではないが、逆にユキは年相応の美少女って感じだ。急に背後に現れたり、空中に浮いてたりしてなければな。普通に歩いてるだけなら見分けが付かないように思えるが、ユキのような存在は俺が把握していない、というだけで実はたくさんいるのか?目的とかはあるのか?」


「あらあら、質問がいっぱいね。私たちは…まぁ言ってしまえば、『人間の突然変異』というのが一番近いと思うけれど、敵対者からは『鬼憑き』と呼ばれているわ。その子みたいに、もはや完全に人外のものと成ってしまった者は成れ果て、あるいは鬼と、そう呼ばれることもある。世界各地に存在しているわ。そして私はその鬼憑きを複数束ねて支配、指揮する立場と思ってくれればいいわ。目的は…世界征服、フフッ。」


言葉から察するに、『鬼』とやらが憑依?した人間がユキのような『鬼憑き』。

なんらかの原因でその憑き人が更に変異した姿がこのブヨムシ、ということか。


しかし世界征服、とはな。


「では、ユキやこいつも元は普通の人間だったってことか?」


ユキは分かるが、この怪物に至っては人間だった頃を想像することすら難しい。

辛うじて人間の部位が残っているだけの異物だ。

ユキもいずれはこうなってしまうということなのだろうか?


「そうね。その子は一ヶ月前までは普通に意思疎通も可能だったわ。最近になって急激に()()()()そんな姿になってしまったけれどね。今では上位の存在である私がいないと、ただの人間を喰らうバケモノに成り下がってしまったのよ。」


「成り下がった…か。気を悪くしないでほしいんだが、ユキもいずれこうなる可能性があるのか?」


「ふふっ。気にしないでいいよ。私は絶対に無い…かどうかは、実のところ私自身も分からないんだけどね。多分大丈夫よ。」


「多分…か。自分でも分からない、ということは何らかの外的要因で変位するのか?」


「…そうとも言えるし、そうじゃないとも言える。要は心の持ちようなのよ。しっかり自分を見失わなければ、呑み込まれるようなことにはならないわ。」


つまりは意思が弱かったりすると、憑かれた『鬼』に支配されて変異する、みたいな感じだろうか?


「なるほどな。コイツのことは知らんが、ユキは確かに芯が強そうな女に見える。外的要因がどちらとも言えないというのは、外傷を負って焦燥したり、目にした、あるいは耳にした情報で心が揺さぶられたり、取り乱したりすることで呑まれる可能性はある、ということだな?しかし多少動揺したところで結局は心の持ちよう…、ユキがそんな体たらくに陥る可能性はまず無い、という自信の表れが『多分大丈夫』か。」


ユキは柔和な笑み、といった表情から再び笑顔になり頷きながら答える。


「すごいわ。()()完璧よ。多少賢い人間はこれまでにも何人かは見てきたけど、ユウトは異常だわ。いいえ、異常という言葉では言い表せないわ。なんと表現すればいいのかしら…。」


まるでお人形遊びを楽しむ少女のようなキラキラした瞳でクネクネしだすユキ。


「今度はこちらから聞いてもいい?ユウト。」


「もちろんだ。まだ聞きたいことは山ほどあるが、公平にいこう。時間はたっぷり…あるのか無いのかは分からないが…。」


景色は全く変わらない。

俺がこの異世界に迷い込んだのは夕日で辺りがオレンジ色を帯びている印象であったが、時が流れているのなら本来かなり薄暗くなっているはずだ。

しかし、何も変化は無いように見える(だけかもしれないが)ので、おそらく現実の世界とは切り離されているのだとは思う。


「お察しの通り、私がそう望まない限り時間は無限だよ。さて、一つ目の質問です。」


ピッと綺麗な人差し指を立ててそう言うユキは心底楽しそうであった。


「あなたのこれまでの人生。つまりはどういう子供だったのかを教えてほしいな。」


「そんなこと聞いてどうする…ってのは野暮か。正直、小さいころの記憶は全然覚えちゃいないんだが、昔は閉鎖的な子供だった気がする。人生の転機となったのは姉との喧嘩で、それ以来俺は自分の才能をフルに生かして姉を幸せにすると誓った。」


「そう。さっきも言っていたけれど、お姉さんをとても大事にしているのね。とても素敵なことだと思うわ。では、第二問。」


中指も加え、二本の指を立てるユキ。


「あなたの人生に姉がいなかったらどうなっていたと思う?もちろん想像になってしまうけれど、できるだけ真面目に答えてほしいな。」


俺に興味を持っているのは分かっていたが、そんな世間話な質問ばかりだとは思わなかった。

姉さんのいない世界か…。


「…意味がないな。姉がいない人生に生きる意味を見出すことはできない。おそらく部屋に閉じこもってるか、勝手に首吊って死んでるかのどちらかだろうな。」


「極端すぎない?意味がないから死ぬって。同年代の子からいじめられたりでもしていたの?」


クスクスとまた小ばかにするようにユキ。


「いや、退屈だからだな。」


「退屈?」


本音を言ったまでだが、ユキにとって理解の外だったようで、きょとんとした顔で聞き返してきた。


「ちょうど最近、姉のいない生活を体験していたが…。ぶっちゃけ地獄だった。ただでさえ何も学ぶことの無い学び舎に、なんの目標を抱かず通い続ける毎日。知っていることしか言わない教師に、馬鹿な同年代のガキども。姉の風評にも関わるから行くには行くが、姉がいないとなるとあんな空間に1週間とて耐える自信は無いな。というかそれ以前に姉は俺の生きがいなんだよ。姉がいないということは生きがいが無い。生きがいが無い人生。そんなものに意味はない。そうだろ?」


「うーん。やっぱり極端すぎる気もするけど…。例えば恋人とかできたらその『姉絶対』の人生感にも変化があったりするんじゃないかしら?」


「いや、恋人ができようが親友ができようが、俺の第一は姉であることは覆らない。まず、恋人も親友もまったく必要としていない。俺にとってはただの足かせだろう。」


「ふふ。ユウトでなければいじめられっ子の強がりにも聞こえるところだけれど、本気で言ってるのが分かるから面白いわぁ。優秀なユウトにとって、学校の子たちはさしずめ煩い近所の未就学児といったところかしら。歳上が好みなんじゃない?」


「正解だ。一応学校で話す女も何人かはいるが、別にそいつらに対して恋心も劣情なんかも湧いてこないな。友人以外はデカいガキのようにしか思えないな。」


「ユウトは何歳なの?」


なんてフツーの会話だ。後ろにバケモノがいなければ初めて会う女子にただ自己紹介しているようなものだ。


「高二。十六だ、多分な。」


「多分?」


「いや、失言だ。忘れてくれ。」


「確かに、お姉さんの誕生日は死んでもお祝いしそうだけれど、自分のことにはまるで興味がなさそうね。ユウトの誕生日も、お姉さんに祝ってもらうまで忘れてるんじゃないかしら?想像できるわぁ。」


納得したように笑うユキ。


「歳上が好きってことだけど、歳下がダメってことではないのよね?私なんかどうかしら?」


可愛らしくポーズを決めてそんなことを言い出した。


「一応聞くが、『どう』というのは『恋人としてどう』ということか?」


「ええ、わたしはこう見えても結構経験豊富なんだから。あっ、人生経験って意味よ?はしたない女だと思わないでね。ユウトと同じで異性になんか興味がない…、と言いたいけれど、今はあなたに興味津々になってしまったわ。これが一目惚れってものなのかしら?」


その存在からして当たり前と言えば当たり前なのだが、やはりユキはどこか普通ではない。


「真面目に言っているようだからこちらも真面目に答えるが、ユキとそういう関係になる想像はできないな。」


「あら?あっさりね。体型以外なら自信があったのだけれど。たまに用があって人間社会に紛れ込んだ時も、しょっちゅう男性から話しかけられてイライラするくらいよ。」


「いや、俺は体型なんざ気にしない。気にするとしても、その歳でそれだけいいスタイルなら将来性もあるだろう。顔だって俺の評価で良いなら人生で見てきた中で三本の指には入る。一言で言えばかなりかわいいと思う。」


「そ、そう…。ありがとう…。」


ストレートに言い過ぎたせいか赤面してしまっているようだ。


「俺の好みのタイプ…というよりは、興味を引く女の特徴。それは普通でないことだな。多少の美人だとか性格が良い女だったりなんてのは、姉を見て生活してる影響からかまったくなんとも思わなくなった。そんなんだったら見たこともないくらい振り切った馬鹿だったり、常に俺を殺そうとでも思ってるようなイカれた女のほうがマシだな。」

「ユウトのお姉さんがとても素敵な人なのはわかったわ。でもおバカさんはともかく、常にあなたを殺そうなんて思うような狂人はいないんじゃなくて?」


…いるんだなぁ、それが。


「ユウトの基準みたいなのは分かったわ。でも私が相手になれないってところだけまだ分からないわね?あなたの主観でも三本の指に入るくらいではダメなのかしら?」


可愛らしく首をかしげるユキ。こいつはどこまで本気で言っているのだろう。


「はっきり言うが、ユキの問題ではなく俺の問題だ。これまで生きてきて、初見で女に好感を持ったことは皆無だったが、ユキに関してはそれに近いものを感じた。先ほど言ったように、まず容姿に関しては文句など無い。知性も感じるし、それに加えて存在からして普通ではない。これは日々退屈に苦しんでいる俺にとっては天啓のような存在だ。もっとユキのことを知りたいとも思っている。正直、初めてユキを見たときはどう言いくるめれば自分の保身が可能になるかとしか考えられなかったが、今はユキとの会話はとても面白いと感じているところもある。命がかかっている状況で、普段はしない日常的会話が俺に刺激を与えてくれたのかもしれ…ん?あれ?」


とあることに気づき、言葉を止める俺。

ユキも不思議そうにこちらを見ている。


「どうしたの?ずぅっと褒めてくれて、とても気分がいいのだけれど。もっと続けてくれてもいいのよ?」


大変上機嫌なご様子だが、こちらは少し混乱してしまっている。


「困ったことになった。ユキを好きにならない理由が全くない。」


「……………??」


「少しだけ整理させてくれ。」


理解できていない様子のユキ。

そりゃそうだ、俺も自分自身よくわかっていない。

落ち着いて思考しなくては。


「…俺の根底にあるのは【姉が絶対】の一点であり、女に対する興味とか好みとかの前に、姉の世話を焼きたいがために『そんな暇はない』と、思考する前から男女交際を選択肢から切り捨てていた。ユキとの関係を想像できないのもそれが原因。友人に関しても、同レベルの人間がいないのも原因だが、根底はやはり『姉との時間を減らしたくない』というのがあって…」


「……………。」


ユキは黙って聞いていた、俺は続ける。


「ユキの容姿、かなり可愛い。会話していても他の連中と比べて全くストレスも無い。むしろ楽しい。というか未知に対するワクワク感もあるだろうな。すごい能力を持っていて、敵対する理由がない、どころかむしろ味方になってくれれば姉さんとの生活も安泰?これらを考慮して………ぴちゃぴちゃうるせぇ!」


空気すぎて忘れていたが、ずっと後ろのブヨデカがぴちゃぴちゃうるさかった。


「今大事なところだからすっこんでなさい。」


パッとユキが右手を前にかざすと、例の黒い球が現れて怪物は闇に呑まれていった。


「…これらを考慮すると、ひょっとしたら俺はユキのことがかなり気になっているかもしれない。自信は無いが、漫画で言う『運命の相手』というやつなのかもしれないな。」


今まで感じてこなかった感覚に加え、それを意識していくにつれて大きくなる心臓の鼓動。

…これはまさか、恋ってやつなのか?


「なぁ、ユキに触れてみてもいいか?」


確かめてみたい、この気持ちが何であるのか。

知りたい、この感情の正体を。


「………くっ…」


「…く?」


「…あーっはっはっはっはっは!!」


今までの会話でも笑顔、微笑むのが多いユキだったが、爆発するかのような勢いで爆笑するユキ。

失礼な奴だ、俺はこんなにも真剣なのに。

でも、まるで腹は立たなかった。


とても、かわいらしいだけだ。


「なんで笑うんだ?」

「ひぃ、ひぃ!」



相当ツボに入ったのか、ひきつった笑いを繰り返し、なんなら苦しんでいるようにさえ見える。


「ご、ごめんなさい…。真面目な顔で何を言い出すかと思えば、振って何分も経ってない女の子に対して『触れてみてもいいか?』って、ホント何言って…、あっはっはっは…!」


「俺は真面目だ。一分前の俺と今の俺は違う、忘れてくれ。」


「はぁ、はぁ…。しんどい…。死んでしまうわ…。お腹痛い…。私にここまでダメージを与えたのはユウトが初めてよ…」


そう言いながらふら~っと、地面へ降り立ったユキ。

腹を抱えて俯いている。

心外だが、これは大チャンスだ。


ユキの元へとまっすぐ歩いていく。

目の前に立ち、しっかりと、しかし痛くは無いように、そのきれいな顔を両手で捕まえ、こちらを向かせた。


「柔らかい。モチモチだな。姉さん以外の女の顔を触ったことなんてほとんどないが、すごく気持ちいもんだ。姉さんにも勝るとも劣らない、至高の感触だ。」


笑い疲れているからか、それとも別の理由か。

ユキの顔はとても紅潮していた。

俺の心臓も激しく動悸しているのが分かる。


こんな感覚は初めてだった。


姉さんといるときにも味わったことが無い感覚。

鏡があったら今すぐに自分の顔を確認してみたいものだ。

どんな顔をしているのだろう。

目の前の少女のように頬を赤く染め上げているのかもしれない。


「…すごい。心臓がドキドキしてる。痛いくらい…。こんなの生まれて初めて。ユウトの前に現れたときとは全く違う感覚。ついさっきまではひたすら楽しいって感覚で、面白い男の子だなって気になっていただけの筈だったのに、今はとにかくあなたを知りたいと感じてしまう。運命の相手…確かにそうかもしれないわね。」


運命という言葉は、くだらない漫画の中にしか存在し得ないものと思い込んでいた。

この気持ちがどういうものかはまだハッキリしないが、


この出会いが『運命』めいたものであることには、自信が持てた。


「キス、してみてもいいか。」


今度は触れるどころの話ではない要求であったが、ユキの両目を強く見つめてそう問うと、ユキの頬はさらに赤く染まり、激しく動揺している様子も見てとれたが、しかし俺から目を逸らすことは無かった。


「よ、よろしく、お願いします…」


改まって敬語すらも出てしまっているその少女は、そう言うと静かに目を閉じた。


姉さん以外の女。

それもある意味人外な存在に、ここまで夢中になってしまう時が来るとはな…。

俺にも、姉さん以外の誰かを好きになれる心があったのか…。


俺も覚悟を決め、ゆっくりとその可憐な唇に近づいていき…

お互いの息遣いが感じられ、唇が触れ合うその瞬間、


身体の内側から来る強い衝撃に、

ユキは激しく後方に吹き飛ばされていった。


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