不幸は得てして連続する
作戦は完全に失敗した。
こんな最悪のタイミングで1位が来るとは流石に想定外だ。
それも、まさかあの不思議ちゃんがユリヤだったとはな…。
『3人とも、作戦は中止だ。すぐに撤退してくれ。その車椅子の女が協会1位のユリヤってヤツだ。』
『えっ?その弱そうなやつが?』
クロが疑問を呈する。
だがそれも仕方がないだろう。
見た目がそもそも車椅子な上、身体の線も細い、華奢な体型に覇気も感じない喋り方。
ただ、不気味さというか異様さは感じる。
見た目が場違いなのもあるが、俺の読む力でもこの女の出現の気配が全く掴めなかった。
つまりは急にそこに現れたということ。
ユキのようにワープのような能力をも使えるのかもしれない。
そもそもクロードも一瞬でシロの背後に移動していたことを考えると可能性は高そうだ。
「ユリヤ様!来てくれたんですね!」
杏が感極まったように叫ぶ。
「あの方が…」
姉さんは会ったことは無かったのか、見た目の意外性に驚いているようだった。
そもそも日本人ではないはずだが、発音もクロードよりうまいし、髪の色も病弱が故のものと思い込んでいた。
おそらくは地毛なのだろう。
「来てくれたか、ユリヤよ。タイミングとしてはおそらくこれ以上なく良かったぞ。」
「菊様も、お久しぶりです。」
この2人は面識があるらしい。
まぁ立場的に当然と言えば当然か。
「うわっ!?」
突如、1体のクロが悲鳴と共に遥か後方に吹き飛ばされる。
「おお!ユリヤ!遅いぞ、お前!」
「アカネさん、お久しぶりです。」
アカネも戻ってきてしまった。
これ以上、この場で戦闘を継続する意味も意義もない。
特にこの女に関しては未知数だ。
情報も無しに戦うのは危険すぎる。
「…少し面倒になってきたわね。今回はこのくらいで退散するとしましょうか。」
手筈通り、シロはこの場の撤退を口にする。
「なんだ?尻尾巻いて逃げるのか?」
「なんだとっ!?」
「クロ!落ち着きなさい。帰るのよ。」
すぐに挑発に乗ってしまう相方を諫める。
「私も来たばかりなので、すぐに帰ってしまわれるのは寂しいですね。」
「…えっ?」
またしてもいつの間にか移動していたユリヤはシロの左手を取って捕まえている。
「離しなさ…えっ?」
姉さんの浄火を振り払ったように、
杏の不可視の攻撃をなぎ払ったように、
ユリヤの手を振り払おうとした、
と思われる。
しかし、それは適わなかった。
『なんなの!この馬鹿力!?私が振りほどけないなんて!』
脳内で焦る様子が伝わってくる。
あんな叩いたら折れそうな細い腕をしているくせに、アカネとやり合えるシロが振り払うことすらできない。
「離しなさい!!」
右手で手刀をユリヤに向ける。
別に手加減する理由などない。
殺すつもりで放ったのだろうが、それも空振りに終わる。
「あら、乱暴ですね。私は少し遊びたいだけなのですが。」
またシロの後ろに移動していた。
当たり前だが、瞬間移動を使われる方としては厄介極まりないな。
「…クロ!」
シロの呼び掛けに4人のクロは黙って頷く。
「今度会うときはこんなお遊びでは済まないわ。その時までに、彼をこちらに渡す覚悟をしておきなさい。」
「逃がしませんよ。」
ユリヤはそう言うと、尋常ではない濃さの神通力を纏っていく。
『コイツ、何をしでかすか分からない!ユキ!すぐに回避するんだ!この場からの離脱を!!』
返事は無かったが、変わりにすぐにシロと1体のクロをオーラが包み込んでいく。
「お前が本体だなっ!!」
すかさずアカネがオーラを纏ったクロに殴りかかった。
マズい!!直撃だ!!
シロはほとんど半透明になって消えかけていたが、クロはまだハッキリと視認できている。
アカネの拳がクロを捉えてしまった。
地面に叩きつけられ、激しい砂埃が舞う。
それは、最初にクロがアカネに対して攻撃した時を再現したかのようだった。
視界が悪くハッキリとは見えないが、
人影が倒れている姿は目視で判断できる。
…ヤられた!!
無防備でアカネの攻撃が直撃。
いくらクロでも致命的なダメージ…というより生きているのかも判断できない。
無事なら何とかして救い出さないといけないが、状況が悪すぎる。
シロ(とユキ)の姿はもうない。
クロのことを諦めてしまったのか?
ユキはともかく、シロはクロのことを一心同体のように言っていた程だが…。
砂埃が晴れていく。
やはり、倒れている。
クロの特徴である真っ白な髪が段々と目に入って………アレ?
「えっ!?なんでだ!?」
アカネが叫ぶ。
俺も、思わず叫びそうだった。
倒れていたのはクロではなく、ユリヤだった。
「アタシは確かにクロのヤツを…」
アカネ自身、何がなんだか分からない様子。
本当に意味が分からない。
ユリヤがクロを庇った…?
いや、そんなわけがない。
ユキが何かしたのだろうが、全く詳細が分からない。
とりあえず分かったことは、ユキがうまくアカネを出し抜いて、クロへの攻撃をユリヤへとずらした?
その隙に3人の離脱を完了させた。
そして、
「痛たた、ビックリしました。やられましたね、アカネさん。」
アカネの攻撃を食らったと思われるその女は、まるでダメージを負っていないようにピンピンしていたのだった。




