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退屈は僕を殺したい  作者: おどろん
第六章 七騎士編

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【覚悟】 ー 劇薬 ー

「ユウト君ちょっといいかしら?」


今まで大人しく俺の後方にいた杏が小声で話しかけてきた。

シロとクロがアカネと話している内に内密に話をしたい、ということだろうか。


「どうかしましたか?」


「気付いたことがあるんだけど、ユウト君は何も思わなかった?」


杏は後方で状況の観察、把握に努めていた。

何か余計なことを感づかれたのかもしれない。

意識を切り替えて第三者の視点で考える。


「…そうですね。ヤツの瞬間移動の能力のこと、ですか?」


「ええ。アカネが前回、あのクロとかいう白い方の鬼憑きと戦った時は黒いオーラのような物を纏っていたと言っていたけど、今はそんなもの見えない。でも、シロって方にはそれがある。それに、瞬間移動する前にそのオーラが少し輝いてるように見えた気がするの。ひょっとして、あのオーラに何か隠された力があるんじゃないかしら?」


「…そうですね、俺もそう思います。」


本当はクロードだけ始末してさっさとトンズラする予定だった。

それが失敗し、情報だけを与えてしまっている現状をどうすれば打開できるか。


「それだけじゃないわ。あの瞬間移動の力でクロード様の壁の内外を移動できるというのなら、何故さっきユウト君を拐おうとしなかったのかしら?」


杏は戦闘向きではないのかもしれないが、頭は悪くない。

むしろ分析に関しては本人は得意としているだろう。

このまま状況が平行線が続く分だけ、()()()が不利になっていく。


「…以前に闇女に連れ去られるのを阻止しましたからね。情報が共有されているんでしょう。俺に下手に近づいて神通力の無力化(ニュートラライズ)を使われたら終わりですから、敵目線では。」


「あっ、そっか。なるほど…。」


念のために用意していた言い訳ではあるが、こういうのは使わないに越したことはない。


早く、早くこの状況の打開を…

悪い流れを壊す、【劇薬】を…


思考するが、どう考えても姉さんの存在がネックになる。

いっそのこと、姉さんをなんとか気絶させることができれば…


考える。

姉さんにさえ見られなければ、どんな手でも打てる。

覚悟さえ持てれば。



姉さん以外を皆殺しにする【覚悟】を



まず、クロードを神通力の無力化(ニュートラライズ)で無抵抗にしたところをシロかクロに瞬殺してもらう。

何が起こったか分からない周囲の人間は慌てつつ、状況の把握に努めようとする。

ユキがついてるシロがアカネの邪魔して、クロを姉さんにけしかける。

怪我を覚悟で、気を失わせる。

アカネに勝てないまでも、アカネと正面から戦えるクロなら簡単なはずだ。

そして動揺している間にババアと…杏も、

唯一動ける俺が殺す。

神通力を消せば、ただの老いぼれのババアと子供体型の女だ。

俺の力で首を締めれば簡単に殺せる。


簡単に殺せるはずだ。

簡単に、殺せるはずだ。

簡単に…


「ユウト君、大丈夫?顔色が悪いわ。」


杏が心配そうに覗き込んでくる。


「…大丈夫ですよ。ちゃんとできます。」


ちゃんと、殺します。

できるだけ、苦しめずに。


「そう…不安なのは分かるけど、状況はまだ終わっていない。気合いをいれましょう。」


「はい、ありがとうございます。」


邪魔なババアと杏を殺し、シロとクロの2人がかりでアカネを捕まえる。

ほんの少しの時間でいい。

動きを止められたら、アカネも終わりだ。


状況的に俺や姉さんが生き残ることは、第三者から見たら怪しさしかない。

だが、心の優しい姉さん自身は仲間の死に深くダメージを負ってしまうからそんなことを気にする余裕は一切ない。

…最悪、心を病んでしまう可能性はある。

しかし、俺がそれを防ぐ。

誠心誠意尽くし、ケアをするんだ。

俺を怪しんできた別の狩人は適当に誤魔化すか、シロとクロがいれば()()()()も簡単に取れる。

アカネもいないんだ。

協会の上位以外はもはや雑兵。

簡単に返り討ちにできるだろう。

しつこいようなら協会ごと潰してしまえば良い。

アカネさえいなければ、それができる。

不可能ではないのだ。


「ユウト君、あまり壁まで近づくのは得策ではありませんよ。」


壁の端に近づいていく俺を心配してクロードが声をかけてくる。


「すみません。どうしても気になることがあるんです。体が完全に出るようなことはしません。ただ、壁の中からだと見えないこともあるんです。」


「ユウト君、何か気付いたのね!?」


後で殺すヤツがナニか言っている。


「ふむ…?まぁ君の場合は命を狙われているわけではないようだが、流れ弾が来ないとも限らない。慎重にね。」


「はい。分かりました。」


ドーム状の壁の(きわ)まで来た。

1本更に踏み出せば、頭だけが外に出る状態。


それでいいはずだ。


その一歩を踏み込む。

途端に脳内に聞こえてくるユキ達の声、やり取り。

やはり、この壁で防がれていただけで常に回線は繋げていたようだ。


『3人とも、聞こえるか?』


脳内で語りかける。


『ユウト?…なるほど、頭だけ外に出たのね。』


ユキはすぐに察してくれた。

しかし、怪しまれるので伝達は手短にしなくてはならない。


『少しだけ時間を稼げないか?考えた作戦を伝えたいんだが…』


『じゃあ私とクロで仕掛けるわ。ユキちゃんはそっちに集中して。いくわよ、クロ。』


『OK!』


危険なことでも躊躇なく引き受けてくれる。


『2人とも、無茶はしちゃダメよ。』


ユキがそう言うと2人は一斉にアカネに攻撃をしかけた。

アカネもギリギリそれに対応できているのがイカれているものの、とりあえずあの2人が同時に行くのならよほど油断しない限りは大きな損害は受けないだろう。

激しい応酬が続くが、どちらも決定打にはなっていない。

壁の内側のメンバーも3人の戦闘に目を見張っている今がチャンスだ。


『それで作戦というのは?一応今から()()()()()の戦法を試そうと思っていたのだけど、どうしようかしら?』


『クロードを殺るって言ってたやつか。それで確実に倒せるなら問題ないが、失敗したらコッチの打撃も相当だぞ?そのとっておきも見られてしまうということだし。』


『シロとクロの2人とコッソリ練習していた合体技よ。人間が相手なら確実に殺れるわ。龍堂茜以外なら、だけどね。』


『クロードの固さでもか?』


『大丈夫よ、防御を無視する技だから。』


自信はかなりあるようだ。

だが、やはり失敗をすることを可能性として考慮してしまう。

その防御不能というとっておきの技を、アカネに見せることにもなる。

まぁどうせ効かないのなら気にしなくても良いのかもしれないが。


『…わかった。()()()()だ。もし失敗したら、今から言う作戦にすぐに切り替える。』


俺は先程考えた策を手短に伝えた。


『次の合体技(とっておき)でクロードを殺れなかった時、俺が最適と思うタイミングで壁を消す。アカネにだけは要注意でうまくタイミングを合わせてくれ。それから姉さんの扱いはくれぐれも慎重に頼む。』


『ユウトはそれでいいの?』


『…どういう意味だ?』


何故そんなことを聞くのか?

この良くない状況を一気に持ち直す策。

言葉で言う程簡単ではないが、不可能という程でもない。

俺が裏切ることなんて、狩人目線では何一つメリットなど無い行為だし、それ故に絶対に想定の範囲外のはずだ。

そもそも、狩人とはユキの敵。

これが最善の手段であるのは間違いないはず。

姉さんだけは生かしてもらう、という俺のしょうもない我が儘だけを通して貰えれば何も文句はない。


『ユウトは優しいから。後で苦しんだりしないか、とても心配だわ。』


『優しい?俺がか?メグにも言っていたみたいだが、俺ほど他人に冷たい人間は少ないと思うぞ。』


()()()()、そうかもしれないわね。…良いわ。ユウトが構わないというのならそれでいきましょう。まぁ、私たちは失敗しないのだけれどね。』


『よし。それじゃ【とっておき】ってやつを見せて貰うとするか。一応言っておくが、クロードを殺ったらテキトーなこと言って即撤退。逆に失敗後、俺の策まで更に失敗した時も即撤退(おなじ)だ。』


『OKよ。シロ!クロ!』


『あいよー!』

『準備はできたのかしら?』


アカネとやり合いながらすぐに返事をしてくる。

実際に喋る必要がないとはいえ、アカネ相手にここまで余裕を持てるのは2人をおいて他にはいないだろう。


『クロ、私の力を半分預けるわ。()()()も見せて良い。コッチの邪魔だけされないように頑張って。シロはさっきの続き!クロードを仕留めるわ!』


『りょーかい!!』

『了解!』


その言葉を皮切りに、シロだけでなくクロの体にも黒いオーラが纏わりついていく。


「はっ、お前もまた瞬間移動すんのか?もう流石に慣れてきたぞ。」


アカネも『瞬間移動の力は黒いオーラを纏っている時』というのは流石に気付いたようだ。

戦闘に関しては馬鹿ではないし、そもそも一番それを見ているからな。


「ふっふっふ。そんなんじゃねーよ。最強の新技、見せてやるぜ!」


「新技?」


俺もその新技とやらには興味がある。

だが何故それを馬鹿正直に言ってしまうのか…

今やってるのはプロレスではない。

殺し合いなのだ。

時間を見てクロに教育を施さないといけないな。


「行くぞ!」


フッと、クロはその姿を消した。

一旦また姿を隠すのか?

これでは今までと特に変わりないが…


「結局またそれか。それに、お前は来ないのか?」


アカネも呆れたように呟き、近くにいる動こうとしないクロに話しかける。


「私?私は必要ないわ。それより余所見(よそみ)をしていていいのかしら?」


そう言い切る頃には、背後から現れたクロの攻撃はもうアカネに届く寸前。


「もう慣れたって言ったろ?」


上半身だけ振り向いてクロの手首を止めてしまう。


マズい!捕まるのは…


捕まってしまえばアカネの攻撃を避けられない。

しかし、シロは動こうとしない。

そこで俺はやっと気づいた。

異常事態に。


「アカネーー!!周りを見なさい!!」


杏が悲痛な声で叫ぶ。


「周り?……ッ!?」


杏の呼び掛けは間に合った。

右を向いた瞬間、既に眼前まで迫っていた拳を空いていた方の右手で辛うじて受け止める。


「クロが、()()!?」


左で捕まえているのもクロ。

今捕まえたのもクロ。

幻でもない、少なくても実体がある。

確かにアカネは掴んでいるのだ。


()()を見なさい!!」


今度は姉さんの叫び。

しかし、今度は間に合わない。

アカネの()()()()()()クロの拳がアカネに今度こそ届いた。

激しく吹き飛んでいき、境内の外へ消えていった。


「な、何なのよアレ…。反則よ!反則!!」


杏が憤る。

それも無理もない。

アカネを殴り飛ばした1体。

捕まっていた2体。

加えて他にもまだ2体、計5体。

確かに、こんなものはただの反則だ。

幻ならともかく、実体があるというのはどういう原理の技なのか。


「さて、次はあなたの番よ。クロードさん。」


シロがゆっくりと壁に向かって歩いてくる。

ネットリとした笑みを浮かべて、それはさながらご馳走を前にした捕食者とでも言うべきか。


「…先の分身の技には驚きましたが、たとえ瞬間移動でも、100体に増えようとも、私の守りを突破することはできませんよ。」


「まずはその勘違いから正しておきましょう。」


シロが壁を目の前に、無造作に腕をなぎ払った。


本当にそれだけだった。


シロがいるところから壁にヒビが、綻びが広がっていって、やがて壁は完全に霧散してしまった。


「そんな馬鹿なっ!?」


「馬鹿はあなたよ。じゃあさようなら。」


再び右手を引き、貫手の構え。

今度こそ、クロードを終わらせる。

どうやったのかはわからないが、やはりユキがこの2人と組んだら最強だ。


「「クロード様!!」」


姉さんと杏もそれぞれ攻撃を放つが、シロの空いていた左手を振るうだけでそれらはかき消される。

杏の不可視(インビジブル)()衝撃(インパクト)はともかく、姉さんの浄化の炎は何故効かないのだろうか?

姉さん曰く、敵と判断したものはどんな物でも燃やしてしまうらしいが…

格上には効かない、あるいはユキが何かしているのか?

よく考えたら姉さんの性格を度外視したとしても、アカネを燃やすことはできないだろうしな。


ババアもシロを閉じ込めようと先程のように結界を展開しようとするが、同じように即座にシロの左手によって破壊される。


「おのれっ…!!」


「悪あがきは無駄。じゃあね。」


今度はもう止められない。

アカネもいない。

壁も壊せる。

苦労はしたが、ようやくこれで…

当初の予定通りに。


シロが貫手を放つ。

終わりだ。


…と思いきや、クロードの姿が見えない。

ヤツはどこへ!?



「どうやら、なんとか間に合ったようですね。」



聞いたことがない…いや、聞き覚えはある声。

若い女の声だ。

覇気が無く、病弱を思わせるような声。


()()()()()がいた。

シロのすぐ後ろだ。

色んな意味で会いたくはなかったが、まさかこの場面、このタイミングで来るということは…。


()()()様!?助かりました!ありがとうございます!!」


「いえ、遅くなってごめんなさい。そしてお久しぶりです。山田太郎さん。また会えると思っていました。」



コイツが、ユリヤだったのか。


作戦は失敗した。

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