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退屈は僕を殺したい  作者: おどろん
第六章 七騎士編

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想定外

もう誰も間に合わない。

背後から迫る死に、クロード自身も気付いてすらいない。

アカネだけは振り向いて驚愕の表情を浮かべてこちらを見ているが、アカネでもこの壁自体を破ることは簡単ではないし、そもそも間に合わない。

壁の中の人間も気づいただけ。

動くことはできない。

急すぎて、体が動かない。


さようなら、クロード。

死ぬ前に大好きな立ち食い蕎麦が食えて良かったな。

南無。


クロードの背後からシロの貫手(ぬきて)が完全に決まる。

その鋭さと威力は想像もつかないが、その衝撃にクロードは激しく吹き飛ばされて自身の展開した壁に強く打ち付けられる。

無防備な背後からあんな威力で叩きつけられれば死は確実…


そこまで考えて、ふと違和感を覚える。


今のシロの貫手、おそらくはクロードを貫くつもりだったはず。

貫手というのは本来、指先を刀の先のように見立てて相手を突く技だ。

ただでさえアカネも認めるクロと同等の力を持つシロだ。

そんな存在が放つ攻撃の鋭さに穿てないものなどない、とすら思う…アカネを除いて。


クロードが吹き飛んだ。

言い換えれば、クロードは貫かれなかった…ということだ。

シロの攻撃の鋭さより、クロードの固さが(まさ)ったということ。

シロも不思議そうに自分の手を見る。

先程のクロと似たような感じだ。


「隙を見せたな!!」


ババアがシロに向けて腕を振る。

同時に展開された球体のような物がシロを呑み込んだ。

領域(エリア)()操作(コントロール)の力だろうが、その球体からシロが出てくる様子はない。


マズい…!!


「神楽!主の炎じゃ!」


「はいっ!お婆様!!」


姉さんがババアの創造した球体に向けて浄化の炎を放つ。


一か八か、届く瞬間に神通力の無力化(ニュートラライズ)で…


「隙を見せても大丈夫だと思っているだけよ。」


既にシロは壁の外に出ていた。

確かに、ユキがついてるなら囚われの身になることはないか。


「…おのれっ!」


ババアだって本来であれば強者という立ち位置であったはずだ。

しかし、それが故に己の能力が全く通用しないことに憤りを隠すことはできない。


「しかし、流石に驚いたわね。今のは本気で仕留める気でやったのだけど、すごいじゃない?クロード…だったかしら?」


口調自体は柔らかいものの、言葉通りに驚き称賛している様子は見ていて伝わってくる。


「それは私の台詞です。まさかとは思っていましたが、私の偉大なる守護盾(グレートウォール)をアッサリ越えてくるとは。念のために自分も覆っておいて正解でした。しかし、その瞬間移動。()()()()()()()()よ。」


聞き捨てならないことを言い出すクロード。

ユキの瞬間移動の種が分かったというのは一体?


「感知結界の時から予想はしていましたが、あなたの使う瞬間移動。それは、異空間を通って移動をしている、違いますか?」


異空間…?アレか。


最初に線路からユキのアジトに跳んだ時を思い出す。

あのフワフワして、非常に形容しづらい真っ暗闇。

暑くも寒くもなく、何もない、あの空間。


「あなたはソコを通って私の偉大なる守護盾(グレートウォール)の外から内側に移動した。壁を破ったわけでも、無効化したわけでもない…異空間を渡り、全ての干渉を受けない。それがあなたの能力だ。そうでしょう?干渉を受けないからこそ、菊様の領域の操作(エリア・コントロール)すらも無視して移動できる。」


「………。」


「図星、ですか?」


クロードを舐めていた。

協会の3位というのは伊達ではなかったということか。

俺もユキの能力に関してそこまで深く考えたことはなかったが、クロードの推論を否定する材料は一切ない。

おそらくは正解だろう。

とはいえ、能力が割れた所でさして問題ではない。

分かったところで防げなければ意味はないのだから。


「惜しいわね。異空間を移動したというのは正解だけれど、それが私の能力の全てではないわ。ほんの一端に過ぎないのよ。」


「やせ我慢…のようには見えませんね。」


ユキの言葉をシロが口にしたのだろう。

バレたからには誤魔化すよりも、底が知れないように見せてビビらせた方がマシ…という判断だろうな。

そもそも本当のことだし。


「ただ、あなた達を舐めていたのは確かよ。それに関しては反省しないといけないわ。」


「反省したのなら大人しくヤられるか、もしくわ闇女のヤツを連れてこい。」


シロがクロードを不意打ちで殺せなかったことでアカネも調子づいている。

アカネ自身も怪我すらしていないし、少し悪い流れだ。

当初の目標であるクロードの排除もこのままでは失敗に終わってしまうか…?


「…1つだけ、勘違いを正しておかなくてはならないわね。」


「勘違い?」


アカネが問う。


「確かに私は異空間を移動して彼の壁の中に移動したわ。けれど、それは決して壁を壊せなかったからではない。面倒だからそうしただけの話よ。」


半ば、俺目線でも言い訳のように聞こえる。

他の人間からは尚更だろう。

アカネはそれを鼻で笑う。


「ハハッ、今度はハッタリか?さっきもクロードが言っていたが、こいつは自身を壁と同じ力で覆っていたんだ。お前は、壊せなかったんだよ。」


確かに事実として、その攻防の結果は先程示されている。

背後からの完全な不意打ちでも、怪我を負わせることすら適わなかった。

やはり、アカネの言うようにハッタリなのだろうか?

それともあるのか?

何か、俺も知らない奥の手が…?


「そう思っていればいいわ。そう思ったまま死んでいけばいい。」


とても演技には見えない。

壁の外側にいれば…

いや、いたとしてもシロやクロには読む力(リーディング)は通じないか。

果たして…?


「…そもそも、アタシがそれをさせるとでも?」


アカネもシロの物言いに嘘だと決めつけるのを止めて警戒を強める。


「邪魔したいならクロを倒してからにするのね。」


バシイィッ!!


その言葉を合図にクロが超高速でアカネに仕掛けるが、アカネはその拳を受け止めた。


「お前は多分アタシより速いんだろうが、だからって対応できないほど差があるわけじゃない。だんだん目が慣れてきたぜ。」


「おお!やるな!」


クロは戦いを好んでいる性格だから喜んでいるのだろうが、本当にこの流れはよろしくない。

ただでさえ『最強』のアカネがシロとクロに対応できるようになってしまっては今後、更に厄介な存在になるのは間違いない。


「クロ。アナタは龍堂茜を()()()()止めなさい。アタシがアッチの男をやるわ。」


「オーケー♪」


いや、死なれるのは困る。

オーラを纏う…ユキがついてるシロは問題ないだろうが、クロは今は1人だ。

どれだけ強かろうが、理不尽の権化であるアカネに1人で勝てる道理はない。

問題なく時間を稼げるならいいが、先程のやり取りを見る限り大いに不安がある。


俺が神通力の無力化(ニュートラライズ)を使えば全ての状況をひっくり返せるが…。


ただし、それは実質姉さんとの決別を意味する。

あり得ない選択肢。

俺の未来、希望を半ば捨てる選択肢。


これは、俺の選択の…甘えの結果だ。

『最強』だからと、アカネを後回しにしようとしたツケ。

アカネと2人きりになる口実などいくらでも用意できる。

そうなればいつでも殺すチャンスは生み出せた。

だが、そうしなかった。


姉さんが悲しむと思って…

いや、姉さんを言い訳にしてはならない。

俺が、アカネを殺す覚悟を持てなかった。


今更後悔しても意味はない。

3人を信じる以外の選択肢は、もうないのだから。



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