嵐の前の静けさ
時刻は夕方。
手紙の内容を確認した俺たちは即座に学校を後にして龍堂神社へと集まっていた。
今はクロードを除いて、龍堂菊と俺たちの計5人がいつもの執務室に集まっていた。
ババアは手紙を最初に見ていたので、既に神社に所属している狩人達を動員して神社の立ち入り禁止措置、結界の設置と補強の段取りを既に終えていたようだ。
クロードはと言うと…
「申し訳ありません!遅れました!」
ノックもせずに勢い良くドアが開かれる。
欧州にもノックの風習はあるはずだが、よほど慌てていたのだろう。
「クロードよ。何処に行っておったのじゃ?」
「立ち食……街を巡回しておりました!」
コイツ、蕎麦食ってやがったな。
俺が店を案内で連れていったときも大層気に入った様子だった。
にしても油断しすぎだろう。
まぁワザワザ日本まで来て1週間、事件の1つも起きなければしょうがないのかもしれないが。
「…まぁ良い。実はかなり厄介な事が起きて…いや、これから起きようとしているのじゃ。」
「厄介な事…ですか?例の鬼憑きに動きが?」
慌てていた顔が一転、真面目な表情へと変わる。
「クロード様、私のほうから説明します。」
杏が名乗り出て、俺たちの時と同様に手紙の内容を話し始める。
「…なるほど。まさか鬼憑きの首魁から直接置き手紙とは。実は私のほうでも個人的に神社全体を感知結界で覆っていたのですが、私の知らない神通力を持つ存在が触れた反応はありませんでした。流石、【神出鬼没】と言われるだけありますね。」
感知結界?
コイツ、そんなこともできたのか。
ユキには意味がないだろうが、中々に便利な能力だ。
「しかし、今の手紙の内容を聞いてどうしても疑問が1つ残るのですが。」
これも想定内。
馬鹿でない限り、必ず湧くはずの疑問。
「何故、闇女はユウト君を狙うのでしょうか?闇女と言えば、前回の闇女討伐作戦に参加した狩人達を殺し尽くした凶悪な鬼憑き。そんな恐ろしい存在が、ユウト君を引き渡せば命を保証する…ユウト君をとても重要視しているようですが?」
当然すぎる疑問。
クロードの視点で言うなら、俺は最近狩人に成ったばかりの学生だ。
そんなヤツが最凶の鬼憑きである闇女に狙われる理由など想像できるわけがない。
神通力の無力化の持ち主である、という情報を持たないクロードからすれば。
「それなんですけど…」
杏が俺を見る。
「どうやら闇女は俺を仲間に…つまり、鬼憑きとして勧誘したいようなんです。」
これはクロードがこの神社にやってきた後に、いざという時のために話し合って用意していた【設定】だ。
「ユウト君を鬼憑きに?どういうことです?」
「実は、アカネが襲撃を受ける前にも1度鬼憑きによる事件がありました。その犯人である若い男の鬼憑きは、協会の儀式を介さずに神通力を獲得して鬼憑きへと成ったようなんです。…闇女の手によって。」
「なんと!闇女には儀式の心得もあるのですか?アレは全世界の狩人協会にも10人しか可能とする者がいないというのに!」
そんなに激レアなのか、儀式を行える力は。
商いおじさんとやらも似たようなことができるというし、探せばもっといそうな気もするけどな。
「その鬼憑きはアカネが倒して捕縛、この神社へ連れてきたんですが…闇女本人がソイツを救出しに来たんです。ヤツは、気に入った配下であれば自らが救出に来ることも厭わない。そしてその時、俺も闇女に狙われたんです。命を…ではなく、連れ去るのが目的のように感じました。おそらく、『気に入られた』のかと思います。気に入られた理由までは分かりませんが、見た目なのか、フィーリングなのか…。」
「そんなことがあったのですか…。以前から狙われていたということなんですね。」
雑なストーリーだ。
しかし俺だけならともかく、他の4人も異を唱えないため信じる他ないだろう。
「それで今回、闇女は配下を3人送ると伝えてきている。アカネ、どう思う?」
話が切れたタイミングでババアがアカネに振る。
上手い切り替えだ。
「討伐作戦の時も、来ると言って実際に来たんだ。今回も配下を送るというなら来るんだろう。闇女本人が来るかどうかは分からないが、クロが来るのならかなり厄介だ。」
「クロ…、以前にアカネ様を苦戦させたという鬼憑きですね?」
「ああ。アイツが来たら、正直アタシはヤツを相手にするだけで精一杯だ。下手に気を抜けば他の皆がヤられる可能性がある。だから…」
次に発せられるのは【最強】であるアカネが考える、今回の作戦となる内容だ。
「クロ、あるいはシロと思われるヤツがいたらアタシが。それ以外の2体を全員で相手する。神楽が攻め。クロードがユウトを守りつつ、神楽のカバー。余裕がありそうなら攻めても良い。婆ちゃんもクロードと同じで。杏は全体のサポートだが、相手が強力過ぎたら無理をせずに敵の動きと能力の把握に努めるんだ。戦闘タイプじゃないんだから無茶をするなよ?ユウトはクロードの張る壁の中で待機だ。」
予想通り過ぎて笑いが出そうになるが、
決して顔に出すことは許されない。
「俺が狙いなんだ。俺が大人しくしておくことに反対はしないが、もしクロと…シロってやつの2匹が同時に現れたらどうする気だ?」
「それはもう最悪の展開だが、アタシは絶対に死ぬことはないからクロードと婆ちゃんで全員を守るんだ。スタミナ勝負に持ち込めば、クロだろうがシロだろうが、その2人がかりだろうが勝てる。ただその場合はクロード、お前の固さが頼りになる。頼むぞ。」
馬鹿みたいに聞こえる作戦だが、実際にもそれが最適解である。
そして、アカネはクロードの【固さ】をとても信頼しているようだ。
よっぽど、なんだろうな。
「お任せください。私の命に変えましてもユウト君を、皆さんをお守りしましょう。」
クロードも自分の固さに絶対の自信がある様子で強く頷いている。
アカネからの視線を感じたのでそちらを見ると、目でなにかを訴えかけていた。
付き合いが長いからか。
不本意であるが、その内容がわかる。
『いざとなったら…、』
神通力の無力化を使え
そういうことだろう。
一応頷いておくと、アカネは口元に笑みを浮かべて話し合いに戻った。
作戦会議という名の茶番はまだ続いていく。
狩人協会3位の実力。
しっかり見せてもらうとしますかね。
次回から本格的に戦闘に入ります。
25日はよう実の最新巻を読まないといけない(使命感)ので、次回は24日の夕方辺りの更新を予定、次次回は26日で考えております。
よろしくお願いします!
Xやってます!
ふぉろーしてくれ!
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