協定ー意外な事実?ー
「………まずは自己紹介といきましょうか。」
改めて2人を見る。
背が高く、長く美しい髪、そして艶のある立派な翼、露出は多いが服までも黒を基調としているシロは、少し大人びているような印象を受ける。
対してクロは正反対であるかのように背は低くて短い髪も真っ白、その両腕の先は白く美しい毛に覆われていて、時折ピクピクと動いている獣の耳は見ていてとても可愛らしい。
身長はメグより少し大きいくらいだが、その危険度は比較にならないだろう。
「コソコソしていた分の謝罪として、まずは私からね。」
自分のスカートの両端を軽くつまみ上げる。
片足を後ろに引き、残りの片膝を軽く折る。
俗にいう、カーテシーと呼ばれるものだ。
「白井ユキ、よ。ユキと呼んでちょうだいね。」
白井か。
自分で言ってて少し笑いそうになる。
【闇女】という文言と能力、オマケに服装を黒を好んで着ているユキの存在を少しでも誤魔化そうと、ユウトが大雑把に提案してくれた仮の名字。
よくよく考えたら、このシロと呼ばれる少女と自分の共通点が多いことに気付く。
アベコベの名前に人探しという目的。
これも運命…なのかしら?
私がユウトに会ってから、色々なことが起きた気がする。
「ワタシはクロだ。白っぽいけどクロだから、間違えるなよ。」
唐突に名乗りをあげるクロ。
自分の容姿と名前が矛盾していることには気付いているようだ。
「分かったわ、クロさん。」
「クロでいい。よろしく、ユキ。」
即座に呼び捨てを希望するクロ。
こちらと友好的に…というよりはそういう気遣い的なものがめんどくさいのだろうと推測する。
「了解よ。よろしく、クロ。」
クロはそのまま何も言わなくなり、シロを見やる。
おまえの番だぞ、ということか。
「では改めまして…私はシロ。シロと呼んでね。」
「分かったわ。シロ。」
「…それにしても、」
挨拶も終わるや否や、急に深刻に考え出す様子を見せるシロ。
何か問題でもあったのだろうか?
「あなたは何故そんなに可愛いの?」
そんな風に一瞬でも考えた自分が馬鹿だった。
「…シロはこーゆーやつなんだ。気にするな。」
クロは慣れた様子であるのを見るといつものことなのだろうか?
メグとも会いたいと言っていたが、『可愛いから』という理由はまさか本気で…?
まだ付き合いもこれからだし、深く考えても理解できるとは思わないので無理やり話を戻す。
「それで手を組むということだけれど、シロとクロには異存はないということね?」
とりあえずの確認だ。
「それはこちらの台詞よ?私達からユキ…ユキ達と手を組んでほしいと頼んでいる立場なのだから。ユキは確かパートナーに確認をとるとか言っていなかったかしら?それこそ大丈夫なの?」
協力体制を築くことには一切異論は無し、と。
「実際に確認はとるけど、大丈夫よ。そもそも私達も最初からあなた達と手を組めればと考えてはいたの。最悪、敵対は避けられるようにしようと。私が2人を認めて、その上手を組めるという話になるなら彼も必ず認めてくれるわ。」
「信頼しているのね。そのパートナーを。」
ユウトのことを思い浮かべる。
それだけのことで顔に笑みが浮かんでしまう。
「まるで恋する乙女の顔ね。本当に可愛らしいわ。」
「…そうね。誰よりも信頼しているわ。ちなみにクロもその人を知っているのよ。」
「えっ?そうなのか?」
急に話を振られて、それに加えて内容にも驚くクロ。
「ええ。カッコ良くて、頭が良くて、胆も据わっていて、たまに物凄く下らないことを言うけれど、面白くて、とても優しい男の子。神通力の無力化を扱える、狩人に属しながら鬼憑きの私と手を組む存在。名前は、天地優人。」
クロに名前を聞かせたと、ユウトは言っていた。
だから名前を言えば必ず通じるはずと思い、言ってみたものの返ってきた反応は想像とは少し違っていた。
「神通力の無力化だって!?(ですって!?)」
名前より、その能力に驚愕しているようだ。
しかし、よく考えたらそれも当たり前だ。
常軌を逸した力であり、龍堂茜の【超越】にも唯一対抗できる過去にも1つしか例を見ない、選ばれし者にだけ許された力。
「それに天地ユウトって…」
後になって名前にも反応を示すが、前者の驚きが大きすぎてあまり期待していたリアクションは見られなかった。
というより、何か2人の様子がおかしい。
「…じゃあクロが言っていたあの人に雰囲気が似ているって…」
「ほら!やっぱりワタシの言った通りだ!ユウトはやっぱり…!」
シロは何故か狼狽したように、逆にクロは明らかに歓喜しているような態度である。
「あの、どうかしたのかしら?確かに神通力の無力化はとても珍しいものだとは思うけれど…」
堪らず聞いてしまう。
「…まだ、信じられないわ。あっ、いや、別にユキちゃんを信じていないわけではないのよ?」
また『ちゃん』が付いているが、指摘すると進まないので最後まで聞こう。
「ユキちゃん。その男の子、天地ユウト君を私にテストさせてほしい。本当に神通力の無力化の使い手であるのかどうかを。」
「テスト?…とはいっても、どうやるの?」
シロは思考する。
そして、つい最近商いおじさんの勧誘で強力な力を得た男の存在を思い出す。
「良いオモチャがあるの。それと戦わせて確認するわ。」
「戦わせる?危険があるのは認められないけれど…」
想定外な方向に話が進みそうで、なんとか軌道修正したいところだが…
「いえ、ダメよ。これは絶対。もし本当に神通力の無力化の力を使えるならきっと乗り越えられるはず。難しそうでも、私がその子の神通力の無力化の力を確信できたら必ず救い出すわ。少なくても命を失うようなことにはしない。保証するわ。」
「まぁそれなら…、でもどうやるの?」
「そうねぇ。」
またも思考するように目を閉じるシロ。
しかし、その目はすぐに開かれる。
「そのオモチャに事件を起こさせるわ。その子のいる街で。狩人に属しているというのなら必ず出動させられるでしょう?それで一目につかないところに誘導して、お互いに思いっきりやりあってもらいましょう。」
「待って待って!他の狩人はどうするのよ?」
慌てて止める。
神通力の無力化は4人を除いて他の狩人にも内密にしているのだ。
それを説明しようとするが、
「そんなものは私達で皆殺しにすればいいわ。」
またも想定外。
しかし、よく考えればこの2人にはそれが可能なのだ。
ユキ自身もできるし、後先考えなければ一番楽でもある選択肢。
しかし、彼女たちは分かっていない。
現在その街にいる狩人には、
殺してはいけない狩人と
殺すことができない狩人がいることを。
「それは無理よ。彼がいる街には龍堂茜がいるもの。それにユウトの世界で一番大事な存在である姉の天地神楽も。特に後者を害そうと言うのなら手を組むのも無し。私もあなた達と敵になるわ。」
次のシロの答えによっては、今から壮絶な殺し合いに発展する可能性もなくはない。
いつでも存在を隠せるように心構えをするが、その心配は杞憂だったようだ。
「なるほど、その子の大事なお姉さんがいるのね。そして龍堂茜…聞いたことがあるわ。最強だとかなんとか?」
「ワタシも聞いたことあるぞ。ちょうどいいから見に行くか?」
この2人、一体何を言っているのだろうか?
まさか龍堂茜のことを知らないのか?
「あなた達がすごい強者の位置にいるのは分かるわ。でもこれだけは言わせて。油断してると一瞬で殺されるわよ。」
ここまでの存在がまさか龍堂茜を知らないなどとは思わなかった。
仕方がないので龍堂茜と【超越】について説明する。
これで別の作戦を立てよう、そう提案するつもりであった。
「すごい!面白そうだな!ソイツ!」
馬鹿な白い方がやる気を出してしまっている。
「あなた、話を聞いていたの?【超越】という力はね、文字通りにこの世の全てを超越する力なの。あなたがどれだけ速く動き、強く攻撃したとしても、彼女はそれらを乗り越えてより速く、強くなる。正攻法では勝てっこないのよ。」
そう、正攻法では…ね。
「じゃあ時間稼ぎというのはどうかしら?」
提案するのはシロだ。
本来であればそれも認めたくはない。
龍堂茜と相対するという選択肢自体が誤りなのだ。
その中身や方法などは関係ない。
「あのね、私は今から手を組もうっていう2人に死んでほしくないの。あなたたちを想って言っているのよ?なんとか別の考えをもってもらえないかしら?」
もはや懇願のような形になるが、それでもシロには響かない。
「逆よ。私達がユウト君をテストしようとするのと同じ。ユキちゃんも私達をテストする。そう考えなさい。龍堂茜だかなんだか知らないけど、それ相手に時間稼ぎで死ぬようなら所詮その程度の存在であったと、そう思えばいいわ。もし仮にこの件でクロが死んでも、私はそれを責めることはないわ。」
「ワタシが死んでも…?ってことは、」
「ええ、あなたが行ってきなさい。クロ。」
「よっしゃ!任せろ!」
トントン拍子で仲間(仮)が死の道へ進む作戦が組まれていく。
「…どうしてもやるのね?じゃあ私もクロに着いていくわ。無理だと判断すれば嫌でもクロを逃がすわ。文句はないわね?」
こうなれば自分も行って、いざというときは逃がすしかない。
これほどの戦力を簡単に溝に捨てるわけにはいかない。
「そんなこともできるの?すごいわねユキちゃんは。良いわ!作戦決行は3日後。あっ、ユキちゃんはユウト君に連絡をとってはダメよ?事前に言うならテストにはならないからね。」
「…分かったわ。」
この後、ユキは与えられた時間でシロの大雑把な作戦を許容範囲になるよう詰めていく。
途中、シロに抱きつかれたり、シロにキスされそうになったり、シロに寝込みを襲われそうになったりと非常に厄介であったが、一番憂鬱なのは決戦の時でもないのに龍堂茜と対峙することになってしまったことだ。




