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退屈は僕を殺したい  作者: おどろん
第五章 組織襲撃 編

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教育的死道(しどう)

そこからは一方的な蹂躙になった。


男は拳を奮い立たせて果敢に向かってきたものの、こちらは全ての攻撃をカウンターで迎え撃った。

人間の枠から外れたからであろうが、こちらも全力で殴りつけても数発は怯まずに突っ込んできた。

だが、あくまで突っ込んできただけだ。

そこに技術や策などはない。

あるのは人を楽に(ひね)り殺せるだけの威力を持った、何の意味もない拳だけ。


最初こそ俺に殴られてもそこまで深いダメージになっていないという事実は男の殺意を後押ししていたようだが、それも10発以上も不発な上に自分だけが一方的に殴られていることにバカでも異常を感じざるを得なかったようだ。


「な、なんで当たらねーんだよぉ!?」


男の感情に、声に、動きに。

都合良く忘れ去られていた恐怖が再び混ざり始める。

それは男の攻撃にも直接的(ダイレクト)に影響を及ぼす。

始めから相手になるとは思っていなかったが、今のヤツは俺からすれば自分の思いどおりならずに駄々を捏ねて腕を振り回す子供と一緒だ。


そうやってしばらくの間、こちらだけが一方的に殴り付ける状況が続いて男はとうとう音を上げた。


「わ、分かった!!俺の敗けだ!!もう許して…」


男は情けなく尻餅をつき、両手をこちらに向かって上げて降伏を宣言する。


「なんだそれは?お前は俺を倒す以外に生き残る道はないと教えたはずだが、もう忘れたのか?」


男の降伏宣言など無視して殴り付ける。

もう殴り返すことすらしてこなくなり、両腕を身体の前に持ってきて防御を固めることしか考えていない。

この距離なら腕を振れば俺に攻撃を当てられるかもしれないのに、そんなことを考えてもいない。

無論、その気配を感じたら俺は避けるんだが。


「や、やめろっ!もう敗けだって言っただろ!?やめてくれ!!」


もう男は完全に恐怖一色だ。

こちらの一発一発のダメージが少ないとは言え、全く通じていないわけではないのも影響しているだろう。

口元は切れ、目は腫れ、鼻も折れているようでもう反撃を考える余裕もないのだろう。


「なんでお前が敗けたと言ったら助かると思っているんだ?俺はお前が死ぬまで続けるけど?」


淡々と言う。


「た、頼む!何でも言うことを聞くから!もう逆らわないから!だから殺さないで…」


「それは俺に完全に屈服し、全て俺の言うことに従うということか?」


こちらが手を止めて会話を継続したことに希望を見出だしたのか、顔には出さなかったがヤツの心にほんの少しの余裕が生まれた。

ここまで愚かだと少し面白い。

どこまで楽観的なんだか。


「よし、じゃあゲームをしよう。」


「ゲ、ゲーム?」


「そうだ。」


俺は懐から1本の短刀を取り出す。

攻撃手段が肉弾戦しかない俺のために杏が用意してくれた特別製だ。

協会に言って手配した物のようで、普通の人体より遥かに強化されている鬼憑きの肉体でも、これであれば容易に切り裂くことができるのだとか。


「そ、それで何をするんだ…?」


「こうする。」


俺は容赦なく、ヤツの右足首を切り落とした。


「おお!めちゃくちゃ切れ味良いな!簡単に切り落とせたぞ。」


「え?あ、あ、あああああぁ!?」


痛み故か恐怖故か、男は悲鳴をあげる。

それにしても素晴らしい切れ味だ。

牽制くらいで考えていたが、ここまでスッパリ切れるのなら立派なメイン武器と言えるだろう。

リーチが無いのはしょうがないが、そもそも肉弾戦に持ち込む戦いかたをするつもりだし、(とど)めを確実にさせるなら何でも良い。


「なんで!お、俺の足!!」


「いや、だからゲームだって。それより早く止血しないと出血多量で死ぬだろ?さっさと能力で血を止めろよ。お前の能力ならできるだろ。」


コイツの力であれば切れた足首の上を圧力で締め上げれば最低限の止血はできる。

男はそんなこと考える余裕はなかったようで、俺に言われてから慌てて足から大量に流れ出る血を止める。

先ほどまで能力が全く使えなかったことなど、まるで覚えていないように。


そうだ、早く治せ。

すぐに終わるとつまらないだろう?

退屈なのは勘弁だからな。


「さ、次はどこにしよーかなぁ。」


「な、なんでこんなことを!!酷すぎる!!大体ゲームってなんなんだ!?」


「なんでこんなことって…。お前そこらの狩人たちの死体見てみろよ。バラバラだろ?同じことしてやろうと思ってな。ちなみにゲーム内容は、お前をそいつらと同じようにバラバラにしていって、生き残ったらお前の勝ち。以上。」


非常にシンプルで分かりやすい説明。

バカでも理解できるだろう。


「嫌だっ!!嫌だあぁ!!」


男は俺に左腕をブン回して突き飛ばそうとする。

当然避けて、捕まえる。


「おっ?今度は左腕だな?了解。」


今度はスッとは落ちず、ギコギコとノコギリのような押し引きの工程を少しだけ要した。

おそらく神通力により変貌を遂げた箇所はより強力な耐久性を持っているのだろう。

先ほど切り落とした足は見た目は普通の人間のものと変わらんしな。


「もう!やめてくれ!!!」


泣いて懇願する。

恐怖。後悔。絶望。


そうだ。

それをもっと俺に見せてくれ。

お前の苦しむ様を、見せてくれ。


「学習しないやつだなぁ。」


笑いながら邪魔になりそうな右腕を切り落とそうとするが、厚さ半分ほど切ったところで腕を振り回してくる。

しかし、その右腕はもう反対側に折れてしまって使い物にならなそうだ。

骨までは絶てていたようだな。


「あっ、あっ、ああ…」


大量の失血による意識の混濁。

激しい後悔と恐怖。


そして諦め。

生きることを諦める。

男が自身の身体全体に神通力を纏わせていく。


「あっ、自殺はなしで。」


即座に打ち消す。


「えっ…あ、あ…。」


最後の方はもう言葉になっていなかった。

激しい痛み、必ず訪れる死。

それを強く実感しながら限界まで、最大限に苦しんで死んでいってほしい。


「お前はとんでもない屑で無能で、存在価値なんて欠片もないと思っていたが、ひとつだけ役に立ってくれた。」


意識はまだあるようだ。

聞こえているかは分からないが。


「初めての殺しがお前で良かった。何一つ心苦しくない。人の言葉を話していても、相手が屑なら俺の心には全く響かないことが実感できた。感謝するよ。だから、」


もう、その肉塊に声は届きはしない。


「ありがとう。先生。」

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