音信不通
「まだユキからの連絡は来ないのか?…メグ。」
学校の昼休み。
俺とメグは事前に打ち合わせて屋上へと集まっていた。
今日でユキの単独調査の日から3日ほど経過したことになるが、
『行ってきます』
当日に通信でそう聞いてから今の今まで何の連絡も入ってこない。
「私のほうも、何もない。とても、心配。」
相変わらず無表情だが、その心内は悲痛という言葉に尽きる。
俺としても気が気でない。
ユキであればたとえアカネが相手だとしても…少なくても攻撃を受けることはない。
ユキの力ならそもそも接触すら不可能なのだから、心配はない…はずなのだ。
しかし、何故か連絡が一切入ってこない。
いつもの通信もそれらしい合図、アクションもない。
ユキの能力であれば、今この瞬間にも目の前に現れることだって可能なはずだ。
それが連絡の一つも入れられない状況となると不安にもなるというものだ。
「メグ。携帯での連絡もできないのか?」
「…圏外だった。」
「そうか…そうだよな。せめて無事かどうかだけでも分かればいいんだが…」
無事でいるのか、はたまた捕まりでもしてしまったのか。
戦闘は避けると明言していた。
殺された…なんてことは考えたくない。
最悪の想定に胸が締め付けられ、息も苦しくなってきたように感じる。
『いっそのこと俺が乗り込むか…?』
トリニティのアジトの場所に関してはユキから一応共有されている。
一応というのはユキの能力によるものだろうが、ユキはその位置を自分の感覚…『座標』で捉えているため、方向とザックリとした距離だけ教えてもらっていたのだ。
だから多少の不便はあるだろうが、その気になればユキが出向いたアジトの方向へ向かうことはできる。
廃ビルかそれらしい建物を探せばいいのだからそこまで苦労はしないだろう。
…とはいえ、俺が1人向かったところで何ができるということでもないか。
微かに残った冷静さで思い直す。
「とりあえず、命だけはある…と思う。」
唐突に言うのはメグだ。
「!?…そうなのか?何故そう思うんだ?」
生死すらも分からないからより不安だった。
それだけでも分かるなら少しはマシだが、なにか根拠はあるのだろうか?
「ユキから借り受けている力がある。それが消えてない。ユキは『私が死なない限りは使えるから安心して』って言ってた。ただ…」
「…ただ?」
肝心なところで言い淀むメグ。
「実際にどうかは分からない。当たり前だけど、ユキは死んだことはない。」
「…そりゃそうだな、納得だ。今はそのユキの言葉を信じるしかないってことか。ちなみにその借り受けてる力っていうのはどういうものなんだ?前にも言ってたよな?たしか。」
以前、たしか姉さんたちとの修行終わりにメグに尾行…もとい身辺警護をしてもらっていた時にも聞いた気がする。
キナ臭い噂があり、調査兼俺の護衛だと。
その時も、万が一の事態にはユキから借りた能力で助けるとかなんとか言っていたはずだ。
「ユキの一番得意とする力、空間転移。回数制限はあるけど、ユキの家に強制的に転移させる。」
「おお、緊急離脱が可能なのか。それは良いな。」
…まぁ本人が離脱できてなさそうなのが気になるけど。
「…基本的に考えればユキの言う通りで、能力が残ってるなら生きてると考えるのが普通だ。もう少し様子を見よう。そうだな…今日含め後3日、ユキからの連絡がなかったらプランAに変更だ。」
「プランA?なにそれ?」
メグは無表情のまま首を小さく傾げる。
「A…Aを呼んで組織を壊滅させる。危険な鬼憑きのアジトを見つけた…とかなんとか言ってな。ユキが捕まっている場合は見た目は普通の人間だ。人質ということにして救出に持ち込めるだろう。」
「組織の壊滅…。利用するって作戦を諦めるってことだね。」
「ああ。もしユキが攻撃を受けて今動けないというのなら、それはもう敵対してしまったと見るべきだ。協力できないならあの組織は危険すぎるし邪魔なだけだ。アカネに全部ぶっ潰してもらう。ただし、あくまでもそれは最終手段だな。あと3日、ユキからアクションがなければ行動に移す。目先の利益よりユキの安全が優先だ。」
「分かった。異存無し。」
お互いに頷きあう。
俺たちにとって大事なのはユキ自身だ。
それ以上に大切な物なんて…
そこまで考えて、ふと思ってしまう。
『…俺にとって、ユキは姉さんより…?』
そんなバカな思考を振り払う。
ユキも姉さんも、俺にとって等しく最も大切な存在だ。
そこに優劣なんてない。
「…どうかしたの?ユウト。」
メグが近づいてきて覗き込んでくる。
「なんでもない。ユキは絶対に大丈夫だ。もしピンチでも、俺たちで助けてやろうな。」
「うん。一緒に頑張ろう。」
素直で良い子なメグの頭を撫でてやる。
目が若干細まり、気分を良くしているのが伝わってくる。
「かわいいな、メグは。」
「ん、ありがとう。」
俺は撫でている手をパッと止めて、1歩メグから離れた。
「…?どうしたのユウト?もう終わり…?」
結構表情にも不満が見てとれるが、続けるのは少しマズい。
「なんだなんだぁ?こんな所で後輩と逢瀬かぁ?隅に置けないなぁ、ユウト。」
背中から聞こえてきた女の声に、一瞬だけメグの眉が上がったが…流石と言うべきか。
すぐにいつもの無表情を取り戻す。
「あれ!?良く見たら噂の美少女転校生じゃんか!」
最初はちゃんと視認してなかったのだろう。
メグだと確信するとバカみたいにはしゃぎ始める。
「なんか用か?アカネ。」
「うわっ!近くで見るとやっぱめちゃくちゃ可愛い!メグちゃんだっけ!?お姉さんとデートしよう!」
もはや俺を無視し、メグの両手をとって上下にブンブンしている。
「…怖い。」
メグが無表情のままこちらにSOSを視線で送ってきた。
俺は隙だらけのアカネの膝に神通力を若干こめて裏からローキックをかます。
「ふぎゃっ!?」
膝が折れてバランスを崩したところを後ろに思い切り引き倒す。
派手に後方へ転んだアカネは大股開きで倒れ込む。
スカートも捲れ、アカネお気に入りの赤い下着がコンニチハしていたので、すかさず撮影する。
「おい。お前のお気に入りパンティを学校のホームページにアップロードされたくなければ大人しくしろ。」
「痛たた…。くっ、なんて強引なやつなんだ。」
「お前が言うな。」
文句をブツブツ言いながらゆっくり立ち上がるアカネ。
「で?ユウトはいつからこの娘と仲良くなったんだ?それも逢い引きして頭ナデナデするほどに。」
「逢い引きじゃねーよ。以前バイトで知り合った人の妹だ。その人から妹をよろしくって頼まれてんだよ。」
何も慌てることはない。
むしろ既定路線だ。
用意した設定に忠実にいけばいい。
「へぇ~。ほぉ~。ふぅ~~~ん?」
ムカつくなコイツ。
設定を疑っているわけではないだろうが、俺とメグの関係性を疑っているようで、疑念を強く持っている。
「白井メグです。よろしく。」
メグの方から自己紹介が入る。
「ぎゃああ!?か、かわいい!!」
その場で自身を抱き締めるように両腕を身体に回し、身悶えてモジモジしていた。
「病気かテメーは?」
「だってユウト!めちゃくちゃ可愛いだろこの娘!こんなん悶え死ぬわ!私を殺す気かっ!?」
「そうだ。死んでくれ。」
「だが断る!」
そうハッキリ宣言すると、またスタスタとメグの目の前に歩み寄る。
「お、お嬢さん?年上のお姉さんはお好きかな…?」
アカネの眼は少し血走っていって、口元にヨダレのようなものが見える気が…
紛うことなく完全に不審者だ。
「年上の女性………?好き。」
「ぎゃあああああああああぁああ!!!??」
「お前もう黙れ。そして帰れ。」
おそらく素直に年上の女…ユキ?を想像したであろうメグの回答に興奮するアカネ。
「気を付けろ、メグ。このアカネは両刀使いだ。おそらくメグはかなりの好みと見た。」
「両刀使い?」
「男でも女でもイケる…ってことだ。」
「?…よくわからない。」
しかも厄介なのはその『男』というのは俺にだけ適用されているということだ。
本来はレズ寄りなんだろうが…。
「ユウト!この娘を私にくれっ!!」
「俺のじゃねぇし、そうだとしてもお前にはやらねーよ。」
「こんな小っこくて、お人形さんみたいに可愛いくて!!これはもう私の物にするしかないだろっ!!」
興奮しすぎだこのエロゴリラめ。
「物扱いすんな。大体、小っこくて可愛いのが好きなら杏さんでも良いだろ。」
「…あいつはダメだ。ナマイキだから可愛げが無い。それに比べてこの子はめっちゃ素直そうだ!それに杏は同い年だろ?アタシは年下が好きなんだ!」
…言われてみれば、コイツは確かに姉さんにもそういう下品な目を向けることはないな。
学校でナンパするときも後輩女子ばかりな気がしないでもない。
興味無さすぎて気付かなかったが、年下が好きなのは事実のようだ。
心の底からどうでもいいが。
「お前の好みは置いておくとして、何か用があって来たんじゃないのか?」
「あっ!そうだった!メグちゃんが可愛すぎて忘れてたぜ。」
さっさと用件だけ聞いて追っ払おう。
そのくらいの軽い気持ちで聞いたものの、何やらバツが悪そうにして、俺とメグの方をチラチラと交互に見ている。
メグに聞かせたくない…
まさか鬼憑き関連か?
実際どうかはわからないが、アカネの態度を見ているとメグの存在が都合が悪いというのは間違いなさそうだ。
「メグ。すまないが席を外してくれるか?また後で連絡するよ。」
「分かった。またね、ユウト。」
俺にそう別れを告げた後、メグはアカネの方に身体を向ける。
「アカネ…先輩。また今度。」
ペコリと軽く礼をしてメグは屋上の扉を後にした。
それをアカネはメグに穴が空きそうなくらいずっと凝視していた。
コイツが男なら完全にストーカーと呼ばれる類いの人間だろう。
「ロリで素直クールで可愛くて…メグちゃんって無敵じゃね?」
今日1番の真剣な眼差しだった。
「用がないなら俺も帰るぞ?」
いい加減コイツのバカに付き合うのも疲れた。
「ああ、すまんすまん。まぁ落ち着けよ。」
全く反省する様子もなく飄々と言うアカネ。
これで下らない内容だったらケツにヤクザキックをぶちこんでやる。
「また鬼憑きが出たんだ。今夜も動くぞ。」
「………………ソウデスカ。」
鬼憑きって、そんなに頻繁に出るもんなんですかねぇ…?




