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退屈は僕を殺したい  作者: おどろん
第五章 組織襲撃 編

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潜入 ートリニティー

メグはとある薄暗い1室にいた。

今はもうアイマスクは外していて、案内された部屋の中央に用意された椅子に腰掛けるように言われ、今に至る。

ちなみにユキは現在建物を見回っている。

ユキならこの場所を正確に割り出すことができるだろう。


「人生が退屈だと思ったことはあるかい?」


メグにそう問うのは件の商いおじさんだ。


「最初に会ったときも聞いてた。どういう意味?」


聞くところによると、ユキの手下となった高橋という鬼憑きもそんなことを聞かれたと言っていたらしい。

つまり、素養のある人間には全員同じことを言っている可能性は高い。


「そのままの意味さ。思ったように答えればいいよ。」


商いおじさんは優しい笑みを浮かべ、そう答える。

その笑顔に隠された真意をメグには見通すことはできない。

ユウトならできるのかもしれないが。


メグにはそもそも神通力を扱う素養が無い。

にも関わらず、今回商いおじさんのお眼鏡に適ったのは当然理由がある。

ユキだ。


メグには神通力を得る素養が、つまりは他の魂を受け入れる器としての才能がない。

それでは門前払いをされる可能性が高いので、ユキが()()()()魂の残滓をユキの周囲に纏わせているのだ。

当然、そんなことを可能とするのはユキぐらいしかいない。

普通に考えてそんなことができるはずがないのだから、仮にメグに何かしらの違和感を持たれたとしても商いおじさんがメグの()()を疑うことはできないのだ。


「昔は退屈だった。今は結構楽しい。」


「そうですか。それは素晴らしいことです。」


商いおじさんは笑顔のまま、ただそう言う。

この男は一体なにを考えているのだろうか?

純粋に笑みを浮かべてるように見えるが、穿って見れば張り付けたような笑顔に見えなくもない。


「それでは儀式を始めましょう。今までの日常に別れを告げる覚悟は出来ていますか?」


さて、どうしようか?

ユキはまだ帰っていない。

すぐに帰るとは言っていたが、少し時間を稼いだ方が良いか。


「日常に別れを告げるって?」


質問を投げてみる。


「今からあなたは『普通の人間』という枠から外れた高位の存在となります。それは今までのあなたの人生を一変させ…そして未来も。本来の道筋から大きく離れた結果へと導かれることとなるでしょう。」


「あなたも『普通の人間』ではないの?」


ユキやユウトなら分かるのだろうが、メグには分からない。

時間が稼げればいいので、なんとなく訊いてみる。


「…そうですね、今は違います。私は私の望みを叶えるため、()()で仲間を集めようと必死に努力しているところです。あなたにも、とても期待しています。」


その言葉や表情からは嘘は見えない。

本心から言っているように見える。

メグ目線では、だが。


『待たせたわね、メグ。』


ユキが帰ってきたようだ。


『おかえり。調査は終わり?』


『正直、調べたいことが多すぎるわ。でも今回は時間が足りないからもう帰るとしましょう。』


『OK』


「では、もう質問は良いでしょうか?儀式にも準備がいるのでそろそろ…」


商いおじさんが言う。

ユキの力ならほんの一瞬隙を作ればすぐにこの場から離脱できる。


「いや、まだ…」


当たり障りない会話をして隙を伺おうとした。


「ちょっと待って。」


急に室内の暗闇から第三者が現れ、発言に歯止めをかける。

女の声だ。


いつからいたのか。

最初からいたのかもしれない。


ひょっとしたらユキのワープに近い能力?


『あなたをここまで運んだヤツよ。まだ底が見えない。かなり危険だから変な動きをしてはダメ。私も緊急事態だと判断しない限りは大人しくしてるわ。』


『了解。』


足音も立てずに近づいてくるその人影には、普通の人間とは大きく異なる部分があった。


「…翼?」


黒く、美しく、立派な翼だ。


「そうよ。綺麗でしょう?私の自慢で、誇りなの。」


「うん。綺麗。」


特に嘘をつく理由はない。

なので正直に答えただけだが、その女は満足そうに頷いた。


「あら?素直でいい子なのね。素直ついでに正直に答えてほしいのだけど…あなた、()()1()()?」


さて、非常に難しい質問が来てしまった。

ユキの存在を感づかれたのだろうか?

ユウトくらいしか姿を隠したユキを看破することなどできないはずだ。

しらばっくれてみる。


「?交際している異性はいない。」


「真顔で面白いことを言うのね。同性ならいるのかしら?」


冗談は通じるのか。

それとも先ほどのやり取りで気を良くしているからか。

向こうも軽口で返してる。


「すごくかわいいし、その気になれば選び放題じゃないの?」


「よく分からない。男の子と接する機会は少ない。」


最近になって急に交流の機会を得たユウトを思い浮かべる。

美形で頭が良く、たまにすごく変なことを言うが基本的には魅力的な男子と言えるだろう。


「…気になっている男の子はいるかも?」

「ふふっ。そうなのね。…やっぱり勘違いかしら?さっきから()()()変な気配するのよねぇ?」


そうして彼女はメグを見る。

メグの傍にいるかもしれないナニかを見つけようとする。


「ダメね…こんなこと初めてだわ。違和感があるけど、それが全く掴めない。」


不思議そうに考え込む翼の女。

彼女の行動が読めない。

会話が続くのか?

次の瞬間には攻撃が飛んでくる可能性だってあるだろう。


「どうなされたんですか?あなたがこの場に出てくるなど珍しいこともあるのですね?」


商いおじさんが女に話しかける。

強さは疑いようもないが、立場でもどうやら女が上らしい。


「いえ…この娘、私が預かってもいいかしら?」


「なんと…本当に珍しい。そんなこと、これまでに1度もなかったかと思いますが、この子に特別な何かを感じたのでしょうか?」


「そんな感じよ。良いかしら?」


「分かりました。会長への報告はどういたしましょう?」


「テキトーでよろしく。」


「承知しました。」


最後はハッキリと苦笑いといった表情の商いおじさんは二つ返事で承諾する。


「じゃあこの娘は連れていくわ。…そういえばあなた、名前は何て言うの?」


「メグ、白井メグ。」


「そう、メグね。じゃあメグ、着いてきなさい。」


そう言うとスタスタ部屋の出口まで向かって歩いていく。

商いおじさんの方を見やると、彼は肩をすくめているだけだった。


彼女の後に続いて歩く。

行きは目隠しをしたままの、誘導されつつの移動であった。

しかし今は視界も普通に開けている。


「どこかの廃墟ビル…?」


とりあえず会話を振ってみる。

返事はすぐに来た。


「そうよ。私たちのアジト。かなりボロいけど、人が寄り付かないから好きよ。」


普通の会話が成立する。

少なくても害意は無さそうだ。


「私をどうするの?」


「それはまだ秘密。とりあえず外に出るから大人しくしてて。…変な気を起こしてはダメよ。」


「分かった。」


ユキも何もアクションを起こさないのでこの場はメグに選択を委ねるということだろう。

メグ自身はここがどこかも把握してないし、逃げるのは難しいので素直に言うことを聞いておく。


「いい子ね。悪いようにはしないわ。」


そうして建物の出口と思われるところに着くと、女は言った。


「今から移動するわ。来た時と同じよ。元の場所に帰してあげる。」


予想していなかった言葉に、必要のない質問をしてしまった。


「なんで?」


「なんでって?あのままでは困ったでしょう?()()()()()の狙いはよく分からないけど、面白そうな存在なのは間違いなさそうだしね。」


唐突にユキの存在を匂わされ、流石にメグの無表情にも若干動きが出てしまう。

そして彼女もそれを見逃さない。


「大丈夫よ。少なくても私以外は誰も気付かないと思うわ。またいつか会いましょう。今隠れてる子も一緒にね?」


そう言うと彼女はメグを抱き締める。


そしてあっという間に元に位置に戻ったかと思うと、彼女は一瞬で姿を消してどこかへ去ってしまった。


『かなりの強敵…。いえ、敵でありたくはないわね。狙いが分からないけど、敵意はないようだし今後の付き合い次第?…にしても私の存在を見抜けるなんて、ユウトだけが例外と思っていたけれど、自惚れだったのかしら?』


「…大きかった。」


『そうね。あの翼があるから速度が出せるのかしら。まともに戦っていいタイプではないわね。まぁ龍堂アカネなら正面から勝てるんでしょうけど。』


「違う、胸。」


『胸かい。』


とりあえずおかしな流れではあったが、場所も分かった。

早くユウトと情報を共有しよう。



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