接近 ーアキナイおじさんー
『飽きないおじさん?なんだそれは?お笑い芸人か?』
『フフッ、その意味もあるらしいわ。一応、商いおじさんよ。』
『そっちの商いか。で、商人のおじさんが何なんだ?』
今は現代文の授業中。
ユキと具体的に行動予定を詰めるため、授業を受けながら通信を繋げて相談を行っていた。
「彼曰く、それがトリニティへと繋がる人物らしいわ。その商いおじさんは人通りの少ないところから声をかけてきて勧誘を行っているそうよ。声をかける相手は様々。才能がありそうな人を選んでいるとは言っているらしいけど、どうなのかしらね。」
彼、というのはこの前捕まえてユキに連れ出された例の鬼憑きだ。
ソイツは現在ユキに心酔してしまっていて、どんなことでも素直に言うことを聞いてくれるようだ。
ちなみに名前は、高橋裕太というまさに平凡中の平凡。
しかしその名前から見た目まで普通を極める男の能力は平凡どころか非常に凶悪なものだ。
『だが高橋のヤツは見た目も極めて平凡だし、頭の方も正直良い方とは言えん。しかし、能力は強力だった。神通力を得る前からソイツが未来で得る能力を見極められるような便利な力でもあるのか?まさか、未来予知とか?』
アカネや俺も大概だが、もし未来予知なんて力があるなら非常に憂慮すべきことだ。
何かの間違いで俺やユキの計画が漏れて弱みを握られる可能性などもあり得ないとは言えない。
『…分からないけど、聞いたことはないわね。ただ、儀式とはつまり他の魂を取り込む行為。だから神通力の強弱ではなく、単に儀式を行うことができる素養を持つ人間の選別ってことならそこまで難しくないわ。私にもできるしね。』
『ん?そうなのか?』
『ええ。要は常日頃から魂を集めやすい人を選別するのよ。たまに凄い幸運の人や、逆に不幸に陥りやすい人がいるでしょう。そういうのが分かりやすいわね。そうでなくても、私や…狩人側にもそういうのを視ることができる人はそこそこいるわ。』
『よく分からないが…アレか?幽霊が見える人、みたいな感じ?』
『その認識で大差ないわね。その商いおじさんもさまざまな人に声をかけていると言うし、能力の内容に関してはあくまで運なのではないかしら。』
あくまでも高橋の神通力に関しては運、
というのがユキの見方のようだ。
『なるほどな。ちなみに初めて会った時とか…ユキから見て俺の場合はどうだったんだ?儀式なんかはやってないが、神通力の無力化なんていうとんでもない引きをしたし、何か感じるものはあったのか?』
『いえ、何も…不自然なほど何も感じなかったわ。とはいえ今思えばそれも神通力の無力化による影響だと思うけど。ホントにユウトはいつ神通力を手に入れたのかしらね?下手したら幼少期とかかもしれないわよ?何か覚えとか無いのかしら?』
『思い当たることはないな。そこは今考えても仕方ないか。…じゃあ話を戻して、とりあえずその商いおじさんとやらに接触してみるか。』
高橋も組織に繋がる人物はその商いおじさんとやらしか知らないらしいし、そこから攻めていく他ない。
『どうしましょうか?一応彼…高橋君は連絡を取ることはできると言っているわ。その商いおじさんに直接トップに会わせてもらえるように言ってみる?』
『いや、まだ内情もろくに把握できていないしな。仲間にする価値がないやつらならワザワザ身を晒すリスクは冒したくない。高橋はそのおじさんに声をかけられた後、どういう経緯で儀式を行ったんだ?』
『それも聞いてみたわ。最初に目隠しをするように言われたらしいの。すると何者かに抱えられて物凄い勢いで…そう、龍堂茜の時と似たような感覚と言っていたわ。それでどこかビルのような建物の一室で椅子に座らされた、と。それが儀式ね。場所に関しては窓から建物が見えていただけらしいから特定は難しいわ。』
『…それだけでは判断がつけられないな。やはり1度勧誘される側として潜入してみたい。できるだけ偉そうなヤツを捉えて誘拐するか…あるいは話せるヤツなら取引でも持ちかけてみるか。何にせよその建物に行かないと組織内部のことは何も分からないだろう。』
やはり大事な判断をするには自分で実際に見て感じるのが大切だ。
『私はどこへでも潜入できるけど、ユウトはおそらく厳しいわ。おそらく商いおじさんから見てユウトは才能がないように映るでしょうからね。』
ユキも先ほど俺には何もない…ように見えると言っていた。
商いおじさんのお眼鏡にかなうことはないだろう。
ではどうするか?
『私とメグで行くわ。ユウトは今回はお留守番ね。重要人物がいたら誘拐してきてもいいけれど、ひとまずは調査に専念したほうがいいでしょう。』
『…まぁスタートでつまづいてちゃ戦力外か。せめて商いおじさんや運び屋の容姿だけでも確認しておくとしよう。』
『それがいいわね。じゃあ高橋君に連絡を取ってもらうわ。仲間になりたいという子がいる。会ってみてくれ…って感じかしら?』
『まぁ商いおじさんがどんな性格なのかすら俺たちは知らないからな。高橋の主観的に不自然でなければ何でも良いと思う。物影からコッソリ様子を伺うから会う場所と時間だけ教えてくれ。』
『了解よ。またね、ユウト。』
通信が切れる。
…しかしメグか。
彼女は潜入はともかく、演技などできるのだろうか?
できるだけクラスに溶け込むよう頑張れとは言っていたが、フタを開けたら転校して一月も経たないうちにあだ名が『不思議ちゃん』になる程度には普通を装おえていない。
まぁユキのサポートも入るなら問題ないだろうが…。
少し不安だが、ここは2人を信じるとしよう。
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現在は放課後。
場所は駅へとまっすぐ向かう大通り、高層とまでは言わないが、ビルや大きめ建物が建ち並んでいるその裏路地に来ていた。
まだ日も沈んでいないはずだが、建物間の狭い道だ。
特有の薄暗さや閉塞感があり、人目を避けるにはうってつけの場所である。
俺はここでメグを、
正確に言えばメグに会いに来る商いおじさんを待っていた。
高橋に連絡させ、この場所に来いという商いおじさんの指示のもと、俺はメグより先にこの場所に赴き、裏路地の奥にある大きいゴミ集積用のボックス裏で控えていた。
これより奥は隙間はあってもおよそ人がまともに通れるスペースはない。
つまり、ここが実質一番奥になるので隠れて監視をするにはここが最も適しているだろう。
『ユウト、そろそろメグが現場に着くわ。』
不意に頭の中にユキの声が聞こえる。
『了解。俺は最後まで出るつもりは無いから手筈通り、ユキはメグに着いていってくれ。』
『OKよ。』
そのやり取りの後すぐにメグの姿を確認する。
予定していた時間のキッカリ5分前だ
路地裏に少し入ったところで佇んでいた。
「暇だな…。」
5分というのは意識していると意外と長い。
そもそも時間通りに来てくれるのか?という不安もある。
臭いし、ココ。
むしろ5分と言わず、すぐにでも来てほしいほどだ。
そんな願いが通じた訳でもないだろうが、
メグが来てから2分と少し経った頃、壮年の…おそらく40代くらいの男がメグに話しかけてくる。
遠目だからハッキリとは分からんが、そこそこ良いスーツに少しお洒落なハットを被っていて、ダンディな雰囲気が感じられる。
「ヤツが商いおじさんか…?」
話が切れたところで黒い何か布のような物をメグに手渡した。
おそらくアイマスクだろう。
読む力も集中させ、その男が纏う薄い神通力も知覚できたことからも当たりだと確信できた。
「とりあえず男の特徴は分かった。運び屋もすぐに来るのか?」
メグがアイマスクを着ける。
それを確認した商いおじさんがおもむろに左手を上にあげた。
何かの合図だろうか?
一瞬である。
もうメグたちの目の前にはナニかがいた。
『速すぎる!?アカネと同程度か!?』
気配もなにもなかった。
いや、速すぎて意味がなかっただけかもしれないが…
見た目も普通の人間と違う。
異形というやつか。
基本的には人の形をしているが、
その腕からは、黒い毛…いや羽と思われるものがところどころ確認できる。
そしてその背中だ。
黒く美しく、大きな翼が存在している。
横顔、それも遠くからでしか確認できないが何となく既視感がある気がする…。
1度落ち着こうと一旦身を伏せ、再び見るとそこにはもう誰もいなかった。
不味いな。
もしこの組織と敵対したとなると、ああいうスピードタイプは俺の唯一の弱点と言ってもいい。
不意を突かれて対応できなかったらそれで終わりだからだ。
少なくてもすぐに敵対する方向は避けて…
「おまえ、誰だ?」
動けない。
背中から聞こえる女の声のほうに読む力を全力で意識を向けているがなにも感じない。
異常事態だ。
以前は神通力の無力化をうまくコントロールできずに、無意識で読む力を打ち消してしまったことはあったが、今ではそんなミスは絶対にしない。
「質問に答えないなら殺す。」
ユキもメグに着いていったようで助け船が来ることもなさそうだ。
一か八かでアカネを呼ぶことも考えたが、おそらく変な動きをした段階で殺られる可能性がある。
両手をゆっくり上げて敵意が無いことを示す。
ここは言うことを大人しく聞かなければ。
「俺は決して怪しい者ではない。」
「こんな路地裏の、それもダストボックスの裏でコソコソしてるのにか?」
「いや…あれだ。人のゴミを漁ってその人間がどういう生活をしているのかというのを考えて過ごすのが俺の趣味なんだ。」
「めちゃくちゃ怪しいやつじゃん。」
「確かに…」
マズい、テンパるな!
落ち着け!落ち着け!
「変なヤツだなぁ?お前。それに変な匂いがする。人間じゃないみたいだ。でも鬼憑きとも違うなあ?狩人…にしてもなあ?」
俺について色々考えているようだが、すぐに殺されるというわけではなさそうだ。
手は上げたまま、若干だけ顔を後ろのほうに向ける。
ケモ耳だ。
真っ白な髪に手の先の方も白い毛に覆われている。
見た目は結構凝ってるコスプレのケモ耳少女といった感じだが、おそらく下手を売った瞬間殺されるほど実力に差があるように感じる。
目の前にいるのに読む力が一切効力を失ったかのように反応しないのが俺を余計に焦らせる。
「正直に言え。お前、なんでここにいる?」
嘘を嘘と見抜く力はあるのだろうか?
下手なことは言えないが…
「実は…俺、さっきの女の子が好きなんだ。」
「…ロリコンのストーカー?」
大変不名誉だが、少なくても嘘を見抜くような能力とかはないようだ。
いつも通り、テキトーとハッタリで乗り切るしかない。
「ロリコンなんかじゃない。彼女は1個下ってだけの学校の後輩だ!告白のタイミングを見計らってたら変なおじさんが出てきたから…少し様子を伺っていただけだ!」
力説する。
「本当か?なんか嘘をついてる気がするぞ。そんな匂いがする。」
どんな匂いだ!
ツッコミたくもなるが、その耳を見る限り本気で言ってる可能性もあるのかと余計なことを考えてしまう。
「とりあえず俺はただの一般通過ストーカーだ。尾行相手がいなくなったからもう帰るわ。じゃ!」
「待て。」
ですよねー。
「なんでしょうか?」
「おまえ、よく顔を見せろ。」
よく分からない命令がきた。
「見せたらおうちに帰してくれる?」
「殺されたいのか?」
あまりマジマジと顔を見られて覚えられても困るが、仕方がない…。
俺は体をしっかりとそのケモ耳の女に向ける。
その耳や白い体毛に目がいって気にしてなかったが、顔もかなり整っているな。
しかし何だろう?
こいつにも何か既視感が…
「お前、名前を言え。」
匂いだか何だかでこちらを怪しみはするが、嘘と確信を持たれるわけではない。
ワザワザ本名を言わなくてもいいだろう。
「…ユウトだ。天地ユウト。」
何故か偽名を使う気にはならなかった。
「…ユウト…。」
名前がどうしたというのか?
何かを考え込んでいるようで隙だらけだ。
…アカネを呼ぶか?
携帯に手を伸ばそうとしたところで、再び声がかかる。
「ユウト。帰っていいぞ。」
「…へ?」
「なに変な顔をしてる?帰りたいんだろ?帰っていい。」
「…さいですか。じゃ、失礼しまーす。」
気が変わったから殺す
何て言われたら終わりだ。
お言葉に甘えてさっさと帰るとしよう。
頭ではそう分かっているんだが…
「アンタの名前を聞いてもいいか?」
何故おれも聞こうと思ったのか?
そして何故、彼女も答えるのだろうか?
「クロ。私はクロ。」
書いてて気付いたのですが、
読む力が通用しない
の下りのところで、
以前に龍堂菊の感情を読むことができないという描写を入れたのは覚えているのですが、
それの解説として
『龍堂菊が常に結界で身体を覆っている(ためリーディングが防がれている)』
という文言を入れたかどうか激しく不安になりました。
書いてあるとして『ここら辺かなぁ?』みたいなエピソードのとこを探してみましたが見当たりませんでした!
ごめんなさい!たぶん抜けてますね…。
いずれ訂正したら前書きかあとがきの方で報告させていただきます…m(_ _)m




