トリニティ
「馬鹿なっ!?なぜいないっ!?」
部屋中央、鬼憑きを閉じ込めていた球体…結界の中がもぬけの空なのを見て、ババアが強く吠える。
何故いないか?
それはおまえが自分の能力を過信した結果だ。
しかし、ババアまで釣れたのは本当に僥倖だった。
一瞬たりとてユキの姿を見られるのは好ましくないからな。
「俺のせいだ…」
俺は絶望したように呟く。
その言葉に3人が俺の方に向いた。
「闇女だよ。アイツは俺を簡単には連れていけないと理解し、すぐに目的を切り替えた。仲間の回収って目的に。」
「仲間の回収じゃと?」
「ああ。おそらく闇女は最初からどこかであの鬼憑きの様子を伺っていたのかもしれない。『試運転』…みたいな感じかな。俺がアイツを圧倒するのを見て、もう俺を回収しても良いと判断したのかもしれな…」
「ちょっと待って!」
即座に姉さんからストップがかかる。
「俺が圧倒したって…?アカネが倒したんじゃないの?ユウ君は神社に向かう途中で合流したって…」
「あー、それは…」
「ごめん姉さん!それは俺のワガママなんだ。」
アカネが余計なことを言いそうなので即座に噛ませる。
まぁ余計なことというか、俺を庇おうとしているんだろう。
実際に言い出したのもアカネと杏だしな。
「どういうことなの?ユウ君。」
姉さんが少し厳しい目線で聞いてくる。
「アカネが杏さんと話しているのを聞いたんだ。昨夜の事件と、その主犯の討伐依頼について。俺も着いていきたいって頼んで無理やり着いていった。そしてアカネと鬼憑きの戦闘をよく見て、今の俺でも安全に相手を御せると判断して、アカネに頼んで変わってもらったんだ。」
「…なんでそんなことをしたの?」
少し怒っているようだ。
秘密にしていたんだから当然だな。
「いつまでも守られてる気分でいたくなかったんだ。俺も神通力の無力化を鍛えて戦えるようになった。だから、自信を持ちたかったんだ。それに証明したかった。俺も姉さんたちと共に戦えるんだって!」
「ユウ君…」
「だからこれは俺のワガママだったんだ。ごめんね、姉さん。」
若干の寂しさのようなものを感じるが、怒りの波は大分去ったようだ。
「…分かったわ。でも、内緒にしたり秘密にするのはもうダメよ。良いわね?」
「うん!姉さん!」
やはり『俺のワガママ』という形にしたのは正解だ。
アカネのせいだと話したら姉さんが激怒して話が進まなくなるだろうからな。
「話の腰を折ってしまってごめんなさい。闇女がユウ君を回収しようと判断した、そこまで聞いたわね。」
「そうだね。闇女は俺の回収を考えた。でもその場では無理だった。アカネがすぐ傍にいたからだ。鬼憑きを連行してる最中もどこかしらか隙を伺っていたんだろうけど、俺の傍には常にアカネが…なんなら途中からバアさんもいたしな。そしてようやくチャンスが巡ってきた。」
「お主が退室した時だな。」
この中ではババアが一番頭が回るのが早い。
姉さんも賢いが、ババアはワリと頭も回る上、俺と思考が似ることもあるし老獪ってやつなんだろうな。
アカネのオツムは論外だけど。
「そう。あのままでは確実にあの鬼憑きは殺されるが、それでも俺の存在の重視したんだろう。短期間で成長を見せた俺を連れ去るチャンスだ。背後からのスピード勝負で仕掛けてきたんだろうが、想定外なことにその俺に防がれてしまった。しかもアカネや姉さんたちもやって来るから諦めざるを得ない。ならばせめてできることとしてはもぬけの殻になった部屋に向かい、仲間の回収をして離脱。そんなところだろうな。」
「…やはりお主もあの鬼憑きが闇女の手の者かと思うか?」
「思う。俺みたいな例外でない限り、普通は儀式を経て神通力を行使できるようになるんだろ?しかし、あの鬼憑きを狩人側は把握していない。ということは狩人協会以外の手によって神通力を得たと考えるのが自然だ。」
「…それが闇女によって引き起こされたというのか。しかも、ワシの結界も破られた…いや破る必要もない、闇女にとっては有って無いようなものなのかもしれぬな。まことに恐ろしいやつよ。」
部屋中央の全くの無傷である結界を見ながら気落ちしたように呟くババア。
流石はユキだな。
「バアさんの結界も闇女には効かない。それは確かに良いこととは言えないが、考え方を変えよう。効くと思い込んで、大事なときに出し抜かれるよりよっぽど良い。それに、今回あの鬼憑きに逃げられた…いや、連れ去られたのは俺のせいだ。慌てずに闇女の襲撃に対応できたら皆を心配させずに、全てがうまく事を運べていた。ホントにごめん。」
3人の前で頭をしっかり下げる。
「いや、お主の言う通りだ。効かないものを効くと勘違いしていたままのほうが余程危険であった。被害者も全員元に戻せた。結果的に死傷者も皆無。お主が謝ることはなにもない。」
「そうよユウ君!敵の首魁が急に襲ってきたのよ?冷静に対応なんてユウ君でも不可能よ。皆無事で、それで良いじゃない!」
「…ありがとう。2人とも。」
2人に礼を言う。
そして、警戒した。
何故か疑念を向けているアカネを。
「…アカネ?どうかしたの?」
「いや…、」
アカネは姉さんに話しかけられて、何か考えるような仕草を見せるが、頭を振っていつもの様子に戻った。
「なんでもない。ユウトもあんまり気にすんなよ。」
「…ああ。すまんな。」
何に疑念を抱いたのかはハッキリ分からないが、思い違いだと処理してくれたようだ。
アカネは馬鹿だが、俺に関することではたまに妙な鋭さを発揮することがある。
油断はせずにいこう。
その後、俺たちは軽く今日の事を再度話し合って、杏の待つ家へ帰る運びとなった。
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『興味深いことが分かったわ。』
時刻は0時を回っている。
今回は俺からではなく、ユキの方からいきなり回線を繋げてきた。
『何が分かったんだ?』
『少しは驚いてよ…。慌てたユウトも見たいのに。』
文句を言うユキにすまん、と一言だけ謝り、その内容を聞く。
『やはり私や狩人協会とは違う、とある組織が絡んでいるらしいわね。その組織は一般人にもどんどん声をかけていって、使えそうな者を集めているだとか…って話よ。今日の彼もその一環らしいわ。』
『そうなのか。やけに素直に吐いたんだな?あいつ。』
正直、考えなしのヤツに見えたから大人しく従うってところがあまり想像できないが。
俺やアカネがいないのをいいことに、ユキに喧嘩をふっかけて結果殺されかけた…とかなら納得だが。
『ええ。ユウトや龍堂茜にコテンパンにされたのが余程堪えたようね。私を救いの女神だとかなんとか言って全面的に協力するって言ってくれたわよ。ありがとう!ありがとう!って何度も私の両手を握ってブンブン振っていたわ。』
『…ユキの両手を握るだと?やはりぶち殺しておくべきだったか。』
『あらあら。そんなことを言ってはいけないわユウト。彼はもう私の軍門に下ったのだから私の仲間。ユウトの嫉妬はとても気分が良いけれど、ね。』
『…で、その組織はどんなもんなんだ?』
『内部の詳細までは分からない。ただ、組織の人物である1人と接触できるらしいから、そこから話を進めていくのが良いわね。後は…組織の名前。』
『組織の名前か。何て言うんだ?』
『Trinity…。そう呼ばれているらしいわ。』
お疲れ様です。なんとかペースを崩さずここまで書いてますが、来週からは日勤帯なのでまた少し投稿ペースが落ちてしまうかと思います。
子供の入園式なども予定されているので、マジでカツカツな感じになりそうですが、頑張っていきます!!




