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退屈は僕を殺したい  作者: おどろん


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5/55

その女、怪物につき

俺は人混みが嫌いだ。

駅に着くと学校帰りであろう学生や、残業無し組であろう社会人などでかなり混雑していた。

この時間ならしょうがないことだが、なんとなく気分が悪くなってくる。

子供の時からだが、治る気配はまったくないので、そういう体質なのだろう。

『姉さんのお迎え』という何よりも大事な役目を果たすため、俺は約束の時間より三十分早く着いて待っていなければならないのだ。

一本どころか三本早い電車に乗ってこようが間に合うようにするってのが俺の信条である。

目的地である待ち合わせの噴水広場に着いたため、スマホ起動し、猫の動画でも見て時間を潰そうと思ったところで、声をかけられた。


「おおー、ユウト。出迎え大儀である!」

「人違いです。…おおっ!これ猫ミームのやつじゃん。本家はこんな感じだったのか。」


ハッピーハッピーと聞えてきそうな飛び跳ねるニャンコに癒されてテンションが上がっていると、ひょいとスマホが取り上げられた。


「ああ?どこぞのゴミカスだコラ。ぶち殺されてーのか?」

「口悪!?相変わらずつれない奴だな、ユウトは。」


視線を声の発生源に目を向けると、そこには俺の天敵が立っていた。


龍堂りゅうどう あかねだ。


「なんだアカネか。ひさしぶり。スマホ返せ、そして帰れ。」

「あたし相手にそこまで尊大な態度を取れるのは後にも先にもお前だけだろうな。ご褒美としてお前の待ち受け画面を神楽からアタシのおっぱいが見えそうな際どいサービス写真に変更してやろう。」

「おい!どんな罰ゲームだ!」


姉さんの超ぷりてぃな写真を変えられる上に、その下品なムネニクをスマホの起動画面に設定されてはたまらん。

それに、万が一姉さんに見られでもしたら…


「…一応、異性に告白された数ならお前の倍くらいはあるはずなんだけどな。」


なにやら訝しむような視線を向けられる。


「いいかユウト?そもそもアタシほどの超絶美人が同世代の男を気に掛けることなんて滅多にないんだぞ。用事があるとでも言うならまだしも、用もないのにあたしから積極的に話すのなんてユウトくらいのもんだ。どうだ?うれしいだろ?興奮するだろ?エッチなことしたいと思うだろ?どうしてもって言うなら、今夜に夜這い…」

「断る。」


もうすでにめんどくさい展開になってしまっているが、これ以上ズルズルいかないように即座に拒否する。


「よしわかった。チューしてやる。」

「断る。さっさとスマホ返せ。」


とりあえず、こいつが何もわかってないことだけは分かった。

しかも無駄に見てくれだけは本人の言うようにかなり整っているため、有象無象からの視線も増えてきてかなりうざい…。

大半はアカネに対する羨望、もしくは劣情で、それに次いで俺に対する嫉妬。

こいつといると必ず悪目立ちしてしまう。

特に嫉妬心に関しては本当に厄介で、茜の場合、男はもちろん女にもモテまくるせいで、以前でも上級生の女に呼び出しを受けたこともあったくらいだ。

もちろんゴミの呼び出しなど無視したが。


「まったく…本当に素直じゃないな。子供のころはあたしとよくチューしてたろ?『アカネおねーちゃんと結婚するー!ちゅーっ』って。」

「そのような事実はない。勝手に歴史を捏造するな。」


馬鹿なことを言っているアカネの手からスマホを取り戻そうと素早く手を伸ばすが、やはり躱されてしまった。

こいつの反射神経、というより身体能力全般異常だ。

神童と言われる俺でもかなり苦労させられている。

オツムのほうはまったく大したことはないが。


「キスしたら、スマホを返してくれるのか?」


ぐいっと、アカネの整った顔の前に急接近して目をそらさずに言う。


「…ユ、ユウト…、本気…なのか?」


今だ!確実に動揺したところで全力で手をスマホに伸ばす。…が、


「残念でしたー!ちゅっ♪」


バカげた速度で反応、躱された上にカウンターでキスを頬にお見舞いされそうになるが、なんとか回避して距離をとる。


「流石、あたしの見込んだ男だ。あたしのチッス攻撃を躱すとはな。」

「こっちのセリフだ、この怪物め。さっさとスマホを返さないと、どうなっても知らんぞ。」


姉さんを除けば、ここまで俺を(ある意味)本気にさせるのは後にも先にもアカネぐらいだろう。

ここからは持久戦だ。

今日という今日こそ、この淫乱ゴリラを屈服させて俺と姉さんとの愛の巣(我が家)から追い出してやる。


「…いいねぇ、その顔。ゾクゾクしちゃうよぉ…。」


何故か悶え始めたバカを打ち倒すため、拳を構えたところでまたお呼びでない客が来た。


「ちょっとおねーさん、すっごい美人だねぇ!俺たちと遊びに行かないかい?」


見るからに頭の悪そうな二人組の男が茜に話しかけてきた。

見たところ20代前半と言ったところか。


「なぁに?ひょっとしてナンパぁ?今取り込み中だからまた今度ねぇ~。」


手をシッシ、と虫を追い払うかのようにして顔すら見ようとしない茜。

すごくらしい対応だ。

しかし男たちはまったく気にしていないようで、茜に近づいていく。

おそらくこいつらは、そもそも相手の意見なんて気にしないやつらなのだろう。

これまでも嫌がる女に声をかけ続けてきたであろうことは容易に想像できる。


「いいじゃんいいじゃん♪強気な美人、ってとこがまたそそるねぇ。」

「はぁ~…。あのね、あたしは彼ピといちゃつくのに忙しいの。あんた達みたいなどこぞの馬の骨とお遊びしている暇なんてこれっぽっちも無いの。わかる?理解できる?」


心底呆れたという様子で盛大にため息を吐きつつ、ようやく男たちを一瞥する茜。

死んだ魚を見るような目ってやつだ。

しかし、男たちに顔を向けたのは逆効果だったようだ。


「うわ…。激マブ…。」

「やっべ、過去一でかわいいよ!おねーさん!もっとたくさんお話しようぜぇ!」


先ほどと同様、茜の話はまったく聞いていないようで、怒るどころか茜にメロメロで全然堪えていない。


「ってか誰が彼ピやねん。」

「…あっ?何だお前?」

「…このガキ、弟かなにか?」


…しまった。こっそりフェードアウトする大チャンスだったのに、芸人の性でついツッコミをいれてしまった。

片方は俺を睨みつけ、片方が茜に問いかける。

せっかく馬鹿どもの興味の外にいたのに一気に注目されてしまった。


「あたしの彼ピに文句でもあるのか?」


呆れを通り越して怒りの感情が見え始めるアカネ。


「マジぃ?こいつ学生だろぉ。」

「おねーさん歳下好きってやつ?」

「だから彼ピじゃねーよ。」


というかやっぱりこいつら…


「学生の何がいけないのよ。アタシだって学生よ。それに歳下好きってのも間違い。アタシはユウトが好きなだけで、別に若い男なら良いってわけじゃないのよ、おっさんども。」

「えっ!?君学生だったの!?すげー大人びて見えるね!」

「全然同い年くらいかと思ってたぜ…。」

「おまえらそれ死亡フラグ…」


本人たちからすれば、おそらく貶すどころか褒めたつもりだったのだろう。

しかし茜には逆効果だ。

可愛いというよりは完全に美人タイプで、初対面の人間にはほぼ確実に学生と思われない茜は、歳相応の扱いをされないことを結構気にしている。

制服を着ていないときは、基本ゆるふわ系?の服を着ていることが多いが、残念ながらとても似合っているだけで、若く見られることは皆無。

その反動か元々の性格かは知らないが、部屋に置いてあるものもぬいぐるみや、フィギュアなどがかなりのスペースを占めている状態だ。

そんな茜に『若く見えない』的なことを発言してしまった哀れな男たちは…


「殺すぞクソどもが。」

「ん?…ぐぁあ⁉」

「ギャアア‼」


振り向きざまに二人とも綺麗に鳩尾に一発ずつ食らって崩れ落ちた。


「ふんっ…!せっかくユウトとイチャラブしてたのに水を差しやがって!」


恐ろしいやつだ。

こんなチンピラ程度はともかく、恐らく格闘家なんかを連れてきたとしてもこいつには勝てないんじゃないだろうか。

掌底が早すぎて避けるどころか、ガードするので手一杯だろうな。


「そもそもの話だが、姉さんは一緒じゃないのか?二人で帰ると聞いていたが。」


茜と姉さんは変わった仕事をしている。

この街には『龍堂神社』という由緒正しく全国でもかなり有名な大きい神社がある。

その名前の通り、アカネの実家に当たる。

アカネの祖母に当たる龍堂 きくというババアが実権を握っているのだが、この界隈では相当名が知れているようで、高そうなスーツを着こなす壮年の男たちが揃って頭を下げている姿はガキの頃によく見た光景だ。

そんな凄いばあさんが『神の遣い』という表現を用いるほど才に恵まれたらしいのがアカネで、神社ということで当然、祈祷やお祓いといった神事を生業としているのだが、アカネはそれを手伝っている。

そしてアカネの幼馴染である姉さんも、ばあさんの御眼鏡にかなったようで、アカネと一緒に仕事をしているというわけだ。

今回の仕事も遠方でのことで、言わば出張ってやつだ。

かなりの大仕事だったらしく、2週間も姉さんと会えなくなるのは本当に地獄の日々だった。


「神楽は新幹線に乗る寸前に、酔いつぶれてたっぽいおっさんを介抱してた。」

「…お前は?」

「めんどいからパスだ。昼間っから呑んだくれてる小汚いおっさんなんて助ける価値もないだろ。」


…まぁ、ここにいる段階で聞かなくても分かってはいたが、その意見には完全同意だ。


「姉さんもこんな友達甲斐の無いやつが幼馴染でかわいそうだな。」

「何を言う。神楽はそんなやつでも助けたい、アタシは助けたくない。お互いの気持ちを理解しているからこそ神楽は『先に行って』と言い、あたしは『わかった』と告げた。親友だからな。」

「親友なら共に行動するもんだろ?」

「碌に友達がいないユウトがそれを言うのか?」


これは痛いところを突かれてしまった。

友人と呼べそうな存在が同学年というかクラスメイトで二人しかいないような人間が、親友の定義を語るなど滑稽なことだ。


「ちなみにユウトが望むなら彼女はすぐにできるぞ?可愛い可愛い幼馴染のアタシがな。あの掲示板を見ろ!あのアイドルよりアタシの方が可愛いだろ?なぁ?なぁ?」

「はぁ…」


早く姉さんに会いたいなぁ。


アカネを無視して姉さんの姿を妄想していると、ふと違和感を感じた。

なんか静かだな?そうアカネに問いかけようとしたが、いつの間にか目の前にいたはずのヤツは消えていた。

というか、


「…だれもいない?」


つい先ほどまで話していたアカネも、アカネによって地面を舐めていたはずの二人組も、駅周辺にごった返していた人間すべてがそこから消えていた。



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