頑固な老人はとにかく人の話を聞かないものだ
お疲れ様です。
投稿のペースがなかなか掴めず、前回の投稿から結構時間がかかってしまいました。
夜勤で時間がないなか、無駄にこだわりだけは強いので納得のいく文章を書けないとひたすら書き直し…という感じです。
ま、でもそういうものかもしれませんね。
とりあえず、頑張っていきます(笑)
よろしくお願いします。
「婆ちゃん、はいるぞー。」
ガサツ女子代表のアカネは返事が来る前から扉を開ける。
「これアカネ。部屋の主の許可を得る前に開けるとは何事じゃ。」
「かわいい孫なんだから許可なんか要らないでしょ、婆ちゃん。今日は大事な話をしに来たから聞いてほしいんだ。」
アカネがそう言ったところで、俺を除く他2人が入り口に立つ。
「お久しぶりです、菊お婆様。失礼しますね。」
「失礼いたします。」
姉さんと杏も声をかけて入室していく。
「おお。おぬしたちもおったのか。アカネが迷惑をかけていないか?東北の件はご苦労じゃったな、神楽よ。杏は…相変わらず背が伸びんの。」
「いえ、アカネには今回も助けられました。まだまだ努力が足りないと痛感しています。」
「菊お婆様!身長はちゃんと伸びてます!去年に会ったときよりも…3mmも伸びてます!」
会話を聞く限りではババアの機嫌は良さそうだな。
俺を警戒していない…というよりはそもそも気付いてもないからか、ババアから穏やかな感情が伝わってくる。
この雰囲気のまま進めたい。
「失礼します。」
会話のキリが良さそうなところで声をかけて入っていく。
アカネが左に、姉さんと杏が右にずれて俺が真ん中、机を挟んでババアの正面に立つ。
「…お主か…。」
明らかに『望まれざる客』といった様子だ。
そしてババアから発せられていた感情もスッカリ身を潜め一切感知できなくなる。
杏だけはキョトンとしていたが、アカネと姉さんは俺とババアの微妙な距離感に慣れているため特に気にしている様子はない。
アカネが話を続ける。
「婆ちゃん、ユウトのやつが力に目覚めた。それも『あの人』の…、ニュートラライズだ。」
「ふっ、久しぶりに顔を出したかと思えば下らんことを…。大事な話があるのならさっさと本題に入りなさい。」
アカネの話を鼻で笑うババア。
孫だというのにまるで信頼がない。
いや、この場合は俺が原因か?
「それが菊お婆様。本当のことなのです。」
「そうですよ。アカネの口元を良く見てください。」
「お主たちまで…何かの悪ふざけか?良く見ろと言われても最近は視力も大分落ちてな…。」
そうぶつくさ文句を言いながら立ち上がってアカネに近づいていくババア。
そして、昨日切った口元をその目で確認すると訝しんでいた表情から驚愕の表情へと移り変わる。
「アカネが怪我だと…、一体どういうことだ…?」
「ボケたのか?婆ちゃん。ニュートラライズの力だって言ったろ?」
「ふざけるな!信じられるか!そんなこと…」
そう叫び、俺に向けられる視線。
感情を読めなくても分かる。
その目には恨みや憎しみ、怒りのようなものが多分に含まれていた。
「菊お婆様。昔から聞こうと思って聞けなかったことですが、ユウくんが何か失礼なことでもしてしまったのでしょうか?向けられる視線が、その…少し厳しいもののように思うのですが…。」
姉さんがそう尋ねる。
しかしババアには聞こえていないのか、
あるいは答える気がないのか。
「何故こんなヤツに…」
と憎々しげに呟くのみだった。
姉さんの問いには答えることなく、30秒ほど無言の時間が続いた。
「こうなっては仕方がない。これ以上厄介なことになる前に…」
始末しなければ、
とでも続いたのだろうか?
分からないが、アカネによりババアの言葉は中断される。
「婆ちゃん。本題はここからなんだ。」
「…なんじゃと?これ以上重要な話があるというのか?」
呆れたように、疲れたように言うババア。
「一昨日、ユウトが闇女と接触した。」
途端にババアの顔から表情というものが全部抜けて、まさしくボケた老人の如き顔をしている。
「流石にそれは嘘じゃろ?」
発言したアカネではなく、姉さんと杏のほうに尋ねるババア。
杏は黙って首を振った。
「全て、本当のことなのです。菊お婆様。」
姉さんが淡々と事実を述べると、ババアはがっくりと項垂れた。
「…接触したというのはどういうことじゃ?命からがら逃げおおせたということか?」
「最初からお話しさせていただきます。」
姉さんは昨夜3人で話したことを順に話し始める。
本来であれば俺が説明すべきことだが、俺の話しをババアがまともに聞くとも思えないし、姉さんもそれを察してくれているのかもしれない。
ババアの態度はムカつくが、とりあえず姉さんに任せよう。
「…ということなのです。他の狩人から極力目が向けられない場所で、この子に特訓をさせたいと考えています。その許可と確認を取りに本日は参りました。」
「…なるほどな。確かに判断が難しいところだ。ここまで重要な件だと分かっておればむしろ昨夜のうちに来てほしかったものだがな。」
聞いて間もない内から小言を言い始める。
今すぐにでも老衰でポックリ逝っちまえば話も早いんだが。
「とにかく話は分かった。だが特訓の件は認められない。」
「それは…何故でしょうか?」
すかさず姉さんは問いただす。
昨日のやり取りを踏まえた今、はいそうですかとなるわけもない。
「闇女がコヤツに何らかの利用価値を見出だして見逃したと言うなら、ワザワザ思い通りに成長させる必要などない。むしろ交渉材料として有効に活用すべきだ。」
「交渉材料…ですか?」
「どういうことだ?婆ちゃん。」
姉さんとアカネが尋ねるが、杏が言葉を続けた。
「…ユウト君を闇女に対する取引材料にするということですか?彼が欲しければ言うことを聞け、とか。」
「そういうことだ。そこまで上手くいくとは思っていないが、運が良ければ人質として使えるかもしれん。わざわざ殺さずに送り届けてきたことを考えると、少なくてもコヤツを生かしておきたかったというのは間違いないはずじゃ。」
「…人質?ユウ君を…?」
姉さんに不穏な空気が流れる。
「人質っても、実際どうするんだ?婆ちゃん。」
「コヤツをこの神社にて幽閉する。ワシの結界にて空間ごと隔離し、その後の維持はアカネによって24時間体制で管理する。闇女が神出鬼没であるといってもワシの結界に外から入ってくるのは不可能。痺れを切らした闇女が現れたところでそれをアカネが討伐する。それが無理なら…コヤツを殺されたくなかったら今後人間を襲うな、とでも言ってみるのも手だ。」
今度こそ姉さんが、そして杏も声を荒げる。
「…菊お婆様、その発言は看過できません!ユウ君を幽閉だなんて!あまつさえ脅しの道具にするなんて!」
「私もです!ユウト君は特別な才能を持っています!ニュートラライズだけじゃない!頭の回転も身体能力も一般の比ではありません!幽閉などと言わず、協力して闇女を討伐すべきです!」
「………」
2人で俺を守ろうとしてくれているようだが、アカネはだんまりだ。
単純にババアの言うことが絶対と思っているためなのか。
あるいはアカネは考え方、思考パターンが俺にわりと近い。
そのババアの使えるものは何でも使うべきという考え方に普通に同意している可能性もある。
俺の考え方もそうだからだ。
その幽閉なり人質なり交渉の道具に成り下がるのが俺自身でなければ必ず賛同していたと言っても良い。
「なあ、婆さん…」
「お主は口を開くな。これは決定事項だ。」
このクソババア。
マジでぶち殺してやりたい。
「菊お婆様。ユウ君を幽閉するというのはご再考いただけないでしょうか?その話を呑むことは、私にはできません。」
「神楽。ワシはこれでもお前に配慮しておる。幽閉などと回りくどいことではなく、始末して餌として使うこともできると考えておるからな。」
「お婆様!」
「その後やることは一緒だがな。コヤツの死体をワシの結界に隠し、ノコノコ現れたところでアカネが討伐する。万が一出し抜かれてコヤツを持っていかれても既に死体。闇女の思い通りになることはない。かなりの安全策じゃ。」
相変わらず分かりやすいというか、全くもって合理的だ。
その後も話し合いは続いたが、頑ななババアの意見を変えさせるまではいかない。
このババアは多分、姉さんや杏が何を言おうと意見を折る気はないだろう。
…この間ずっと黙っているアカネがキーになりそうだが。
そのアカネも、考えが纏まったのかついに口を開く。
「婆ちゃん。アタシもユウトを閉じ込めたり、殺すなんてことはしたくない。婆ちゃんもあの力の凄さは知っているだろ?どう考えてもユウトを育てて…闇女はもちろん、以降出てくる鬼憑きも一網打尽にできるようにしておけば一番良いんじゃないか?なんだか慎重すぎないか?いや、何かを恐れているようにも見えるんだけど。」
「………」
アカネの言葉にババアが黙り込む。
「菊お婆様?何かあるというのなら教えてください。」
「私も教えてほしいです。ユウト君を閉じ込めておかなければならない何かがあるとでも言うのですか?」
すかさず姉さんと杏が追撃する。
「お主たちに言うことは何もない。コヤツに何かしてやることなどないし、することも許さん。」
理由を話す気はないようだ。
黙ってはいたが、ガキの頃から目の敵にされていた理由が分かると思って少し期待したがダメだったようだ。
さて、ここからどうするか。
おそらく立場的にはこの3人はババアの決定には基本逆らえない。
つまりこの場にいれば俺が幽閉されることが決まってしまう。
逃げたところでアカネからは逃げきれるとは思えないし、姉さんに関しては俺を助けてくれるだろうが、それ自体が問題だ。
狩人協会に反逆する裏切り者、なんて扱いになってしまえば、今後どうなってしまうか分からない。
だから姉さんにそんなことはさせられない。
ここはやはり、メグに連絡して鬼憑き側にババアをぶち殺して貰うのが最良か。
それで問題となるのはアカネだが、その前にババアの言っていた『外から入ってくるのは不可能』と言いきっていたのも少し気になる。
ただ自信があるだけか、あるいは何かアカネの絶対的な力のような、何か根拠のようなものがあるのか。
ババア、おまけにアカネを制したとしても俺が永遠に『外』に出れないなんてことになったら何も意味がない。
となると、時間稼ぎが必要となるがその場合もやはり姉さんが…
「婆ちゃん。婆ちゃんがユウトをどう思ってるのかは知らないが、やはりアタシは反対だ。」
期待はしていなかったが、アカネからの助け船が出される。
「ワシの決定に逆らうのか?アカネ。」
「ああ。アタシはユウトと共に戦って闇女を倒す方向で動く。」
おそらく狩人の組織、その日本でのトップの地位にいるのがこのババア。
そしてそれに所属する最大戦力がアカネという形式、つまりは上司と部下であるのは間違いないはず。
意見が割れる時はどうしているのか?
「どうしてもユウトを捕まえたいってなら、アタシをどうにかしないとだぞ。婆ちゃん。」
「アカネ…あなた…。」
「アカネ…見直したわ。」
「ゴリラ…」
「いや、そこはアカネって呼べよ。」
シリアスな空気が強くなってきたのでワンクッション置いておこう。
「…分かった。アカネが本気だというのならそれをワシに止めることはできん。ただし、我を通すというのなら当然責任が問われる。闇女の討伐、くれぐれもしくじるでないぞ。」
「分かってるさ。婆ちゃんは安心してここでお茶でも啜ってればいいさ。全部アタシたちに任せろ。」
アタシたち、という言葉を発して俺たち3人を見渡すアカネ。
強く頷く姉さんと杏。
とりあえず、囚われの姫になる寸前だったが
アカネの鶴の一声により、危機は一旦回避されたのだった。




