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退屈は僕を殺したい  作者: おどろん
第一章 退屈からの脱却

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3/81

良き教師とは、面倒なものである(俺談)

5/2

テコ入れしました。

馬鹿2人と連れ歩き、教室からは程々距離のある職員室にたどり着く。


「失礼します。」


2回ノックした後、もはや慣れてしまったドアをスライドさせる。


ガラっと開かれたドアに目を配る一部の教師たち。

しかしその視線はドアを開けた俺たちを一瞥するとすぐに自分のデスクモニターへと視線を戻した。

教師たちから見ても『よくある光景』というわけだ。

この学校には真面目な教師が多い分、職員室はいつも静かなことが多い。

それに加え、新学期が始まったばかりだし、仕事も立て込んでいるのかもしれないな。


キーボードを叩く音だけが聞こえる教師たちの拠点に侵入していく。

最短距離を進んでいき、1人の教師の前に辿り着く。


「おっす。オラユウト。オメェがオラ達に話があるみてぇだな?」


数学教諭の鈴木…ではなく、その隣に座る俺のクラス担任、斎藤(通称オッサン)に話しかけた。


「全然似てねーぞユウト。」


「ユウト君は声低めだし、あの声は出せなくてもしょうがないよ。次は頑張ろう♪」


俺の場を和ませるジョークに茶々を入れるバカ共は放置し、目の前の担任に目を向けると、そのオッサンはそれはもう深いため息をこれでもかと吐き出した。


「おいコラおっさん、タバコ臭い息をまき散らすな。そんなんだからモテねーんだぞ。」


ハヤテからのダメ出しが入る。


「余計なお世話だ‼俺は仕事に生きるんだよ!」


心にも無いことを言い放つおっさん。

本心では隣の席に着いている鈴木にベタ惚れしているくせに、仕事が好きですアピールをすることで鈴木の気を引けると思っているからだ。


ちなみに鈴木が仕事人間が好きという情報を授けてやったのは俺だ。

まったくの出鱈目だがな。


「えー。先生まだ若いのにもったいないよー。その髭剃ったら結構マシになると思うんだけどなぁ。」

「俺もオッサンの顔は悪くはねーと思うぞ。」


バカ二人から謎のフォローが入ると『えっまじ…?俺、イケてる?』などと一瞬で調子に乗っていた。


そういう感じでオッサン+2名でワイワイ話していると、


「おまえたちは中学校卒業時に常識や礼節というものを忘れてきたのではないか?斎藤先生も。簡単に生徒達のペースに飲み込まれないでください。」

「も、申し訳ありません…。」


年下の女、それも惚れた相手に必死にペコペコしている。

オッサン、実に哀れである。


「お前たち、何故呼び出しを受けたのか。きちんと理解しているのか?」


俺たちにを見据え、そう発言する。


「はい」

「うーい」

「ごめんなさい、バイトがあるんですけどどれくらいかかりますかね、これ。」


始まりの言葉とは裏腹に、ある意味最も喧嘩を売っているのはハルカだ。

ちなみに悪気は全くない。

時計をチラ見したときに意識がバイトに、正確に言えば店長に叱られることにシフトしてしまったのだろう。

こいつは集中するのが苦手だからな。


「磯部、お前は次回の宿題を倍にしてやるから覚悟しておけ。」

「ええっ⁉そんなご無体な‼」


わかりやすく落ち込むハルカ、それを横目にククっと笑うハヤテ。


「お前も…と言いたいところだが、お前は宿題をまともにやってきた試しがないからな…、()()相撲部に放り込むか。」

「それだけはマジで勘弁してください本当に申し訳ございませんでした。」


速攻で態度を改めるハヤテ。


本人にも聞こうとしても断られたが、噂によれば1年の時に悪事を働いて、ブちぎれた当時担任の鈴木が『相撲部1日入部の刑』とやらを執行したらしい。


その影響かどうかは知らんが、しばらく『肉…汗…漢……』などと、意味不明な独り言をつぶやく様子が複数の生徒に目撃されたという。


「そしてさらに対処に困るのがお前だ、天地」


ジトっとした目でこちらを睨んでくる年上美人。


「美人の先生にそんな強く見つめられたら…照れちゃうよぉ。」


モジモジと身体をくねらせて言ってみる。


「お、おい!何言ってるんだおまえ!」

「やはり、そうなんだな…お前。」

「むむむ…!」


焦るオッサンと納得した風のハヤテ。

ハルカだけは何やら唸っていたが、無視無視。


「バカかお前は。…おまえは一体何なんだ?」


「年上で美人で寡黙とか超タイプです。タバコが嫌いなのも高得点ですね。」


「お前の好みなど聞いてない。おまえは何なんだと、そう聞いている。」


即座に切り捨てられる。

ちなみに『タバコが嫌い』という情報も初めて耳にしたであろう一部教師たち(特にオッサン)は酷く狼狽していたが、それも無視だ。


「何なんだって言われても抽象的過ぎませんかね?俺は勉強はできても哲学みたいなのはあんまり知識も興味ないんですが…」


「お前はまともにノートも取らなければ、須藤と一緒になって悪ふざけしたり、本当にいつ勉強しているのか甚だ疑問だ。授業もまともに聞いてないやつが、家で復習…なんてこともないだろう。なぜそれで入学以来、いや入試含めこれまでの全テスト、全教科満点など可能なのだ。お前の存在はもはや努力に対する冒涜と言っていい。」


「失敬な。学校では友人とおチャラけているだけで、家で泣きながら努力しているんですよ。それもこれも、先生。あなたに、振り向いてほしいから…。」


できるだけ真剣な顔つきと口調で、鈴木の目を見つめて言ってみた。


「なら真面目に授業を受けるところから始めろ。」


これも一瞬で玉砕、釣れない美人さんだこと。

呆れた様子で言うが、すぐに真面目な表情でまた彼女は言葉を続けた。


「お前は、運動能力、そして学力。頭の回転速度もだが…、群を抜いて優秀だ。私も幼少期は才女などと言われていたこともあるが、お前と比べればまさに月とスッポンというやつだろう。」


「急にどうしたんですか先生。そんなに褒めちぎったって俺の先生に対する好感度はとっくにゲージを振り切ってますよ。」


真面目な話をされるのは面倒なのでふざけ倒すつもりだったが、彼女はもう無視することにしたようだ。


「こういう言い方は、教師として…良くないことだと思うが、おまえは努力をしているようには見えない。」


こちらの言動はスルーした上で申し訳なさそうに、しかしはっきりとそう言った。


「してないですよ?」


何が言いたいのだろうか?

努力なんてなにも面白くないことを俺がするわけないだろう。


「それがおかしいと言っているんだ。ほんの一握りの才能に恵まれた人間が、誰よりも努力をした結果として、お前のようになるなら分かる。それでも信じられないほどだが…。しかし、お前は才能に胡座をかいているだけで、特に何かしているわけでもなく、その才能を欠かすことなく発揮し続けている。お前の存在は努力を、過程を否定している。」


長々と失礼なことを言われた気がしたが、才能の無駄遣いとでも言いたいのだろうか?


「ま、ユウトは天才だとか超人とか言われるやつらが尻尾巻いて逃げる変人だからな。」


「たしかにユウト君ってなんでもできるし、すごいよねー。超人類って感じ。」


「おまえたちは黙っていろ。」


チャチャをいれる二人を黙らせる鈴木。


「逆に先生に聞きたいんですが…、」


なぁなぁで終わらせるのは難しそうだ。

面倒だが仕方がない。


「言ってみろ。」


「人が努力をするのはなぜでしょうか?」


「………?」


問いに対し、黙り込んで俺の目を見てくる。

教師として、真剣に答えようとしてくれているのだろう。


真面目な人だからな、無駄なのに。


やがて自分なりの答えを出せたのか、こちらに向き直る。


「…人には目標がある。希望とも言えるな。学校で言うならば、テストで良い点数を取りたい。スポーツで1番になりたい。良い成績を修め、有名な大学へ進学したいなどと様々だ。人生という枠組みで見ても、将来やりたいことを叶えるために学生でなくなってもその目標を達成させるために人は努力をする、努力し続ける。要は、自分の理想に近づくためというのが、1番の理由だろうな。」


「ありがとうございます。よくわかりました。俺としても大体同意見ですね。それでは、さらにお聞きします。俺が努力をしないといけない理由はなんですか?」


「なんだと?それは…」


それは、おまえだって同じだろう


おそらくはそういう類いの言葉を続けようとしたのだろうが、そこで言葉が止まった。


なるほど、やはり優秀だな。

こちらの言いたいことは伝わったようだ。


「…お前は今、努力をしなかったところで、将来なんでもできるし、何にでもなれる。そう言いたいのか?」


と思ったが、的外れとまでは言わないが若干ズレている。


「俺には目標が、目指すべきものが無いんですよ。先生が今言った『なんでもできる、なんでもなれる』っていうのは、あくまで目指すものがある場合の話です。俺にはやりたいことも叶えたい夢なんかもない。目標を達成するというのは『それ』を欲して、しかし手にしていない者が先生の仰る通り『努力をして手に入れる』ことです。俺はもう全てを持っていると同時に、全てに興味が無いんです。そんな俺に何を努力しろと言うのは無駄でしかないと思いませんか?」


こちらが再度問いかけると、半眼でこちらを呆れたといった様子で答える。


「…傲慢という言葉ですら躊躇われるほどの自信だが、お前は世界をなめすぎだ。お前にも得手不得手があるはずだ。その部分を改善しようなどとは考えないのか?」


「おれの不得手?それは何ですか?」


とても興味がある。


「……人間関係とか?」


「なんで疑問系なんですか。それは得意とか不得意じゃなくて、どうでもいいヤツばっかりだからですよ。嫌いな相手はもちろん、どうでもいい人間に対して関係を構築したところで無駄でしかありません。この学校…というより同学年の子供たち相手ではしょうがないとも言えますが、相手にする価値は有りません。得るものなんて何一つとして無い。」


「…まるで、自分は子供ではないとでも言いたげだな。子供はみんなそう言うものだ。それに人間関係というのは別に損得だけのものではない。その時に得るものが無いとしても。いつかそれがかけがえのない物になる。そういうものだ。」


「俺のかけがえのないものは姉だけであり、従って姉の交遊関係にある人間に以外に興味ありません。」


きっぱりと答えるが、彼女はまだ続けようとする。


「とは言っても、そこの二人だって元々姉の知り合いだったというわけでもないだろう?」


バカ2人を指差す鈴木。

いい加減しつこいな、このメス豚め。


「たしかに二人は特別ですね。素直なところが評価できます。人間っぽくないんですよ。言ってしまえばペットみたいな感じですかね。」


「おい、あんまり褒めるなよ。」


「テヘヘヘ…」


「いや、多分バカにされてるぞ?」


最後にオッサンがボソッと突っ込んだが、当然スルーだ。


「友人をペット呼ばわりとは感心しないな。」


「逆ですよ逆。言ってしまえば俺って人間不信みたいなものなんですよ。ペット感覚とは言いますが、俺にとってそれは誉め言葉に近いですね。動物は嘘を言わない。本能のままに行動する。かわいいじゃないですか。それに比べたら人間なんてものは平気で嘘をつく。妬み、嫉み。友人と呼ぶ存在にすら本心を隠し、なんなら裏切る者さえいる。天と地の差ですよ。こいつらは俺を裏切らない。それが分かっているから付き合ってるんです。」


「かと言って自分から敵を作る必要もないだろう?お前相手に取り繕ってもしかたないからはっきり言うが、クラスの人間から嫌われている自覚ぐらいはあるだろう?あれはお前が他者に対してほんの少しでも思いやりをもった行動や言動に改めればすぐにでも改善されるはずの問題だ。」


「先生。二度同じことは言いたくないんですが、『それら全て』をひっくるめて興味ないんです。どうでもいいんです。俺を嫌おうが、妬もうが、逆に好かれようがね。俺はこの学園生活、姉と姉友人、それから…まぁこの二人がいればそれで基本大丈夫なんで。もういいですかね?」


もう帰らせてくれ、今日は姉さんがやっと帰ってくるんだから。


「お前はいいとしてもだ。その二人はどうなる?磯部に関してはクラスにも友人もいるからいいとして、須藤のほうはそうもいかない。ただでさえクラス、というより進学校のうちから浮いた存在なのに、クラスメイトと険悪なお前とばかりつるんでいたらより悪い影響を受けるだろう。改善できる人間関係の問題を放置して数少ない友人が傷ついても構わないのか?」


何を言うかと思えば本当に下らん。

感情論に頼るようでは議論は終わりだ。


「おまえ、嫌われて傷ついてるのか?」


本人(ハヤテ)にふってみる。


「いんや?」


間の抜けた返事だ。

実際、舐められて腹が立つことがあっても傷つく、なんて繊細なハートとは無縁なやつだからな、コイツは。


「と、いうことですよ、先生。少なくてもこの馬鹿に関しては問題なし。ハルカに関しては…、まぁ俺らじゃなくてもちゃんとした友人もいるし、俺らが無理に絡んでるわけでもない。引き離したいなら直接、ハルカに言ってください。屑共と関わると損するぞってね。」


「私は!そんなつもりでは…」


「では!俺たちはそろそろ失礼しますね。大分時間も掛かってしまいましたし、ハルカもバイトもあるみたいですし、俺にも予定があるんですわ。」


いい加減にお説教は切り上げさせてもらおう。

この女は歳の割に頑固というか、真面目が過ぎる。

こっちを真剣になんとかしようと考えてるからこそなんだろうがな。

それはもはや大きいどころではなく、巨大なお世話である。

両隣の二人を促しつつ背を向けてその場を離れようとするが、


「待て天地!まだ話は終わってないぞ!」


真面目で生徒想いの教師であるからこそ、女はまだ続けようとする。


「強いて言えばですが、もし俺や俺の懇意にしている人間に害を加えようとしている馬鹿がいるのなら、その人間にはたっぷり自分の愚かさを味わってもらうだけですよ。昨年、この学校から去った長谷川先生のようにね。まぁあんな愚かな教師とも呼べない無能なクズは消えて当然としても、ただでさえ人員不足と言われる業界ですし()()()()()気をつけてください。では、失礼します。」


あえて、目の前の鈴木ではなく職員室全体に聞こえるように言った。

別に、バカを追い出すだけなら問題ないが、シンプルに労力をかけたくないため、釘を刺しておく必要があるからだ。

とはいえ、新任の教師以外は()()()()()できちんと学んでいるだろうからおそらく問題ないだろう。

新任は基本、一年生クラスを担当するとのこと(オッサン情報)なので、気にしなくていいだろうしな。


「お、おい。天地…」


オッサンが俺を諫めようとしているのか、話しかけてきたがここも無視でいい。


ハルカだけが、ごめんね

という様子でオッサンに両手を合わせて軽く頭を下げていた。


ようやく無駄で無意味な時間が終わった。

まったく…、退屈とは手強いもんだ。

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