退屈な日常
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ルビ振り調整、各所訂正行いました。
何か違和感や間違いに気付かれた方は是非教えてください。
「うるせぇ‼」
ギィ!
と大きい音を立てて椅子から急に立ち上がったその男は叫んだ。
「授業中の教師に対し、うるせぇ、とはな。さっきまでふてぶてしく寝ていたと思ったら…、須藤。おまえの授業態度や成績に今更注意する気も無いが、授業の邪魔をするというのなら今学期の数学評価は『1』だ。」
教師の最後通告により、その男は現在の自分の状況を理解したようだった。
「まだ今学期始まって1週間も経ってないじゃないっすか⁉す、すんませんっした…。」
頭を掻きながら納得のいかないような表情をしつつも着席するそいつは須藤颯。
金と黒が入り混じるソフトモヒカンがトレードマーク(自称)のいわゆる不良というやつだ。
友人…というよりは悪友と言ったところか。
ひとつ前の席のクラスメイトだ。
周りからクスクスという笑い声が漏れる。
純粋な笑いと、確かな嘲笑が入り混じっていた。
数学女教諭こと鈴木恭子は呆れたようにため息をついて、また黒板にチョークを走らせながらつまらない授業を再開したのであった。
教師と言ってもまだ若くおそらくは20代後半と言ったところか。
黒いショートヘアーで最低限の身だしなみレベルの化粧、飾りっ気はないが整った顔立ちも手伝って校内でもかなり目立つ存在だ。
美人なので学校の男子生徒、いや男性教諭含めかなりの人気があるが、未だに彼氏の影も見えないとなると、やはりそのきつい性格や堅苦しい喋り方が災いしているのだろう。
一部ではクールでカッコいいなどと言われ、女子にまでモテ始める始末だ。
本人は何も気づいてないようだが…。
鈴木から目を離し、正面のバカに小声で話しかける。
「相変わらずアホだな、お前は。授業一つ静かに受けられんのか。」
「そりゃ、耳元でなんか変なポエムが聞こえてきたかと思ったら、お前は誰だ誰だとゲシュタルト崩壊を引き起こしかねない問いの嵐が脳に刷り込まれて来たらな。」
失礼なやつだ。
まるでおれのせいだとでも言いたそうだ。
合ってるけど。
「ポエムじゃない。これはラブレターの文面を考えていたら声に出てしまっていたんだ。」
「…そんな怪奇文章を貰ってうれしい奴なんていないと思うけどな。…って、ラブレター⁉誰宛だよ!お前、好きなやつとかいたんか⁉そういうことしないキャラだろ、おまえ!」
声を抑えつつも、その表情からとんでもなく衝撃を受けているであろうことは察するに難くない。
「何を言っているんだ?俺も普通の高校2年生。今まさに青春を謳歌しているわけだ。」
「マジかよ……。これは今世紀最大のニュースだぜ…。シスコンが治ったのか…?」
ハヤテは目を見開き、驚愕といった表情でブツブツ言っている。
「ねぇねぇ、さっきからなんの話してるの?面白そうな話だったら混ぜてよねぇ。」
そう発言するのは、肩ぐらいまでのショートウェーブの髪にダルそうな顔をくっ付けていかにも『暇だ』という態度の女…右隣りの席に座っている磯部遥もひそひそと話しに入ってきた。
めんどくさくなってきたな…。
「いや、つまらないことだ。気にするなハルカ。」
「えー。なにそれつまんなーい。私だけ仲間はずれー⁇」
頬を膨らませ、明らかに不機嫌だといった様子のハルカ。
コイツはハヤテと違って不良というわけでもないが、なぜか行動を共にしようとする変わり者。
他の生徒はハッキリとハヤテと、オマケに俺を避けているがハルカはむしろ俺たちに寄ってくる。
そのせいで悪いやつではないのに友人が少ないという残念な女だ。
「聞いて驚けハルカよ。実はユウトのやつ…、」
「ハヤテ、義理も口もカタいお前を親友と見込んで、相手にブツを渡す役目を任せたい。頼めるか?」
さらにめんどくさくなる前に口を閉じさせる。
「おまえ…、俺のことを…、そんなに信頼してくれていたのか…。」
アホは扱いが簡単で助かる。
「悪りぃ、いそべ。親友は売れねぇわ、やっぱ。俺ってば義理堅い漢だからさ…」
「ブーブー!めっちゃ気になるんですけどぉ!」
「漢同士の信頼に関わることだ、すまんな。」
そう言うとハヤテは顔を前に向けて、何やら楽しそうに考え事にふけっているようだった。
きっと相手が誰なのかを想像しているのだろう。
実にわかりやすい奴だ。
「じーーっ」
さて、前の馬鹿はともかく右の馬鹿は少し厄介だ。
勉強はできないくせに、頭はわりと回る。
ここは情報を与えないように、全スルーだ。
「ねぇねぇ、何の話してたのユウト君?教えてよぉ。」
「…………………………。」
無視無視、俺は空気。
そこに存在するだけだ。
「ねぇねぇー。」
そういえばあの番組、録画予約忘れてたな。
家に帰ったら最初にやらんとまた忘れそうだ、しっかり覚えておこう。
「あっ、神楽さんだ。」
「姉さん⁉ずいぶん早かったね⁉今日は学校には間に合わないって…」
そう言いながら立ち上がった所で自分の失態に気付く。
「…お前は『3』にしてやろうか?」
「…失礼しました…。」
鈴木に頭を軽く下げ、着席する。
右からプクク…と殺しきれてない笑い声が聞こえてくる。
このアマ…、あとで覚えておけよ…。
あらゆる辱めを与えて今日という日を死ぬまで後悔させてやるぜ…。
ハルカを激しく睨め付けてから視線を前に戻すと、鈴木はまだこちらを見ていたようだった。
「…バカ二人と天地は放課後、職員室まで来るように。」
「ぷくく…ええっ⁉わたしもぉ⁉」
素っ頓狂な声を上げるバカB。
「マジかよ…。せっかく見逃されたのに…。お前らのせいだぞ‼」
文句を垂れるバカA。
「…かったりぃ…。」
そんなこんなで午前から不幸な目にあったものの、
本日もなんとか退屈をやり過ごした。
その日の授業が全て終わり、帰りのH Rも終わった。
部活がある者はいそいそと教室を出ていき、用はなくても友人と喋り続ける者もいれば、いつの間にか帰宅についている影の薄い生徒もいる。
そして、こちらに目を向ける者はいない。
「ユウトー。今日ゲーセン寄ってこうぜー。イニシャルFの最新のやつ入ったらしいぜ。」
「それはそれは。だが断る。ってか俺ら呼び出し食らってるだろ。バカ言ってないでさっさと行くぞ。」
そう言いつつ、ハルカのほうに目をやると、なにやら机に突っ伏していた。
「今日はバイトなのにぃ…。また店長に、遅刻だっ!って怒られちゃうよぉ…。」
どうやらバイトの入る時間がギリギリだったのか、鈴木のお説教タイムで完全に間に合わないと悟り、落ち込んでいるようだ。
あの店長めちゃ厳しそうだからな。
「いや、それを言い出したら俺なんて完全に巻き込まれだ!謝れコンチクショー‼」
急にキレ出すバカA。
「いや、被害者は俺だ。まったくとんだ災難だぜ…。お前らのせいだぞ。」
俺もきちんと自分の意見を言っておく。
こいつらの被害者アピールがめっちゃ腹立つからだ。
「ユウト君が私を仲間外れにするからでしょぉ!何の話かくらい教えてくれてもいいのにぃ!」
「あっ!そういえばおまえ!結局『あの話』はどうなったんだよ⁉」
ハルカのおかげでハヤテも思い出してしまったようだ。
俺は超念のために用意していた可愛らしい便箋を懐から取り出し、あえてハルカの前で堂々とハヤテに手渡し、しかしハルカには聞こえないようにそっと耳打ちをする。
「渡す相手は、『これから会いに行く人』だ。よろしく頼むぞ。」
ハルカには聞き取れないが、その俺のイメージと全く合わないであろう便箋を間違いなく視界に入れていたため、激しく動揺しているようだ。
「えっ…ユウト君…。そ、それって、ラブレター…みたいな感じ…?」
「秘密だ。」
「そ、そっか…。シスコン、治ったんだ…。不治の病だと思ってたのに…。」
ハルカは 静かになった。
こうかはばつぐんだ。
「『今から会う人』だと⁉いや、おまえ…勇者だな。確かに承った、親友よ。」
バカがニヒルな感じに笑みを浮かべて耳打ちしてくる。
こいつらは本当に扱いやすくて面白い。
そんなこんなで職員室に向かうため廊下を歩いていると、帰宅途中の生徒や部活に向かう連中とすれ違う。
大半は、お互いに見向きもしない。
それは当然だ。学舎が一緒でもクラスメイトというわけでもない。
先輩後輩、ましてや話したことすらないのなら基本『知らない人』なのだ。
…が、一部の連中は違った。
またお説教かあいつら。だっせー。
見て。あの女。相変わらず趣味悪いわよねー。天地はともかく須藤とまで…。
いっつも一緒だし、3人でそういうことしちゃってたりして…。
友人との話が楽しいのは結構だが、聞こえていないと思ってるのだろうか。
それとも聞こえても構いはしない、そう思っているのだろうか。
まぁ実際、そいつらに何を言われようが気にするほど俺は小心者ではないものの、その下卑た声に耳を塞げない両隣りの馬鹿どもは別だ。
「聞こえてんだよカスどもが。喧嘩売ってんなら買うぞコラ⁉」
血の気が多いハヤテは不良ってやつだ。
「…あんまりそういうことは言わないほうがいいよ。ハヤテ君はただでさえ教師からも悪い意味で注目されてるんだから。」
一方のハルカは憤るハヤテを軽く窘める。
文句を言うことはないものの、思うところがないというわけにはいかなく、少し気落ちした様子だ。
ハルカの周りからの評価は完全に二分にされていると言っていい。
クラスメイトや関係のある同級生なんかとはふつうに仲が良いが、知らない相手であると、周りの人間(というか主に俺とハヤテ)のせいで、不必要に反感を買っている。
おそらく学び舎の厄介者二人と一緒にいることで大きい態度を取っている、とでも思われているのだろう。
話したこともない相手の『想像した態度』に腹を立てるなんて器用なやつらである。
「はっ、こそこそ悪口言うのが精一杯かよ。卑怯で陰湿で、ダセーやつらだせ。」
そのハヤテの安い挑発に明らかに腹を立てているようだが、いざハヤテに睨まれると途端に目を反らし、必死に知らぬ存ぜぬを貫こうとする。
「ははっ。カスにはカスなりのプライドってもんがあるんだからほっといてやれよ。」
面白そうだし、あえて追加で燃料を投入してやった。
ハヤテの挑発よりも明らかに激しい反応を見せて憤っているのが分かる。
その証拠にハヤテの視線が外れたタイミングを狙って俺を睨んでくるのが伺えた。
「や、やめなよぉ、ユウト君…。」
「ほんと滑稽だぜ。無能な人間は文句も直接言えないんだなぁ?」
さらに挑発してやるが、特に食って掛かるようなやつは出てこない。
ハヤテのような分かりやすい不良はともかく、少なくても表向きに喧嘩行為などはしたこと無い俺に対してでも、陰口を言うのが精一杯のようだ。
一応進学校と呼ばれる学校なのでしょうがないのかもしれんが、つまらん。
先に殴らせられれば正当防衛でボコボコにしてやるのに。
これ以上立ち止まっても無駄でしかない。
ハヤテとハルカに進むよう促し、俺たちはその場を後にした。




