いつもと違う騒がしい朝
「えっ!?こ、これ!ユウト君が一人で作ったの…?」
朝食の準備ができたところで杏が一人起きてきた。
何時に起こせばいいか確認していなかったので助かったが、少し様子がおかしい。
「はい。基本的には食事は俺が用意しています。…何か苦手な物があったでしょうか?」
「そんなんじゃないわ!すごくおいしそうじゃない⁉」
「え?あっ、はい。ありがとうございます?」
このロリっ子は一体何を興奮しているのだろうか?
「…神楽の料理は試食にも無理やり付き合わされてたから、【人畜有害】なのは知っているけれど、ユウト君も同じくらいか、もっと酷いくらいに考えていたの。それで勝手ながら自衛の意味も込めて朝食の準備をしようと思って来たんだけど…もうできてるし、とっても美味しそう…」
姉さんの料理を人畜有害と評したこの畜生はいつか思い知らせてやるが、とりあえず気を使って早めに起きて来てくれたようだ。
「お気遣いありがとうございます。杏先輩も料理をされるんですか?」
「ええ、一人暮らしだから一通りはね。ただ得意と言う程ではないけれど。ユウト君は男の子でも料理できるのね。なんか自信を無くしちゃうわ。」
一人暮らしと言うことは、杏は家族を亡くしているのだろうか。
考えすぎかもしれないが、家族も例の仕事をしていたなら十分そっちの可能性も考えられる。
「そうでしたか。まぁ今の時代なら料理をする男というのも珍しくはありませんよ。姉さんにおんぶに抱っこ、というわけにはいきませんからね。姉さんが帰ってきたら美味しい料理で癒してあげたい。そう思って作り続けたらいつの間にか上手くなっていただけです。僕なんかで良ければ多少はご教授できますよ。しばらく滞在されるならちょうどいいかもしれませんね。」
「か、完璧過ぎるわ…。ユウト君、あなたって弱点とかないの…?」
ワナワナ震えながら聞いてくる。
「そうですね…、教師からは交友関係が難有りだと面を向かって評価されてしまいました。あとは芸能関係の知識はかなり乏しくてアカネにもよく馬鹿にされますね。ニュースしか見ないなんて枯れてるオッサンみたいだな、と。」
一昨日の鈴木の言葉を思い出したので流用する。
芸能関係に関してはテレビでもニュース以外は実際ほとんど見ないため、話題のアイドルやお笑い芸人の話なんかにはまるでついていけない。
まぁ興味がないだけだが。
「交友関係?ユウト君を見てても問題なんかまったくない気がするけど…。それにアカネの戯言なんてどうでもいいわ!」
どうやら俺との初顔合わせの時の記憶は忘却の彼方に葬られたらしい。
そのほうが都合良いから勿論スルーだ。
「まったく、なにか話してると思えばアタシの言葉が戯言だと?おチビめ、よほど圧縮してほしいと見える。」
そういうのは眠そうにしているアカネだ。
姉さんより先に起きてくるとは珍しい。
いや、姉さんがいつもより少し遅れているのか。
昨日のことで泣き疲れていたんだろうな。
「ふん!ようやく起きたのねゴリラ!アンタも少しはユウト君を見習いなさい!」
杏はそう言って机の上に並べられた料理を指差す。
「見習うって言ったって、少なくてもおチビちゃんよりアタシのほうが料理上手いだろ。」
「な、なんですってぇ~!?ムキィーーー!!」
図星なのかキレ出した。
確かにアカネはめんどくさがって料理などほとんどしない。
だができないというわけでは無く、脂っこい…いわゆる茶色系のメニューがほとんどであるが、味は美味いと言えるレベルではある。
口が裂けても言わないが、コイツが雑に作る牛丼は何故か知らんがめっちゃうまい。
味覚が俺と近いのも関係あるだろう。
「杏先輩、戯言を気にしてはいけません。カリカリしてはアカネの思うツボですよ。イライラした時には甘いものが良いでしょう。チーズケーキを焼いてあるので持ってきます。食事前なので少しだけ、ね。」
「えっ!?ユウト君ってケーキも作れるの!?それもチーズケーキですって!?」
強い驚きの後、一瞬で怒りが静まる。
どうやらチーズケーキはかなり好みのようだな。
台所の冷蔵庫に向かい、冷やし過ぎないよう野菜室に入れたケーキを取り出そう…と思ったが、あるはずの物がそこに無かった。
記憶違いかと思って冷蔵庫を漁るが全く見当たらない。
どういうことだ?
「あっ。それ寝る前に全部食った。わり。」
「「………………」」
静寂だ。
理解するまでの静寂。
そして怒りが爆発するまでの、圧倒的静寂。
「死になさいっ!不可視の衝撃!!」
「ハッハッハッハァ♪効か~ん!」
そうしてドタバタ喧嘩を始めたところで姉さんがやってきて、二人とも大説教を喰らってからの朝食タイムとなった。
5/6テコ入れしました




