人生を、全力で。
2人と別れた後、一つ先の角を曲がり意識を切り替える。
ポケットから取り出したスマホを操作する。
警備員から譲ってもらった映像。
そして俺の録画データをトリミングしながら帰路に就く。
できた素材に加えて怪我の写真をまとめて提供資料は完成だ。
準備ができたので奴らの代表者に連絡、条件の提示と確認を行う。
一つ、資料の提供は一人当たり金五萬円とする。
一つ、提供された資料の人物全てに顔が判断できないように処理を施すこと。特に女子。
一つ、後ほど細かい指示をショートメッセージにて送るので、基本的にそれに沿った内容にすること。また、疑問点があれば代表者を通して意見提示するのは構わないが、勝手な改変は裏切りと判断する。
一つ、一人でも裏切る者が出た場合、全員まとめて断罪を行うのでそのつもりでいること。
これらの内容を代表者を通じ、各員に伝達、共有させる。
確認したらショートメッセージの最後の部分に口座情報を載せるようにするので、金はそちらに振り込むよう伝達するよう代表者に指示。
言うことを聞けばかなりのメリット、逆に俺を裏切ることはデメリットしかないのでこれで全てうまく行く。
線路の向こう側に行くため、踏切で信号待ちをしていた時だ。
これでようやく俺自身のことに集中できるな。
後はアカネとババアを納得させるための…
そこまで考えて、また状況が変わったことを認識する。
とは言っても悪いことではない、むしろ渡りに船と言えるだろう。
「昨日ぶりだな。メグさん。」
すぐ後ろに立つ人物に聞こえるように言う。
顔も見ていないが非常に驚いているのが伝わってくる。
そりゃ音も無く近づいたのに、背中越しで誰かまで当てられたら驚きもするだろう。
「驚かせて悪かったな。」
そう言いながら振り返る。
「メグが言うつもりだったセリフなんだけど…。」
どうやら一人称は『メグ』らしい。
昨日は暗くてあまり見えていなかったが、綺麗な青髪ロングでスレンダーな体型をしている。
肌は白く、まるで人形のような印象を受ける。
いや、その感想は失礼になるか。
多分その無表情さがそう思わせるのだろう。
どう見ても『驚いている』ようには見えなかった。
「なぜ分かったの?それはあなたの能力?」
「多分な。普通の人間にはできない芸当だと思う。だが俺自身、自分のことがハッキリ分かっていないからな。今日から頑張って調べていくつもりだ。」
そう、姉さんの説得はかなり進んでいて、後はアカネとババアを黙らせられれば。
姉さんが色々と能力のことなんかも教えてくれると思う。
「そういえばメグさんは、」
「メグで良い。あなたがユキに認められたのなら、メグはアナタを信用する。そうでなくても、メグもアナタを認めている。」
昨日会ったばかりなのにそこまで言ってもらえるのは、つまりはメグにとってそれだけユキの存在が大きいということなのだろう。
「メグはもう俺の観察はしないで良いのか?ユキに『観察は一日一時間まで!』とでも言われたか?」
「?そんなことは言われていない…学校から見てたこと、気づいてたんだね。ホントにすごい。」
ネタにマジレスされたのは寂しかったが、『一時間』という言葉の意味を理解したようで、俺の評価は意図せずに上がっているようだ。
やはりかなり賢い印象を受ける。
「俺から言わせればメグの気配の消し方の方がすごいぞ。俺じゃなければ気づかれないんじゃないか?」
「それは当然。メグの担当は暗殺。今までのターゲットには誰にも気づかれてない。あなた以外にはね。」
「…暗殺か。俺からすると映画の世界だな。何人ぐらいヤったんだ?」
「ハッキリとは覚えてないけど、多分20人くらい。アナタは?」
「へへっ。100か200か…………いやいや、俺は誰もヤってねえよ…。」
こっちの本業は学生だぞ。この暗殺者さんは一介の学生相手に何を聞いてるんだ。
「というか、ユウトと呼んでくれ。」
「分かった。よろしくユウト。…そういえばもう一人、ユウト以外でこの学校にすごいのがいた。」
「すごい?どういうことだ?」
「ホントはね、ユウトが外にいる時はずっと見ているつもりだったんだけど、一人の女が私に気づきかけた。だからすぐに引くしかなくて。それでそいつがいない、外に出た時があの取材の時だったの。」
「どんな奴だった?」
「すごい美人で、髪が赤くて、なんか…凄そうな女。」
「アカネだな。」
ぶっちゃけ予想がついていた。
この学校ですごい奴と言ったら、俺が答えるならアカネか姉さんの二択だろう。
「アカネ?まさか、龍堂茜?」
「知っているのか?」
姉さんもアカネを絶賛していたし、正直俺も本気を出しても奴には勉学というか頭脳面以外では敵わないと思っている。
ユキやメグ、鬼憑き側の界隈でも有名なのだろう。
「ユキが最も懸念している存在。狩人側の、人間側の最強の存在。ユキ以外では戦闘がほぼ成立しない、バケモノ。怪物。龍堂茜がこの世に存在していなければ、ユキの世界征服計画はとっくに成就している。調査によると、狩人側には強さで序列が決められているらしいけど、龍堂茜はそのシステムに組み込まれていない特別枠らしい。ほかと比べる意味が無いからだって。」
…有名どころではなかったようだ。
あまり喋らなさそうな印象を受けるメグがいきなり饒舌になってしまうくらいに。
いずれ訪れるであろう姉さんたちとユキの殺し合いを止めるのが俺の目標だが、おそらくはかなり手加減しているアカネに、良いようにされてる俺程度ではかなりの難題となりそうだ。
「ちなみにメグ達…鬼憑き側のリーダーはユキなのか?指揮していると聞いたが。ユキでもアカネは倒せないのか?」
「もちろんリーダーはユキ。ユキなら龍堂茜も倒せる、はず。少なくてもそれ以外なら誰が来ようとユキなら負けることは無い。瞬殺できると思う。それだけの、力がある。」
どうやら俺の目標を達成させるには、両陣営のラスボスを制するだけの力、或いは策が求められるようだ…無理ゲーにも程がある。
ユキなら説得もできそうな気がするが、アカネに関しては俺の言うことなど聞かない気がする。
我が道を行くってタイプだしな。
「メグでもやっぱりアカネの相手はキツイのか?」
「うん。さっきも言った通り。戦いが成立しないと思う。一度だけ、龍堂茜の戦闘を間接的にだけど見たことがあるんだけど…」
「どうだったんだ?」
「速すぎる。硬すぎる。…強すぎる。人知を、世界の理を超えているとしか思えないあの怪物と戦おうとするのは愚の骨頂。時間と命の無駄。敵と認識されたら終わり。逃げることも不可能。だからメグ達は基本的に龍堂茜に遭遇しないようにしている。最近でも、ユキが実験をしたいって言い出したから、時間稼ぎのために強めのヤツを北の方に配置した。二週間も持たしてくれたのは驚いたけど、隠匿能力がすごいヤツだったからだと思う。当然、見つかった瞬間やられちゃったんだけど。やっぱりユキ以外では無駄死にするだけだと思う。」
「見っつかた瞬間、オワッタワ♪」
チャッチャ(手拍子)
「?急に手を叩いてどうしたの?」
「…いや、なんでもない。少し現実逃避をしたくなっただけだ。」
聞けば聞くほどバケモンだな。
人間側とは言っても、感想としては『魔王』が最適な気がする。
「そういえばユキはどんな能力を持っているんだ?気配隠したり、姿が隠せたりするのか?」
初めて会った時も急に現れた、という感覚だった。
予想を言ってみたがどうやらハズレらしい。
「メグには能力とかは無い。ただ、ユキの力の一端を借り受けているの。メグはただの人間だから。普通の、狩人でも無い人間は能力を持たない。だから、ユウトは特別な存在。とても不思議。」
ここでまた新たな疑問が発生、メグは素直に教えてくれるので情報収集のチャンスだ。
「狩人って能力が、つまり才能がある人間がなるものじゃないのか?メグだって突然能力に目覚めたりするもんじゃないのか?」
「惜しい。かなり近いけど。ここで言う才能っていうのは能力とイコールではないの。能力を得ることができる才能があるかどうか、という話なの。つまり狩人というのは、生まれつき能力を持っていたとか、ある日急に目覚めたとかではなく、、能力を獲得した存在なの。私には残念ながら才能が無かった。ユキに確認してもらった。だから、ユウトは特別なの。自然にか、生まれつきかは知らないけど、意図せずに能力を獲得している存在なんて聞いたことは無い。」
「そうか…。この気配に敏感なのが能力だとしたら地味すぎるけどな。」
「ユキは、ユウトの内側には物凄い力が眠っている…と言っていた。ユキ自身がすごいから、相手の力量も正確に見極められるし、過大評価をすることも無い。そんなユキが『物凄い』という表現を使ったということは、私からすれば想像もつかないような絶大な力がユウトにはある。そう考えている。」
感情や視線に敏感というものではなく、
あの時ユキを吹き飛ばした正体が俺の本当の能力、なのかもしれない。
「その力を、ユキのために使ってほしい。ユキもメグも心からそう望んでいる。」
表情は相変わらず変化は無い。
しかし、その強い意志はハッキリと俺に流れ込んでくる。
「俺も、ユキの手伝いをしたいとは思っている。だが、いくつか問題も生じる。」
「問題?」
「アカネと毎日同じ屋根の下で暮らしている…と言ったらどうする?」
返答はなかったが、メグの両目が若干見開いたような気がする。
初めて見てとれた表情の変化だ、かなり動揺しているのが伝わってくる。
「それは…、とても困る。メグは、ユキからユウトのお手伝いをしてあげてと頼まれた。あの怪物が常に近くにいたら、メグは何もできないよ。」
「お手伝いっていうのは何のことだ?」
「ユウトが能力を把握できるようにとか、うまく隠して狩人に見つからないようにとか。あとユキがいなくて寂しい時は、メグの身体で慰めてあげるとか。」
「そうか。俺のためにそこまで考えてくれていたのか。…なんかトンデモナイ物も混ざっていた気がするけど。でも手伝うとは言ってもどうする気だったんだ?俺が学生である以上、アカネじゃなくても普通なら家族の存在とかも懸念があるだろう。」
「ユウトの学校への転入手続きを済ませたの。それで転校生から友人。友人から彼女、ということにして距離を詰めていこうと考えていたの。」
「…転入手続きって一日でできるもんなのか…?」
「正攻法では無理だったの。ユキに言ったら全部やってくれた。」
よく分からんが、ユキが能力か何かしらでゴリ押ししたということか。
「なるほどな。だがどの道、学校は2週間休みになるんだ。何かするとしてもそこからだろう。アカネに関しては…ユキが普通の人間と変わらないのならバレないんじゃないか?」
「ユキから借りてる能力とかを一切使わないなら大丈夫だと思う。ただ、それだとメグのいる意味があんまりないけど…」
「別にいいじゃないか。俺もユキの仲間が近くにいてくれれば、繋がりが実感できて安心できる。それにメグならユキに連絡を取ることもできるんだろう?たまに隙を見て俺にも話をさせてくれ。それだけでもメグは大いに役に立っていると言えるな。」
「そうかな?とにかく、できることは何でもやるから言ってね。」
いい子だ、頭をナデナデしてやると少し目尻が下がったように見えた。
妹がいたらこういう感じなのだろうか?
メグも無表情に見えて実は細かい変化はあるのかもしれない。
これからの付き合いで注視してみよう。
「話を戻すが、能力の把握なんかは多分、大丈夫だ。逆に狩人から隠れる…ってところは既に破綻してしまっている。その狩人に教えを乞う方向に話を進めてしまっている。すまん。」
「そう、それはしょうがない。コッチも何も言っていなかったし、ユウトの存在がバレたところでユウトが明確に狩人に対して敵対行為でも取らない限りは味方として認識される。…スパイごっこだね。」
「スリル満点だな。せいぜいアカネにぶっ殺されないように気を付けるとしよう。」
「ちなみにその狩人っていうのは?」
「アカネの親友にして、俺の姉さん。天地神楽だ。アカネと姉さん、俺の三人で日々同じ家で過ごしている。姉さんのことは知っているか?」
「天地神楽。知ってるよ。最近こちら側でもかなり手を焼いてる。さっき言ってた狩人の序列、セブンスナイト(七騎士)にも入りそうな勢いで成長している。そして常に龍堂茜が傍にいる。」
「…ダッサイ名前だな。そんなことより大事なお願いがあるんだが。」
「天地神楽は傷つけない。殺さない。ユキにはそう言われた。」
「流石だな。気遣ってもらって申し訳ない。」
ユキは本当に俺のことを尊重してくれている。
姉さんを殺して俺を奪う、なんてことは考えていないようだ。
「龍堂茜の保護下にあるから、攻撃をしたところで私が殺されちゃうからダメだって。」
…あれ?大丈夫だよな?ともかく、アカネがいる限りは姉さんも大丈夫ということか。
アカネを倒しても姉さんには手を出さないよう、ユキと会ったら釘を刺しておこう。
「よくわかった。会いに来てくれて助かった。まだまだ話したいところだが、そろそろ姉さんとアカネが帰ってくるかもしれん。今日はそろそろ切り上げたほうがいいだろう。何かメグと連絡を取れる手段はあるか?」
「ん…、コレ。」
ポケットに手を入れて小さく折りたたまれたメモ用紙のような物を渡してくる。
開くとそこには携帯の番号と思われる数字が小さく書かれていた。
「これはメグの番号か?」
「うん。これがメグの携帯電話。ユキに昨日貰ったの。」
そう言ってピンクのガラケーを取り出して見せつけてきた。
少し嬉しそう、に見える。
「そうか、分かった。隙を見て連絡を入れるようにするよ。」
そう言ってメモを返す。
無表情で俺の手を見つめているメグから疑問を感じる。
「もう覚えたからこれは返す。どんなに小さいものでも、繋がりの証拠となるようなものは残したくない。これもユキと、俺たちのためだ。」
「分かった。ユウトは頭も良いんだね。連絡待ってる。」
そこまで言ってちょうど踏み切りのバーも上がったため、互いに背を向け歩き出す。
問題は山積み、目標も難易度が桁外れ。
だが、俺はやり切る、やり切って見せる。
唐突に、俺が数学教諭の鈴木に放った言葉を思い出す。
俺には目指すべき目標が無い、と。
故に、退屈だった。
故に、それは苛立ちの日々だった。
それが、今は目標もあり、姉さんの以外の生きがいも見つけられた、かもしれない。
これが期待、希望なのか。
胸が躍るとは、こういうことなのか。
姉さんといる時とも違う、胸の高揚に身を任せながら我が家に帰る。
今日から本気で生きてみよう。
これまでの人生で、初めてそう思った。




