友人(パーティーメンバー)
スマホの時間を見ると二人と別れてから既に1時間が経とうというところだった。
ハヤテに聞いていた公園に入るとすぐに2人が目に入った。
「すまん、大分待たせたな。」
「も~!おっそいよぉ!ユウト君!」
「ホントだぜ!待ちくたびれたぞ!」
二人から不満をぶつけられる。
ハルカはもう完全に本調子のようだ。
時間が解決したのか、ハヤテがうまくやったのかは分からんが、良かった。
これならお願いも聞いてくれるだろう。
「しょうがないだろ。あの記者連中もそうだが、ハゲ茶瓶にまで絡まれたんだからよ。」
「ああ、教頭な。あいつクドクド同じことば~っか言っててうぜぇよな?」
「ハゲ茶瓶って…。先生はちゃんと敬わないとだめだよー?」
ハヤテは納得、ハルカは呆れたようにこちらを窘める。
こういう空気感は結構好きだ、こっ恥ずかしいから死んでも口には出さないが。
こいつらのおかげで俺は退屈を紛らわせることができる。
だからこいつらに降りかかる火の粉は俺が全て振り払う。
「時にハルカさんや。お願いがあるんですが。」
「…なんかスゴい嫌な予感がするなぁ…」
「いやなに、大したことは無い。お前の手と、膝を貸してくれ。」
そう言うと絶句したように固まる二人、何か変なことを言っただろうか?
「大胆だな、ユウト…。」
「え、えっとぉ…いいんだけど…、今…?」
「?そうだな。あのベンチに座ってくれるか?」
公園に置かれたベンチを指差す。
なんだか二人の様子がおかしいが、別に問題は無いか。
三人でベンチの前に立つ。
ハルカは何か覚悟を決めたかのように『ヨシっ!』と気合を入れて正面右側へと座った。
ハヤテは逆に一歩下がり、ハルカを凝視している。
別にハヤテに用はないから一緒に座ればいいのに、何してるんだ?こいつは。
ハルカは鞄をベンチの下に置き、その際に中からハルカがいつも持ってるお気に入りのタオルを取り出し、太ももから膝にかけて広げ始める。
何がしたいかは分からないが、それでは傷がよく見えない。
「じゃ、じゃあどうぞ!ユウト君っ!」
「…申し訳ないんだが、そのタオルは取ってくれるか?あと少しだけでいいからスカートを少し引いて足がしっかり見えるようにしてくれ。」
「「ナ、ナマですとッ⁉」」
二人がハモった、さっきから何なんだこいつら。
「さっきからおまえら様子が変だが、どうかしたのか?」
「変なのはユウト君だよぉ!ナ、ナマは流石に恥ずかしいというか…、せめて他の人がいないところで…」
「…俺はお邪魔虫になりそうだから帰った方がいいか…?」
こいつらが何を言ってるか全然分からん。
「分からん。ギブアップだ。何がダメなのか教えてくれ…。」
両手を挙げて降参アピール。
ハルカに手伝ってもらわないと報酬を得られんし、ヤツに制裁を与えることもできない。
ダメと言うのならその問題の原因を明確にし、解消させなければならない。
自慢ではないが、人間として不可能なことではない限り、ほとんど対処できる自信がある。
「だって!こんな公衆の面前で!『生足膝枕の頭ナデナデ』なんて絶対に無理だよぉ!」
…学校の試験など、授業を全部寝たところで満点を取る自信があるが、正直何言ってるか分からなかった。
「あっ!そっちか⁉俺は『両手をニギニギしながら両膝の間に顔を埋めてクンカクンカ』するのかと…」
「ええっ⁉そ、そんなエッチなの…、つ、付き合ってからじゃないとダメだよぉ!ユウト君の変態‼」
「変態はお前らだバカヤロウ。」
手と膝を貸してほしい、という言い方も確かにまずかったとは思う。
言われてみると『貸して』という言葉は物理的なものを連想しやすいかもしれん。
とは言えピンク脳まっしぐらなコイツらも大概だろう。
特に思春期の男子学生のハヤテならともかく、実はハルカもかなりむっつりな奴なのかもしれん。
「ハルカ。お前に《むっつり少女》の称号を授ける。」
「い、いらないよぁ~‼」
ハルカの絶叫が響き渡る。
…にしてもだ。
タオルをかけた状態なら、公衆の面前でも『膝枕して頭ナデナデ』まではしてくれるというのか。
呆れる、を通り越して申し訳なくすら思う。
そのひたむきさに答えることはできないから。
誤解を解くため、具体的に説明をする。
奴に制裁を与えるため、証拠となる写真がいること。
逆にそれが無いと、でっち上げで俺が訴えられる可能性があること。
そうなった場合、俺は謹慎で済まない可能性が高い、退学の可能性もあると。
奴は今まで同じような取材方法で何人も不幸にしてきたこと。
どう考えても俺が追い込まれることはないし、思いっきり嘘になることも言っているが、こうでもしないと優しいハルカは奴を『あんまり追い込みたくない』などと、そう考えるはずだ。
だから俺に好意を寄せていることすらも利用する…申し訳ないが。
それでも、やはりというか若干渋っている様子はあったが、俺のためならと写真の提供を認めてくれた。
擦り剝いた手、同じく擦り剝いて少し血が出ている膝を写真に収め、礼を言う。
「その写真って、どういう風に使うの?」
「それは明日の朝のニュースを見れば分かる。もちろん、ハルカの顔は隠させるし、悪いようにはしない。」
「ええ⁉ニュース⁉なんか警察とかに情報提供、とかじゃなくて⁉」
「おお!すげーな!それって俺も映ってるよな!?俺の顔は隠さなくてもいいぞ!」
二人とも驚いている。
「…で、でも…、それって、あのオジサン。大丈夫なのかなぁ?」
しかし、ハルカは驚きよりもあんな醜い豚野郎に対する心配が勝るようだ。
「ハルカ。お前はあのクソおやじに突き飛ばされて怪我もしたんだぞ。その前の取材とやらもひどいものだった。罰を受けるのは当然…、いや受けなければならない。」
そう言って諭そうとするが、効果は薄いようだった。
「でも、私はそこまでは気にしてないし…。ニュースになんかなっちゃったら、明日から大変な目に合うんじゃ…」
どこまでもお人好しで、俺が絶対にできない考え方。
知らない人間にも親切にし、自分に害を与えた存在さえ思いやる。
それがハルカという人間なのだ。
「ハルカ。お前は優しいやつだ。いや甘いと言ったほうが良いかもしれない。それは俺が思うハルカの欠点であり、美徳でもある。だからあのクソ野郎すらも心配してしまうその考えを俺は否定したくない。…だがな、」
ハルカのあり方を否定をしない。
大切なことだから、そう前置きして続ける。
「俺は、お前を傷つけるような奴は絶対に許さない。ハヤテなら良いけど。」
「…最後のいるか?」
俺の言葉にハルカはポカンと口を開けて、無言でアホみたいな顔をしていた。
ハヤテのヤツも後ろから何やら言っていようだが、そちらは無視。
しばらくフリーズしていたハルカだったが、途端に顔を真っ赤に染め上げて、目が高速で泳ぎ始める。
まぁそういう反応になるだろうな。
「ハルカ。お前は自分に害意を向けてくる奴にも敵意を向けられない。お前の辞書には『やられたらやり返す』という言葉がないのかもしれない。だがな、それでは相手はつけあがるんだ。悪い奴ってのは基本、相手のことを思いやることをしない。自分の利益のことしか考えないからだ。だから相手がやり返してこないと判断したら、とことん利用されて、骨までしゃぶられることになる。」
真っ赤だった顔も、俺が真面目に言っていると分かると、少しずつ収束していった。
「それでもお前はやり返さないんだろう。お前は自分『だけ』が損害を被る場合、おそらくどこまでも我慢する、我慢できてしまう。稀有な人間なんだ。俺は、お前のそういうところを尊敬し、仲良くしても…いや、仲良くしたいと思った。」
大げさではあるが、嘘ということもない。
俺にウザがられ、悪態をつかれ、ぞんざいに扱われようとも俺の近くに居続けた。
居続けられた、だから俺も認めざるを得なかった。
だからこそ、
「だからこそハルカがいつまでも甘ちゃんでいられるように。ラインを超えた敵は俺が全て処理する。それは決定事項であり、ハルカが俺のそばにいる…そうだな、条件と言ってもいい。これを否定、拒否することはハルカでも許さない。それでも嫌と言うのなら…ハルカとの縁は今、ここまでだ。」
「えっ、い、嫌だよ⁉せっかく一緒に遊べるようになったのに…」
赤面したり青くなったりと表情豊かなやつだが、『ここまで』という単語に激しい反応を、焦りを見せる。
「だったら俺を止めないな?」
「う、うん…!止めない!止めないから!」
「だったら、これからも一緒だ。」
「うん!ずっと一緒だよ!」
「ああ。良き友人としてな。」
「…ゆ、友人…。」
ジトっとした目で不満そうに見てくるハルカ。
申し訳ないが、恋人としての進展はあり得ないと思うので、ハルカのためにもある程度ハッキリ言う必要がある。
ハルカの時間をこれ以上無駄にしないためにも。
「ハルカさんや。何かご不満でも?」
「…なんでもないですよー。」
ひょっとしたら、ハルカは俺に対する『気持ち』を隠すつもりがそもそも無いのかもしれない。
そして俺がハルカの気持ちに気づいてる、ということもおそらく察している…のかも。
それでも言葉に出さないのは、たとえ恋仲としての進展が無かったとしても、それが辛く感じるとしても、俺のそばにいることをハルカは選んだのだ。
やっぱりおまえはすごい奴だよ。
「じゃ、さっさと帰るか。」
「うん♪」
「おいおい。誰かを忘れてやしないか?お二人さん?」
「え?誰だお前?」
「そりゃ忘れすぎだ‼」
「なんだハヤテか。いつからいたんだ?」
「1時間くらい前からずっといるよ‼」
「ふふっ。」
数少ない友人を大切にしよう。
心の中で再認識する。
魔王『タイクツ』を退治するための愉快なパーティメンバーだからな。
ハルカのバイト先、『リュミエール』前で二人と別れた。
別に今日はシフトではないらしいが、単純にハルカの家がすぐ近くだからだ。
俺の家は学校から見て駅の向こう側。
ハルカが手前側の駅近。
ハヤテに関しては実は真逆の方向だ。
先の取材の件もあって、何の用も無いのにここまで付いてきた。
ま、流れという奴だな。
別れる前に、
今度、被害生徒の事を聞いても良いか?
とハルカに尋ねてみた。
ハルカにとって言い辛いことの場合、時間を置くことで言い忘れたという体を作ることも可能だからだ。
その判断含めてハルカに委ねるつもりだったがそれは杞憂。
どうやら余計なお世話だったようだ。
「小学生の頃はよく遊んでたんだ。中学を卒業してからは一回も、話すらできてなかったけどね。」
要は、昔の友達。
ただハルカの場合、あの記者にすら同情してしまうほどのお人好しだ。
最近の絡みが無かろうが、自分のことのように辛く感じてしまったのかもしれない。
「ま、あんま気に病むなよ。」
と一応声をかけてみたが、
「ええっ!?ユウト君がストレートに私の心配?珍しいねぇ♪」
「雪でも降るんじゃねぇか?」
とニヤニヤしながら二人に言われた。
それぞれに軽く脳天に拳骨を食らわし、そのまま別れた。
5/5テコ入れしました




