小型犬は小さく愛らしいが、よく吠える
我が家のドアの前に立つ。
慣れた手つきで鞄から鍵を取り出し、
鍵穴に差し込んで回そうとした時、気づいた。
姉さんたちの方が早く帰っていたようだ。
しかし、学校から家に帰るには絶対とは言わないが基本、さっき通った踏み切りを渡るはず。
メグとの逢瀬を見られてなければいいが。
いきなり暗雲が立ち込めてきたが、何とかするしかない。
過去は変えられないのだから。
差しただけのカギを引抜き、ドアを開けて『ただいま』とリビングにいるであろう二人に聞こえるように言う。
『おかえり』という言葉は返ってこなかった。
誰かがいるのは気配を感じるので間違いない。
姉さんが家にいるのであれば、返事が無いのは今までに無いことだ。
視線を下げるとテキトーに散らばった革靴…これは間違いなくアカネだ。
だが、もう一人分のは姉さんの物とは違う。
革靴ではなく、小さめスニーカーが並べられていた。
サイズ的に姉さんのでも、アカネの物でもない、知らない人間がいるようだ。
状況的にアカネの知り合いだと思うが、かなり珍しい。
姉さんの友人は何人か来た記憶はあるが、アカネが誰かを連れてきた記憶はない。
一応声だけかけようと思い、リビングのドアを開く。
部屋を見渡すと食卓の椅子にちょこんと腰掛ける人物…女児?が一人。
中学…、いや小学生か?こちらをジィーっと細目で見つめてくるが、初対面のはずだ。
こんなロリっ子の知り合いはいない。
疑問に思いつつも飛んでくる攻撃を躱すため即座に一歩下がる。
正面の腹付近の高さに悪ふざけとは思えない威力であろう拳が空を切る。
そこに突っ立っていたら悶絶どころか骨までイかれていたかもしれない。
少なくてもアザは確定だろう。
「どうだすごいだろ!今のをお前が避けられるか?」
押したドアの裏からニヤニヤした顔を出してるアカネが少女に問いかけていた。
「おい、メスゴリラ。悪ふざけで人殺しはやめとけ。」
「何言ってるんだ?誰も死んじゃいないさ。いつものスキンシップだろ?」
「わざと喰らって警察に突き出してやりたいところだが、受けられる威力じゃないのが悪意しかないな。」
そんなふざけた会話を聞かせてしまった客人に再度目を向けると、先ほどまで薄っすらとしていた目が大きく見開かれていた。
「完全に無音で死角からの、それも速度もかなりある攻撃。アカネが馬鹿なのは知っているけど、遂にとち狂って同居人を殺そうとしてるのかと思って焦ったぐらい。一瞬も目を向けた様子も無かったし、完全に意識は私に向いていた。なぜあれが避けれたの?」
驚いていたロリっ子が声を出す。
見た目は完全に女児だが、話し方はアカネより大人びた印象を受ける。
「アカネ。こっちのロリっ子は…」
誰だ?と聞き終わる前に慌てて左に跳ぶ。
無様に転がり込むが、急だったから仕方がない。
後ろから突然攻撃の気配が来たから必死に避けたのだ。
寸前まで何の気配も無く、急にそこに発生したという印象だ。
まさか…メグ?
追撃の気配はないので立ち上がって先の場所を確認する。
だが攻撃してきたヤツの姿は見えない。
正体をつかめない。
どういうことだ?ドア付近にはニヤついているアカネがいるだけだ。
しかしアカネは正面にいたからあり得ない。
ドアの向こう、廊下に出てみるがやはり誰もいない。
勘違い…?
いや、明確に攻撃の意思を感じたが…
何が何だか分からずに部屋に戻る。
「な、なんで…?」
例のロリっ子が立ち上がっていた。
こちらを見ていて驚愕している。
そして勢いよく近づいてきた。
「なんで初見で私の不可視の衝撃が避けられるの!?あり得ない!!」
何をどうしたかは分からないが、発言を考慮すると犯人はこのロリっ子らしい。
「『私の』だぁ?犯人はテメーか、このロリガキがぁ。」
「ロ、ロリ…、ロリガキだとぉ~!?テメー‼ぶっ殺す‼」
ロリガキがブちぎれた途端、正面、背後、右上、左下…。
様々な方向から攻撃が来るとハッキリと感じた。
だがそれぞれの『濃さ』が違う、これは威力…いや順番だ。
この見えない複数の攻撃は全て同時に襲い掛かってくるわけではなく、若干のズレがあるようだった。
それなら話は簡単で、気配が濃い順に避けるだけで良い。
六発の攻撃を完全に避け切って拳を握る。
コイツは軽そうだからよく飛びそうだな。
「へ?」
ポカンと突っ立っているロリガキの顔面目掛けて思いっきり…
バチィッ‼
…ぶん殴ってやりたかったが、寸前でアカネに手首を掴まれて阻止される。
どんなパワーだ怪物め。
正面で受け止めるならまだしも、横から掴んで握力だけで止めるなど人間にできてはダメだろう。
「おい、邪魔するなゴリラ。」
「ユウトお前、こんな幼女の顔面にマジパンチ喰らわすつもりだったのか?」
アカネは呆れたように言うが、幼いとかは関係ないのだ。
「小さかろうがデカかろうが関係ない。俺は差別は嫌いだからな。そのクソ生意気なロリガキが俺に攻撃をした。俺にはやり返す権利がある。違うか?」
そう、先に手を出したのはコイツだ。
俺が当たらなかっただけで、当たっていたら痛いで済んだか分からない。
ガキか大人か、男か女かも関係ないのだ。
やられたらやり返す、当然の権利だ。
そこまで言うと、ロリガキは自分が殴られる寸前だったということがようやく理解できたようで、目の端に涙を滲ませながらヘロヘロと床にへたり込んだ。
「お、幼いって言うなぁ!ロリって言うなぁああ‼うわあぁぁんん‼」
わんわんとガキらしく泣き喚く。
うるさくて敵わん。
離れた位置に犬を見つけた小型犬のようだ。
「結局なんなんだよ、このガキは?えっと、イン…インビジブル…、インプラントだっけ?」
「インビジブル・インパクトよ‼このクソガキっ‼」
「ああんっ!?」
「ひぃ!?」
そそくさとアカネの後ろに身を隠す。
追いかけてブチのめしたいがアカネに掴まれた手を全く動かせずにいる。
「わっはっはっは。」
泣き喚く女児に、パンチングポーズのまま固定される俺。
そして俺を固定しながら下品に笑う女。
なんだ、この混沌は。
「…何これ?どういう状況なの?」
部屋に入ってきた姉さんがそう問うのは当然のことだろう、俺自身にもサッパリ分からないのだから。
5/5テコ入れしました




