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退屈は僕を殺したい  作者: おどろん
第ニ章 退屈の終わり?

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14/81

降って湧いた連休とはかくも嬉しいものか

教室までのルートや教室に入室したときも、ハヤテもハルカも見なかった。


二人はギリギリでの登校が多いため、まだこの時間でいないのは別におかしいことではない。

ただ、特にハルカに関してはブヨデカの件とも場所が近かったから少し心配ではあった。


そして普段と違うことがもう一つ。


やけに教員たちがバタバタ廊下を走っている様子が見てとれたが、何か問題でもあったのだろうか。

と思うと同時に、教室のドアを横切って行った婦警、それと一緒に歩く茶色のくたびれたコートを着ているオッサンが目についた。


婦警に…刑事?やっぱり事件か?


何があったのか、と考えるもすぐに思い当たる。


…それこそ昨日のあの女生徒の事件か。


廊下に出てみて窓から職員専用の駐車場を見下ろす。

そこには予想通りにパトカーが複数停められていた。


「おっはよーっす!なぁに黄昏(たそがれ)てるのぉ?」


いきなり背後から覆い被さってくるハルカ。

驚かせようとでも考えていたのだろうが、当然気配を察知していた俺は一切動じない。

…動じないが、


「近すぎる。離れろ。」


顔を前に向けたままそのままの姿勢で言う。

いたずらを仕掛けようとする気配やタイミングは計れたが、距離が近すぎる。

おんぶの状態に近く、密着しているため小さいとは言えない胸の感触もハッキリと感じてしまう。

しかも右肩に頭を持ってきているため、そちらに顔を向けるわけにもいかない。

向ければハルカの頬に俺の頬を合わせることになる。

それだけならまだいいが、最悪ハルカにキスをすることになる可能性もある。

敢えてキスの一つでもお見舞いしてやれば面白い展開にもなりそうだが、姉さんにまで話が行ってしまったら冗談でなくなるのでやめておく。


ハルカの気持ちは知っているが、性格的に純粋な?いたずらの可能性も全然あるのでとりあえずここは制しておこう。


「近いって…わわっ!?」


ようやく自分のしでかしたことに気づいたのか、慌てて距離を取るハルカ。

女子特有の甘い香りや胸の感触が無くなったのが少し寂しいと思ったのは秘密だ。


「ちょっと驚かせようとしただけなのに、なんでアタシが驚いてるの…」


「気さくなのはハルカの美徳と言えるが、異性に対する意識というか距離感には注意した方がいいな。俺でなければうっかり惚れられるかもしれんぞ。最悪、勘違いした男からベタベタとボディタッチされる可能性もある…かもしれんな。」


「嫌すぎる心配どうもありがとう!どうせユウト君にしないから大丈夫ですっ!」


俺にしかしない

というのはそれなりの意味が含まれてしまいそうなものだが、やはり天然というか慌てているためかそういうことを平然と口に出してしまう。


「肝心のユウト君は惚れてくれないどころか動揺すらしてくれないなんて…」


…こいつはわざと言っているのか?これじゃ告白してるのと大して変わらんぞ。

俺は全く鈍感系で売っているわけでもないのだが、下手に触れるわけにもいかないのでスルーせざるを得ない。


「話を戻すが別に黄昏ていたわけではないぞ。どうやら事件があったみたいだ。」


ピッと人差し指でパトカーを示す。

それを見たハルカは驚きつつも納得をした様子だった。


「あ~。だから先生たちが何か走り回ってるなぁって思ってたけど、そういうことだったんだね。」


「せっかくだから『廊下は走ってはいけません!』って注意してやれ。教師を正当に注意できるなんてオッサン以外には中々レアな体験だぞ。」


「ただでさえ目を付けられてるのに、無駄に嫌われたくないなぁ…」


俺やハヤテと一緒に居なければ目を付けられることはない、とは続けることはしない。

もう言い飽きた。


「おいっ!ユウト!テメーなんで昨日帰ってたんだよ!」


ハルカ同様、唐突に吠え掛かってくるハヤテ。

ハルカはその声にひどく驚いた様子だ。


「うわぁ!びっくりしたぁ…」


「昨日?」


昨日と言えば不思議体験や運命的な出会いはあったが、その印象がデカすぎるのか、単にどうでもいいことなのか、正直全く覚えていない。

なんのことだろう。


「…多分ラブレターのことだよ、ユウト君。」


ハルカが耳打ちしてくれる。


…あれか、くだらなすぎて忘れてたぜ。


「ラブレター?なんだお前。告白でもするのか?相手は?」


「お前がさせたんだよ!鈴木先生に!」


「そうかそうか。わりぃ。おつかれ。」


「はぁ、欠片も反省してないことだけは伝わったぜ…」


ぷんすか怒りを露わにしていたハヤテだが、俺が真摯に?謝罪をすると落ち着いてくれたようだ。


その後も数分、馬鹿な話を交えつつ、どういう事件があったかの予想大会(俺は知っているが)をしていたが、廊下を歩いてくるオッサンこと担任教師の斎藤の姿が見えた。

教室に、というより俺たちに近づいてくる。


「お前たち、さっさと教室に入りなさい。今日の授業は中止だ。ただ臨時の全校集会を行うことになった。これから教室で説明するから席に着くんだ。」


いつものダラけたオッサンという感じはなく、かなり真面目な雰囲気だった。

まぁ本校に通う女子生徒の足だけが見つかりました…なんて結構な事件だしな、普通に考えたら。


「うっす。行こう。」

「おう。」

「うん。」


馬鹿だが空気が読めないというわけでもない二人は素直に頷きついてきた。

教室に入ると既に噂でも飛び交っているのか、かなりざわついていたが担任教師の姿に気づいてすぐに静まり返る。


「とりあえず立っている者、席に着きなさい。これから大事な話があるのでしっかり聞くように。」


「先生、先ほど警察の…」


「質問は後だ。まずは聞きなさい。」


クラスの中でムードメーカー的存在の高橋が質問を試みるものの、即座に断られる。

いつもと雰囲気が明らかに違う、らしさの無い担任の姿に高橋もそれ以上無理に続けようとはしなかった。

オッサンは咳払いをし、語り始める。


「まず気づいた者も多いだろうが、今校内に警察関係者の方が多く来られている。詳しくはこの後の全校集会時に校長からお話があるが、昨日わが校の生徒がある事件に巻き込まれた。…重大かつ非常に痛ましい事件だ。犯人が捕まっていないのもそうだが、当然動機も不明で『本校の生徒を狙った犯行である可能性』を否定することができない。そこで今日から二週間ほど本校は休校となる。そちらも具体的な説明は全校集会で行う。今から点呼を取るので完了後にAクラス…つまりこのクラスから順に体育館へと移動開始する。点呼完了後には手洗いの時間も設ける。以上だ。質問はあるか?」


シィンと静まる教室内。

聞きたいことが無いわけではないだろうが、この空気で口を出せる豪胆なやつはいないようだ。

まぁ校長が細部まで話すであろうから今聞けなかったところで早いか遅いかの問題だろう。


()()、か。


おそらく俺があの場に行かなかったら、あの足までしっかり食われて恐らくは事件というより行方不明という形で落ち着いたんだろう。

ここまで大事にはならなかったかもしれないな。

俺と同様、あの不思議な空間に巻き込まれてしまった女生徒は幸か不幸か足だけは現実世界に戻ってきて、色々照合などした上で本人のだと特定されたのだろう。

いっそのことその足すら戻らなかったら両親にとっても少しは衝撃を抑えられたかもしれん。


足だけ見せられて『娘さんのですか?』と聞かれる両親の絵面を想像すると、なんだか可哀想を通り越して滑稽で笑ってしまいそうになる。


流石に人として終わってるかも?と自覚しつつも、やはり顔も知らない他人には興味を持てないなと改めて思った。


あーめん。


「天地優人。点呼中にぼーっとするな。返事をしなさい。」


「はい。天地、元気でーす。」


別に悪気があったわけではなかった。

考え事をしていたのと普段ふざけすぎてつい気の抜けた返事をしてしまった。

キッと鋭い目つきのオッサンに睨まれてしまう。

右隣のハルカも「あちゃ~」といった様子で、目を閉じ額に手を当てている。

周りからの視線もいつにも増して冷たいものだ。


これでは俺が、TPOも弁えられないKY野郎みたいじゃないか。


俺は決して空気が読めないわけではない。

話したこともないような奴が、死のうが足だけになろうが興味が持てないだけだ。

同級生AもおばさんBも俺からすればまるで変わらない。


「…頼むから全校集会ではふざけずにしっかり校長の話を聞くんだぞ。」


「うっす。」


おっさんは呆れたように念押しして、俺も反抗する理由は全くないので大人しく頷く。

天地である俺が最初に呼ばれ、ハルカが続き他のクラスメイトたちも順々に呼ばれていく。

ハヤテも特にふざけるわけでもなく、やがてクラス全員が呼ばれて少しのトイレ休憩の時間が与えられた。

と、同時に前の席のハヤテが振り返ってくる。


「痛ましい事件ってのは何なんだろうな?誰か死んじまったのか?それか襲われて大けがとか?同級生か?先輩後輩か?」


わりとミーハーな野郎ではあったが、一気に質問責めにしてくるなよな。


「俺が知るわけないだろ。ただでさえどうでもいいのに。どうせお前だって部活にも委員会にも所属してないんだからクラスメイト以外は関係もないだろう?」


ま、誰かってところ以外は知ってはいるんだけどな。


というのは当然口には出さない。


「同じ学校の生徒っていう関係があるだろ?」


「くだらん。そんなのは関係とは言わん。ただの共通点だ。良いか?大事なことを教えてやる。」


多分、こいつには何回か言った気がするが、覚えが悪いから仕方がない。


「この世には二通りの人間がいる。『姉さんかそれ以外か』だ。」


「出たぁ!〇―ランド!その格言はお前だけにしか当てはまらないんだって!」


「そんなことはない。要は自分が最も大切にする人、そして『それ以外』を分けることによって、行動や思考のほとんどの無駄を排除することができる。例えばだ。お前には近所に住んでる好意を寄せた女がいるとする。そして特に話したこともないようなクラスメイトの男…藤岡でいいか。二人が目の前で死にかけているとき、お前はどっちを助けるんだ?」


「そりゃ…女だろうな。話したこともないやつよりは好みの女を助けると思うが。」


少し考える素振りはあったものの、すぐに答える。


「そういうことだ。『同じ学校』どころか『クラスメイト』よりも近所の女を優先する。それは同級生なんて肩書よりも近所の女の方がお前にとって『重要』だからだ。つまり、今回の被害者が先輩か後輩か、はたまた同級生かは知らんがお前がそれを知ったところで影響など何もない、ということだ。分かったら突如降って湧いた連休の予定でも考えておくがいいさ。俺もそれに思考を費やしたい。」


そう、鬼憑きの件もある。

学校側が対策として一時的に休校措置を取る判断をしたのは助かる。

俺と別れた後、生徒会長である姉さんはすぐに教師と情報を共有しているだろう。

この後の集会でも生徒会長として発言するような機会もあると予想できる。

姉さんとしても今回の一件は意識せざるを得ないだろう。

俺の意見を後押ししてくれる良い材料となるはずだ。


女子学生には感謝しないとな。


「いや、俺はそこまで冷静になれねーよ。普通気になるだろ?ひょっとしたら自分たちが次の被害者になる可能性だってあるじゃねーか。」


こいつはまだこのくだらない会話を続ける気か。

またテキトーなこと言って黙らせよう。


「それにさっきの話だけどよ、別に嫌いな相手ってわけでもないなら可能なら助けようとは思うぜ?一人しか助けられないならしょうがないけどな。」


「…」


くだらない、無意味だ、そう言葉にするのは簡単だったが言わなかった。

こいつは分かりやすい不良で、馬鹿だ。

しかし、俺とは違って関係ない人間でも困っていれば救おうとする『普通の人間』なんだ。

それは俺にはできないことで、俺が貶して良いことではない。

それをやってしまえば、本当に人として、友人として終わってしまうだろう。


そう思ったところでトイレに行っていた最後の生徒が戻ってきて、教室から全員校庭へと移動する運びとなった。

席を立ちあがった際、ハルカが小声で聞いてきた。


「もし私が今回の被害者だったとしても、やっぱりどうでもいいかな?」


「まぁ姉さん程ではないが、普段話しているし…寂しい、くらいは感じるだろうな。くだらない心配してないでさっさと行くぞ。」


「…はーい。」


ハルカが死に、それが事件であり、加害者が近くにいたのなら。

どうにかしてぶち殺してやるくらいには思っている。


だがそれを言葉にするつもりはない。

5/5テコ入れしました

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