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退屈は僕を殺したい  作者: おどろん
第ニ章 退屈の終わり?

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初めての反抗期

…ユキは、料理とかするんだろうか。


そんなことを考えながら姉さんと二人、学び舎までの道を歩く。

アカネはかわいい女の子を見つけたと言ってそそくさと行ってしまった。


俺にとってはちょうど良い。


この二週間、姉さんとお互いにどう過ごしていたのかを報告しあったり、料理の上達方法について議論したり、アカネの文句を言ったり(これは主に俺だけだが)、姉さんと会話しながら登校する。

これこそが愛すべき日常、今この瞬間より幸せな時など無い。


…と言いたいところではあるが、どうしてもはっきりさせておきたいことがある。

しかしその内情を姉さんに悟られてはならない。


「姉さんの仕事ってさ、神事って言うのは具体的にはどんなことをしているの?今回みたいな長期の出張ってこれからもあるのかな?仕事が大切だというのは分かってるけど…、姉さんいないとやっぱり寂しいな、俺は。」


長期出張をする必要がある仕事内容なのか?という質問を投げる。

本当は内容だけが知りたいのだが、普段仕事のことをほとんど聞かないようにしている俺が、急に『何してるの?』なんて聞いてしまえば当然『何故?』という疑問が生まれてしまう。


あくまで寂しい、という気持ちを全面に出しての問いだ。


「ごめんね、ユウ君。今回みたく長く家を空けることはそうそう無いけれど、でも絶対とは言い切れないの。私やアカネじゃないとできない仕事もあってね。」


「二人でないとできない仕事…?例えば?」


あくまでも自然な流れで聞き出したい。

俺が普段、姉さんの仕事を話を聞かないのは別に興味がないからではない。


姉さんは仕事のことをあまり話したがらないのだ。

高校に入学と同時に仕事を始めた姉さんに聞いたことがあったが、明らかに話を避けたがっている様子だった。


結局その時は『神事だよ』の一言で終わってしまっている。


もちろんアカネの方にもそれとなく聞いてみたが、そっちもあやふやな回答ばかりで『お祓い』や『祈祷』といった、神事から連想できるであろう単語しか出てこなかった。


「んー…。ユウ君は幽霊とかって信じる?」


昨日の体験。

怪物やユキの存在を見た今では、幽霊ぐらいいても全く不思議ではない。

だが、()()()()()()()()()()は必ずこう言うはずだ。


「ホラーは好きだけど、信じてはいないかな。」


「うん。ユウ君はそうだよね。」


頷いて納得する姉さん。そのまま言葉を続けた。


「無理には信じなくてもいいんだけど、ユウ君が普段映画とかで見るものとは少し違う、悪い…幽霊みたいな、邪悪な存在を退治する。つまりはお祓いのようなお仕事なの。」


お祓いという単語はアカネから既に聞き及んではいたが、姉さんがそこまで中身を砕いて話してくれたのはきっとこの2年で姉さんの中で何かしらの変化があったのかもしれない。


「そう、なんだ。姉さんのことを疑う事なんてない。もちろん信じるけど…それって、危ない仕事なんじゃないの?それに姉さんやアカネじゃないとできないって言うのも良く分からない。他の人に任せられないのかな?お坊さん?で良いのか分からないけど、それって全国にいるもんじゃないの?」


せっかく姉さんがここまで話してくれたんだ。チャンスを潰すわけにはいかない。

これを機会にできるだけ教えておいてもらいたい。


「選ばれた…なんて自分で言うつもりは無いけれど、私は普通の神職の人たちとは違ったの。」


えっとね、と呟き頭の中で言葉を整理しながら話してくれる。

俺は口を挟まずに聞くことにする。


「私はね、そのお祓いに関して生まれつき才能があったの。…アカネほどではないけれど。私たちが菊おばあ様と会ってから、私が中学を卒業するまでの五年間、おばあ様のところで住まわせてもらっていたでしょ?あれはおばあ様が私の才能を見抜いていたからなんだって。それで中学を卒業したらお仕事を手伝うことを約束して、こうして今はお給料もたくさん貰っているし、今の家も貸してくれているのよ。」


姉さんの言葉から伝わってくる感情は純粋な『感謝』だ。


俺たちには両親がいない。

確かに小さい子供二人を5年間も面倒を見てくれ、仕事を宛がってもらい、住む場所まで用意してもらって、と言葉にすれば感謝するのも当然かもしれない。

だが、俺はあのババアのことはあまり関わりたくないと思っている。

あいつが何を考えているのか、よく分からない。

ガキの頃から人の感情が読めて嫌気がさしていた俺も、あいつの心内だけはほとんど読み取れなかった。


初めてあのババアと相対したときの、向けられた強い殺意以外は。


まだなんの力も持たない無力な子供だったから、尚更嫌な記憶として鮮明に残っている。


「じゃあ姉さんはそういう普通?の神職の人では対応できない悪霊…みたいなやつのお祓いなんかを請け負ってるということなんだね。」


そう、昨日の鬼憑き。

あの怪物や、ユキのような存在と。


「流石はユウ君ね。そういうことよ。ちなみにアカネは天才なんて言葉では足りないほど能力が高くて、彼女にできないことはない、とまで言われているわ。私もそう思ってる。」


アカネの無駄に高すぎるスペックも、姉さんが優秀なのも、ひょっとしたらその才能の影響もあったりするかもしれないな。


「まぁアカネはどうでもいいけど…やっぱりそれって危険な仕事なんだよね?姉さんやアカネでしかできない、つまり普通の人にはとても対処できないほど危ないやつを退治しに行くってことだもんね?」


危険じゃないはずがない。

昨日の経験ひとつ取っても、危うくブヨデカにボリボリ齧られ、腸をチュルチュルと美味しく頂かれていた可能性もあった。

ああいう奴らを退治するというのは、つまりは命のやり取りのはずだ。

殺るか殺られるか、姉さんとユキの殺し合い…そんなものは想像したくない。


「危険が無い…っていうのは嘘になっちゃうね。でも大丈夫!菊おばあ様に認められたってこともあって、実はわたしも結構すごいのよ?それに油断もしないし、慢心もない。なによりアカネもいるからね。今のところ大きい怪我や、命の危機…なんて事態にはなったことは無いけれど、私でもどうしようも無い時、私が危険な目に合いそうな時のためにアカネがいてくれるの。アカネがいれば何も問題ないわ。」


とてつもない信頼だ。

姉さんは俺のことも家族として信頼してくれていると思うが、アカネに対しては命すらも預けられると考えているようだ。


…嫉妬で人が殺せるならアカネはもうこの世には存在していないが、姉さんを守るためにというならそれを咎めるようなことは言わない。

最初からアカネが一人で行けば良い…と思わなくもないが、それなら龍堂からの庇護を受けられる理由も無くなってしまう。


…まぁ今となってはそれでも問題ないけどな。


俺がなんでもして二人の生活費を稼ぐだけだ。

もちろんその場合はアカネは即刻追い出すけど。


「…心配だけど、やめるつもりはないんだよね?」


「ええ。確かに危険なお仕事だと思う。でもね、私は龍堂の家に対しての感謝も勿論だけど、私にしかできないこと、そしてそれが大きく人の役に立てることが嬉しくて、心から続けていきたいと思っているの。この先も、ずっとね。」


姉さんの意思は固いようだ。

であるならば、俺にはそれを妨げることはできない。

姉さんの意思は、俺にとっては何よりも尊重されるべきものだからである。

しかし、


「その仕事って、俺も手伝ったり…」


「それはダメ。」


即答だ。言い切る前に断られてしまう。


「どうして?」


「どうしても、です!」


これまた即答、そしてそれは具体的な理由というわけでもない。


『危険だから』


というのが理由なのは明白だ。

俺が姉さんを大切に思うのと同様、姉さんも俺を大事に思ってくれている。

しかし『危険だから駄目だ』とはっきり言葉にしてしまうと俺に心配をかけると危惧している。

だから、姉さんは俺に理由を言うことをやめたのだ。

これは姉さんが少し強く言えば、俺が必ず折れることを知っているからだ。

姉さんは普段は優しいが、俺が危ないことしようとした時や、良からぬことを考えていそうな時だけはとても強引になる。


しかし、今日の俺は昨日までの俺とは違う。


「俺は、俺は姉さんが大切で、心配なんだ!俺にできることなら何でも手伝いたい。俺を助けると思って、一緒にやらせてくれないかな?もちろん、俺に才能がなくて姉さんを助けるどころか足を引っ張るようならスッパリ諦める。だから…、お願い!」


今度は逆に俺が仕掛ける。

俺が姉さんにわがままを言うことなどほとんない。

普段はむしろ姉さんのほうからよく『もっとわがままを言っていいんだよ?』と言われている。


ここ最近では二年前の姉さんの誕生日に『友人に誕生日会をしないかと誘われた』という話を姉さんから聞いたとき、『寂しい。誕生日は二人で祝いたい。』みたいなことを言って姉さんを苦笑させた。

あくまで誘われただけで、姉さんとしては最初から俺と、おまけにアカネの三人だけで祝うつもりだったようで特に意味はなかったのだが。

俺が普段わがまま含め、姉さんに対し要望のようなことを一切言わないだけに、真剣にお願いしたら大抵は通る。

姉さんも『ユウ君のお願いなら何でも聞いてあげるからね』と念を押されたこともある。

先ほどは一蹴されてしまったが、こちらが真剣に、かつ曲げる気が無いという姿勢を見せれば姉さんの気持ちにも変化を与えられるかもしれない。


「…今日のユウ君はなんだか少し強引だね。この二週間に何かあったりしたのかな?」


「…どうだろう。自分でもよく分からないんだ。」


流石は姉さん、正解だ。

いつもの俺ならそもそもの話、『姉さんの気持ちに変化』を与えようなどと考えない。

意見がぶつかりそうな時は先に俺が折れるようにしている。

俺が今こうして姉さんの問いをはぐらかしている理由は、ユキに対する想いに他ならない。

たった一度会っただけ、それも人間という枠組みに入れられるのかどうかすらも怪しい少女に、姉さんに割くはずのリソースを大きく消費している。

そしてそれを煩わしくも思わない俺がいる。

姉さんとユキに争ってほしくない。

俺がその場にいたら、何とかして止められるかも…いや、


止めるんだ、俺が。


だからこそ、姉さん相手でもここは引く気は無い。

足手まといなら諦めると言ったが、昨日の不思議体験。

ユキに対して大ダメージを与えられるような力が俺にはある。

つまりは俺にもそういった才能がある可能性が高い。

現に俺が他人の視線や感情を読み取れたりするのも、普通の人間にはできない芸当だ。

思い込みというレベルのものでもないし、昨日の体験を経た今では俺の力なんてむしろ些細な物のように感じる。

ひょっとしたら姉さんも秘密にしているだけで似たような力、あるいはもっと凄い能力を持っているのかもしれない。


「俺は真剣に、姉さんを手伝いたいと思ってる。心配なのもそうだし、姉さんが危険な目に合っているかもしれない時に、呑気に留守番してるのなんて嫌なんだ。」


「…」


目を真っすぐ捉え、ハッキリと宣言する。

俺の本気度は伝わったようで先ほどと違い、即答で拒否されるわけでもなく、姉さんも真剣に考慮している様子だ。

一分ほど無言の時が続くが、やがて姉さんはこちらに向きなおった。


「…やっぱりダメ、絶対に。」


俺の本気が伝わっているからこそ、少し申し訳なさそうに、しかしハッキリとした拒絶をした。

これが姉さんの明確な答え。

であるならば、こちらも()()を投入するしかないだろう。


「…昨日、怪物が人間を食べていたって言ったら信じてくれる?」


俺がそう言葉を発した瞬間、姉さんは驚愕した様子で目を見開いた。

姉さんのこんな表情は久しぶりに見たな。


「そ、それはいつのことなの⁉どこで⁉ユウ君は襲われなかったの⁉」


矢継ぎ早に出てくる質問。もう賽は投げられた。

ユキに関連すること以外のことを話し、強引だろうとも俺は姉さんの仕事に関わると決めた。


「昨日の夕方…姉さんを駅で待っていたらアカネに絡まれたんだけど、いつの間にか場所は変わらないはずなのに、人がみんないなくなって、白昼夢だと思ってなんとなく散歩してたんだけど、駅のホームに行ったら気持ち悪い怪物がいて…、人を食べてた。」


「…本当なのね?ユウ君の言うことを疑うようなことはしないけれど、一般人が鬼憑きと遭遇して生き残るなんて奇跡としか言いようがない…。無事でいてくれて、良かった…。」


そう呟き、一筋の涙を流す。

たしかに、あんなバケモノ相手に普通の人間が生き残るのは厳しいだろう。

俺もうまくいければ逃げられそうだったが、ユキの能力で逃げ場を失っていた。

あんな展開にでもならなければ確実に死んでいただろう。

仮にユキがいなくとも逃げきれたかどうかは分からないしな。

しかし、しょうがないとはいえ姉さんを泣かせてしまった、それも俺の言葉で。

ひどく胸が締め付けられる思いだが、もう後戻りはできない。


「あの怪物は鬼憑きって言うんだ?流石に俺も死ぬかと思ったよ。久しぶりに全力を出し切ったというか、最後もなんとかヤツの視界から外れながら線路の上をこそこそ歩いていたらいつの間にか意識を失って…。気が付いたらベッドで寝ていたんだ。だから本当は自分でもどうやって帰ってきたか全然分からないんだ。」


後半は大分ぼかして言うが、少なくてもどうやって帰ってきたかは実際に知らない。

まぁユキの能力を思えば大体予想はつくけどな。


「すごくおそろしい奴だった。言葉も通じないし、見た目もでかくてブヨブヨで気持ち悪かった。食われかけたり、潰されかけたりね。指を掠めただけで肩も外れちゃって、大変だった。」


「肩…?大丈夫なの?朝は普通そうに見えたけれど。」


「逃げる途中で無理やりはめ直したんだ。実は今も結構痛むんだ。心配かけたくないから誤魔化してたけど。…あっ、そういえば被害者なんだけど、多分ウチの生徒だよ。女生徒だと思う。ウチの学校と同じスカートだったから…。」


「なんですって⁉一体誰なの⁉」


「ご、ごめん…。誰かまではちょっと…。スカート以外は、片足とか指とかしか無かったんだ…。」


あとは腸とか、まぁ判断する材料に成り得るわけでもないからそこは黙っておこう。


「…私のほうこそごめんなさい。ユウ君。嫌なことを思い出させちゃったね。私の帰りが遅かったばっかりにユウ君も危険な目に合わせてしまった…。学校の生徒にも被害者を出してしまった。昨日も、アカネに言われたの。『自業自得の酔い潰れなんて放っておけ。誰も彼も助けようとなんてしていたら、本当に助けたい人が助けられなくなるかもしれないぞ』って。アカネの言う通りかもしれないわね。」


自分を責めて自虐的に笑う姉さん。

アカネの言葉は間違ってはいない。

少なくても俺は完全に同意見である。


しかし、その発言が正しいかどうかは重要ではない。


「確かにアカネの言うことは一理ある。でも俺は困った人を見つけると、助けずにはいられない姉さんをとても尊敬しているよ。姉さんが見捨てたいって言うなら別だけど、助けたい気持ちを無視してまで俺を助けてほしいとは思わないよ。姉さんには自分の想いに正直に生きてほしいんだ。」


「ユウ君…でも、」


「だからこそ」


姉さんの言葉を遮る。

姉さんは今確実に揺らいでいる、ここで決めるしかない。


「姉さんの仕事を手伝わせてほしいんだ。…手伝いたい、なんて言ってみたけれど、実際には自分の身を守りたいっていうのが大きいんだけどね。自分が死にたくないっていうのは勿論だけど、俺が姉さんのいないところで勝手に死んで姉さんを悲しませたり、後悔させたくないんだ。今みたいに。」


「ユウ君…」


姉さんが俺を『仕事』に介入させたくないのは、それが俺にとって危険であるからだ。

だから逆に見ていないほうが危険だと思わせることができれば一気に話の流れを変えられる。

姉さんは悩み、逡巡している様子であったが、やがてこちらを見つめなおす。


「分かったわ、ユウ君。明日、菊おばあ様にも相談をしてどうするかをちゃんと検討します。ただ今夜にもう一度、昨日のユウ君の話を一から聞かせてほしいの。その被害者の女生徒の状況とかも。もちろんアカネも交えてね。」


アカネもこの場にいないうえ、学校も視界に映るほどの距離だ。

ここでの話は一旦区切りとなるが、下地はできたと言っていいだろう。

後は夜の話し合いの時にボロが出ないようにうまく話し方を考えておけばいい。

アカネなんてテキトーな性格をしているし、姉さんを納得させられたなら後は龍堂菊(ババア)次第だろうな。


「分かったよ、姉さん。今日は生徒会に顔を出すんだよね?俺は家で大人しく待ってるよ。」


「ありがとうユウ君。帰り道も今日は寄り道をしないで真っすぐ帰ってね?わたしもアカネも極力早く帰れるようにするから。」


まだ少し心配そうにしていたが、校門に入って別れるとき笑顔で小さく手を振ると、苦笑しながらも手を振り返してくれた。

さて、また退屈である学業の時間のはじまりだが、今はそれが幸運なのだと感じることができていた。


つまらなくも貴重な日常を堪能するとしよう。

5/5テコ入れしました

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