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退屈は僕を殺したい  作者: おどろん
第ニ章 退屈の終わり?

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15/81

害虫駆除

繰り返すが俺は人混みが、人間が嫌いである。


学年問わず、今日出席している全生徒が校庭へと移動して人口密度がエラいこととなっている。

有象無象どもに囲まれてイライラが収まらない。


早く終わってほしいものだ。


出席番号の順に整列しているため、先頭であるからまだマシであるが、中間ぐらいに配置されていようものならキレ散らかして近くのヤツを殴り飛ばしてるかもしれん。

いつも校長の話など右から左に聞き流しているが、普段から無駄に話の長いやつが今回の事件も手伝ってもう正味三十分ほどは喋っているだろう。

誰かここに爆弾でも落としてくれないだろうか?


こっちはもう知ってる上にどうでもいいんだよ。さっさと姉さんを出せってんだ!


校長が詳細を説明後、生徒会長が締めるとのことらしいので、それだけが救いだ。


危険なので休学期間は極力家にいるようにだとか、不確定な情報を発信するわけにはいかないからマスコミの相手をしないようにだとか。

それらしいことを宣ってはいるが、生徒の心配というより学校に対する風評のほうが気になってしょうがないのだろう。

表情に出さないのは校長という立場で考えると流石というべきか当然というべきかは分からないが、苛立ちの感情が強く滲み出ている。


まぁ所詮そんなものだろう。


学び舎の長と言っても、その実経営者であるわけだから、こういうハプニングなんて煩わしいだけで良いことなど当然なにも無いわけだ。

心配や不安も含まれているのは分かるが、苛立ちの強さと比べれば大したことではない。


そんなこんなでようやく無意味と思われる時間が終わり、進行役の教頭が生徒会長、つまり姉さんを呼び上げ、教師陣に混ざって前方に立っていた姉さんが壇上に立つ。

その美貌と凛とした立ち振る舞い、美しい声は多くの者を魅了する。

俺のように被害者の女子生徒に興味がない者は特にだが、そうでない者含め、男女問わず姉さんに見入ってしまっている。


「今回の痛ましい事件では…」


校長からあった話を簡略化して再度周知。

その後、休校期間の過ごし方やメンタルケアとして学校が手配したカウンセリングについての説明、今回を事件で何か手がかりのような情報、心当たりがある者には警察への情報提供、つまりは協力依頼など十分ほどで話が終わり、解散して教室に戻ることになった。


その後はおそらくすぐに帰宅の流れとなるだろう。


情報提供か…この場合、俺は関係ないよな。

ほとんど荒唐無稽だし。


夜に姉さんに確認してみるが、おそらく警察に話せるようなことはほとんどないだろう。


その女子は怪物に食われちゃったんで、どこを探そうが意味ないですよ


なんて言っても頭のおかしいガキ扱いされるだけだ。


教頭より解散の合図がかかり、1年のAクラスから順に教室に戻っていく。

2年の番になり、俺も教室へと戻る際にふと視線を感じ、3年のほうに目を向けた。

アカネがずっと俺を見ていたようだ、

それもただ見ているのとも違う。


(焦り?違うな…疑念か?)


多くの生徒が入り混じるが故に、アカネの感情だけをハッキリと読み取るのは難しい。

とりあえず、良い心情ではなさそうだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


教室に戻ると、オッサンから今回の件と学校の対応に関してまとめられた資料が配られる。

全員に配り終えると、再び休校期間中の注意事項が言い渡されてHRは終了、下校となった。

いつもであれば放課後は生徒同士の談笑などで騒がしい教室も、今日は静寂に包まれていた。


「じゃあ帰るか。」


ハヤテとハルカに声をかける。


「おう。」

「……うん。」


ハルカが集会後から少し様子がおかしい。

ひょっとしたら被害者が知り合いだったりしたのだろうか?

ハヤテはいつも通りだが、ハルカには衝撃が大きかったようでいつもの陽気さはまるで無い。

興味なさ過ぎて校長の話はそこまで聞いてなかったから、ハヤテにでも後で確認しておこう。


下駄箱で靴に履き替え、校舎を出る。

なにやら校門が騒がしい。

見てみれば校門に配置されている警備員に多くの人間が群がっていた。

おそらくメディア関係の人間や野次馬のような連中だろう。

捕まっているのは警備員だけでなく、校門を出た生徒たちも漏れなく絡まれているようだった。


必死というか、要は人の不幸を糧にしているような蛆虫にも劣る連中だ。


たしか校長が『明日に保護者、報道関係者向けに緊急説明会を行う』と言っていたし、警察の方にもそう発表したみたいなことを話していたような気がするが、我慢…というよりは自制する気もないようなクズ共が『良い画』欲しさに群がっているのだろう。

生徒の落ち込む姿や、泣いている様子のほうが学校関係者が淡々と話す様子より視聴率も取れそうだしな。


というか、学生を守ろうという気概の教師はこの学校にいないのか?

周りを見渡すも、困った生徒を救おうとする教師の姿はどこにも無かった。


「おいユウト見ろよ!青空TVだぜ!俺の髪、大丈夫か⁉イケてるか⁉」


「イケてるというか、イっちゃってるな、頭。」


不良を気取っている割にはミーハーなハヤテは、大手メディアの社旗を見て興奮している。

自慢のソフトモヒカンの先端をクイクイ引っ張っているが、残念ながらメディア側から見てみればガラの悪そうなやつは公共放送に向いてないと判断されるだろう。


むしろ問題なのはハルカの方だ。


まだ被害者の女生徒のことを考えているのか、心ここにあらずといった様子だ。

そんなハルカは奴らから見れば恰好の獲物だろう。


「……ん?」


「なんだ?どうかしたか、ユウト。」


「…いや、何でもない。めんどくせーからあの警備員が犠牲になってる間に左側から行くぞ。お前はこっちだ。」


そう言ってハヤテを右側に来るよう引っ張る。

そうしてハルカとハヤテの間にできた空間に俺が入り込む。

引っ張られた時はムッとした表情をしていたが、すぐに俺の意図に気づいて大人しくしていた。

手前のハヤテ、中間の俺でハルカを隠すようにして歩く。

右前方から見ればハルカの位置はほぼ死角となり、少なくても需要の低そうなハヤテが目立つため、わざわざ反対端を歩く俺たちに近づいて来る可能性は低いだろう。

ハルカの方に目をやるが、俺たちの不自然な動きにも全く気付いていないようで相変わらず上の空の様子だった。

下手に動揺されるよりは良いので、このまま自然に誘導しようと思っていたのだが、ここで下手(へた)を打ったことにようやく気づいた。


集中が途切れたとはいえ、考えてみたら当たり前だな。

ったく、めんどくせぇな…


辟易しつつ、ズボンの右ポケットからスマホを取り出して素早く操作。

そして胸ポケットに忍ばせておく。


それとほぼ同時、校門を抜ける直前で左側擁壁からひょっこりと身を出してきたTVのクルーと思われる連中がカメラやマイクを向けてくる。

そしてそれは当然のようにハルカにグイグイと突き付けられていた。

急に眼前に迫るゼロ距離のマイク、眩いフラッシュ、自分の頭ほどの大きいカメラを視認し、驚き狼狽するハルカ。

右のハヤテも怒りの感情が渦を巻いていき、今にも殴りかかりそうだ。


「おっ…⁉」


おそらくは『おいやめろ』、そう叫ぶ前にハヤテの制服の襟を強く引っ張る。

ハヤテはこちらを鋭く睨みつけ、怒りと疑問をぶつけてきたが、それを目で制した。

疑問が強く残っていたが、怒りは静まっていく。


理由が分からずとも俺を信じてくれたということだろう。

俺とハヤテは静観する。



そして知る権利と報道の自由を盾に、傷心している少女への容赦ない攻撃(しゅざい)が始まった。



「この学校の生徒の足だけが見つかったという話はもうご存じですか⁉」

「君、被害者のお友達かな?被害者のこと、詳しく聞かせてもらえる?」

「被害者は虐めを受けていたって噂もあるけど本当かい⁉」

「泣いている生徒は多かったですか⁉」

「こっち向いて!カメラ!カメラ!」

「こっちにも!表情ちょうだい!」


なんと醜い存在なんだろうか。

こんな汚物共が生物学的に俺たちと同等の存在であるという事実が非常に受け入れがたい。

せっかく静止したハヤテも怒りが再燃どこか殺意まで湧いてきている。


当然だろう。

俺も、証拠さえ残らなければ。

こんな害虫共は一匹残らずぶち殺して、腸を引きずり出してから…って、いかんいかん。

映画の見過ぎだな、昨日の影響もあるかもしれん。

大切なのは冷静さだ。


気が付いたら正面だけでなく、俺たちの周りを取り囲む取材陣。

前にも後ろにもカメラにマイク。

プライバシーも遠慮の欠片さえもない。

普段ならいざ知れず、ハルカはまともに言葉も出せずにいる。


「えっ…?あ、あの…その………うぅ…」


知らない大人たちによる、『取材』という名の汚く醜い攻撃に屈し、取り乱して遂には涙をこぼし始めるハルカ。

そしてそれに大興奮し喜びを隠しきれない蛆虫共はより良い角度で撮ろうとカメラを必死に向ける。


被害者を想い涙を流している、そんな風に奴らには見えているのだろう。

自分たちの非道さ、醜さには全く気付くことはないのだろうな。


ほんの少しカメラをずらすだけで、醜くおぞましい様子の同業者の姿が映し出されるのだが。

ハルカは立ち尽くし、目に涙を浮かべながらこちらを覗く。


これで十分だな。

()()()()()()()()()()()

後は追い払うだけだ。


馬鹿には論理が通じない。


正論を言っても理解できないし、そもそもこちらの言い分を聞く気すら無い。

自分だけの都合の良い解釈を他人に強要し、自分勝手に振る舞う。

だからそういう馬鹿を()()するには痛みを教えなければならない。


痛みを知らない者が、他人の痛みを理解できるはずがないのだから。


「おれ、被害者の彼氏ですよー。」


俺から発せられたそのたった一言で。


今まで最高の蜜だと思っていたハルカを即座に切り捨て、俺に群がり始める蛆虫共。

その勢いたるや、ハルカを突き飛ばし膝を付かせる。

おそらく手も擦り剝いているだろう。

これは計算外。

ここまでの馬鹿がいるとは流石に想定外だ。


犯人であるその醜く肥えた豚野郎は今すぐにでもぶち殺してやりたい。


生きていないほうがこの世のためだ。

間違いなくこの豚野郎はこれまでに何人も不幸にしてきたであろうことは確信できる。


「あなた!彼氏さんなの⁉詳しく教えて!」

「カメラ見て!カメラ!」

「被害者とはどこまで進んでたんですか⁉」

「今の心境をどうぞ!」

「彼氏さんカッコいいね!被害者は可愛かった?」


寄ってくる蛆虫共をいなしつつ、ハヤテに目配せをしてハルカの介抱をさせる。

ハルカに手を貸し、起き上がらせたのを横目に確認して正面のカメラを見つめて言ってやった。


「うっそぴょ~ん♪」


辺りは静寂に包まれた。

先ほどまで張り付けた笑顔とギラついた眼差しでこちらを見ていた連中も、毒気を抜かれたように、口を開けてあんぐりとしていた。

それも一瞬、すぐに奴らは怒りを俺にぶつけてくる。


ふざけるな、こっちは仕事だ、これだから子供は、舐めてるのか。


口々に俺に文句を浴びせてくる。

その汚い存在の、汚い口から発せられる汚い唾液や罵声がひどくこちらをイラつかせてくる。


「聞かせてほしいんだが、お前ら一体何の権利があって俺らを撮ってるんだ。」


一瞬の静寂の後に、漏れ出る嘲笑。

こちらを小馬鹿にするような下卑た笑みを浮かべて一人が言う。


「我々には知る権利と報道の自由があるんだ!国民に今回の事件のことを伝える必要が、義務があるんだ!」


その言葉を聞いて満足そうに、誇らしそうに首を縦に振る連中。


そうだそうだ、最近の子供はそんなことも知らんのか、進学校とは言っても所詮子供だな。


賛同だけではない、明らかな侮蔑の表現が込められた言葉を平気で投げかけてくる。


生意気な子供を黙らせた

我々は正しいのだ

そう思い込み、気持ちよくなっているのだろう。


「なるほどなるほど。確かに報道の自由とは憲法で保障されている表現の一部。国民の知る権利を支える重要な権利だよな。」


うんうん、と頷く俺に周囲は訝しげな顔をする。

自分たちの薄っぺらい正義を世間知らずの子供が急に具体性を持って肉付けしてくるもんだから面食らったのだろう。

俺は言葉を続ける。


「つまり、事件の被害者の友人と思われる女の子を見つけたら、悲しんでいようが苦しんでいようが、国民のために洗いざらい吐け。そう言いたいんだな?」


俺の指摘に一瞬怯む。

連中はハルカに視線を向けるが、少女の目には涙が。

そして先ほどまでとは違い、明確に怒りを込めた視線で連中を睨め付けていた。

しかし、それを目にしたところで馬鹿には芯まで響かないのだ。

そんな少女の怒りの目線など、痛くもかゆくもないのだから。


いや、あくまで彼女には自主的に話しを…

こちらは別に強制はしていない…

嫌なら答えなければいいだけだ


最初の勢いは消えたが、まだ言い訳をしてくる見苦しさに呆れを通り越して普通に感心してしまいそうになる。


「ふむふむ、強制さえしなければ良いと?お前たちの権利・義務の前では、『友人を突如と失い苦しむ生徒に対し、大人数でカメラやマイクで取り囲み、無許可で撮影を繰り返して発言を四方八方から求める』までは問題ないということだな。あまつさえ次の獲物を見つけたらその『弱った少女を突き飛ばし、怪我を負わせようとも問題ない』というわけだ。」


俺はそう言いつつ、ハルカを腕を軽く引いて隣に立たせる。そしてハルカの擦り剝いて少し血が出ている膝を指差す。それを確認して奴らはようやく口を閉じた。

息を吞む様子や焦っている様子が窺える。


「報道の自由、国民の知る権利。プライバシーの侵害とよく争われるのは周知の事実だろうし、理解できるが…、傷害事件ですらも霞ませられるとは知らなかったな。」


誰も、何も言葉を返せない。

当たり前だ。

報道の自由のためなら未成年女子に傷害行為を働いてもいい、なんていう法律は日本のどこにもない。

どんな馬鹿でも『そうだ』とは言えないだろう。

さて、ここからが仕上げだ。


「ここでの出来事は『お前たちがハルカを強制的に取り囲む前から始まり、今現在』も()()()だ。幼気な少女を壁の裏から急に現れ、マイクとカメラを無理矢理押し付けて質問攻め。泣かせた上に突き飛ばして怪我を負わせるという一連の流れが全て記録されている。お前たちが口にした『安い正義感に溢れた言葉』も一緒にな。」


そう言って胸ポケットに入れたスマホを少し引き上げて覗かせてやる。

そこまで聞かされようやく自分たちの現在置かれている状況を理解したようだ。

先ほどまでは連携してこちらを責め立てていた蛆虫共。

それが青ざめた顔で慌てふためき、仲間割れをしている様は何とも見ていて滑稽で面白い。


「おい。その醜い責任の擦り付け合いにいつまで付き合えばいいんだ?これまでの発言含め、『今』もその無様な様子を撮られてることを忘れてくれるなよ?」


殴り合いでも始めてくれれば最高の見世物だ、なんて思いつつもハルカをダシにしている以上、あんまり長期化はさせないほうが良いので展開を進める。

俺の言葉を聞き更に狼狽えるが、責任の押し付け合いの無意味さに気づいたのか。

しばらくすると一転して再びこちらに矛を向ける存在が現れる。


「というか学生の分際で何を勝手に盗撮しているんだ!ガキが大人をおちょくって良いとでも思ってるのか⁉」


その発言のヤバさを自覚していないのが本当に終わっている。

例のクソ豚野郎だ。

ハルカを突き飛ばして怪我をさせた張本人にふさわしい人間性と言えるだろう。

近づいてくる前にカメラを下したのも保身のつもりだろうが、もう遅い。


「やはり人の許可も無しにバンバン写真を撮りまくり、撮影しようとするやつの言うことは違うなぁ。さっきも言っただろう?これは立派な傷害事件だ。つまりこれは証拠映像なんだよ。裁判となった時に正当に使用できる犯罪性を表す証拠映像に盗撮もクソもない。業界の人間の癖にそんなことも分からないのぉ?オ・ジ・サ・ン?」


皮肉をこれでもか、というレベルで表情と言葉にたっぷり込めて言い放つ。

おそらく自分で鏡を見てもかなりムカつく顔をしているだろう。

目の前の豚から怒りと殺意の感情がなだれ込んでくる。


さぁ来い。今すぐこのクソガキに掴みかかれ。この何台ものカメラの前で殴り飛ばせ。

一発殴らせたら、正当防衛として取り押さえて拍子にその短い豚足をブチ折ってやるからよ。あくまでも自然にな。


この醜い豚野郎の悲鳴を想像すれば、中々ストレス解消になりそうだ。

そんな風に考えていたのだが、ハルカが突如として声を発したことで妄想を止める。


「もういい加減にして!これ以上私たちを拘束するんだったら、彼の言う通り!警察でも裁判でもなんでもやってやるんだからね!それでも良いの⁉嫌ならさっさとどいてよ!」


ハルカは意思が強いやつだ。

今回は一時的に弱っていたところに付け込まれた形であったが、俺の介入で一気に空気が変わり、普段の調子を少し取り戻したのだろう。

まだ少し目元が潤んでいるようだが、俺の発言に乗っかり、こいつらを追い払うつもりだ。


だがタイミングはよろしくない。

俺がワザと大事にしてやろうと、一番問題があるやつにたっぷりと挑発した直後だ。

俺に向いていた害意がハルカにまで向けられてしまう。


「揃いも揃ってクソガキ共が…。少し顔が良いからって調子に乗りやがって…。あんまり舐めてると痛い目に合わせたるぞこらぁ!」


他の局のカメラの前だというのに平然と暴言が出てくる。

元々俺が望んでいた状況であるが、ハルカの立ち直るスピードを舐めていた俺の計算ミスだ。

ここから予定通りにボコボコにしても良いのだが、被害を受けた本人が早く収束を望むならさっさと状況を収拾させるとしよう。


せっかく『正当防衛』のチャンスだったんだけどな…。

こればっかりは仕方がない。


「カメラの前にも関わらず、学生相手に脅迫か。暴行も加わってこりゃいよいよ実刑だな?オッサン。」


責任の擦り付け合いは十分に楽しんだので、さっさとネタ晴らしをするとしよう。

だがこの豚君は一瞬怯み、焦った様子を見せたが、すぐに横柄な態度を取り戻す。


「はっ…。なぁにが暴行だクソガキ。どうせ録画なんてハッタリなんだろうが。仮に本当に録画をしていたとして、肝心の俺が犯人だっていう証拠はないだろうが。俺はお前の背中側に居たんだからなぁ?胸ポケットに入れてたということは、俺のことは絶対に映っていないはずだ。いや、まぁ犯人は俺じゃないけどな。」


鼻で笑い、開き直ったように言う。

やはりそのことには気付いていたか、セコそうだし。

確かに俺のスマホには豚は角度的に出演していないだろう。


まぁそれは全く問題ないんだけどな。


まるで見当違いの迷推理に感銘を受けていると、勘違いを重ねた豚が調子に乗り始める。


「へっ。黙っている感じ、図星なんだろ。生意気なクソガキが少し頭を回したのかもしれんが、大人に歯向かうなんて十年早いんだよバーカ。」


馬鹿に馬鹿と言われたところで普段であれば何も気にしないのだが、その醜い容姿に加え汗臭さとシンプルに臭い息がひどく気分を害する。

しかも、そのバカの発言を鵜呑みにしたのか周りの有象無象共までも調子に乗り出す。


なんだ、ハッタリだったのか

所詮は子供のいたずらか、と。


馬鹿馬鹿しい。

愚か者はすぐに自分の都合の良いことだけを考えて現実から目を逸らす。


「迷推理を披露して気持ち良くなっているのを邪魔して悪いが、しっかりお前らの醜態は記録に残っているぞ。現在進行形でな。」


再び口を開く俺に少したじろいだが、先ほどまでには動揺しない。

豚野郎の妄言の方がやつらにとっては受け入れやすいからだ。


その幻想をぶち殺す…なんてね。


「まず、このオッサンの言う通り。俺が録画をしているのはこのスマホ1台だけだ。だからこの端末自体にはこの子を突き飛ばした決定的瞬間は捉えられてない。俺の身体は正面を向いていたからな。」


記録に残っている、そう言った割には不可解なことを言い出す俺を怪訝そうに見る有象無象。


「そうかそうか!肝心の映像では撮れてないが、音声はあるからそれで…ってことだな⁉ハハッ!シロウトのガキが考えそうなことだぜ!裁判でそんなもん使い物になるわけねぇだろうが!逆に名誉棄損で俺が訴えてやる!ガキだからって謝って済むと思わないことだな!」


「だが!」


無駄に声がデカい早とちりの豚の口を止めるため、こちらも声を張り上げる。


「そこの監視カメラは別だ。今までの一部始終、全て記録されている。コソコソ隠れ潜み、落ち込んでいる女学生を見つけては集団で取り囲み、マイクカメラを無遠慮に向けて、突き飛ばし怪我をさせた上、男子学生に罵倒するその醜い姿もな。もちろんオッサンだけじゃない。周りの人間も、その暴行犯に同調している様子が見てとれるだろう。それを俺の動画をセットにして、お前ら以外のテレビ局や新聞社に送ってみたらどれだけ面白いことになるだろうなぁ?」


俺の言葉を聞いてようやく本当の意味で自分たちの立場を理解した愚か者ども。

特に目の前の豚は顔が青ざめ、わなわなと震えている。

今更気づいたところでもう遅すぎる。

完全に戦意を喪失させたところでハヤテとハルカに耳打ちする。


「ここはもう大丈夫だから、お前らは今のうちにさっさと帰れ。(小声)」


これでハルカも安心するだろう、と思いつつ顔を見てみると何故かジトっとした目でこちらを見ていた。

どうやらドン引きされているようだった。


解せん、一応はお前のためだったんだが…。


少しショックを受けたが、ハルカはやがて表情を戻し、


「ありがとう。でもやりすぎちゃったらダメだよ。」


そう言って、ハルカとハヤテは一緒にこの場を後にする。

ハヤテとすれ違う際に目配せをする。


ハルカを頼む、という意思は伝わったようで黙って頷き、去っていった。


さて、それではとどめといこう。

相変わらず眼前では屑どもが右往左往している。

屑の困った様子というのは見ていてとても気分が良く、心が洗われていくようだ。


「じゃ、じゃあ何でわざわざスマホでも録画したんだ…。別に監視カメラがあるならそれでいいだろう…?」


「それを聞いたところで何の意味があるんだ?まぁいいけど。お前がさっき言ったことと同じだよ。録音だけというのも論外だが、実はあの監視カメラも撮れるのは映像だけ。音声の記録はできない。だからこちらでも録画しておくことで状況の照合、証拠の精度を高めることができる。まぁ勝手に自爆して強迫まがいのことをしてきた時は流石に笑うのを我慢するのは大変だったよ。」


監視カメラが映像のみを記録する型であることは去年、ちょっとした()()()の際に、斎藤のオッサンのPCを少しばかり盗み見て確認済みだ。

逃げ場は無いと再び分からせられ完全に消沈する。


「さぁ、ここで交渉のチャンスです。あなたたちの人生がハードモードに移行する前に、これまでの愚行を帳消しにする機会を与えます。よぉく聞いてくださいね。」


俺がそう言うと、屑共は俺に媚びへつらい始める。


なんでもします。許してください。どうすればいいですか。


そう口々に許しを請い、何をすれば良いかと問う。


寄るな、近づくな、ゴミ屑共が。


特に例の豚は俺の腰にしがみついて必死に謝罪の言葉を押し付けてくる。

何の誠意も込もっていない、自分が助かりたいがためだけの謝罪。


お前だけは絶対に許さない。

たとえハルカが許そうともな。


「まぁ気持ちは分かりますが、焦らないで。俺の言うことを聞いてくれれば今までの失態が帳消しどころか、むしろスクープを持って会社に胸を張って戻ることも可能です。」


一瞬の静寂の後、歓喜が広がる。

許してもらえる上に、スクープを撮れると考えれば喜ぶのは当然であろう。

豚からも恐れや不安、焦りがあっという間に消え去り、すっかり浮かれ気分だ。

楽天的過ぎてこいつらが今までどういう人生を送ってきたのか気になるレベルだ。


「まずは皆さんに質問です。この中で、今回の一件で最も悪い人物は一体誰だと思いますか?」


馬鹿でも分かるよう敢えてこういう聞き方をする。

質問の意図は計りかねている様子だが、全員の視線が豚へとやがて収束する。

誰も言及こそしていないが、満場一致でこの豚が諸悪の根源であるという認識でいる。


それはそうだろう。


豚に関しては強迫に加え、傷害事件にも発展するような明確な悪であることに対し、その他の連中はあくまでもコンプライアンス的問題でしかない。

世間での評価は確実に落ちるであろうが、こいつら個人に大きい制裁が与えられるかどうかが実際の所は未知数である。

だからその無駄を省き、一点に集中させ、本当に破滅させるべき相手に確実な制裁を与える。


「…あ?な、なんだよお前ら…」


全員が自分に視線を向けていることに何故か疑問を持っている様子だった。


「はい。正解です。俺自身、こいつだけ地獄を見させられればあなたたちは不問で良いと考えてます。いや、不問どころか先ほど言った通り。皆さんはスクープを持ち帰ることとなるでしょう!題して、『青空TV!傷心した学生に暴行!恐喝!メディアに問われる資質とは⁉』って感じかな?」


周りから広がる疑問の感情。

やれやれ、一から十まで言わないと分からないのか。

面白いことに豚だけは少し理解が追いついたのか焦りが強く感じられる。


「いいですか。話はこうです。」


前置きして、俺の考えるストーリーを展開する。


「あなたたちは本校の事件について取材するためにやってきた。しかし、傷心した女学生やそれを庇おうとする男子学生に対し、同業者による心無い『取材』を目にし、同じ業界で働いているにも関わらず…いや、同じ業界で働く人間だからこそ!あなたたちは立ち上がった!正義の報道のために!」


馬鹿どもは目を見開き、おお!と感嘆の声を漏らす。


…こういう奴らがいるから宗教やらマルチ商法で金儲けができるんだろうな。

いずれ新興宗教や政党でも立ち上げて荒稼ぎしてみるのも面白いかもしれん。

名前は…姉優教(しゆうきょう)姉優党(しゆうとう)なんて良いだろうか?


「でも、一体どうすれば…?」


「簡単です。あなたたちが()()()()()()()()()()()、この男が俺やさっきの女子に恫喝している様子だけを切り取って流せばいいんですよ。ナレーションで先ほど俺が言ったように付け加えてやればばっちりですね。そちらの映像と、俺が録画しているコイツの恫喝ドアップ映像。加えて突き飛ばして怪我をさせたシーン。こちらは俺があそこの警備員に直談判して映像を貰います。あの警備員とは仲も良いし、正義感も強い人なので喜んで協力してくれるでしょう。更に、後でさっきの女子の怪我のアップも撮っておきますのでそちらも提供しましょう。ここまですれば報道後、こいつは間違いなく何らかの処分が下されることになり、俺の溜飲も下がる。あなたたちもこの犯罪者の擁護者から一転、正義の報道を行ったとして民衆の支持も大きく得られる上、確実に世間の注目を集めるネタとなるでしょうから会社での評価も上がることでしょう。あなたたちメディアの会社同士では基本、ライバル関係がほとんどでしょうが、今回の報道で大手の青空テレビの信用を大きく失墜させ、逆にあなたたちの会社は躍進することでしょう。大手柄間違いなし、ですね。」


実際そこまでうまく行くかどうかは知らない。

だが、ある程度はその筋書き通りにいくだろう。

それに細かいところはどうでもいい。

こいつらは既に俺の奴隷だ。


「す、素晴らしい!」

「わ、私がスクープを…!ありがとう‼」

「天才だ!キミは!」


喜びに打ち震え、口々に俺を褒め称える。

優秀な人間に評価を貰うのとは違い、こいつらから褒めてもらったところで『象さん、強いね』と蛆虫に言われていることと同意だ。

意味が無いを通り越して煩わしさすら覚えるが、俺は満面の笑顔で言葉を受け止めていた。


そして象さんと蛆虫の和気藹々に、異議を唱える豚君が現れる。


「お、俺は…?俺はどうしたらいいんだよ⁉」


全員から白けた目を向けられる。


お前はもう、こいつらの餌でしかない。

お前ができることは社会的に死ぬ(加工される)までの間、醜くブヒブヒ鳴き喚くことだけだ。


「お前にやってもらうことなんて何もない。強いて言うのなら精々苦しんで、たっぷりと後悔しながら惨めに生きていくんだな。」


「そうだそうだ!」

「そもそもあなたが私たちを巻き込んだのよ!」

「そうだ!無茶苦茶しやがって!反省しろ、屑野郎!」


俺に追随する言葉で『お前らが言うな』と激しくツッコミを入れたくなるが、スルー。

ついさっきまでは味方だった連中に見事に手のひら返しを受けて、豚君は完全に意気消沈。

絶望に呑まれてしまい、そこには怒りなど生まれる余地も無かったようだった。


どこまでも期待外れだな。

暴れることも無く終了か、一発ぐらい殴らせてほしかったぜ。


そこで完全に決着はついたのであった。

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