作戦
「ちょっと賭けの要素が大きいけど…、手伝ってくれる?ユキ。」
「何か思いついたのね?なんでも付き合うわよ、ユウト。」
ユウトは何か思い付いたようだった。
記憶を失っていてもユウトの頭は冴えているようだし、安心して聞ける。
だと言うのに、ユウトは言葉を続けようとしなかった。
何やら考え込んでいる様子。
思い付いた作戦に欠陥でもあったのだろうか?
「ユウト?どうかしたのかしら?」
問いかけてもしばらくは目を閉じて思案をしていたが、やがてユウトは顔を上げた。
「決めた。」
「良かった。それで、私はどうすれば良いのかしら?」
シロとクロも死なせなくないし、勝つとしても何かデメリットがあるというのならそれを背負わせたくない。
余程の無茶じゃなければ何でもするつもりだ。
「僕をすごく高いところから落としてくれれば良いよ。死ぬ前に助けてくれればOKかな。タイミングが重要だから、よろしく頼むね。」
「……はぁ?」
いけない。
思わず馬鹿みたいな声を出してしまった。
「ごめんなさい、ユウト。もう少し分かりやすくお願いするわ。分かりやすくというか、具体的に。」
「そのまんまだよ。ひと芝居打つから、合わせてくれれば大丈夫。」
「ひと芝居?でも、内容が分からないと合わせようもないわ。」
要は演技をしての騙し討ちということだと思うけど、内容が分からないからには合わせるも何もない。
「分からないほうが良いんだよ。アカネは馬鹿ではないらしいし、少しでも違和感を持たせると多分失敗する。だからここは、敢えて内容は言わないでおくよ。」
「敵を騙すには味方から…みたいなものかしら?でも高所から落とすっていうのは?それにタイミングも重要ってことだけど、話の流れも分からないのに大丈夫なのかしら?」
非常に不安。
特にユウトを高所から落とすというところ。
やるのは簡単だ。
空間に直接転移させればいいし、足元に異空間ゲートを造り出して高所に繋げるだけでもいい。
だがユウトの身体能力は『凄い人間』止まりだし、下手をすればユウトを殺すことになる。
なのに具体的な指示がなく、それどころかタイミングが重要とのこと。
つまり、
『高所から落として、その後すぐに助け出す』
ではダメだということ。
せめてどういう展開かだけでも聞いておきたいけど。
「いや…どこまで上手くいくかは分からないし、1番重要なのは『アカネに違和感を持たせない』こと。これが絶対なんだ。」
「でも、ユウトの命もかかっているのよ?ミスは許されないわ。」
こっちも譲れない。
「大丈夫。僕が地面に叩きつけれて死ぬ寸前に助けてくれれば、それだけで大丈夫だよ。」
ユウトは楽観主義ではないはずだ。
むしろ、どちらかと言えば心配性なイメージ。
なぜ、命をかけた作戦をそんなあやふやな指示でいこうと思えるのだろうか?
「ユキは失敗しないよ。」
笑ってそう言うユウト。
本当に分からない。
どこかに失敗しない根拠でもあった?
…考えても分からなかった。
だから聞いた。
「なぜ、私が失敗しないと?」
ユウトは言った。
「僕の命がかかってるからだよ。」
「…なるほどね。よく分かったわ。」
早い話、根拠とかそういう話ではない。
ユウトは私を信じている。
だから失敗しない。
いや、それこそがユウトの根拠になり得るということか。
ならば、私は失敗しない。
ユウトの信頼に全力で応えるまで。
「それで、いつ仕掛けるの?」
戦いの方に目を向ける。
実際に見ていても現実感がないほど馬鹿げた戦い。
下手に介入すればその瞬間に死ぬということも考えられる。
「そうだね、それもすごい難しい。」
ユウトはまた考える。
「…最低条件として、それぞれにもう少し弱ってほしいね。このままだと巻き込まれるだけで死んじゃうよ。」
「そうね。でも難しいんじゃない?龍堂茜もどんどん強くなるし、シロとクロも底が全く見えないわ。」
「そうだね。ただ、僕の見立てではこのままだとアカネが勝つと思う。」
…ユウトには龍堂茜の姿が見えていないのだろうか?
手足が千切れ、体の色々なところに穴が開いているというのに。
「今のアカネは死なないことを前提に動いているんだと思う。大ケガをしていようが、蜂の巣になっていようが、『生きている』ならアカネの思惑通りだと思った方がいい。たぶん、何か策を思い付いたんだろう。」
…たしかに。
頭と心臓、つまり急所だけは何としても守る。
そんな動きだったように思う。
「おそらく、準備ができたらどこかのタイミングで動くんじゃないかな?」
「準備?」
「うん。あの鉄筋…組み合わせた鉄筋を振り回す行動。馬鹿みたいに見えるけど、確かに生き残る上で考えれば一振で防げる範囲を増やすのは実に利にかなっている。少なくても両腕で振れるように2本は用意するはず。次に攻撃が止めばすぐに造り出すだろうね。そして、防御が完璧になれば攻撃に繋げることも可能だ。」
「それが準備?ならシロとクロの攻撃が止んだ時に介入してそれを防げば…」
「逆だ。思い切りやらせる。」
「…どういうこと?」
問いかけたところで周囲が静かになる。
シロとクロの攻撃が止んでしまった。
ユウトの予想通りに鉄筋に手を掛ける龍堂茜。
このまま放置することは敵に利を与えることになる。
シロとクロが危険になる行為だ。
「おそらく…いや、間違いなくアカネは次に攻撃を凌いだら仕掛けてくると思う。」
「それなら尚更じゃない。シロとクロが危険だわ。龍堂茜は2人の弱点が見えているのでしょう?今は一方的に2人が攻めているから、不意を突かれたら防御や回避が遅れるかもしれないわ。」
先程の龍堂茜の台詞を聞く限り、彼女にはシロとクロの弱点が見えているらしい。
私には全く見えないけど、ユウトにも見えているというのだから間違いない。
「僕もそう思う。シロとクロ相手に2度と同じ攻撃は通用しない。アカネが仕掛けてくるなら、初手で全力を出してくる。だからだよ。力を出しきらせて、その後を狙うんだ。」
「…2人を囮にするということ?」
「囮にはする。でも、勿論見捨てるようなことはしないよ。2人は大事な仲間なんだから。アカネが攻撃に転じた時…そこが僕たちが介入するタイミングだ。僕がシロとクロの『核』の場所を言うから、それを転移で逃がしてあげるんだ。それのタイミングは僕の方で指示するよ。」
「分かったわ。あなたを信じましょう。」
見捨てることはしない。
その言葉が聞ければ十分だ。
「それから…シロとクロは他人の体を乗っ取れるみたいだし、あの形態は解除してもらってユリヤの体を乗っ取るっていうのはどうだろう?」
「ユリヤの?危険じゃないかしら?」
「大丈夫だと思うよ。意識を失っている今ならね。」
「どうして分かるの?」
「まぁ、勘…かな。」
「勘ねぇ…。」
とても『勘』なんかでは説明できるものではないと思うけど、少なくても今は問い詰めている時間はない。
本気で頼めば教えてくれるだろうし、ここは我慢して流しておこう。
「そういえば、さっきの一芝居の話だけれど…シロとクロにも内緒にしておく…という認識で良いのよね?」
「もちろん。」
私にすら言わないのだ。
リアクションに真実性を持たせるための作戦であるからしてそれはしょうがない。
「でも、2人が混乱しないかしら?私はまだ芝居を打つということを聞かされているから良いけれど、2人は本当に何も知らないのよ?」
「シロとクロなら大丈夫。…ちょっとかわいそうなことをしてしまうかもしれないけど、後でいっぱい謝るよ。これも2人のためだから。」
少し気を落としたようにも見えるが、すぐに持ち直す。
「それより、ユリヤが何をしたか…それが気になってしょうがない。すごく嫌な予感がするんだ。」
「ずっと探していたけど、結局分からなかったわね。」
ユウトはそれをずっと気にしていた。
ユリヤが何かしようとしたけど不発だったのではないか。
私はそう思っている。
しかし、ユウトはそうは思っていないようだ。
ユウトの【読む力】によって、弱いながらも確かに神通力を感知したから。
とはいえ、それでも不発の可能性の方が高いと思う。
それほどまでに、何も変化は感じられない。
ユウトもずっとユリヤが起こした『何か』を探り続けているがその結果、戦いがここまで凄惨になってしまっている。
これ以上はもう猶予がない。
それを表すように、龍堂茜が異常な行動を始めた。
「自分のお腹にあんなものを突き刺して…一体何を考えているの!?」
「…足で持つよりは安定するだろうね。めちゃくちゃだけど、やはり理にかなっている。」
「足で持つよりって…?」
そして目の前で始まる理解不能な技。
それは小さな竜巻だった。
しかし、破壊力はそれとは桁違いだろう。
手を伸ばそうものなら手首ごと持っていかれるのは間違いない。
「決める気だな…ユキ、準備をして!仕掛けてくるよ!!」
「…ええ。」
不安だ。
私の力にシロとクロ、ユウトの命が掛かっている。
ユウトはそんな私を見て不安を見抜いたのだろう。
「大丈夫。僕を信じて。」
その短い言葉だけで、
不思議と不安は消え失せた。
Xやってます。
ふぉろーしてくれぇ!
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