悪あがき
シロクロとの睨み合いが続く。
とりあえず、ヤツらの攻撃のネタが分かるまでは防御すらしてはいけない。
全て回避する必要がある。
それから、どんな攻撃なら通用するのかを確かめなければならない。
逃げているだけでは勝てないからだ。
一瞬、ユリヤの神通力を感じた。
だが弱々しい。
視線だけ送るもユリヤはぐったりと倒れている。
…勘違いか?
まぁ、現在の状況を考えればそこで気を失っている方が安全。
たとえ全快のユリヤでもコイツらの相手は無理だ。
この超生物に勝てる存在はもう自分以外には存在しないだろう。
コイツらに比べたらユリヤの龍などドジョウのようなものだ。
とにかく、隙を見て有効そうな攻撃を……左!!
咄嗟に立っていた位置から横っ飛びで回避する。
まだ動きをハッキリ目で追えていないが、肌に走る感覚で危険が迫ってくる方向を辛うじて捉えた。
「…反応されたぞ、シロ。」
「マズいわね。おそらくは偶然に近いものだろうけど、身体の強化が追い付いてきたら面倒なことになるわ。」
先程までの拳と拳を合わせるお遊びとは違う。
向こうも確実にこちらを殺す動きになっている。
右手の壁から飛び出している鉄筋を掴み、引きちぎる。
1m程度しかないが、贅沢は言えないか。
「ん?そんな棒切れでどうするつもりだ?」
クロだろう。
確かに、アタシは能力的に素手で戦うのが最適だから見てる分には不思議か。
「…棒切れ?違うな。これは、」
無駄に自分の身体から漏れ出ている神通力を無理やり鉄筋に寄せ集めて、『固定』する。
以降もその力の流れを継続させ、留める。
それを繰り返し続ける。
「『アカネソード』だ。」
「………バカ?」
「バカかどうか、試してみろよ。」
挑発するも、シロクロは動こうとはしない。
警戒…している?
「いいわ、物は試し。その棒切れを握ったまま死んでいきなさい!!」
「来い!!」
正面から来てくれた。
カウンターを合わせたいが、攻撃が速すぎる。
間に合うか…!?
念のため上半身だけ後ろに躱す。
急所さえ避ければ、おそらく身体が上下に分断されようとも今のアタシなら死なない。
腰に力が入らないが、そもそもこんな棒切れなんかでコイツらを倒せるだなんて微塵にも思っていない。
知りたいのは、有効かどうかだ!!
「うおらぁあ!!!」
自分に降りかかる前肢。
その手首に目掛けて思い切り、棒切れを振り抜く。
これが無意味の攻撃の場合、すぐに下半身を引き裂かれる痛みが襲ってくるだろう。
痛みを想像して歯ぎしりをするが、その痛みがやってくるとこはなかった。
「…やれるじゃないか。アカネソード。」
相変わらず手応えはなかった。
斬ったという感覚も、逆に引き裂かれたという感覚もない。
だが、シロクロの前肢は霧のように霧散していた。
「あら?厄介ね、アカネソード。」
「痛くはねーけど、消されちまうな。」
察するにダメージ自体はないようだ。
霧散していた前肢もすぐに元通りになってしまった。
しかし、これは明確な前進。
攻撃が効かなくても、これで防御は可能になった。
アカネソードで攻撃を凌ぎつつ、本当に有効な攻撃方法を探る。
1つだけ分かったのは、今のコイツらには力押しの攻撃はまるで意味がない。
全力で殴り付けても無意味だったのに、アカネソードなら一応は通用した。
つまり、必要なのは出力ではない。
神通力の『濃さ』だ。
量ではなく、密度。
それで初めてコイツらに影響を与えることができる。
再び距離をとって先程同様、崩れかけの壁から鉄筋を引き抜く。
両手にアカネソード…
いや、アカネ・デュアルソードだ。
「さぁ、バラバラにしてやるぜ。どっからでもかかってこい!!」
「舐めんじゃねー!!」
「クロ!待ちなさい!!」
シロの制止を聞かなかったのだろう。
シロクロは縦横無尽に壁や地面を蹴りながらこちらの周りを駆け回っている。
流石に真正面からでは意味がないと学習したようだ。
だが、もう遅い。
「ココだぁ!!」
背後から迫る『死』に対し、振り向いて思い切り両手のアカネソードをなぎ払う。
シロクロの攻撃は鉤爪によるものではなく、
体全体を使った体当たり。
全身凶器であることを考えれば非常に合理的だが、もうアタシの目はコイツらの動きを追えるようになっていた。
最初にこれをやられていたらバラバラになって死んでいただろう。
とにかく、前肢の時とは違って体を大きく霧散させることに成功した。
これで少しはダメージも入っただろうか?
「本当にマズいわね。今のは偶然のようには見えなかったわ。また強くなって…なり続けているのね。クロ、考えなしに突っ込んでも倒せないわよ。」
「ご、ごめん…気を付ける。」
ダメージは無しか。
しかし、それ以上の収穫はあった。
「お前ら、合体して強くはなったみたいだけど制御がかなり難しいみたいだな?」
よくよく考えたら当たり前だ。
ただでさえそれぞれが強大な力を持っているのに、それが混ざったとなると意思の疎通や行動の選択なんかにも当然影響が出るはず。
何も問題なく動けるならそもそもアタシが距離を離そうとするのを黙って見ている理由がない。
畳み掛ければ殺せるのだから。
「…そうね。まぁ相手がアナタでないのならそんなものデメリットにもならないのだけど。」
皮肉を言われてしまう。
たしかにそうだ。
アタシじゃなきゃ何も問題なかったんだろうな。
「それに…見えたぜ。お前らの弱点がな。」
体を大きく霧散させた後、体の中心くらいに赤い核のようなモノが見えた。
合体前に見ていたものと同じだろう。
シロクロの霧散した体はその『核』を中心に修復されていった。
となれば、答えはひとつだ。
「お前たちの中にある、その赤い核。それをぶっ壊せば、どうなっちまうんだろうなぁ?」
むしろ、なぜ直接見るまで気付かなかったのか。
アレだけ強大で禍々しい力を放っているのに、合体後はまるで存在に気付けなかった。
だが、意識した今はもう見逃すことはない。
シロクロの中心にハッキリとソレがあるのを感じる。
シロクロはアタシの言葉に明らかな動揺を見せた。
「さぁ、クライマックスと行こうか。」
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あれ…ここは……?
意識が混濁している。
激しい痛みにすぐに再び気を失いそうになるが、すんでのところで思い出す。
背後から少女に刺されたことを。
そして微かに残る朧気な記憶。
アカネが何らかの方法で止血を行ったということ。
痛みが激しいことから本当に止血のみを行ったということだろう。
しかし、大雑把なアカネの性格を考えるとしょうがない……いや、むしろ凄いことだ。
あれだけの膨大な神通力を、針を通すようなコントロールで可能にしたのだろう。
おかげで今、自分は生きている。
身体を…治すのは無理ですね。
少しずつ戻ってきてはいますが、
まだ神通力が大きく乱されています。
大分時間も立っているのに…
無理やり治療の力を発動すること自体は可能かもしれないが、治療には非常に繊細なコントロールが必要だ。
今の状態で強行すれば最悪、悪化する可能性まである。
簡単なことならできると思いますが、この状況を打開するなんてこと…
目の前の怪物とアカネ。
理解の範疇を大きく越えた力の固まり。
それはもう【万能】という能力など、児戯にも等しい次元であることは死にかけの自分でも理解できた。
生半可なことをしても、邪魔に…
いや、邪魔をすることすらできないかもしれない。
意味すらない。
…本当に?
もう、なにもできることはない?
考えないといけない。
私は、狩人協会1位。
鬼憑きを倒し、人々の安寧を守る者。
今の私にできること。
僅かに残った力でできる、最大限のこと。
変化の波を。
思い至る。
一筋の光。
光と言うにはあまりにも暗く、
先の見えない脆い考え。
他人任せ。
運任せ。
ギャンブルにもなっていない、ただの願望。
しかし、個人として今自分にできることなど何もない。
危険も大きい。
しかし、それが最適な気がした。
痛みでまともな思考が出来ていないのかもしれない。
だからもう何も考えない。
やるしかない。
行使可能な僅かな力で望んだ事象を引き起こす。
普段であれば何も問題ないのに、大きく座標もズレてしまった。
でも、できた。
後は、お願いします。




