人外 VS 死の獣
お疲れ様です。
既に昼は30℃後半らしい(我、夜勤)ですが、
そろそろ夏本番ですね。
体調に気をつけて頑張っていきたいところです。
「クロ!そんな死にかけなんて放っておいて、こっちに来なさい!こっちも全力よ!!アレをやるわ!!」
「えっ、ホントか!?久しぶりだなぁ!」
ユリヤにとどめを刺すこともせず、
シロの呼び掛けに応じてこっちに来た。
何をする気かは知らないが、これでユリヤも少しは休めるだろうし、敵も固まってくれれば纏めて掃除できる。
アタシにとって良いことしかない。
ユリヤと最後に目が合うと、すぐに顔を伏せてしまった。
とっくに限界だったんだろう。
ここからはアタシに任せて休んでおけ。
「一体どうやってアタシを弱体化させてたのかは検討つかんが、2人がかりならアタシに勝てる…。そのくだらない妄想をすぐにぶっ壊してやるよ。コソコソ隠れて出てこない闇女の野郎も一緒にな。」
アタシ自身、これほどの力を表に出したことがない。
こんなに力を垂れ流している状態で街にいれば、周囲の生物はアタシの力に充てられて必ず悪影響を与えてしまうだろう。
近くにいるだけで周囲の生命を死なせてしまう。
空気だけでなく、地面や建物の構造物もアタシの圧に耐えられずに崩壊していく。
これだけ広く、壊しても良いものしかなく、強い敵がいる状況でもない限り、今後2度とここまで解放することはないだろう。
コレが、今のアタシの最高到達点だ。
「お前たちには、ある意味感謝してるよ。アタシの人生、手加減することが全てだったからな。」
友人とふれ合うときも、
ただ歩くことも、
病院なんかの繊細な場所では息をすることさえ、
アタシは全てに手を抜いて生きてきた。
周りへの影響を心配して。
神通力にありったけの殺意を込めて2人を睨み付ける。
アタシを中心に空気が響いている。
この空間が、揺れている。
「すごいな…。確かにバケモノだ。」
「油断はしちゃだめよ。」
バケモノにバケモノと言われてしまう。
だが、今はそれでも良い。
この状況を打開して、悪い連中を打ち倒し、ユリヤと一緒に帰る。
今のアタシなら、なんでもできるはずだ。
「2人纏めてかかってこい。後悔のないように全力でな。すぐに終わったらつまらない。」
「ふふっ。お言葉に甘えて、こっちも出し惜しみ無しよ…クロ!!」
「おう!!」
2人とも合わせて後方に大きく下がってアタシから距離を取る。
遠距離攻撃でもするつもりか?
背後にユリヤが来ない位置取りに移動して待つ。
今のアタシが苦戦する敵などいないと思うが、まずは出方を伺おう。
2人して最端の壁に寄りかかっている。
何をする気だ?
ドサッ…
「…?」
壁に寄りかかったと思うと、そのまま地面に腰を下ろしてしまう。
だが、ただ座り込んだというわけでもなさそうだ。
「……死んだ?」
この2人もかつて見たことのない、かなりの強者だ。
なのに、先ほどまでヒシヒシ感じていた神通力の重圧が急に鳴りを潜めた。
ピクリとも動かない。
「何をしたいのかは知らないが、来ないならもう終わらせるぞ。」
意図が全く分からないので、あのまま座り込んでいる2人に攻撃を仕掛けて良いものかどうか迷うが、これは殺し合いなのだ。
別に隙だらけだからと言って遠慮をする意味もない。
隙があろうがなかろうが、コイツらはここで倒すのだから。
「…焦らないで。私たちも久しぶりなのよ。」
「!?」
シロの声と同時に、あの2人と同質の神通力を感じる。
だが、その強大さが問題だ。
先ほどまでとは比べ物にならないほど大きい力の奔流を感じる。
『全力』という言葉、ハッタリではなさそうだな。
声の聞こえた方を見る。
というのも、2人の方向ではなくてその上空だ。
「…やっと、バケモノらしくなったじゃないか。」
白い獣に黒い鳥。
2体ともサイズ感がおかしい。
それぞれ10m弱はあるだろう。
雪のように白い毛並みを持つ、おそらくはクロの正体。
巨大な化け猫。
あの大きく発達した爪をまともに喰らえばただでは済まなそうだ。
速度もかなりのものだろう。
そして黒い鳥…クロと同様にバカでかいカラスのような鳥。
こちらはシロだろう。
漆黒の羽は光沢を帯びていて美しい。
コッチを見下ろし、この空間全体を支配するような威圧感を放つ。
2体の周りは周囲の空気が揺らめいていた。
体から可視化できる程の漏れ出た神通力によって周囲の空気が歪んでいるのだ。
自分では見れないが、今のアタシも端から見れば似たようなものだろう。
「巨大になろうが怪物になろうが、結局はアタシに勝つことはできない。さっさと来い。」
「へへっ、じゃあ行くぜっ!すぐに終わらせてやる!!」
化け猫…シロのその巨体からは想像もできない速さで一瞬に間合いを詰めてくる。
一直線にこちらに向かってきて、通った地面が激しく抉れていっていた。
「潰れちまいなぁ!!」
アタシを叩き潰そうと、巨大な前足をフェイントも何もなく振り上げてくる。
「舐めるなぁ!!」
降ってくる巨大な肉球目掛けて全力の拳を放つ。
互いに纏ったの神通力がぶつかり合い、互いを破壊しようという思念と力がぶつかり合う。
「うおおおおぉあああぁ!!!」
「うらあぁ!!!」
互いの拳と前足から弾け出た神通力が荒れ狂う力となって吹き荒れた。
それは斬撃のようでもあり、アタシたちの互いの体を傷付ける。
ピシッ、ピシッ…
アタシの肌に…!?
刃と化した神通力がアタシの腕を切り、血が流れる。
この現象を証明できる事実は1つだけ。
今のアタシが力負けしているだと!?
クロの方にも衝撃は行っているはずだが、ケガの一つも負っていないところを見ると、アタシが競り負けたのは明確だ。
クロは前足を引いて大きく後ろに跳び、距離を取る。
正直、助かった。
「くっそー!これでも潰せないのかよ!!」
本人は心底不本意だという様子だが、冗談じゃない。
「…正直舐めてた。ここまでやるなんて思っていなかった。」
相変わらず拳を合わせている時も【超越】が発動する気配もなかった。
やはり、理由は分からないがこの2体相手には【超越】が発動しないようだ。
非常にマズい。
今まで生きてきて…本気を出しても競り負けるなんて、考えたこともなかった。
想像することすら不可能だった。
「まだ上から目線でいるのは流石ね。『最強』としての矜持?プライド?…いえ、ただの意地かしら?ウフフ。」
…速すぎる!?
いつの間に、それも音もなく背後に忍び寄っているシロ。
振り向いた時にはすでに巨大な嘴がすぐ目の前まで迫ってきていた。
回避は無理だ!防御するしかない!!
先ほどまでの気持ち悪い弱体化の感覚もない。
全力の神通力を両腕に纏わせる。
ガキィン!!!
すんでのところで防御が間に合う。
しかし、
お、重すぎるっ…!!
貫通はしていない。
だが、とんでもない痛みと衝撃に襲われる。
衝突した時のエネルギーでそのまま後方に激しく吹き飛ばされた。
ドガァアン!!
「……くそっ、相当ヤバイなこりゃ…。」
この短い、1分にも満たない時間のやり取りで先ほどまでの無敵とも思えていた慢心は全て消え去ってしまった。
多分、シロの速さはアタシと同等…ただし力は超えてくる。
クロの方はアタシの防御を突破するほどの力はないが、速度に関してはおそらくアタシ以上。
1体ずつ来てコレだ。
同時に来られたらどう対処すればいいか分からない。
【超越】さえ発動してくれれば…
「【超越】が発動しないこと、とても不思議がっているようね。」
シロに見透かされる。
「……。」
「何も言わないのは図星ということかしら?気になるなら教えてあげましょうか?とは言っても、これは予想なのだけれどね。」
「…一応、聞くだけ聞いてやる。」
「ふふっ。強がっちゃって、かわいい。」
人型形態の時と違い、自分の優位を自覚しているのだろう。
だが、タネを教えてくれるというのなら拒否する理由もない。
調子に乗ってベラベラ喋りやがれ!
「あなたの【超越】だけど、それって多分…相手が『生者』でしか有効ではないのではなくて?」
「……はぁ?」
そんなもの当たり前だろう。
死んでいるやつはそもそも動きもしないんだから。
「それがなんだよ?」
「私たちは、既にこの世の者ではないのよ。」
「……はぁ?」
意味がわからない。
どういう意味だ?
別世界から来たとでも言いたいのか?
異世界転生ってやつ?
「私たちは、何年も前に死んでいるのよ。それを、ご主人様に救われた。命有る者しか生きていけないのがこの世の理。だけど、ご主人様はその神の如き力で私たちの存在を造り出した。魂を強化し、不死の存在としてこの世に顕現させてくれたの。肉体も、命もない。あるのはご主人様に創造していただいた強靭で強大な魂の根源だけ。だからアナタの超越が通じない…のかもしれないわね。」
なんだ…?
コイツ、何を言っている?
何年も前に死んで…?
それに、不死だと…?
「そこまで言って良いのか?シロ。」
「良いのよクロ。彼女もここで終わるのだから。」
隠す意味はない、ということか。
どうやらコイツらは、ここでアタシを殺すつもりらしい。
「…不死って言うのはどういう意味だ?」
「あら?教えてほしいの?なら冥土の土産というヤツで教えてあげるわ。」
クスクス笑いながら話す。
「まぁ言葉通りの意味よ。私たちは魂だけで動き、病気もしないし、寿命もない。そもそもケガもしないし、たとえ頭を落とされてもそれはダメージにはならない。そうね、意思のある煙のような物かしら?ただし実体はあるけどね。私たちをどうにかできるのはご主人様の御力だけ。アナタみたいな脳筋じゃそもそも相手にすらならないのよ。」
ハッタリだろうか?
本気で言ってるならもう勝てる見込みがない。
強い弱い関係なく、殺せないというのではそれはもう負けと一緒だ。
アタシには封印のような力も使えないし、そもそもアタシが有利だったとしたらコイツらは逃げるという選択肢も取れる。
アタシの唯一の無限ではない、寿命。
その上限まで逃げられたらその後はもう、
誰もコイツらに何もできなくなる。
「お前たちの…人間の体?の方を攻撃したらどうなるんだ?」
寄りかかって座り込んでいる2人に指を指す。
そうだ、アイツらは生きていた。
やはり、死んでいるというのは嘘…?
「あの娘たちが死んで終わりよ。アレは私たちの強大過ぎる力を抑えるため、そして目立たないようにするための…そうね、枷と考えてもらえば良いわ。人間社会に溶け込んで、ご主人様を探すために使っていたただの入れ物よ。壊したければ壊しても良いわよ。新しいのを探すだけだし。」
とても嘘には聞こえない。
つまり、コイツらもアタシと同じでずっと加減をしてきて生きてきたんだ。
だから、さっきからずっと楽しそうに笑っているのかもしれない。
気持ちだけはよく分かってしまう。
「質問は終わりかしら?それなら次は、アナタが終わる番なのだけれど。」
「おっ?難しい話は終わったか?じゃあ続きやろう!続き!!」
これは、詰んでいるのか?
倒す手段がない。
そもそも競り負けている。
ユリヤがいてくれれば封印か何か、取れる手もあったかもしれないが…
いや、コイツらはそれを狙って待っていたんだ。
力しかないアタシより、ユリヤの方が厄介だと断定したんだ。
その判断は正解だ。
アタシじゃコイツらを、倒せない…
「自信を無くしているなんて、アカネさんらしくありませんよ。」
「えっ!?」
「……!?」
「なにっ!?」
突然聞こえた声に、アタシだけじゃなくシロとクロも驚いていた。
「これは驚いた。確実に限界だったようだけど、無理をして大丈夫なのかしら?」
シロがユリヤが倒れていた方を見る。
つられてアタシも見るが、ユリヤはそこに倒れていたままだ。
「こっちですよ。」
「んっ!?…ふんギャ!?」
何故かユリヤはクロの後ろに移動していた。
無防備なところを上から思い切り、クロの頭を地面に叩きつけていた。
いつの間に…いや、アレは!?
再度、ユリヤが倒れていたはずの場所を見ると
倒れていたユリヤの体がフッと消えてしまう。
「クロに吹き飛ばされると同時に土埃に隠れて幻影を用意し、私は回復を始めておりました。」
なんでもないことのように澄まし顔で言い放つユリヤ。
「でもお前、さっきまでもう限界で…クロの攻撃も辛うじて耐えてたって感じだったじゃん!それに、幻影だったら守る必要なんて…」
「余裕はもちろん無かったですが、演技です。必ず乱入があると踏んでいましたから。幻影に集中させている間…私は透明化、匂い、体温を消して、状況を把握するためずっと皆さんを観察していました。幻影を守っていたのはただのリアリティの追求です。幻影を消されたら偽物だと気付かれてしまうかもしれないでしょう?生きてはいるけど、もう何もできない。彼女たちにそう思わせたかったのです。すぐに死んでしまうと怪しまれてしまうと考えました。」
「…でも、限界も近かったろ?戦えるのか。」
「問題ありませんよ。むしろ、今はとんでもなく好調です。枯渇した神通力をどう回復させるか、それだけが問題でしたが、この場には高密度な神通力が充満していました。だから私はそれを取り込み、自身の物とする能力を創造し、己を回復すると同時に強化を果たしています。元々は油断を誘って隙を窺うだけの作戦でしたが、思わぬ副産物でした。もはや負ける気がしません。」
すごい!
ユリヤのやつ、コイツらの乱入も読んでいたんだ!
1人じゃなくて、2人!
最高のアタシと、最高のユリヤなら!
コイツらをやれる!!
「…素直に驚いたわ。ピンチを演出して、隠れて必ず隙を突いてくる。アカネよりユリヤの方が厄介だと聞いていたけど、実際その通りだったわね。」
…聞いていた?
「全部あなたの言う通りよ、ユウト。」
「えっ?」
なんで、今…
ユウトの名前が?
Xやってます。
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