大混戦
みなさま、暑い中お疲れ様です。
更新が遅れてしまい、ごめんなさい。
最近の仕事量がおかしく、やってもやっても帰れない日々が続いております…。
携帯でセコセコ少しずつ書いてはおりますが、満員電車の中でのことですので集中するのも難しく、なかなか進みが遅くなってしまっています。
佳境なので手を抜くこともできず、時間を多く取ってしまっているような状況です。
極力速く更新できるように頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします。
「ハァ…ハァ…もういい加減、しんどくなってきたぞ…」
周りを見る。
前にも横にも後ろにも上にも。
増えに増えた龍たちが縦横無尽に飛び回る。
増える度に強化されていく多くの龍たちの攻撃を避けるのはもう不可能になっていた。
怪我まではいかないが、攻撃を受ける度に痛みの信号は出続けている。
もし仮に無防備で受け続けたらいずれ死んでしまうのだろうか?
いや、無意味なことを考えるのはやめよう。
龍が強化されていったことによって咄嗟に放ったカウンターくらいでは幸か不幸か倒せなくなっているから、わざわざ殺す気で攻撃しない限りはこれ以上増えることはない。
まぁ、これだけいれば大国でも簡単に滅ぼせる気はするけど。
ユリヤの方を見る。
コピー?の方に特に変わりはないように見えるが、本体の方はもう宙に浮いてすらいない。
車椅子に腰掛け、肩で息をしている。
顔色も悪そうだが、目だけはこちらを強く見据えていた。
もう限界は近いのだろう。
いや、とっくに越えているのかもしれない。
なにも知らないやつが街中で今のユリヤを見たら、心配で確実に救急車を呼んでいるだろう。
たとえどれだけ利便性の高い力でも、有限である限りアタシに勝てる道理はない。
しかし、何故ユリヤはそんなに苦しんでまでアタシに挑むんだ?
何故、ユウトの記憶を消さなければならない?
何故、その理由を話さない?
少なくてもユリヤは悪いやつではないし、バカでもない。
本人も言っていたが、そもそもアタシに勝てるなんて思っていない。
なのに、止めようとしない。
あんなに苦しそうなのに。
いや、それもひょっとしたら作戦なのか?
アタシが同情して、もう止めようと言い出すのを待っている?
…だとしてもだ。
本当に必要なのか?
ユウトを消すことが?
それがユウトのため?なんで?
「ユリヤ、もう止めにしないか?」
もう頭もまともに上がっていないが、こちらを強く睨み付けるユリヤに提案する。
「……それは降参し、私を認めるということですか…?」
息を切らせながらそう言うユリヤ。
「いや、ユウトの記憶は戻してもらう。だが、このまま続けたらお前、本当に死ぬぞ。無意味に。」
そう。
このまま続けても意味がないんだ。
せめて理由さえ分かれば…
「…ハァ、…ハァ……。アカネさんにとって、最も大事な物はなんですか?」
ついに頭も下がる。
顔も見えないが、気迫だけは見える気がする。
「物とは違うが、神楽にユウト、ばあちゃん。それに杏みたいなダチ。…それがなにか関係あるのか?」
こんな質問と、今の状況にどんな関わりが?
「例え話ですが、その中の誰かが邪悪な鬼憑きになったとして、アカネさんはその人を…」
殺せますか?
「…急に、何を言い出すんだ?」
「無意味と言いましたね?しかし、無意味ではないのです。『私の話を受け入れず、私を死に追いやった』という罪悪感を、いずれ来る最悪の時に、戦う覚悟へ変えられるように。」
「誰かが…いや、ユウトがそうなるって言いたいのか?」
「…もう、限界のようです…」
龍の姿が少しずつ、空気に溶けるように消えていく。
この怪物たちを顕現させるほどの力はもう残っていないのだろう。
やがて、全ての龍とユリヤのコピーも消えていった。
肩で息をしていたユリヤも、しばらく待っていると呼吸が正常に戻ってきていた。
「アカネさんが話し始めるタイミングが悪いから死に損ないました…」
「良かったじゃん。生きてりゃ良いことあるって。」
「…それを彼にも言ってあげてください。」
彼。
ユウトしかいない。
「ユリヤ。お前は本気でユウトの記憶を奪うことがユウトの幸せになる…そう思うんだな?」
「何回もそう言っています。」
ユリヤはずっと真剣だ。
「お前の行動を認めても良い。」
「!?………本当ですか?」
一瞬だけ口角が上がるが、すぐに疑いの目を向けてくる。
「ただし、条件がある。理由を話せ。」
アタシの言葉に目つきも更に鋭くなる。
「…理由を話せば、納得してもらえるというのですか?」
「納得はしない。」
そう言うと、ユリヤは失望したように目を伏せた。
「だが、認める。」
「えっ?」
理解できないと言った様子で再び顔を上げるユリヤ。
「納得なんかするわけない。ユウトの記憶を消すなんて、とても許せることじゃない。…だが、お前の覚悟は確かに伝わった。納得はできるとは到底思わない。でも、お前は本気でユウトを想って行動しているのは分かった。だから、理由を話すならユリヤの行動を認めても良い。」
「……それは、…分かりました。良いでしょう。」
一瞬何か考え込むような仕草を見せたが、ユリヤも腹を決めたようだ。
すまんな、ユウト。
アタシはコイツの覚悟を舐めていた。
軽い気持ちや考え無しにここまでのことはできないだろう。
よほどの理由があるはずだ。
であれば、一時的にユリヤの行動を認めて、その理由…根本の問題の解決を計る。
そして全ての懸念を払拭した後に、もう一度ユリヤに記憶を戻すように説得しよう。
「あら?それは私が困るわね。」
「っ!?」
聞き覚えがある声。
ここにはアタシとユリヤ以外いないはずだが…
「誰だ!?」
声のした方へ顔を向ける。
そこにはいるはずのない翼を生やした女が立っていた。
シロだ。
「龍堂茜。わざわざ天地優人を送り届けてあげたのに、ここに来てユリヤを許すつもり?記憶を戻させるように彼はお願いしたはずよ。」
「…その願いを聞くか聞かないかはアタシが決める。少なくてもお前には関係ない。それに、ユウトの記憶がないとお前らも困るっていうメリットもあるみたいだしな。」
「ふぅん。そういうこと言うんだ。」
ブォン!!!
顔の横をすごい勢いで何かが飛んでいった。
後方で何かが激しくぶつかった音が伝わってくる。
ユリヤの方向からだ。
もしかしてユリヤがシロと結託してまでアタシを…?
と一瞬考えてしまったが、ユリヤの居た場所を見るとまたも見覚えのある者が立っていた。
「おう。また遊びに来たぞ。龍堂茜。」
今度はクロだ。
自分の拳をガンガンとぶつけ合い、臨戦態勢と言った様子だ。
というか、ユリヤはどこに?
…まさか!?
後方を見る。
崩れた壁から白い人の肌と車椅子のハンドグリップが目に入る。
さっきのはユリヤが殴り飛ばされたのか!?
「ユリヤ!無事か!?」
「…なんとか、防御は間に合いました…。」
声をかけると弱々しいが返事はある。
あの威力で叩きつけられれば普通の人間は死ぬだろうし、言った通り防御は間に合ったのだろう。
しかし…
「私はもう、無理なようですね。」
瓦礫から顔を出したユリヤは顔面蒼白となって今にも死んでしまいそうに見える。
体にのし掛かった瓦礫をどかす力も残っていないようだった。
「アカネさん、私と先ほど交わした約束…覚えていますね?」
私が死んだ。
あるいは確実に死ぬと確信した時、私の身体を持ってこの場から立ち去ってください、すぐに。
「ふん。確かにアタシは疲れているが、それでもユリヤを守りながらコイツら2人くらい返り討ちに…」
「2人ではありません。3人、あるいはそれ以上…」
「何人でも同じさ。アタシなら…」
「全然同じではありません。彼女も…闇女も確実にいます。でないと、ここに現れるはずがありません。」
「なんだと!?いるのか…?闇女が、ここに!?」
神通力を探ってみるが、シロとクロの物しか感じない。
しかし、ユリヤは『確実』という言葉を使った。
なにか確信があるんだ。
「今彼女たちがここに来た理由。それは私、あるいは私たちをまとめて排除すること。1番良くないのは、私の死体を持ち去られることです。今、彼がどのステージにいるのか分かりませんが、それだけは絶対に避けてください。私の命を守る必要はありません。でも、死体だけは守り抜いてください。なんとしても。」
彼…まさか、ユウト!?
いや、流石にそんなわけはないか…
全然関係ない、別の…
「考え事してて良いのかオイ!!」
マズい!
クロが大声で叫ぶとともに、まっすぐユリヤへと向かっていく!
速い!
だが、アタシの全速力ならなんとか間に合う!!
全力で地面を蹴る。
足場が凹んだせいで若干バランスを崩したが、この推進力なら…!
「私もいるわよ。」
「ぐあっ!?」
真上からシロの声がしたと思った時には、無防備でまともに食らってしまった。
アタシの全速力に合わされたのも驚きだが、なんでこんなに痛い!?疲労のせいか!?
いや、それよりも…
「ユリヤーーー!!!!」
もう絶対にアタシは間に合わない!
クロの拳がもうユリヤに届いてしまう。
今の弱りきったユリヤにアイツの攻撃を耐えられるわけがない。
「へへっ!ユリヤ・ノマノワ!!お命もらったぁ!!」
ガキィン!!
クロの拳の衝撃でユリヤのいた場所が壁ごと大きく破壊されていく。
…くそ、ヤられた!!
クロの攻撃を止めることができなかった。
ユリヤを守ることができなかった。
「ありゃ?まだ力が残ってたのか。」
クロの言葉に再びユリヤがいた位置を見る。
よく見れば薄い膜のような物が一瞬見えた。
あれはクロードの…
「はぁ……はぁ……、どうやら私のことを舐めているようですね。痛い目を見せてあげます。」
「ユリヤ!!」
クロードの【偉大なる守護盾】を瞬間的に、クロの拳に合わせて発動させたのか!
音も何か変だとは思ったが…。
だが、軽口とは違ってもう意識も朦朧としていそうだ。
速く駆けつけないと!
「待ってろ!すぐ行く!!」
「行かせるとでも?」
目の前で微笑むシロ。
「邪魔を、するなぁ!!」
全力で蹴りをお見舞いする。
シロは翼を前に構えて防御しようとしているが、そんなので防げるわけがない!
…だというのに、シロは吹き飛ぶどころかその場から動きもしない。
「あらあら?疲れているのかしら?こんな蹴りでは痛くも痒くもないわね。」
クスクスと余裕を見せて笑うシロ。
ありえない!
アタシの全力に耐えられるはずが…!
それに、さっきもアタシの全速力に追い付いたのに、【超越】も発動しない…。
「不思議そうにしているわね?でも、考えている時間はあるの?」
顎をクイッと動かす。
背後のユリヤたちのことだろう。
小刻みに聞こえてくるクロの拳を弾く音、衝撃がさっきから伝わってきていた。
これが無くなる時…
それは、ユリヤが終わる時だ。
「龍堂茜。何か勘違いしているようね?ユリヤを助けに行くどころか、自分の心配をしなくてはならないわ。あなたは私に勝てないのだから。」
「…ふん。流石、こっちが疲れるまでコソコソ隠れて隙を伺ってたヤツは言うことが違うな。」
「あら、これは手厳しい。」
フッと一瞬で距離を詰めてくる。
「さっきのお返しよ。耐えてみなさい。」
『さっきのお返し』
そう言う通り、シロもアタシと同様に蹴りを出そうと足を構える。
挑発に乗るわけでもないが、両腕を前にクロスさせて受けようとする。
そして蹴りを受ける寸前に、
慌てて横っ飛びで回避した。
「なんで避けるのよ?私は受けてあげたのに。」
クスクスと馬鹿にしたように笑う。
しかし、避けるしかなかった。
今のを食らっていたら、大ダメージを受けることになっていた…そう確信したから。
「案外ビビりさんなのかしら?」
挑発も耳を通らない。
さっきから、何かがおかしい。
コイツ、急に強くなりすぎだし…【超越】も発動しない。
…いや、コイツが強くなったんじゃない。
アタシが弱くなっている?
なんで?
どうやって?
アタシを弱体化させるなんて、たとえユリヤでも…
そう考えて、1つの心当たりがあることに気付く。
まさか、【神通力の無力化】!?
いや、そんなことはあり得ない!
ユウトはここにいないし、する理由もない!
…今、姿を見せていない闇女の力なのか?
ヤツの能力は神出鬼没なこと以外はよく分かっていない。
くそっ、ユリヤがちゃんと言わないから…。
「考えを巡らせたところで私には勝てないわよ。それに無駄な時間をかけている余裕はあるのかしら?ユリヤもよく頑張っているようだけど、もうそろそろ…という所でしょう。」
どうやってアタシを弱体化させているのかは分からない。
だが、小細工なんて…
「全部、力で吹き飛ばす!!」
全力で内に秘める神通力を解放する。
内側から迸る膨大なエネルギーを一切抑えることなく、むしろまだ足りないと…無理やり引き出す。
「ぬぉおおぁああぁ!!!!」
バシィイィ!!!
咆哮とともに、体に何か変化が起きた。
体に纏わりついていた嫌な何かを弾き飛ばせた。
アタシから溢れ出るオーラで周囲の物がピシピシと音を立てて傷付いていく。
足元がひび割れていく。
それでいい。
ユリヤ以外、全部敵だ。
「バケモノとは思っていたけど、こんな存在が許されて良いのかしら…?これがあなたの、本気ってやつね。」
呆れているようにも、楽しそうにも、
恐れているようにも、見えた。
勝つ。
倒す。
「クロ!そんな死にかけなんて放っておいて、こっちに来なさい!こっちも全力よ!!アレをやるわ!!」
ユリヤへの攻撃を止めて、クロもこっちに向かってくる。
願ったり叶ったりだ。
これで余計なことを考えず、目の前の敵をぶちのめせば良い。
戦いは、まだ終わらない。




