仲間
「……て!…起きて!!ユウト!!起きなさい!!」
「ん……あれ…ここは…?」
高い声と頬をぺちぺちと叩かれる感覚で目を覚ます。
「ユウト!やっと目を覚ましたのね!!」
目の前に座る少女は目に涙を浮かべながら抱きついてくる。
「ユウト!大丈夫なの!?何があったの?」
少女のすぐ右隣にいた、やけに露出の多い…カラス?のコスプレをした女性も駆け寄ってくる。
「ご主じ…痛っ!!……ユウト!無事で良かった!!心配した!!」
少女の左隣にいる猫耳のコスプレをした少女は、何故かカラスの人に殴られていたが、一瞬『ハッ』とした表情を見せただけでこっちを見て安堵の言葉をかけてくる。
「…ここは、どこ?」
見渡す限り、瓦礫の山だ。
なんでこんなところにいるんだっけ?
そもそもこの人たちは、誰だろう?
見たことあるような気が…するような、しないような?
「何を言っているのユウト?……そう。混乱しているのね?ここは【家族】のアジト跡よ。ユリヤに潰された…」
「というか、君たちは誰?」
「「えっ?」」
「っ!?………」
そんな意外そうな顔をするということは知り合いだったんだろうが、全く思い出せない。
カラスの人だけ2人とリアクションが違うのが気になったが、何かあるのだろうか?
「ユウト…?ふざけているのよね?」
「そもそもユウトって誰?」
「…そんな……まさか、記憶喪失?でもどうして…?」
「おそらくユリヤの仕業よ、ユキちゃん。」
「…どういうこと?確かにアイツはユウトに何かしてるようだったけど…」
こちらを放置して話し始める2人。
まぁ何がなんだか分からないし、大人しく聞いておこうか。
「その前にユキちゃん。確認したいのだけど、あなたは家族に再会できた?」
「…急に何を言っているの?そんなわけないでしょう。残念だけどね。」
「そうよね…こんな短時間であり得ないわよね。」
「それとユウトのこの状態に何か関係があるの?」
「実際にその場にはいなかったから確証はない。でも、ユリヤの元へ行く前のユウトの発言に、無関係と思えない言動が多かったから。」
「無関係と思えない言動?」
「全てを忘れることと引き換えに、ユリヤにユキちゃんの家族を見つけてもらうよう交渉する。そのようなことを言っていたわ。」
「なんですって!?あの時の質問はそういう意味だったの!?」
なんかすごい驚いてるな。
家族を見つけるって、この娘は家族と生き別れにでもなったのかな?
「…私が、『ユウトには忘れてもらう』って言ったから…?私のせいで…?」
「それは違うわ。ユウトはずっとユキちゃんと、神楽に幸せになってほしいと言っていたわ。それに…」
「それに?」
「…何でもないわ。ただ、ユキちゃんが家族と会えていないことを考えると何かしらのトラブルがあったと見るべきね。それともユリヤからそれらしいことを言っていたかしら?」
さっきから家族と会うだとか、
記憶を消すだとか消さないだとか。
この人たちは頭がおかしいのかな?
こんな薄暗い瓦礫の山でコスプレしてるのも変だし、普通の人達ではないのかもしれない。
ひょっとして、僕は誘拐されたのだろうか?
…流石にそれはないかな。
心配してたみたいだし。
まずは僕が誰かを思い出さないといけない。
なんとかこの人達の機嫌を伺いながら情報を手に入れないと。
「あのー。僕は一体誰で、この後どうすれば良いんでしょうか?」
ひとまずはストレートに聞いてみよう。
こちらを心配しているような素振りもあったし、少なくても命を狙われているわけではないと思いたいけど。
「…僕って言うのは新鮮で良いけれど、状況的に全く喜べないわね。」
この3人の中では一番まともそうに見える少女。
この娘なら話が通じそうだ。
それに、なんだか見てて安心感のようなものを覚える。
コスプレの人たちは分からないけど、この娘はひょっとしたら僕にとってかなり近い立ち位置なのかもしれない。
家族…妹とか?
「ごめん。君の名前を教えてくれる?」
「…ユキよ。あなたはユウト。私たちは【家族】というチームで、一言で言うなら仲間ってやつね。…それだけじゃなかったのだけど。」
「仲間…。そっちの2人は?なんでコスプレしてるの?」
「…私はシロ。この翼はコスプレじゃないわ。」
「ご主…痛っ!?…ユウトの仲間のクロだぞ!」
「黒い方がシロ?…で白い方がクロ?面白いね。でも、仲間なら友達ってことだよね?友達を叩いちゃダメだよ、シロ。仲良くしなきゃ。」
「「…………」」
「あ、あれ?なんでそんな泣きそうな顔をしているの?僕なにか悪いことを言ったかな?」
ユキちゃんに聞いてみるも、彼女も少し不思議そうな顔をしていた。
「とりあえず話を戻すわね?ユウト、あなた何か覚えていることはないの?」
「覚えていること?ウ~ン……」
全然分からない。
何を忘れているのか。
何を思い出せば良いのか。
何も分からない。
「ごめん。全然何も思い出せないや。」
「そう…。あっ、ユウト。【読む力】は使える?」
「なにそれ?」
「人の感情や気配が読める、あなたの…特技みたいなものよ。」
「特技?よく分からないけど、そんなことできるわけないじゃん。」
「…ユウトを弱体化させるために記憶を奪った、ということかしら?」
コスプレ組に話しかけるユキちゃん。
「分からない。だけど一番気になるのは、ユウトには【神通力の無力化】があったはず。それにも関わらず今この状態になっているのは…」
「ユウトが記憶の喪失を受け入れたということ!?ありえない!!」
にゅーとら…?
よく分からないけど、話の流れ的に僕…ユウトは自分から記憶を消したってこと?
どうやって?
電気ショックでもやったのかな?
「100歩譲ってユウトが受け入れるとしても、その『交渉』が成り立ってないじゃない!!無条件に記憶だけ消すなんて選択肢をユウトが選ぶはずないわ!!」
「ええ。私もそう思う。ユリヤに隙を付かれたか、あるいは弱みを握られたとか…?」
「…許せない!!あの女…、八つ裂きにしてやるっ!!」
ユキちゃんが見た目と違ってすごく怖いことを言っている。
僕のためにそこまで怒ってくれるなんて、きっとよほど仲良くしていたに違いない。
「ごめんね、ユキちゃん。きっと僕たちはすごい仲が良かったんだろうけど、勝手に忘れてしまって。頑張って思い出すから待っててね。」
ユキちゃんの頭を撫でて落ち着かせる。
なんとなく、こうしたくなったからだ。
「ユウト…。」
「ユキちゃん。」
「…ちゃんは辞めてちょうだい。なんだかムズムズするわ…。これはこれで悪くはないのだけど、違和感が勝つかしらね。流石に。」
「ユキ…さん?」
「ユキ、よ。ユウトは私を呼び捨てにしていたし、私も名前で呼んでほしいの。」
「分かったよ、ユキ。」
ユキは可愛いから名前で呼ぶのは少し恥ずかしいけど、元からそう呼んでいたのならきっと大丈夫だ。
「…それで、この後はどうしようかしら?ユリヤのところにすぐにでも殴り込みに行きたいけれど、ユウトをこのままにしてはおけないわ。それに目を離した隙に、またユリヤに連れ去られてしまうかもしれない。対策を考えてから動かないと。」
「このままここに隠れているのはダメなの?」
「…ダメね。ユリヤには隠れるって行為がほとんど意味がないと思う。見えないところからビルごと潰してくるような怪物なのよ。」
「そっか。」
あまり想像できないけど、その潰れたビルっていうのが目の前の瓦礫なのかな。
「記憶を失う前にユウトから聞いたのだけど、ユキちゃんの異空間…『保管庫』?に隠れているのはダメなのかしら?」
「あそこは普通の人間には危険すぎるわね。今の状態では隠れ潜むどころかあそこに入るのもやめた方がいいわね。どうなるか分からないわ。」
「連れていくのはダメなのか?」
「あの女もかなり滅茶苦茶よ。守りながら戦うのは危険だわ。それにこちらと戦ってくれるなら良いけど、隙を付いてユウトを拐われるかもしれない。」
「そのユリヤっていう人はそんなに危険なの?」
「危険よ。それに厄介さもずば抜けているわ。」
「そのユリヤさんより強い人はいないの?」
「いるにはいるけど…、それも敵なの。」
「そっか。僕たちには敵が多かったんだね。」
「そうね…。ユウトは少し特別なんだけど、説明が難しいから今はやめておくわ。」
『特別』。
どう特別なのか聞いてみたいけど、話の腰を折るのは良くないよね。
でも、それじゃあどうすれば良いんだろう。
この3人が仲間だと言うのなら助けてあげたいけど、待ってても着いていっても足手まといになっちゃうのか。
「その強い人たち同士で同士討ちをさせられないかな?」
僕は良い作戦だと思ってそう言ったけど、
3人の僕を見る目線的に、少し呆れられてしまったみたい。
「…あのね、2人とも同じ組織に属している者で、それもNo.1とNo.2の実力者。同士討ちさせるなんて不可能よ。」
「そうなんだ…じゃあ、しょうがないね。じゃあもう、いっそのこと家に帰るのは?」
「それじゃあ家族になんて説明するのよ?あなたのお姉さんがユウトの記憶喪失を知ったらとても悲しむと思うわ。第一、ユリヤの襲撃を防げないからどこにいても同じよ。」
お姉さん。
僕には姉がいるのか。
「両親もいるのかな?」
「両親のことは聞いたことがないけれど、少なくても家にはいないのだと思うわ。いるのはユウトのお姉さんにお友達が2人。その内の1人がさっき言ったNo.1の方よ。ユリヤはNo.2ね。実際の組織の序列とはまた違うのだけど。」
「えっ!?敵なのに一緒に住んでるの!?」
「確かに記憶を失ってるならそこは意味が分からないわよね…」
はぁ…とため息をつくユキを見てると申し訳なくなる。
ユキも今は余裕がなさそうだけど、困っている僕を放っておけないということだろうな。
きっとすごく優しい子なんだろう。
「言ってしまえば、ユウトは『スパイ』だったのよ。」
「スパイ!!カッコいい!!」
「なんか記憶喪失というか、幼児退行してない?…まぁ良いわ。ユウトはお姉さんも属する『狩人』側の人間でもあり、私達【家族】に協力してくれる存在でもあったの。」
「なんで?」
「…私もユウトに直接聞いたわ。ユウトは私を世界で最も大切だと言ってくれたの。会ったばかりだったんだけど、ユウトはその出会いを運命と呼んだ。私もユウトを好きになってて、一緒に色々やろうと話していたのよ。」
あれ?
家族のような存在かと思ってたけど、恋人だったのかな?
今の説明だとそうとしか思えないけど。
「そっか。早く思い出せるように頑張るね!それはそうと、そのNo.1の人から見て僕は仲間だということだよね?」
「そうね。ユリヤは何か違う目的で動いているみたいだから、ユウトがスパイと知ってなお、ソイツや他の狩人には伝える気がないみたい。」
僕は記憶を失っている。
記憶を奪ったのはユリヤ。
一番強い人は僕の家にいて僕の仲間。
ユリヤは誰にも僕がスパイだと口にしていない。
「…やっぱり良いんじゃないかな?同士討ち作戦。」
「それは無理だとさっき言ったでしょう?仲間同士で戦う理由がないじゃない。」
今度は結構しっかりと呆れられた。
でも、自信はあるよ。
「あるじゃない。ここに。」
「えっ?」
「考えがあるんだけど…」
僕は多分、こういうことを考えるのが好きみたいだ。
作戦立案?っていうんだろうか?
なんだかワクワクする。
ユリヤって人に、一泡食わせてあげよう!




