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「生きていれば、悲しいことも苦しいことも、必ずあります。」
ユウ君の物語はこれで終幕。
彼自身も終わることを心から望み、
無力な私はそれを止めるできなかった。
たった3つの願いすら叶えることもできず。
「でも、生きてさえいれば…きっと、」
いつかきっと、
生きてて良かったと、
心から思えることがあるはず。
たとえ記憶が失われようと。
これからの新しい未来を、彼の真実として。
「私にもっと力があれば…なんて言ってもしょうがないですよね。」
神楽耶さんもきっと同じ気持ちだったのでしょう。
この子のことを大切に想っていたのに、
救うことができなかった。
そんな彼女は彼の中で、悲しい記憶と激しい怨み、怒り…それらを封印することでしか彼を守ることしかできなかった。
そんな彼…ユウ君も、最後には自らを終わらせようとした。
ユウ君を救いたいという想いだけで、彼の中に在り続けた神楽耶さんの気持ちを嘲笑うかのように、ユウキ君の絶望や失望がユウ君に纏わりついていく。
「今度は私が、ユウ君を守ります。幸せにしてみせます。」
神楽耶さんに聞こえているかは分からない。
しかし、自分の決意を強めるためハッキリと声を出しておく。
こういうのは気持ちが大切なのです。
ユウ君は項垂れたまま頭を上げません。
脳内をいじっているので正気を保つのは不可能、気を失っているためです。
エピソード記憶と意味記憶。
神通力に関するもの全てを消し去る。
そしてユウ君の家族、友人も。
どうしても記憶との齟齬が生まれてしまうので、学校も転校してもらわねばなりません。
友人たちにも悪いですが、仕方ありません。
もうあの家にも戻らせてあげることも…。
自分に必死に言い聞かせる。
これが正解なのだと。
これしか無いのだと。
非常に繊細かつ危険な作業なので一つ一つをとても慎重に。
力加減を謝れば彼が『パー』になってしまうかもしれないから、最大限に注意を払わないと。
「惜しかったんです。ユウ君。もう少し、もう少しだけ自分の未来に希望を持ってくれていたら…」
ユウ君は自分をいくらでも犠牲にして、神楽さんとユキさんを幸せにしたいと考えた。
自分のことをどうでもいいと本気で見限っていた。
終わりたい、そう考えていた。
「生きたいと、それでいて記憶を消したくないと。そう強く訴えてくれれば、可能性はあったかもしれません。ユウキ君の絶望をはね除ける程の希望を持ってくれていれば…」
戦って私を殺すというのもダメ。
相手を破壊して望むままに行動していてはいずれ、ユウキ君に呑まれることとなる。
戦いたくない。
忘れたくない。
生きていたい。
自分を大切に、
言ってしまえば『ワガママ』になってくれれば、可能性を切り開けたかもしれない。
「そこまで状況を持っていけなかった私も、無能だったということですね。」
せめて、もう少し彼の状況を事前に把握できていれば。
もう少しだけ、早く出会えていれば。
そう思わずにはいられませんが、言い訳を続けていてもしょうがありません。
彼の願いと想いを踏みにじるのだから、
私には大きな責任が生まれる。
「だから今度は、最大限の幸せを、私が…」
終わりたいなんて、思う隙を与えはしない。
彼の中に眠るユウキ君も、深い絶望を忘れてしまうくらいの幸せを、私が。
「ユウトーー!!!!」
「っ!?」
何も聞こえないこの部屋に、急に響き渡る女性の大きな叫び。
彼女の後ろには禍々しい空間の歪みが見てとれる。
アレが異空間、ですか。
最近見たその可憐な少女。
ユウ君の想い人。
「ユウト!!無事なの!?」
「顔を見合わせるのは初めて…ですね。ユキさん。」
「ユウトに何をしてるの!?離れなさい!!」
彼女は私に強い殺意を向けてきます。
彼を心から大事に想っているからでしょう。
「ユウ君から話を聞いていませんか?」
時間を稼がなければなりません。
まだ記憶の削除は完了していません。
中途半端に止めては危険もあります。
「離れなさいと言ったはずよ。」
彼女は私を警戒してくれているようですぐに襲いかかってくる気配はありません。
が、それも私が今『何をしているか』を知れば死に物狂いで止めにくるでしょう。
「彼はあなたのお姉さんとお兄さんを探すためのヒントを得るため、失った過去の記憶を探してほしいと言ってここに来ました。」
「…なにそれ?ユウトには私の家族の心当たりがあるということ?」
「さぁ?どうでしょうか。念のため見てくれと言われているので、一応見ているだけです。」
「そう。とりあえず、彼から一回離れなさい。」
「中断するのは危険です。もう少しだけ待ってください。」
「ダメよ、あなたのことは信用できない。10秒だけあげるから安全に中断しなさい。いくわよ?10…」
「本気ですか?危ないんですよ?あと5分くらい…」
「7…6…5…」
どうやら本気のようです。
こっちも形振り構っていられません。
「3…にっ!?…………」
ユキさんを無理やり日本のユウ君の部屋まで飛ばしました。
しかし、おそらくそう長くは持ちませんね。
安全に進めたかったのですが、しかたありません。
ここは急ピッチで…
「やっぱり何か企んでるのね!?ユウトは返してもらうわ!!」
!?速すぎる!!
時間なんて全然経ってません!
1分は持つと思ったのに、まさか10秒もかからずに戻ってくるなんて…!
そもそもの話、どうして彼女はここが分かったのでしょうか。
「死になさい!!」
「くっ…。」
彼女の攻撃は未知数で危険です。
最低限の処理だけして一旦ユウ君から離れます。
彼女の腕をなんとか躱しましたが、間一髪でした。
あの禍々しいオーラ。
おそらく、身体を固くしたところで防げるものではないでしょう。
「止めてください。下手をしたらユウ君が廃人になってしまいますよ。」
一応区切りはつけましたが、まだ記憶の削除は中途半端。
廃人にならなくとも、このままでは何の解決にもなりません…。
「そんなことになれば全人類を皆殺しにするわ。お前の責任よ。」
「そんなこと言われましても…。」
状況は非常によくありません。
ユキさんのことはできれば傷つけたく無かったのですが…、仕方ありません。
「ユウ君を置いていきなさい。最後通告です。」
「…少しできることが多いだけの人間が、私に指図をするな。」
ユキさんがそう言うと、私の周囲に3つほど空間の歪みが発生しました。
中から禍々しい気配をヒシヒシと感じます。
しかし、ユキさんから目を反らしてはいけません。
先程から私を殺すような発言をしていますが、彼女は頭ではすぐに撤退を…と考えているからです。
本当に危険な攻撃だけ回避を行い、隙を見てユウ君の奪取を…
しかし、そこでその歪んだ空間の先にある物の正体が分かりました。
攻撃じゃない…これは、
鬼憑きの気配!?
気付くと同時にそれぞれの歪みの中から一体ずつ鬼憑きが這い出てきました。
それぞれが厄介な力を持っているようです。
それに正面の一体は既視感が。
たしか、ユウ君の記憶で見た最初の…
ブヨブヨした人体の形をほぼ無くした怪物。
確かこの怪物は自分の体積分、身体を自在に変形させることのできる能力だったはず。
他の2体は当然全く知りませんが、何にせよまともに相手にしてはいられません。
クロードさんの力を模して【偉大なる守護盾】を展開。
ユキさん以外は全て無視。
この盾ならこの怪物たちが私に危害を加えることはできない。
「あなたは猿真似が得意みたいね。」
っ!?
後ろからユキさんの声が!?
そういえば神社での戦いの時も、クロさんが複数に増えていたような…
彼女の攻撃は【偉大なる守護盾】を貫通するので避けるしかありません。
後ろを振り向かず、距離を取…
視界に捉えていたはずのユキさんとユウ君は既にいませんでした。
ほんの一瞬。
1秒にも満たない時間、背後に気を取られた隙にもう彼女とユウ君の姿はどこにもいませんでした。
気配を探っても地球上のどこにも反応がありません。
異空間…便利ですね。
ガンッ!ゴンッ!
私の展開した【偉大なる守護盾】を叩き割ろうとする怪物たち。
「まんまとヤられましたね。これはもう鬼が出るか…蛇が出るか…」
うるさい怪物たちには砂になってもらいました。
潰すと部屋が汚れますからね。
窓を前回にして大量の砂を外へ風で吹き飛ばします。
「さて…」
どうしたら良いのでしょう。
アカネさんや神楽さんには考えていた嘘のストーリーをそのまま伝えるか…
しかし、ユウ君が今後どうなるのかは私にも予測がつかない。
確実に反対されるから…と、アカネさんを除外したのは完全に失敗でした。
「ごめんなさい。神楽耶さん…」




