偽物の取引
本職が忙しすぎてまともに書けていません…
2日に1本を自分に課して6月は頑張っていましたが、本職に影響が出さないために
出せるときはそのままとして、
苦しいときは3日までには投稿する
というように少しペースに余裕を持たせたいと思っております。
読みに来て頂いてる方たちには申し訳ありませんが、作品の担保のためにもご理解をお願いします。
…無能なので。(泣)
白を基調とした部屋。
見覚えのある衣服にぬいぐるみ。
「相変わらず速いというか、本当に一瞬だな。」
ユキと違って異空間を通るという工程が存在しないため、体感の速度で言うならこっちが圧倒的に速く感じる。
しかし、実際にはユキの異空間内は時間が経過しないようだから周りから見れば差は無いだろう。
「次に会う時は互いに全力で雌雄を決する…そう言った私がバカみたいではありませんか。」
視線を下げると車椅子に座ってこちらを見上げているユリヤの姿。
少し機嫌が悪そうに感じる。
「愛しのユウ君に会えて嬉しいだろ?」
「だから取引に応じろ、と?」
「そーゆーこと。」
やはり、俺がシロとクロのところに現れた時からずっと聞いていたようだな。
「ユウ君は、自分がどういう存在なのかを知ってしまいました。今、私としても非常に判断が難しくなってしまっています。1日で状況が変わりすぎてしまいました。やはりユウ君はあの時拘束したままにしておくのが1番でしたね。」
あの時…最初にユリヤの家に来た時だな。
いつも柔和な笑みを浮かべていることが多いユリヤだが、今の表情には陰りが多い。
「少し真実を知った程度で俺は何も変わらない。それに、俺の記憶を消したいんだろ?だったら一緒じゃん。取引に応じてくれるなら俺の記憶……いや、俺の『全て』をおまえにやる。」
「今のユウ君は、あまり好きではありません。自分のことをどうでもいいと思っているようです。」
「他人の記憶を消そうってやつが今さら何を言い出すんだよ。」
「…それもそうですね。一応、取引とやらの内容を聞いておきましょうか。」
やはり、機嫌が悪いようだ。
「悪くありませんよ。」
「…俺の記憶を消すことに対する条件、対価を要求する。1つ目は…ユリヤ、おまえの力でユキの姉と兄を見つけ出してくれ。2つ目、天地神楽耶の魂を俺から天地神楽耶へ戻すこと、できないならその術を探すこと。3つ目、神楽とユキの記憶から俺の存在を抹消すること。『俺が記憶を消すことに同意すれば【家族は見逃す】』。それはユリヤが言い出したことだから当然履行してもらう。以上だ。」
「気に入りませんね。非常に気に入りません。」
速攻で難癖をつけられる。
だが、俺も折れるわけにはいかない。
2人のためにも、ある程度の無茶はする気だ。
「いや、これ以上は俺も譲れない。俺も自分の全てをお前に託すんだ。これくらいは望んでもバチは当たらないはずだ。」
「いいえ。今のユウ君は自分の生に価値を見出だしていません。つまり『安い代償』で『多くの利を得る』ように考えているだけです。」
「安い代償か…。確かにその通りだな。」
「…ごめんなさい。言い方が悪かったですね。」
「それで?応じるのか?応じないのか?」
「応じることはできません。」
やはり即答される。
「それは何故なんだ?何が望みだ?今の俺なら、できることなら何でもやるぞ。一時の恥も、どうせ後で忘れるしな。」
「そういうことではないのです。可能なのは実質的に3つ目だけで、他の2つは条件として成立していません。その2つの望みの叶えるのであれば、ユウ君から記憶を奪う意味などもはや無くなってしまいます。」
「…一体どういう意味だ?ユキの家族が見つからない方が都合が良いとでも言うのか?天地神楽耶が一生寝たきりでも良いと言うつもりか?ダメだと言うならその理由を話してくれ。……頼む。」
頭を下げる。
以前は理由を聞いても教えてもらえなかった。
だが前回と違い、今の俺はユウトではなく、ユウキという人物であるという自覚を持っている。
この状況が、ユリヤの心を動かす要因になり得ないだろうか?
先程もユリヤは判断が難しくなったと言っていた。
「ユウ君は人間が嫌いですか?」
「なんだ?いきなり。」
「嫌いですか?」
その質問に、何か大切な意味があるのだろうか?
答えなければ応じないということなら、答える以外の選択肢はない。
「良いヤツもいる。だが、基本的には嫌いだ。何故そんなことを聞く?」
「それは、ユウ君が普通の人ではないからです。」
言い切りやがったな、コイツ。
「俺って…ユウキって何なんだ?やはり鬼憑きなのか?」
「…良いでしょう。少しだけ教えてあげるとしましょう。」
ユリヤも少しはその気になってくれたみたいだ。
「『ユウキ』君は人間とはもちろん、鬼憑きとも違う…全く新しい存在です。おそらく、ユウカさんも同様の存在だと思います。非常に強力な力を生まれ持った存在。故に、儀式で魂を取り込んで力を得る狩人とも当然違います。」
「生まれ持った?何故そんなことが分かる?偶然神通力に芽生えることも稀なだけで無いわけではないんだろう?」
「過去のユウ君…ユウキの記憶でユウカさんが言っていました。」
「ふぅん。」
「反応が薄いですね?これはアレですよ。新人類のようなものですよ。ある意味。」
「そんなこと言われてもな。」
至極どうでもいいし。
「結局のところ、ユリヤは一体何を心配しているんだ?」
それが分からないことにはこちらも判断がつかない。
「これは以前にも言いましたが、ユウ君が変わってしまうことを大きく危惧しています。」
「俺も言ったはずだが、俺は何があったとしても変わらないぞ。これで解決か?」
「ユウ君は何も分かっていません。何もです。」
呆れたように頭を振るユリヤ。
分からないのはお前がハッキリ言わないせいだろう。
「ユウ君の言っている『変わらない』は、あくまでも天地優人の人間性は変わらないという意味です。」
だからそうだと言ってるだろう。
コイツは一体なにを言いたいんだ?
「私が恐れているのは、ユウ君が…ユウキ君になってしまうことなのです。」
「……ん?それは何か問題があるのか?ただ思い出しただけとは違うのか?」
「全く違います。ユウキ君は人間が嫌い…いいえ、強く憎んでいます。その『憎しみ』を思い出してしまうと…もう、全て終わりです。」
「憎んでいる…それがあの事件のキッカケなのか?」
1万人以上の魂を奪い去り、多くの犠牲と悲しみを生んだ事件。
その発端がユウキの憎しみ?
「本当のキッカケは別です。…とにかく、ユウキ君が目を覚ましてしまえば何が起こるか分かりません。良くないことだけなのは確かです。」
「もし俺がユウキになったとしてだ。ユリヤが倒せばいいじゃないか。俺は気にしないぞ。恨まないから好きにヤってくれ。」
「やはり、根本から勘違いしているようですね。」
「勘違い?」
「私がユウキ君を止められると思っているのなら、大間違いです。あのような存在に勝てるとは思いません。昔ならユウキ君ならいざ知れず、現在では成長してしまっています。勝てる道理がありません。アカネさんならあるいは…とも考えますが。」
「そこまで言うか。確かにシロもそんなことを言っていたが、少し買い被り過ぎじゃないか?」
「なぜユウ君が神通力の無力化を使えるのか、もう知っているのでしょう?」
「ん?ああ。天地神楽耶の魂を取り込み、その力を行使できるようになったんだよな?」
「はい。以前にも聞いたことですが、もう一回聞きますね。ユウ君はなぜ、勉強せずとも頭が良いのか。訓練も行わずして戦闘能力を得ているのか。普段の生活における機転、対応力。それらがどこで培われていたのか。その答え、今なら分かるのではないですか?」
「…魂を奪った1万人の、経験や知識ということか?」
神通力以外の物も自分の物とできるということか?
めちゃくちゃすごいっていうか、アレだ。
チートってやつじゃん。
「そうなります。」
「そうか…、なるほどな。自分のことを天才だなんて思っていたけど、盗んだ経験と知識を自分の才能としてこれ見よがしに出していただけなのか。どこまでも偽物なんだな、俺って。」
「自分を悪く言うのはおよしなさい。才能うんぬんに関してはともかく、ユウ君を好きになってくれる子はユウ君の内面を好いているからです。決して能力が高いからという理由だけが全てではありません。私も含めて。」
「まぁ、俺は顔も良いからな。」
「自信過剰に聞こえますが、間違ってはいないですね。…話を戻しますが、ユウ君の2つ目の条件、『神楽耶さんの魂を本人へ返す』ですが、これは絶対にやってはいけません。今でさえ、ユウキ君の力を抑えきれずに読む力に加えて、神楽耶さんの神通力の無力化やユウ君が倒した藤沼なる人物の力を扱えてしまっています。それはユウキ君の影響が強く出ているためです。力と記憶を内側から抑えてくれている神楽耶さんを引き剥がすということは、ユウ君を完全にユウキ君に戻すというのと同じことなのです。」
「仮に全部その通りになったとして、アカネとユリヤがタッグを組めば勝てるだろ?流石に。」
「まだ分かっていないようですね。ユウキ君と戦うという危険度が。」
「危険度?」
アカネとユリヤが完全に力を合わせれば勝てないやつなんていないと思うが…
まぁ危険はあるのかもしれないけど。
「なにより、簡単に言いますが神楽耶さんの魂を元の肉体に戻すなどと…そんなことが私にできると思いますか?」
「えっ?できないの?」
何でもできるが定評のユリヤさんにも不可能が?
「当たり前です。できるわけないでしょう?魂なんて概念的な存在を自在に操作するなど。『神のよう』とはよく言われますが、私は神ではないのですから。私は想像できることはほぼ無限に再現できますが、流石にこれは力の範囲外です。」
「…分かった。ひとまずそれは保留にしよう。やり方を別に考えないといけないとして…2つ目の、ユキの家族を見つけられないというのは一体どういうことなんだ?」
「言葉の通りです。それ以上言う気はありません。」
「探すことができないということか?それとも探すべきではない、ということなのか?」
「それ以上言う気は無いと、言ったはずですよ。」
「生きているのか、死んでいるのか。それだけでも答えてくれないか?」
「……」
「またダンマリか。」
これでは話が前へ進まない。
「ユリヤにしか、こんなこと頼めないんだ。他の人間には不可能だろう。どうすれば俺の言うことを聞いてくれる?なにを捧げれば認めてくれる?」
「………」
もう何も言うつもりはないということか。
ユリヤの力は当てにできない?
であれば、他の可能性を模索するしか…
しかし、他に誰がいる?
ユリヤ以外で、誰かも知らないやつをどこからでも探せるようなめちゃくちゃなヤツ。
魂を操作できるようなヤツ。
…そんなやつ、いるわけないだろうが。
状況が詰んでいる。
これでは誰も幸せになれない。
俺も、終わることができない。
「…ん?待てよ…。」
ふと、疑問に思う。
俺が死んだら、俺が取り込んだ魂はどうなるのだろうか?
俺が終わるとき、俺の中にある他人の魂も終わってしまうのだろうか?
あるいは…解放される?
賭ける価値はある気がする。
行き場を無くした魂は、本来の持ち主の元へと戻ろうとするのではないか?
しかし、体が近くになくては話しにならないだろう。
ユキに全員をどこか広い空間に出して貰い、そこで死ねば…
「また悪いことを考えていますね。」
口には出さなくても、当然ユリヤには心を読まれている。
「いや、でも結構良い案じゃないか?確証さえ得られれば…」
俺は全てにキッチリ片を付けてから、
俺を終わらせるつもりだった。
だが今の作戦が可能であれば?
順番として予定と逆にはなるが、俺が死んで魂が解放され、あの事件の被害者は全員目を覚ます。当然神楽耶も例外にならず、神楽との感動の再会だ。
神楽から俺の記憶を消せば、ほぼ元通り。
ユキも言っていた『浦島太郎現象』に関してはどうしようも無いものの、基本的には良いことのはずだ。
なんならそこもユリヤの力で記憶をいじることができれば…。
他に考えられる問題とすれば、気を失っている間に自分のパートナーが再婚していたり、知らない妹弟ができてたりする可能性もあるだろうが、それに関してはもはや俺にはどうすることもできない。
そしてユキ。
ユキの家族を探せないのは無念だが、ユキも俺を忘れることができれば家族探しに集中できるはず。
そうだ、シロとクロにはそれを手伝ってもらうとしよう。
俺の一生の願いだと言えば、聞いてくれるはずだ。
マジで『一生』だし、深く悲しませてしまうだろうが、受け入れてもらうしかない。
なんか、イケる気がしてきたぞ。
「それは楽観的と言わざるを得ませんね。魂が解放されるとして、それが元の持ち主に戻る確証なんてないじゃないですか。」
「まぁ最悪、反省の意を込めた贖罪として死んだということになればいいさ。あっ、もっと良いことを思い付いたぞ。」
「全く聞きたくありませんね。」
「神楽の記憶を消した後、『俺が犯人です』って言っちゃえば全部スムーズにいくんじゃないか?神楽は死に物狂いで憎き仇である俺を殺そうとするだろう。俺は強力な能力で神楽を追い詰めるが、最終的には神楽の想いの力が仇を打倒するんだ。そして俺を殺した後…あわよくばになるが、魂を取り戻した神楽耶と感動の再会。良い終幕だと思わないか?最悪、『仇を討ったよ、お姉ちゃん』的な感じで終わるのもスッキリしてて悪くはないだろう。」
悪くはない。
失敗しても神楽は仇を討てて、完全に過去と決別することができるはずだ。
成功すればこれ以上ない感動に包まれるだろう。
そうして俺は満足して退場していける。
「その馬鹿な考えをおやめなさい。私でも、怒るときは怒りますよ。」
ユリヤにキッと睨まれる。
かなりの威圧感だ。
普段ニコニコしているから、これもある意味ギャップというのだろうか。
しかし、何が気に入らないと言うんだ?
心配している危険な存在をこの世から消して、不幸にも魂を奪われた人たちもとりあえず意識を取り戻せる…かもしれない。
少なくても、悪いことなど何もない。
「私は、私たちは…ユウ君に幸せに生きてほしいだけなんです。…なのに!なぜ張本人のユウ君が生きることを捨てようとするのですか!?これでは、あまりに神楽耶さんが浮かばれない…」
終いには目に涙を浮かべるユリヤ。
「シンプルな疑問なんだが、」
ユリヤは俺の知らない記憶を、
ユウキの記憶を見ているはずだ。
「ユウキは生きたいと言っていたのか?」
「…なぜそんなことを聞くのですか?」
「ユウキが暴走したっては何かしらの理由があるんだろうが、大好きだって言ってた神楽耶にまで最終的には手を出したんだろう?俺だったら大切な人間に手を掛けるなら死を選ぶなって思っただけだ。あるいは、」
「もう全部をぶっ壊す…とかな。」
自暴自棄になり、全てを終わらせたくなるか。
理由によっては周りに怒りを全てぶつける。
俺ならその2択だ。
「やはり、ユウ君でもそう考えるのですね。」
「やはり?」
「私もユウキ君ならそう思う。そういう話です。」
急に体を縛られるような感覚に陥る。
いや、見えない何かで縛られている。
「一体何の真似だ?」
犯人は目の前の女しかいない。
というか、何故読む力も発動しなかったんだ?
「ごめんなさい。無力な私にはもう、こうすることしかできないのです。」
腰掛けていた車椅子から立ち上が…るのではなく、宙に浮いてフワフワとこちらに近づいてくる。
「今ここで、ユウ君の記憶を抹消します。」
何だとっ!?コイツ…!何で急に!?
いや、落ち着け…。
俺には神通力の無力化がある。
それさえあればユリヤの猪口才な考えなど…
…アレ?
………何故だ?
神通力の無力化が発動しない!
マズい…ユリヤに悟られては…、
「知っていますよ。そもそも考えていることも分かるのですから。」
ユリヤの柔らかい手が俺の頭の上に置かれる。
マズい!このままでは…
全てが中途半端で終わってしまう!!
体がビクとも動かせない。
「恨んでくれて構いません。これがみんなの…ユウ君のためでもあるのです。」
「ヤメロォーーー!!!!」
「さようなら、ユウ君。」
Xやってます!
フォローしなさい!
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