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退屈は僕を殺したい  作者: おどろん
第六章 七騎士編

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覚悟を揺らす事実

みなさん。

本日6/28で、ワタクシおどろんはまた一つオッサンへと近づきました。

嫁にも

「誕生日おめでとう。もうおじさんだね。」

と祝福されたので、

「ありがとう、おばさん」

としっかりお礼を返しておきました。


また一つオッサンの磨きをかけたこのおどろんを、これからもどうぞよろしくお願いします。

「ユキ、お願いがあるんだが。」


「なにかしら?」


「この人を俺にくれないか?」


目の前のカプセルに入ってる、この女。

天地神楽耶を。


「……確かに美人だけど、趣味が良いとは言えないわよ、ユウト。」


ジト目で睨まれる。

とんでもない勘違いをされているようだ。


「違う違う。変な意味じゃないんだ。この人が天地神楽耶…天地神楽の、実の姉なんだ。」


「あら、そうなの?」


「ああ。この人が『天地神楽が鬼憑きと戦っている理由』で、『天地神楽が俺の姉になった理由』なんだ。」


この人が神楽の元へ帰れば、神楽の戦う理由は…


「でも、意識を取り戻せていないのよ?ぬか喜びをさせてしまうのではないかしら?」


「確かにな。ただ、生きてそこにいるのと、死んでいるのはまるで違う。生きてさえいれば『希望』が生まれる。ユキも言ってたじゃないか。姉兄がいればと思ってここにいる人間を頑張って回収したんだろ?」


「それはそうだけれど…」


ユキは乗り気ではなさそうだ。


「まだ他にも問題があるわ。どうやってこの人を見つけたことにするの?それに、ここは時が進まない空間。現実の空間に戻ったら、浦島太郎みたいなことが起きてしまうのよ?まぁ本人が目を覚まさないからすぐに苦しむようなことにはならないと思うけど。」


「まぁ…そうだな。しかし、この人の存在は捨て置くにはデカすぎる案件だ。とても見なかったことにはできない。」


「じゃあどうするの?」


「…考えておく。とりあえずはこのままにしておこう。」


「分かったわ。別にこの人を引き渡すのが嫌だってわけではないから、必要なら言ってちょうだい。」


「ああ。ありがとう、ユキ。」


その場から再び歩みを進める。


「きっと、天地神楽耶を見せれば…神楽はとても喜ぶと思う。たとえ意識が無かろうとも。」


「どうしたの?急に。」


俺の唐突な話の振り方に、ユキは不思議そうに訊ねてくる。


「ユキの家族も見つけような。絶対に。」


「…ええ。ありがとう、ユウト。」


ユキは小走りで寄ってきて俺の右隣に並ぶと、俺の右手を左手で取って歩き始める。

小さく暖かい手だ。

俺は強く握り返す。


俺は昔の記憶を失っているから、大変だったかどうかも覚えてすらいない。

今の俺になってからは、特に大きな苦労をした覚えもない。

強いて言えば『退屈』に苦しんだくらいだ。

しかし、ユキはこれまで数多くの苦しみと困難を乗り越えてきたのだろう。

愛する家族と再会するために。

俺の、偽物の家族関係とは違う。

それはとても美しいもののように思う。


俺にも、愛した家族はいたのだろうか?


「元々ユリヤ対策を話すつもりだったが、その前に少しだけお話をしよう。」


「お話?」


「ああ。世間話みたいなものだよ。」


そう前置きする。

ここにきて、また考えが少し揺らいでしまったが…今度こそハッキリさせよう。


「ある人が言っていたんだが、俺はこのままだと周りの人間を不幸にするらしい。俺自身含めて。だから全部忘れて、普通の男の子として幸せに生きろと言う。どう思う?」


「真面目に聞いてるのよね?」


「一応な。」


少し怪訝な顔をしてから考え込む仕草を見せるユキ。

だがそれも一瞬だ。


「あり得ないわね。」


清々しいほどの断言。


「理由を聞いてもいいか?」


「だって、私がユウトに忘れられるなんて…それこそ不幸じゃない。」


やっぱり、ユキはそう言うと思った。

そう言ってくれると思っていた。


「例えばだが…俺が全てを忘れる代わりに、ユキが姉と兄に逢えるとしたらどうする?」


「えっ?どういうこと?」


「仮定の話だ。深く気にせずに答えてくれ。」


「そうねぇ……」


深く考えられるのは困る。

この質問は実質…俺か、家族のどちらを取るか?という問いだ。

女々しい男だと、思われたくはない。


「仮定に仮定で返してしまうようだけど、もしそうしないと家族に会えない…ということだったら、ユウトには悪いけど全部忘れてもらうわ。」


「そうか。そうだよな。」


当然だ。

家族に会うためにユキは苦しみ、苦難を乗り越えてここまで生きてきたんだ。

会ったばかりの俺がそれに勝ることなどない。


「けど、」


「ん?」


まだ続きがあるようだ。



「もし本当にそうなっても、私はユウトを好きであり続けるし、ユウトに好きになってもらうために、改めて努力をするわ。ユウトが記憶を無くしたとしても、私がユウトを諦める理由には決してならない。そうでしょう?」



「そうか。」


今の気持ちをうまく言葉にできない自分が情けない。

こんなにも嬉しいんだということを、

伝えるのを少し恥ずかしいと思ってしまう。

…いや、俺がそれだけ本気ということなんだろうな。


「私からも聞いて良いかしら?」


向こうから話を振ってくれるのは助かる。


「なんでも聞いてくれたまえ。」


「少し話を戻すようだけど、どうしても気になっちゃってね。…なんでお姉さんを名前で呼んでいるの?『姉さん』って呼んでいたわよね?血が繋がっていないのはわかったけど。」


よりにもよって、今それを訊かれるか…。

言いにくいにも程があるが、せめて正直に。


「実は昨日、神楽から好きだと伝えられた。姉としてだけでなく、異性として。」


「…」


「その際、名前で呼んでほしいということになって…」


「待った!!」


「うおっ!?な、何でしょうか?」


急に大声出したら驚くじゃないか。

思わず変に敬語が出てしまった。


「ユウトはそれに、なんて応えたの?」


「異性として、とても魅力的に思っていると伝えた。」


「…ごめんなさい。聞き方が悪かったわ。言い直すわね。」


ふぅ、と一拍置く。


「私と天地神楽、ユウトはどちらの方が好きなの?」


「神楽にも全く同じ質問をされたよ。」


少し苦笑を漏らしてしまった。

ユキはそれを見てはぐらかされるとでも思ったのか、やや不機嫌そうになる。


「2人とも同じくらい大切で、好きだと。今はまだ、どっちの方が好きとハッキリ答えることはできない…そう応えた。」


「…そう。私が負けてるんじゃないなら良いわ。ちなみにそれは本心なの?」


「ああ。…呆れられたかな?」


「少しね。でも、ユウトらしいのかも。」


「それは褒め言葉として受け取っておこう。」


俺は本当にどっち付かずの人間だ。

こういう中途半端な態度は本来、一番俺が嫌うところであるというのに俺自身がそうなってしまっている。

そして、そんな俺を好きだと言ってくれるユキと神楽。


こんなしょうもない俺を、

好きだと2人は言ってくれる。

だから、俺は全力をもって2人を幸せにしなければならない。

他の何を犠牲にしてもだ。


「ユキ。」


足を止めて右へ体を向ける。

右手は繋がれたまま、俺より背の低いユキは俺を見上げていた。


「なぁに?」


愛おしいこの子に、

俺ができる精一杯の幸せを。


「好きだ。」


「えっ、……!?」


繋いだ手を引っ張りユキを正面に引き寄せる。

とても軽い。

細い腰を空いている左腕で抱き締めて逃げられないようにする。


「ちょ、ちょっと!?ユウト…」


僅かな抵抗をみせるユキ。

暴れようとしても純粋な力では俺より遥かに劣る。

そもそも動揺しているだけで本気で暴れているわけでもない。

両手で小刻みに震えているユキの頭を抑える。


「好きだ。」


「んっ!?………」


キスをする。

一瞬だけ抵抗を見せたものの、すぐに大人しく俺に身を委ねてくれた。

十数秒ほどだろうか。

互いに腕を相手に回し、強く抱き締め、唇を塞ぎあう。

本気で抱き締めたら壊してしまわないか、

不安になるほど柔らかい体。

口づけを続けていたら溶けてなくなってしまわないか、そう思うほど柔らかい唇。

キスって、こんな感じだったんだな。

なんでもっと早くしなかったんだろう。


幸せって、こういう感じなんだ。


「あ、あの…ユウト。どうしたの?急に…」


「キスしたくなったからした。後悔はしていない。」


「で、でも…」


「ユキは嫌だったか?後悔してるのか?」


「そうは言ってない!ただその…ムードとかも、あるでしょう…?」


「ユキが可愛すぎるのが悪い。俺は悪くない。」


「そ、そう…。なら仕方がないわね…。」


そう、これは仕方がない。

俺が決意するために必要な儀式だったから。

そして、もう悔いもない。


「お願いばっかりで悪いんだが、ユキ。また俺の頼みを聞いてくれるか?」


「エッチなお願いかしら?」


ユキが軽口を言う。

少しは調子を取り戻したようだな。


「それはまた今度だな。それこそムードを考えるべきだろう。」


「…そう。」


なんか気落ちしているようだが、

まさか本気だったのか?ユキよ。


いきなり悔いが発生したが、しょうがない。


「シロとクロに会いたいんだ。俺を2人の元へ連れていってくれるか?」


悔いはともかく、やるべきことはやっておかなければならない。

2人も今は【家族(ファミリー)】。

俺たちの仲間なんだから。


「えっ?そんなこと?どうせ作戦会議のつもりだったし、これから呼ぼうと思っていたのよ?」


拍子抜けしたように言うユキ。

しかし、それは勘違いをしているからだ。


「いや、呼ぶのではなくて俺が2人のところに行きたいんだ。その間、ユキには離れていてほしい。大事な話があるんだ。」


「…それは、私には話せないということ?」


ムッとした表情になって聞いてくる。

しかし、こちらとしても引くわけにもいかない。


「そうだ。ユキには話を聞かせられない。俺を送り届けた後、悪いが俺が呼び掛けるまでは待機しておいてくれ。」


「随分勝手なのね。私はユウトのタクシーじゃないのよ?」


「運賃は、俺にできることなら全てだ。なんでも言うことを聞く。だから頼む。」


「そういうことなら早く行きましょう。ええ、すぐに行きましょう。」


くるっと、手のひらと身を翻して俺を送る決断を下したユキ。

しかし、すぐに動きを止めてしまう。


「ユキ?」


「お客様。当車両にはシートベルトがありませんので、こちらを…。」


ユキは左手を俺に差し出してくる。


「安全運転で頼む。」


左手を差し出す…つもりだったが、途中で引っ込めてユキの隣に並ぶ。

代わりに右手をユキの手に絡める。

俗に言う、恋人繋ぎというやつだ。

一瞬驚いて目を少し見開いたが、すぐにユキも強く手を握り返してくる。


「…それでは、シロとクロの場所までご案内いたしまーす。」


嬉しそうに笑いながら、顔を寄せてくるユキ。


「これは前払いとして、頂くわね。」


一瞬のキス。

子供の口づけのような形だが、ユキは満足そうだ。


「後はお楽しみに取っておくとするわ。」


ユキは正面に右手を翳すと空間が歪んでまた別の異空間が現れる。



今、俺が考えていることを言えばユキはきっと激怒するだろう。

それにシロとクロも協力してくれるかどうかは分からない。

そしてユリヤ…。


『この考え』が可能かどうかはまだ分からない。

だが一番皆が納得できる、幸せな結末を目指すためには、俺ができることは全てやらないといけない。


例え、俺が俺でなくなるとしてもだ。


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