表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
退屈は僕を殺したい  作者: おどろん
第六章 七騎士編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
103/110

確かめなければならないこと

「ユキ。ここは一体どこなんだ?」


もちろん、ユキの創造する異空間の中であることは把握している。

しかし、問題はその風景だ。


なんだ?この既視感は…?


白い…といってもくすみがあるが、一面質素な壁に覆われていて、古い機材のような物が並んでいるが、何に使うものかは検討もつかない。

まるで何かの古い研究施設のようだが、廃墟なのだろう。

荒れ果てた現状はここで誰も活動してないことを確信させる。

…いや、当たり前か。

メグには危険、という言い方的にも普通の人間には留まることも危ぶまれるということだ。

何かいるとしても鬼憑きか狩人か。


「ここは昔、私がよく足を運んでいた場所…を模した場所と言った方が良いわね。とてもお洒落な場所とは言えないけど、私にはここが落ち着くの。初めて人を招待したわ。」


「何かの研究施設のようだが?」


「そうよ。私を、()()()を研究するための機関、だった。」


「…ユキの家族か?」


「そうよ。…ああ、心配はしないでね?モルモット的な想像をしているのかもしれないけど、別に痛い思いや苦しい思いをした覚えはないわ。別に楽しくもなかったけど、有意義ではあったし。」


「そうか。」


気持ち悪い。

なんだこの感覚は。


「どうせ時間は動かないんだろう?少し散歩してもいいか?」


「ええ。ユウトなら隠すことはないもの。ただ、『端』までは行かないで。そこを越えると私にも制御が効かない空間に飛ばされてしまうわ。そこに入ったら、下手したら2度と出てこれなくなるわよ。」


「ユキにも制御できない?」


「今私たちがいるこの異空間は私が作り出した、私だけが利用できる空間。私だけの、私の【世界】。だけど、たまに私も操作が不可能な領域があるの。それが『端』。多分、この異空間におけるエラー的概念か何か。昔、興味本位で飛び込んでみて…とても長い間、その空間に閉じ込められてしまったわ。時間も経たないし、私だからなんとかなったけど、ユウトがそこに入ってしまったら助け出せる自信がないの。」


「それは恐ろしいな。」


「まぁ私も一緒にいるし、そもそも見て明らかに()()なのは分かるからまず大丈夫よ。」


「分かった。すまないな。時間をとら…せてはいないんだろうが、どうしても気になって。」


なんだろう?

この先に、誰かがいるような気がする。

あくまで勘。

人の気配はない。


何かが頭にひっかかる。

その『何か』を必死に思い出そうとするも、叶わず。

喉まで『何か』が出かけている感覚。


気持ち悪い。


何もない廊下を真っ直ぐ歩く。

部屋も何もない。

ただ真っ直ぐの道の先に、何やら赤い光のようなものが見える。


「あそこに、誰かいるのか?」


すぐ隣を歩くユキに問いかける。


「分かるのね?やっぱり。」


何が『やっぱり』なのか。

よく意味が分からないが、1人で納得したように頷くユキ。

唐突に歩みを止める。

足を止めたユキが手を正面に向けると、例の赤い光…光が漏れる部屋の入り口がすごい勢いで近づいてきた。

いや、廊下を縮めたのか?

まぁなんでもいいか。


一刻も速く、

そこに行かなければならない。


まだ少し距離があるが、ここからでも分かるのはかなり広い空間でありそうなことだ。

大きいカプセルのような物がズラリと並んでるのが入る前から見える。


その部屋に、足を踏み入れる。


「…なんだ、これは…?」


ズラリの並ぶカプセル状の機械のような物。

そこに入っているのは、人間だ。


人、人、人、人、人。

男、女、子供、老人。


老若男女を問わず、とんでもない数の人間がカプセルの中で…


「死んでいる?…いや、」


「目を覚まさないけど、生きてはいる。まぁ正直不安ではあったけど、あなたが誰かの存在を疑った時点で確信を持てたわ。」


おそらくユキは読む力(リーディング)で俺が人の気配を感じ取ったとでも思ったのだろう。

しかし、実際は違う。

ただの勘。

気になっただけ。

そう感じただけなのだ。

気配があった訳ではない。



   気配の無い者を追ってはいけません  



「…ユウト?」


ユキが心配そうに覗き込んでくる。


「…なんでもない。コイツらは、一体なんなんだ?鬼憑きとかではないんだよな?」


「ええ。彼らは普通…とは少し違うのだけど、人間よ。」


「これだけの人間、どこからか拐ってきたのか?」


「あら?私がそんなに悪い子にみえるかしら?」


「必要なら、やる時はやる女だと思っている。」


「ふふっ、違うわよ。彼らはそうね…」



()()()の記録、かしら。」



ユキは語り出す。



「【災厄の鬼】が引き起こしたとされる、未曾有の大事件。その時、そこにいた生きている者全てが倒れ、姉と兄がいなくなったあの日。私が家で寝込んでいると突然、ものすごい悪寒が走ったの。何年も後で分かったことだったけど、無意識で2人と回線を繋げていたのね。苦しんでいたのも忘れて、私は生まれて初めて転移を使った。たぶん本能みたいなものだったんだと思う。使えることも、使い方も分からなかったのに、2人の元へ行きたいと願い、現れた異空間を通って私は転移の力を発動した。」


「訳も分からず現場に到着して、まず目に入ってきたのは異様な光景だったわ。とても静かだった。街に破壊跡もなければ、悲鳴もなく、血も流れず、ただ倒れているの。人が。鳥や虫なんかは完全に死んでいたようだけど、倒れてる人は少し様子が違ったの。呼びかけてみても反応もないし、誰1人として体を動かすこともない。ただ、息だけはしていた。まるで魂だけが抜けたようになっているというか、脱け殻みたいになっていたけど、確かに生きてはいたの。」


「私は2人の元へ行きたくて、何度も拙い転移を繰り返したけど2人とも見つからない。手がかりも何もない。時間だけが過ぎていって、やがて街の外からの来たであろう人たちがソコに近づいてきていた。」


「でもね、ある一定の範囲に入るとね。バタッて急に倒れるの。慌てて駆け寄ったけど、もうダメだった。周りの人と同じ。なんで私が大丈夫だったのかは分からない。ただ、私以外の存在は、その範囲に立ち入った瞬間に()()()だと言うことが分かった。」


「私は焦った。2人が何かとんでもなく危険な目にあっていると。何度転移しても街の中を転々と移動しているだけだし、幼い私は考えた。どうするのが一番良いのかって。」


「探しても見つからないなら、いなくなった原因から調べないとダメだって。その時の悲惨な現象を解析できれば、2人の足取りを掴むことができるんじゃないかって。」


「だから、私は異空間にしまったの。」


「動かなくなった全ての人たちを。いつか目を覚ました時に、あの時の状況を確認できるように。あわよくば、倒れている者の中に2人がいないか…とも思ったわ。まぁそうであった場合、今も目を覚ましていないのだろうけどね。」


ユキの長い語りは終わった。


「…つまり、ここにいる連中は…」


行方不明だった1万人を超える人間たち。

狩人が必死になって探していた、あの事件の生存者。

俺も、ここに並んでいた可能性もあったということだ。

いや、むしろこうしてユキと話している現在の方が奇跡な程低い確率だ。


「ユキ。俺は1つ、大事なことを黙っていたんだが…聞いてくれるか?」


歩きながら切り出す。

少し言い辛いが、ユキも話してくれたし俺も誠意を見せなくてはならない。

ぬか喜びをさせてしまうだろうが。


「どうしたの?改まって。」


「俺はな…その事件の時の、生き残りなんだ。」


ユキの顔は見れない。

着いてきていた足音が聞こえなくなる。


「…どういうこと?」


俺も足を止めて振り返る。

ユキは俺の目を真っ直ぐに見ていた。

目を反らしてはいけない。


「そのままの意味だ。その未曾有の大事件の後、2人しか発見されなかった生存者の内の1人…それが俺なんだ。」


「…待って、それはおかしいわ。生き残りは3人のはずよ。詳細は分からないけど3人組の狩人が…」


「それに関しては俺も分からない。それも手伝って俺は都合よく、俺に関係ないことだと思い込んで話そうとしなかった。だが、やはり間違いないだろう。話を聞いて確信した。」


「どうして、すぐに話してくれなかったの…?」


「ぬか喜びをさせるのが嫌だったんだ。俺はその時以前の記憶を全て喪失している。何も覚えていないんだ。」


再び前を向いて歩き出す。

止まっていると、どうしても陰鬱な気分になってくるから。


「記憶喪失…?そんな………でもユウトにはお姉さんが、」


「もちろん血も繋がっていない。俺は自分の名前も、誕生日も、本当の家族も、好きな人も嫌いな人も、何一つ覚えていなかったんだ。天地神楽を姉さんと呼んでいても、実際のところは歳の差すら分からないんだ。」


「そうだったのね。そう言えば初めて会った時も、年齢を聞いたら変な答え方をしていたわね。」


「覚えてたか。」


「ええ。印象的だったもの。」


ユキはそこまで気落ちしていないようなので安心した。

俺の記憶喪失については驚いていたようだが、責めてくることもなければ逆に必要以上に同情してくるような様子もない。

やはり、ユキといるのは落ち着くな。

互いの考え方や性格の相性が良いんだろう。


無言で2人で歩く。

カプセルで眠る色んな人たちを横目で見ながら、ただ静かな時間が続く。

小汚ないおっさん。

美人の女。

作業着の若者。

賢そうな男子学生。

ひたすら規則性も何もない、様々な人間を目にしながら歩く。

奥まで行って突き当たりを左に曲がる。


左だ。右ではない。


景色はほとんど変わらない。

なのに、惹かれる。


何かに。

どこかに。

街灯に吸い寄せられる蛾のように。


同じ景色を進み、同じカプセルを見ながら、無言で進み続ける。

そして、ある一つのカプセルの前に立つ。


見つけた。

見つけてしまった。


意識をしていなかったと言えば嘘になる。

だが血眼になって探すつもりもなければ、

そもそも見つけたところで確信は持てない。

記憶がないし、会ったことがあるかも定かではないから。

そのはずだった。

なのに、確信が持てる。


「ユキ。ひとつだけ、どうしても確かめたいことが…確認したいことがある。」


「なに?」



「天地神楽耶という人物を知っているか?」



「えっ?知らないけど…、名前的にあなたのお姉さんの親戚か何かかしら?」


「そうか。」


カプセルに眠る女を見る。

見たことはないはずだ。


だけど分かる。

間違いない。


コイツは、天地神楽耶。

神楽の姉だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ