最後の機会
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今度、○○君に会わせたい子がいるの。
いつもの公園だ。
急に✕✕✕はそんなことを言い出した。
私の妹なの。とっても可愛いのよ。
名前は?
名前?………よ。
✕✕✕とそっくりだね。
少し大人しすぎる子だから、
いっぱい遊びに誘ってほしいの。
最近同じ女の子のお友達ができて少しだけ明るくなったの。
だから、次は男の子がいいかなと思ってね。
でも、■■■■■は歳の近い女の子と遊ぶ時は私の許可が必要だって言ってた。
何よそれ。
相変わらずのブラコンね。
ぶらこん?
…あなたのことが大好きでしょうがないってことよ。
僕も■■■■■が大好きだよ。
はいはい、ごちそーさまです。
✕✕✕のことも大好きだよ。
……これならブラコンにもなるか。
え?なに?
な、なんでもないわ。
話を戻すけど、次の日曜日―――――――。
次の日曜日?
アレ、何があったんだっけ………
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急激に目が覚める。
かなり汗をかいてしまっているようで、
何だか心臓の鼓動も速い。
今の夢…
それに、夢に出てきた女。
どこかで、見たことが…
………………ダメだ。
もう女の輪郭以外なにも思い出せない。
これ以上考えない方がいい気もする。
なんとなく。
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『ユリヤ、聞こえるか?』
頭の中で言葉を浮かべてみる。
ヤツが俺を覗き見ているなら返事があるかもしれないと思ったからだ。
しかし、空振り。
「ねぇ、ユウト君。なんか怖い顔してるけど、悩みでもあるの?」
隣の席に座っているハルカが俺を心配して声をかけてくる。
思考にリソースを割きすぎていつも通りの様子を装うことすら出来ていなかったようだ。
「ハルカは、自分が記憶を失ったとして…第三者から『お前がこのままでは不幸になるから、全て忘れて言う通りに生きろ』と言われたらどうする?」
「なんだそれ、バッカじゃねーの?言うこと聞く必要ねーだろ。」
答えたのはハルカではなく、いつの間にか後ろを振り向いていたハヤテだ。
俺も全くの同意見。
他人に、自分の幸不幸を決められる筋合いはない。
「なになに?ユウト君、記憶喪失なの?」
ハルカも笑いながら続ける。
そうだよ。
「んー。それを言う人次第じゃない?」
「言う人次第?」
「うん。第三者って言ってたけど、それがもし神楽さんの言葉だったら少なくても迷うでしょ?ユウト君は。」
「なるほど。つまり…現在大切に思っている人の言動であれば、ハルカは素直に聞くということか?」
「うーん…どちらかと言うと、信用ができるかどうかってことだと思う。嘘としか思えないとんでもない内容でも、心から信頼する人が言うんだったら信じられるんじゃないかなって思うの。」
…能天気な意見にも聞こえるが、実際に自分に当てはめてみると頷けるところはある。
ユリヤは俺にとって『敵』というカテゴリーに属する存在だ。
そんなやつが俺のためだと言って、全てを忘れて私の言う通りに…なんて言ってきても納得なんてできるわけがない。
しかし、それを神楽やユキが言ってきたらどうだろうか?
自分の性格も合わせて考えてみる。
少なくても無下にはせず、何故そういう結論になったのかを考えようとするだろう。
そして、最後には否定をするのだろうな。
俺の人生は、俺だけのものだ。
俺の幸せのために、2人が『自分のことを忘れてほしい』と言ってきたところで、俺がそれを受け入れることは決してない。
俺が2人を大切に想っていることを、なかったことにされるのは嫌だ。
それはもう俺ではない。
俺が死ぬことと同じ。
「やっぱりハルカは底抜けのバカだな。このバカ!!」
「ええっ!?なんなのいきなり!?」
ハルカはおそらく、信頼している人間の言うことは基本的に聞くのだろう。
委ねるという行為は、俺からすれば自分の選択肢と機会を失うだけでなく、その自分で選んでいるわけでもない行動の結果がどんなに悪いものでも甘んじて受け入れなくてならない。
俺はそんなものは嫌だ。
小さいわがまま等は別として、自分の将来を左右するような選択を他人に選ばせるなどあり得ない。
「今日のユウトは中々変だな。家で何かあったのか?」
「ああ。神楽が俺のことを好きなんだって。」
「…だーめだこりゃ。ハルカさん、お薬持ってきてー。」
「もうつける薬はないよ…。ユウト君、頭おかしくなっちゃったの??」
失礼な。
まぁ信じるわけないか。
いつも通りの日常を送り、昼休みの時間を待つ。
メグと直接話すために。
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昼休み。
校舎の屋上でメグと待ち合わせていた。
屋上から更に1段上がった水槽タンクがあるスペースで横になって待機してると、
「ユウト。こんにちは。」
音もなく俺の頭の先に現れたメグ。
俺は仰向きになっていたので、メグのスカートが風ではためいていて非常に危険だ。
少女のパンティには興味がないのでさっさと上半身を起こす。
「はい。こんにちは。挨拶ができて偉いでちゅねー。」
「…バカにしてる?」
いつの間にか、何処からか取り出した鋭い針のような物を持って、こちらを無表情のままじっと見つめてくるメグ。
「冗談だ冗談。なんだその物騒な針は?それをどうする気だ?」
「ユウトがいじめるなら、プスって刺してあげようと思って。」
「そんな太い針で刺されたら痛くて泣いちゃうだろ。」
「ユウト、泣いちゃう?見てみたいかも。」
「メグって結構Sっ気あるよな。」
さて、冗談はここまでにしておこう。
神通力の無力化で俺たちの周りを覆う。
これでユリヤの介入はない。
「今、ユキ達は何をしてる?」
「今はTrinityの乗っ取り準備だって。ユウトが満足に動けなそうだから、できることをするって言ってた。」
「流石だな。聞きたいんだが…メグは普段、ユキと連絡を取りたい時はどうしてるんだ?そっちも携帯で?」
メグは普通…ではないが、人間だ。
神通力を持たず、使える力はユキから借り受けている緊急離脱の力のみ。
ユキならどこからでもメグに連絡を取れるだろうが、メグはどうやってユキに連絡をしているのだろう?
「急ぎじゃなければ、携帯。緊急時は予備の回線を使う。」
「予備?」
「ユキが一方的に私に繋げている回線がある。私から呼び掛けたりすることはできないけど、強く念じれば『私が話をしたい』ということがユキに伝わる。ユキが手が離せない状況じゃなければすぐに通信が入る。」
「ふむ。ワン切り専用ってことか。」
「それがどうかしたの?」
「俺にも有効な手段ならと思ったんだが、おそらく神通力の無力化を使用してる間は使えないだろうからな。というかもう消え去っているかもしれない。神通力の無力化を消すから、悪いけど一応試してみてくれ。」
「分かった。」
神通力の無力化を止める。
目で合図すると、メグは目を閉じた。
おそらく、俺の力のせいでユキの力は消え去ってしまっているだろう。
順番を間違えたな。
神楽のこともあって、今の俺は少し舞い上がっているのかもしれない。
もう少し冷静に行動しなくては。
『どうかしたの?メグ…あら?ユウトもいたのね。』
これは驚いた。
ユキの回線は無事だったらしい。
『寸前で神通力の無力化を使っていたんだが、よく回線が無事だったな?』
『それは多分、この緊急用の回線経路は私の異空間に在るからよ。現実の空間で何かしたところで影響は無いということね。流石わたし。』
『なるほど…そういうことか。』
『それよりユウト、どうしたの?今はユリヤに監視されている可能性があるとかなんとか…』
『ああ。今この会話も聞かれている可能性がある。』
『…ん?……えっ!?ダメじゃない!!』
俺がなんでもないように言ったから、遅れて驚くユキ。
『私たちの関係がバレてしまうじゃない!?』
当然の問いだ。
しかし、現実の問題はすでにその領域を遥かに通りすぎている。
『いや、既にバレているんだ。俺はユリヤを舐めすぎていた。アイツは俺達の回線に割り込んで声を聞いていたんだ。神社での戦闘で既に俺たちのことは把握されている。アイツがその気になれば相手の記憶を一方的に読み取ることも可能だ。隠れて策略を練るのはかなり難しい。』
『…開き直ったということね。でもどうするの?』
『まさにそれを相談しようとしていたんだが…思わぬ抜け道を発見した。つい今しがたな。』
『抜け道?』
『ユキ。ユキの異空間だが、そこに留まり続けることは可能か?』
『私の異空間に隠れ潜むということ?たしかにそれなら…外からの干渉は受けないと思うわ。ただ、あまりオススメはできないわね。』
『それは何故だ?』
『覚えているかもしれないけど、私の異空間では時が動かないの。あまり無理なことをすれば現実の空間に戻ったときに齟齬が生まれてしまうの。下手なことをすると、私でも予想がつかない何かが起きてしまう。少なくても良いことではないわ。』
『だが、話をする分には大丈夫だろう?』
『そうね。メグには危険だけど、ユウトなら大丈夫だと思うわ。』
『よし、じゃあ今から行こう。』
『えっ?随分急ね?問題はないけれど。』
『ああ……いや、少しだけ待ってくれ。』
ユキに断りを入れる。
今一度、確かめておきたい。
『ユリヤ。これがおそらく最後の機会になる。もし、覗き見ているなら返事をしろ。話し合いができるとしたら、今この時だけだ。』
『ユウト?何を言っ…』
『話し合いをすれば、私の言うことを聞いてくれるのですか?』
『っ!?』
『やっぱり聞いていたな。昨日からだろ?』
俺の予想では、ユリヤと別れた昨日からずっとだと思っている。
ただ、それを確かめる術はない。
『合っていますよ、ユウ君。あの後からわたしは常に、ユウ君の様子を陰ながら窺っておりました。神楽さんのこと、良かったですね。』
当たり前のように俺のプライバシーを侵害していやがる。
あの時、絞め殺していなかったのはやはり失敗だったかもな。
『…本当に、めちゃくちゃな存在のようね。』
『初めまして。ユリヤ・ロマノワです。』
『これはご丁寧にどうも。ユキよ。仲良くはしてくれなくても良いわ。』
『あらあら。嫌われてしまったものですね。』
『ビルごと潰されかけたのに、仲良くしましょうも何もないでしょ。』
『ふふっ。そう怒らないでください。』
『ユリヤ。話を進めさせてくれ。俺はお前の条件を飲むつもりは今のところ全く無いが、どうしても理由を話す気にはならないか?ひょっとすれば俺の気も変わるかもしれないぞ。特に俺の過去についてはかなり気になっているところだ。』
『それはあり得ません。その理由を話すことはむしろ悪手。最悪の一手です。』
『俺達に殺されることになってもか?』
『はい…勝つのは私ですけどね。ユウ君には全てを忘れてもらい、普通の男の子として幸せに生きてもらわねばなりません。』
『そこが引っ掛かるんだ。お前が俺を幸せにしたいと言うのは勝手だが、俺の意思をねじ曲げることが俺の幸せを願うことと逆行していると何故分からないんだ?』
『言いたいことは分かります。しかし、仕方がないのです。』
『だからその理由を言えと言っている。』
『話すことはできません、と言っているでしょう?』
どこまでも平行線。
やはり、相容れることは無さそうだ。
『分かった、もういい。お前とはここまでだ。』
『残念です。私がこれほどユウ君のことを想っているのに、それが伝わらないのがとても悔しいです。』
分かっていたが、交渉の余地はなかった。
改めて意識する。
この女は排除すべき『敵』だ。
『ユキ、頼む。』
『ええ。分かったわ。メグは普段通りに過ごしていて。お留守番よ。』
『はーい。』
『可愛い子ですね。』
『黙れ。お前は敵。』
『これは手厳しい。』
目の前にユキの発動させたと思われる異空間のゲートが現れる。
『おそらく、次に会う時はお互いに全力で雌雄を決することになるでしょう。ですから…』
『せめて、悔いの無いように。』
俺はユリヤの言葉を聞き届けた後、
迷わず異空間へと飛び込んでいった。




