因果応報
懐石ランチを食べ終わったので、温泉に入りに行く前に先ほどのロクデナシの状態を一旦確認しに行くことにした。
碧が立てないようにした上で私が意識を刈っているので、逃げられる可能性はほぼ無い筈。だけどまあ、返された呪詛が偶然変な感じに反応して意識を取り戻して這って逃げようとしたりしてたら困るからね。
そしてそうじゃなくても、あまり早く体調が悪化して田端氏達が呪師の話を聞ける前に逝っちゃったら残念だし。
と言うか。
「田端氏に大人しく聞かれた質問に答えるように、呪詛返しで寿命が著しく短くなった事とか、個人的に付き合いがあった呪師の情報を司法取引もどきな感じに提供したらほぼ間違いなく呪い殺される事とかに思い至らないように意思誘導しておかないとだね」
あの究極に自己中な男だったら、何をやっても死ぬと思っていたら他の人間の邪魔をする為に呪師の情報を提供しない可能性も十分ある。が、今は何故か体調が悪いだけでそのうち治ると思っていたら、奴は起訴内容が軽くなると言われたら口が軽くなるタイプだと思う。
「起訴されない可能性があるから、気分が悪いせいで考え足らずに色々とぶちまける様に意思誘導しておく方が良いんじゃ無い?」
碧が指摘した。
おっと。
そうだった。五つも呪詛を掛けていれば『気休め程度の嫌がらせのつもりだった』なんて言い訳が効かないとつい思ってしまうんだよね。
だけど考えてみたら、却って呪師と付き合っていたから『彼女の仕事に理解を示す為に起きたら良いな〜と思う嫌がらせを口に出してみただけだ』なんて言いそうだ。
「よし!
痛みと気持ち悪さで頭が回らなくて、聞かれた事はなんでも答えるように意思誘導しておこう」
長時間は保たないが、数日効果が続けば捕まえられるなら呪師を捕まえられるだろう。
数日掛けても捕縛できてなかったら、もう既に逃げられているだろうから手遅れだ。
と言う事でロクデナシが休んでいる部屋に顔を出す。
ついでにアレの痛みも暫く消しておこう。
腎臓の呪詛返しは単なる体調不良と思う可能性が高いが、アレが痛いのは普通な事じゃ無いので、呪詛返しのせいかもと思い至る可能性がある。
まあ、そっちも意思誘導で暫くは思い付かないようにするけど。
やっぱアソコは男性にとっては重要だから、それの痛みについて四六時中考えていたら意思誘導が解けるのが早くなってしまいかねないしね。
と言う事で、痛みを部分的に隠し、意思誘導を埋め込み。
ついでに追加で記憶を読んでみたら、どうやら呪師をナンパして引っ掛けてから呪詛の存在を知り、色々と活用するようになったらしい。
色々と活用しているとは言え、まだ誰も死なせてはいないので、過去の『悪戯』の効果を目の当たりにしているだろうと追求は難しそうだ。
まあ、司法で対処できなくても呪詛返しでほぼ確実に悪さを出来なくなると思うから、悪戯扱いになってもそれ程問題じゃあないけど。
「終わり!
じゃあ露天風呂に行こう」
碧に声をかけて部屋を出ようとしたら.丁度様子を見に来た岸坂さんと顔を合わせる事になった。
既に警察が来ると言う話はしてあるんだけどね。
「大丈夫そうですか?」
岸坂さんが訪ねる。
「警察の方が来るまで意識が覚醒して逃げたりしないように、術を掛けてあるので大丈夫です。
ちなみに……樹さんはあの兄と仲がいいのですか?」
仲がいいとしたら、単に樹氏がお人好しすぎて自分の兄の本性を直視出来ていないんだと思うが。
「口もきかないほど悪いとは言いませんが、考え方や価値観が違うので自分からは連絡は取りませんね。
とは言え、実の兄なので彼方から温泉に入りたいから泊まらせてくれと連絡があったら余程の事がない限り、断りませんが」
溜め息を吐きながら岸坂さんが答えた。
彼女としてはそれも断りたいぐらいなのだろうが、流石にそこまではっきり拒絶する理由が無かったのだろう。
「実は……彼は岸坂さん以外にも会社関係の人などを4人程呪っていたようなんです。
それだけの呪詛を掛けて、それらが倍になって返ってきたらほぼ確実に命に関わるので、近いうちに突然入院して死亡と言う流れになる可能性が高いと思います。
お見舞いに行かなかった事を樹さんがずっと悔やむと思うのでしたら、お見舞いには早いうちに行く方がいいかも知れませんが、もしかしたら警察が拘束中に突然死するかも知れません。
その場合は警察を責めるのではなく、倍返しになったら死んでしまうような呪詛を掛けていた本人の自業自得だと考えるように誘導すると良いかもしれません」
別に警察は責められても『因果応報でしょう』と柔らかく返すだけかもだが、こんなクソッタレの因果応報な死に関して樹氏がずっと悔やむ事になんてなったら馬鹿らしい。




