表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミキタビ始めました!  作者: feel
3章 もう一つの小さな世界
97/293

ライラという少女2 97


 雨の冷たさを知った翌朝、ライラは珍しく母が部屋に入るよりも早く目覚めた。


 太陽は雲に隠れて顔を出しておらず、今にも雨が降りそうな天気だった。ライラは父から貰った砂時計を見つめて、母が部屋に入ってくるのを待った。


 コンコン


 砂時計が六回ほど開店したころに部屋の扉がノックされた。ライラは母なのだろうと思い、扉の方を見つめていると入ってきたのは父だった。普段ならとっくに診療所に行っているはずなのにとライラが不思議そうにしていると


「ライラ、母さんが風邪を引いてしまって今日はライラの世話ができないんだ」


 母は昨日の雨に打たれたまま、父を迎えに行った。おそらくそれが原因となったのだろう。


「起き上がれるかい?少し早いけど、ご飯を食べてくれ」


 父は慣れない手つきでライラの腰に手を当てて体を起こす。ライラはご飯よりも雨で蒸れた体を拭いて欲しいと思ったが、父の余裕ない顔を前にすればそれは後回しにしても良いと思った。


 父が持ってきたのは味の薄いおかゆだった。母が作ったのならば卵や梅で味付けされているはずなので、これは父が作った物だろう。


「夕方には帰ってくるからな。少しだけ辛抱してくれ」


 父はライラがおかゆを完食すると食器を持って一階に降りて行き、再び部屋に入ってきた父は仕事用の服に着替えて、カバンを持っていた。


「それじゃあ、行ってくるな。おやすみ」


 父はその言葉を残して家から出て行った。


 ライラは蒸れて気持ち悪い体をどうしようかと悩んだが、体を動かすことのできないライラ一人ではどうしようもなかった。




 ライラが次に目を覚ましたのは空が暗くなり、星が顔を出したころだった。朝から晩まで眠っていたことにライラは驚いた。驚きの次にライラは空腹を感じた。しかし、部屋の中にはライラしかおらず、ライラの空腹に気付いてくれる者はいなかった。


 いつもなら決まった時間に母がご飯を食べさせてくれるので、ここまでの空腹を感じることはなかった。ライラは次にご飯を食べれるのは何時間後だろうかと砂時計を見つめる。


 砂時計は相変わらずに五分ごとの時を刻み、ライラの退屈と空腹を忘れさせてくれた。ライラは唯一動かせる瞼を使って、五分後、砂時計が回転する瞬間に目を開けれるかなどと遊び始めた。


  黒一色を纏っていた周囲は次第に色味を帯び始め、鳥たちは起床を告げるかのように鳴き始めた。生まれて初めてライラは太陽が出る瞬間を目の当たりにした。


 ライラは自分でも鼓動が早くなっていくのを感じ、興奮というものを体感する。



コンコン



 そんな時、部屋の扉がノックされた。母が元気になって自分の世話をしに来てくれたのだろうか、母にもこのきれいな光景を見せたい。ライラは興奮が冷めやらぬまま、扉を見つめていると入ってきたのはまたしても父だった。


「……起きていたのか。遅くなって済まないな…」

まだ日が完全に昇りきっていないせいもあってか、父の表情は良く見えなかった。しかし、ライラにはそんなことはどうでもよく、ライラは目線で外を見て欲しいと訴えかける。


 それに気づいたのか父は窓の外に目をやった。


「う、うぅ……」


 外の光景を見た父はその場に膝をつき、うめき声を上げ始めた。ライラは何事かと思っていると、顔を覆う父の手から数滴の涙がこぼれる。その涙にライラは底知れない不安感を感じた。


「ライラ、すまない…!」


 突然の謝罪にライラはますます訳が分からなくなっていると、父から涙と謝罪の理由が離された。


「母さんが死んでいた…」


 ライラはその言葉を理解できなかった。しかし、脳とは残酷なものでライラは次第にその言葉を理解していってしまった。

 

 母が死んだ。昨日もおいしいお弁当を作ってくれて、自分の世話をしてくれた母が。そう思うと、ライラの視界が大きくゆがみ、頬を涙が伝っていった。


「仕事が遅くなって、夜に帰ってくるともう…。朝ごはんは食べていたし、家を出る前も笑ってくれていたのに…!」


 ライラは父の話を聞きたくなかった。父の話をこれ以上聞けば、母がいなくなったことを否定できなくなってしまうから。


 父は後悔の念を口に出して子供のように泣きじゃくった。ライラはそんな父を見て、母の死を迎えて声も出せずにただただ泣いた。




「ライラ、お願いがあるんだ…」


 涙を大量に流して父は落ち着いたのか、赤く腫れあがった瞳でライラを見つめた。


「お父さん一人ではライラの世話をしながら、仕事をつづけることはできない」


 今までは父が働き、母がライラの世話をすることで生活が成り立っていた。父がライラの世話だけをすれば生活費は回らなくなるし、働きに出ればライラの世話をする者はいなくなってしまう。


「少し、いや長い期間になるかもしれないが眠っていてくれないか?」


 父は一本の注射器を右手にした。それ自身を長い期間眠りにつかせる薬だろうとライラは分かった。


「もし、ライラが眠りたくないというならお父さんはライラの世話をし続けよう。貯金だってそれなりにはあるし、半年の間ならそれを続けることは可能だ」


 父は何も持たない左手と注射器を持った右手をライラの前に突き出した。


「ライラには我慢ばかりさせてきたからな。選ぶ権利───いや、すまない。ずるかった…」


 父は再び目に涙を溜めるが、歯を食いしばって涙がこぼれ落ちないようにこらえる。


「本当はお父さんには選べないんだ…。ライラを眠りにつかせたくなんかないし、でもそれじゃ終わりが見えてしまっている。お父さんには決められないんだ…。頼む….」


 父が震える声でライラを見つめる。そんな父を見る前からライラは答えを決めており、ライラはゆっくりと瞼を閉じてから、もう一度開けて答えの方を見つめる。


「すまない…!今度は必ずすぐに起こすからな…!」


 ライラは父に意志が伝わったのを確認すると、再び目をゆっくりと閉じて腕に触れる父の涙で濡れた手の温もりを感じた。


 雨と違って涙は温かいんだとライラは感じた。





「統括ロボット一号、あなたにはロボットの統括権限を与えるわ。私とミネトラ、そしてカミネート以外の命令や魂への接触を禁ずるわ」


 小さな少女が自身の前に二枚の男の写真を提示する。一枚は目つきの悪い白衣を着た男で、もう一枚は老人の男だった。しかし、自身はその老人が何者かすぐにわかり、自身の名前と老人との関係を思い出した。


「アイカさん、私はライラと呼んでください」


「あら、あなた自我が残っているのね。ライラね。分かったわ。名前はいいけど、私達のことは様を付けないさ。あと、その老人、カミネートの前で自我なんか見せたらどうなるか分からないからなるべく隠すことね」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ