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ミキタビ始めました!  作者: feel
3章 もう一つの小さな世界
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ライラという少女 96


 リーナはその晩、夢を見た。


 リーナの知らない天井でリーナの知らない部屋の中。だけど夢の中の『自分』はその光景を知っていた。そこは『自分』が生まれてから最も長い間を過ごしたベッドの中で、窓からは暖かな日が入っていた。


「ライラ、入るわよ」


 落ち着いた女性の声が扉を叩きながら『自分』の部屋に入ってきた。その女性は『自分』の母だ。

リーナは『自分』の名前を呼ばれたことで、『自分』がライラという少女だと分かった。


「今日は気持ちいい天気ね。お弁当でも作って外に行きましょうか?」


 母はライラの体を起こすと、濡らしたタオルでライラの体を拭いて行く。肌に触れるタオルはとても冷たく、寝たきりで蒸れた体を気持ちよく拭き取ってくれた。


「それじゃあ、お弁当を作ってくるわね。お昼はお父さんの所に行って一緒に食べましょ」


 母はライラの体を拭き終わると、お日様の香りがする服をライラに着せて部屋を出て行った。ライラは体を自由に動かすことはできなかったが、両親のおかげで生活への不満はそれほど持っていなかった。



 お昼になり、母がライラを父お手製の車いすに乗せて父の診療所へと連れて行った。


 少しでも空気の良いところに、と森の中に建てられたライラの家から父の診療所までは少し離れていたが、母の言った通りこの日はとてもいい天気でライラは道中も眠気に包まれていた。


「ライラはお母さんの料理で何が一番好き?」


 母が作る料理は全て好きなライラだったが、それを伝えるための口は動いてくれない。どうやって母に伝えようかと思っていると、母はライラの目を覗き込んだ。


「そう!全部好きなのね!ありがとう!」


 ライラは自分の考えていることを理解した母に目を丸くした。ライラには思いを伝えるための口も、手紙を書くための手も動かない。それなのにどうしてだろうと思っていると


「え?どうして分かるのって?分かるよ。お母さんだもん」


 母は笑ってライラの頭を優しくなでた。ライラはその手に撫でられながら、眠りについた。


(ライラ……アイカさんが統括ロボットさんのことをその名前で呼んでたっけ。なら、これは統括ロボットさんがロボットになる前の夢…?)


 

「お父さん、お疲れ様。前に言ってた患者さんは良くなった?」


 ライラたちはライラの父と一緒に診療所の裏にある風通しの良い森の中でお昼を食べていた。父はこの日忙しかったのか、白衣を着たままだった。


「あぁ!もうすっかり元気になってたよ!まだ子供が小さいからね。元気になって本当に良かった…。ライラ、サンドイッチが欲しいのかい?」


 ライラがサンドイッチを見つめていると父がサンドイッチを口元まで運んでくれた。ライラは口をゆっくりと動かし、サンドイッチを少しずつ食べて行く。パンの間に挟まっているのはライラが噛みきれるようにと柔らかいふわふわの卵だった。


「ライラもいつか走り回れるようにしてあげるからね。もう少しだけ我慢してくれ」


 ライラは申し訳なさそうにする父を見て、首を横に振った。


「ライラは優しいな…。お父さん頑張るからな!」


 父は母と同じようにライラの頭を撫で始めた。その手は母の物よりも荒くて、ごつごつしていたが手から感じる温かみは母のそれと同じだった。


「ご馳走様!」


 母が作ったお弁当を食べ終わり、ライラと母は家に。父は診療所に戻ろうとすると、父がライラの膝の上に小さな何かを置いた。


「それ、今日通院が最後だった患者さんがくれてな。綺麗だろ?ライラにあげるよ」


 ライラの膝に置かれたのは透明なガラスの中に入った砂時計だった。


「五分で砂が全部落ちきると、勝手に回転してまた計りだしてくれるんだと。気に入ってくれると嬉しいな」


「良かったわねライラ!ベッドからでも見える位置に飾りましょう!」


 一人の間は本も読むことができないライラはその砂時計をとても喜んで、落とさないようにと母が上げてくれた腕で砂時計を握り締めた。


(ライラのお父さんって、どこかで…?でも、いい両親だねライラ。私もお父さんに会いたくなってきたなぁ…)



 その夕暮れ、雲一つない天気だった空から数滴の雨が降り始め、その雨は次第に音を立てるほどの本格的なものとなって行った。


「大変!洗濯物が濡れちゃうわ!」


 ライラの隣で椅子に座りながら寝ていた母は雨の音に気付いて階段を走って降りて行った。


「お父さんに傘を届けてくるから、少しだけ待っててね。おやすみなさい」


 洗濯物を取り終えた母は濡れた衣服でライラに布団をかぶせると、ライラにその一言だけ告げて濡れた衣服のまま部屋を出て行った。


 雨に濡れたことのないライラは雨が冷たいのか、それともお日様が温かいのだからやはり、温かいのだろうか。そんなことを考えながら眠りについた。

ライラが次に目を覚ましたのは、家の扉が開く音だった。その後、父と母の声がして二人が無事に帰ってきたのだと分かった。


「ライラ、大丈夫だった?ごめんね一人にして」


 母はライラの頭をそっと撫でると、濡れた衣服を脱いでタオルで体をふき始めた。その時の手は冷たく、ライラは雨が冷たいものなのだと思った。



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