孤独な能力 93
葉人形を撃破したアムリテはアイカを追って、病院の玄関を通り抜けた広場まで出ていた。広場にはいくつかのベンチと噴水があり、その噴水の前にアイカともう一人の影が見えた。
「もう一人って…」
アムリテは不用心に近づくことはせず、アイカの隣にいる人影の正体を見極めようとする。星明りに照らされた顔面は人の物ではない輝きを放ち、顎があるであろう部位は大きく破損しているのが見えた。
「先生、あいつら予想以上に強いですよ!?」
「私、も、油断、していマシタ。巨大、ロボット、使用、して下サイ」
アムリテはその会話に二つの点で驚愕した。第一にあの壊れかけのロボットをアイカが先生と呼んだこと。それは、あのロボットがカミネートだということだ。
第二にカミネートが巨大ロボットの使用許可を出したことだ。現状のアムリテ達ではあの巨大ロボットを止める有効な手立てはない。一度動かされれば、窮地に立たされることは目に見えていた。
「どうする…。あたし一人で二人を止めれる?魔力も少なくなってるのに…」
アムリテの魔力は苦手な火の魔法を使ったことによって、水の魔法ですら満足に使えるか怪しいほどだ。残りのポーションも一つとなっており、二人を相手にするには厳しい状況だ。
「アムリテ、アイカの方はどうなった?」
「ひゃ!?」
不意に後ろからかけられた声にアムリテは驚いて肩を震わせた。慌てて振り返ると、そこには真っ青な顔をしたミネトラがいた。
「あんた、その顔…!」
「ただの貧血だ。それよりもアイカは?電球は全部使い切ったのか?」
「分かんない…。使ったのは確か……七個だったはず」
「ならまだ十四個くらいはあると思った方がいいな」
アムリテ達が会話をしているうちにカミネートとアイカは移動を始め、病院の横にいる巨大ロボットの方へと歩き出した。
「あいつらあのでかいロボットを動かすって言ってたけど、あたし達で止める、しかないわよね?」
「あぁ。あれを動かされたら一巻の終わりだ。射程範囲に入ったら速攻で攻撃しろ」
リーナは静かに頷き、周囲に三つの水球を作り出そうとするが、魔力が足りずに作り出せた水球の数は二つになってしまった。
「ごめん…。すぐにポーションで──」
ポーションを飲んで魔力を補充しようとするアムリテの手をミネトラが制止する。
「二つで十分だ。初手に一個と緊急時に一個にしろ。狙うはカミネートの顔面だ」
「わ、分かったわ」
アムリテは取り出したポーションをカバンの中に収め、カミネートたちが向かった方向へと走り出す。
カミネートとアイカの姿は病院の裏手にある庭で見つかり、二人はまさにロボットの内部に入ろうとしているところだった。
「撃て!アムリテ!」
ミネトラの声よりも早くに水矢を放っていたアムリテの魔法は、カミネートの顔面を狙いに真っすぐ突き進む。その攻撃に気付いたカミネートは顔面に当たるのを回避するために、腕で水矢を受ける。水矢はカミネートの腕を貫通することは叶わなかったが、腕に小さくない傷跡を与えた。
「ぐうぅ…!」
腕の損傷部分に水が浸入し、カミネートは腕をだらしなく降ろして火花を散らす。
「いい攻撃だ!」
水矢の後を追うように走っていたミネトラがカミネートへと拳を繰り出し、カミネートの顔面へ強烈な打撃を加える。カミネートはその衝撃に耐えきれず、背中を巨大ロボットへと強打した。
「そのままくたばりやがれ!」
ミネトラはカミネートが吹き飛んだのを確認すると、指をぎゅっと握り締める。その瞬間、カミネートの頭部が爆発を起こした。
「先生!?」
アイカは華奢な体で爆風に耐え、爆風が収まるのを待ってからカミネートへと近づく。その顔は半壊しており、言葉を話せるのかも怪しい状態だった。
「わ、たし、たま、し、い。は、や、く」
ノイズが入りながらも必死に言葉を紡ぎ、左腕を掲げるカミネート。アイカは頷いてからその腕に大量の電球をのせる。いくつかの電球はカミネートの破損部分へと落ちて行った。
「先生、自我が残ってたら違う器を用意してあげますね」
アイカは巨大ロボットへ左手を当てて、右手を胸の前で握り締める。すると、カミネートが持つ電球が強い輝きを放ち、倒れたままのカミネートが巨大ロボットへと吸い込まれていく。
「まずい!」
ミネトラはアイカの能力を行使させまいとアイカに向かって殴りかかる。しかし、巨大ロボットを中心に強風が吹き荒れ、ミネトラは地面に拘束されてしまう。
カミネートの体が巨大ロボットへと完全に入り切ったところで、巨大ロボットがゆっくりと膝を上げて立ち上がり始めた。その手にはアイカをのせている。
「アムリテ!全力で逃げろ!」
「あんたは!?」
「早く────」
立ち上がった巨大ロボットは足を掲げてミネトラを踏みつぶした。その動作は明らかに以前の物よりも早くなっていた。
アムリテはショックを受けるよりも先に来た道を振り返り、全力で走り出す。
「先生、意識はありますか?」
巨大ロボットの肩まで運ばれたアイカは巨大ロボットの顔をさすりながら、問う。しかし、その問いに返す言葉はなく、アイカは肩を落とした。
「寂しくなりますね…」




